その日、列車では会議が開かれていた。全員が、ラウンジ車両に集まって真剣な顔をしている。
「みんな……僕はそろそろ、行動を起こすべきだと思うんだ」
「異議なし!! ウチもやりたいもん!!」
「俺も異論はないな」
ファイノン、なのか、丹恒。三人が賛成した。それに続けて他の人達も。
「私も異論はないわね」
「俺もだ。むしろ、声を上げてくれて嬉しい」
「ワタシもです。できれば欲しいと思っていましたので」
全員が真剣な顔をする、その議題は……
「「お風呂(ピュエロス)車両を作ろう!!」」
「シャワーだけは女の子のお肌に悪いわ、やっぱりお風呂がないとね!!」
「俺の部屋にしかなかったもんなぁ、お風呂」
というわけで……みんなで力を合わせて、新しく追加された車両にお風呂を作ることになった。
「列車始まって以来の大改装だ。みんな、列車の空き車両の開拓のために……ナナシビトの力をひとつにしよう!!」
「「おぉー!!」」
「それなら、まずは必要なものの整理だな」
まず基本的に必要なものが、ホワイトボードに書き出されていった。ヴェルトがひとつひとつ必要なものを言っていく。
「風呂に必要なものか……湯船に蛇口、体を洗う時に座る椅子、脱衣所、男湯と女湯を分ける壁に、シャンプーやリンスにボディソープ、シャワーとは違うんだし、新しくボイラー室も必要だな」
「あ、あと牛乳!! 風呂上がりに牛乳飲むんだ、これは絶対外せない!!」
「美肌の湯も欲しいわ!! お肌がつるつるになるやつ!!」
「サウナと水風呂があると嬉しいな」
要求が積み重なっていく。ざっと数えただけでも、すごい予算と労力が必要だ。
「まずは基本的に必要なものからだな。とりあえずは蛇口とシャワー、ボイラー室辺りか」
「それじゃ、まずはそれを揃えましょう」
「そういうのが買えそうなのは……やっぱりオンパロスだな!!」
というわけで、穹はオンパロスにやってきた。
「なるほど、列車にピュエロスを……ですが、何故私に? 機械などを買うなら、そういった業者に話をした方が……」
「いつもお風呂の前に立ってるからさ、アグライアって」
「それはオクヘイマの中心が雲石の天宮だからであって……まぁ、せっかく来てくれたのですから、いい業者を紹介します」
「ありがとうアグライア!!」
というわけで、案内されたのは……ハートヌスの工房だった。
「ここです」
「ハートヌスのところじゃん!?」
「久しい……天外の英雄……俺に用か」
「えっと……ハートヌス。お風呂って作れる?」
ハートヌスは鍛冶師というイメージが強かった穹は、半信半疑で頼んでみた。
「作れる……雲石の天宮……建てたのは……俺達だ」
「そうなの!? 武器とか、そういうのが専門だと思ってた……」
「意外かもしれませんが、子供のおもちゃや大会のトロフィーなども、彼が作っているんですよ」
意外な特技を知りつつ、穹は空き車両に風呂を作ってほしいと頼んだ。
「……って感じなんだけど、どう?」
「……料金……見積もり……後でする」
「いいの!? ありがとう!!」
というわけで、ハートヌス達は列車にやってきて部屋を見る。どう作るかの算段を立て、見積もりを出した。
「見積もり……受け取れ」
「……思ったより良心的ね。ありがとう」
「英雄……仲間……高額な料金……取れない」
姫子がそれにハンコを押して、書類を返す。そこからハートヌス達はすぐに作業に取り掛かってくれた。
「ハートヌス、僕も少し手伝おうか? 安くしてもらった手前、見ているだけは忍びない」
「構わない……お前なら」
「あたしも手伝うわ、ハートヌス」
キュレネが同じく申し出た。その言葉に、その場にいるみんなが驚く。
「えっ、キュレネが!?」
「無理だよ、そんな重そうなの!! 腕細いし……」
「その腕……持てない……待っていろ」
ハートヌスにもそう言われたが、キュレネはもう行動を起こしている。そこにあった資材を軽々持ち上げてみせた。
「よいしょ!! ほら、持てるわよ?」
「……あの細い腕のどこにそんな力が?」
「黄金裔って見た目によらないよな……キャスも、あの腕で大きな鎌振り回してたし……」
穹がそう言いつつ、三人が資材を風呂建設予定地点に運んでいく。三人で協力したのもあって、搬入の仕事はすぐ終わった。
「細かい作業は彼らがやってくれてるから、今のうちに他のことをしましょうか」
「じゃあまずは、美肌の湯からね!! アグライアが詳しいんじゃないかしら?」
「そうだな、じゃあアグライアに聞いてみよう!! 今すぐ!!」
というわけでまたしても、アグライアの出番。やたら出番が多い人だ。
「美肌の湯ですか? それなら、黄金裔ピュエロスのお湯を使ってください。私も毎日入っていますが、美肌の他にも肩凝りが取れたり、筋肉痛が治ったりしますよ」
「ホント!? ありがとう、アグライア!!」
「肩こりと筋肉痛……助かる。ちょうどキツかったんだ」
ヴェルトが切実なことを言いつつ、風呂のお湯の確保はできた。次は……
「次はサウナと水風呂かな。水風呂はいいとして、サウナを熱くするものの調達は……」
「熱くするもの……あ、いい星があるぞ!!」
「なるほど……あそこか」
というわけで、穹はベロブルグにやってきた。
「暖房器具の本場といえばここだからな、いくらでも暑くできるだろ!!」
「おっ、久しぶりだね!! また会えて嬉しいよ、穹」
「トパーズ、来てたんだな!! 実は今、すっごく暖まる暖房が欲しいんだけど……サウナにも使えるような!!」
そう言うと、トパーズが商品カタログを見せてきた。
「それならいいものがあるよ、カンパニーの新商品!! 極寒の大地を、一瞬で灼熱地獄に変えることだってできる……この『フレアストーブ』がね!! Sサイズ、Mサイズ、Lサイズとあるよ!!」
「おぉ、ちょうどいいや!! サウナ部屋は狭いし……Sサイズ買うよ、列車に送ってくれ!!」
「オッケー、私から注文通しとく!! すぐに届くからね!!」
というわけで、サウナを暖める物も調達できた。
「次はいよいよ牛乳だな!! コーヒー牛乳を冷やす冷蔵庫と、牛乳瓶に入ったコーヒー牛乳を調達しよう!!」
「それで、何処から仕入れるんだい?」
「……考えてないんだよなぁ」
穹の案が一番行き当たりばったりだった。他の案に奔走していても、自分の案がこれでは本末転倒だ。
「どうするの、ウチらにもアテないよ?」
「昔は私の故郷にあったけど……今はあるか怪しいところね」
『なにを話してるの? 面白そうなこと話してるじゃん』
そこに銀狼が現れた。それを見て、一部の人達以外は警戒している。
「星核ハンターか!? 何をしに……」
「警戒しなくていいわ、みんな。銀狼さんは穹を診てくれたのよ?」
『いいよ、疑われるのには慣れてるし。それで? なんの話してたの?』
銀狼にそれを伝えると、彼女は『少し待ってて』と言って姿を消し……再び現れると、今度は手の中に牛乳瓶を持っていた。
『これでいい? 普通の市販の牛乳とインスタントコーヒー混ぜて、中身詰めただけだけど』
「バッチリだ、銀狼!! それで、お値段は?」
『いいよ、お金なんて。お金には困ってないし。その代わり、またゲーム付き合ってね』
ということで、契約が成立した。小さな冷蔵庫もすぐに届いたので、あとは完成を待つのみだ。
「完成した……見に来い」
「仕事はやっ!? まだ数日しか経ってないのに……」
「とりあえず、見に行ってみましょ!!」
というわけで見に行ってみると……全てが揃っていた。壁にはオンパロスの絵が彫られている。
「わぁぁぁ、すっごくいいお風呂だ……!!」
「壁の絵……サービスだ」
「ありがとうハートヌス、助かったよ」
ハートヌス達は仕事を終えて、帰っていった。そして、せっかくお風呂が出来上がったのだからということで……全員で風呂に入ることになった。
「ふふーん、俺が一番乗りだ!!」
「はしゃぐな、転ぶぞ」
「なんだよ、丹恒だって嬉しいくせに……うわっ、丹恒の(列車スラング)でっっか!!」
穹がデカい声で叫んだ。それを聞いた丹恒が、呆れて言う。
「大きな声を出すな、女性陣に聞こえるだろ」
「いや、めっちゃでっかいな……俺のより大きいのがあるなんて……」
「お待たせ、相棒。何かあったのかい?」
ファイノンが入ってきた。そして、穹はファイノンの下半身を見て、またしても叫ぶ。
「おわぁっ!? ファイノンの(列車スラング)もでっかい!! 何度見ても大きいな……!!」
「ちょ、ちょっと、相棒!? そんな言葉を大声で叫ばないでくれ!!」
「し、知らなかった……丹恒とファイノンの(列車スラング)がこんなに大きいなんて……!!」
ヴェルトもそこに入ってきて、頭を洗い始めた。
「落ち着け、穹。そういう言葉は大声で叫ぶものじゃないぞ」
「ヨウおじちゃんのは……うん」
「おい、なんだそれは。俺のには言わないのか? それはそれで傷つくぞ」
そして最後に、サンデーが入ってきた。
「お邪魔します……」
「デーさんは……あ、タオル巻いてる!! ズルい!! 脱いで入ってよ、デーさん!!」
「えっ、えぇっ!? ワ、ワタシは……無理ですっ、人に局部を晒すだなんて、とても……!!」
「その判断は正解だ、サンデーさん。つけていなかったら、大声で下半身のことを叫ばれるか、微妙な目を向けられるかのどちらかだから」
サンデーは本気で助かったと思った。その頃、女湯の方では。
「あの子達、なに話してるの……?」
「男同士の会話というやつね。気にしなくていいわ、くだらない話だから……キュレネちゃん? 何してるの?」
「聞き耳を立ててるのよ、気になるから!!」
キュレネは、列車スラングが連打される男湯の会話に耳を傾けていた。
「聞いてて面白いものじゃないでしょ、それ……」
「面白いわよ? これはこれで、男同士の愛ってものを感じるわ♪キャスの同人誌に書いてあったやつ!!」
「ちょっと待って、キュレネ!? 学習対象をすごく間違えてない!?」
相変わらず男湯からはスラングが聞こえてくるが、女湯でもキュレネがそこに切りこもうとしていた。
「そういえば……姫子さんのが大きすぎて、あたし達のは霞むわね~。流石の大きさね、姫子さんのは!!」
「それ、あんまり大きな声で言うことではないわよ、キュレネちゃん……あっちに聞こえちゃうわ」
「でも確かに、ウチだって結構あるはずなのに……姫子がいるから、ウチの大きさが霞んで見えるよ!! キュレネにも大きさ越された気がするし……!! 今んとこウチが最下位じゃん!!」
なにがとは言わないが、なのかは列車で自分が一番小さいことが不満らしい。
「大丈夫よ、大事なのは大きさじゃないわ♪」
「その言葉、大きい人に言われるとなんかイラッとくる……」
「……まだやってるわね。広いお風呂に興奮しているのかしら、あの子ったら」
そこで二人が偶然にも、同じ考えに至る。穹とキュレネが、ほぼ同時に言った。
「うーん、あっちで何話してるのか気になるな……よし、覗こう!!」
「うーん、何話してるのか気になるわね……よし、覗いてみましょう!!」
「えぇっ!?」
「はぁ!?」
穹とキュレネがとんでもないことを言い始めて、ファイノンとなのかが止めようとする。
「ちょっと相棒、覗きは流石にダメだよ!!」
「いや、俺は美少女だからな!! 俺は女湯も開拓してみせるっ!!」
「開拓すべきでない場所もあるよ!! あっ、もう登ってる!!」
穹が登っている頃、キュレネはなのかに止められそうになるのを、ミュリオンに変身して回避する。
「ちょっとダメだよ、覗きなんて!!」
「これも開拓よ、ミュッ!!」
「あっ、行っちゃった……!!」
それを察して、穹とキュレネとファイノン以外は全員風呂を出ていく。
「そろそろ出ようか、サンデーさん」
「は、はい……」
「私達も出ましょ、三月ちゃん」
「う、うん……」
そして、二人が壁の頂上に辿り着いた。鉢合わせになって、二人の目が点になる。
「辿り着いたぞ、ここが頂上だ!! ……え?」
「さ~て、何話してるのかしら? ……え?」
「だから言ったのに……」
二人はしばらく無言で見つめ合っていた。そして……
「……メミ~?」
「おい、ちょっと待てキュレネ!! 逃げるな!! というかお前喋れるだろ!! ……って誰もいないし!!」
「男湯にも誰もいないよ、相棒」
すっとぼけて逃げていくキュレネ。そして二人が覗きをしている間に、騒がしかった風呂場は静まり返っていた。
「骨折り損じゃん!! くっそ~!!」
「自業自得だよ、相棒……」
「今度は絶対覗いてやる……!!」
「覗きを諦めなよ」
冷静なツッコミを受けつつ、みんなで風呂上がりのコーヒー牛乳を飲むことになった。
「ぷはーっ、美味しい!!」
「コーヒー牛乳、飲んだことなかったけどすごく美味しいね!! もう一瓶いいかな?」
「あたしも飲むわ、すっごく美味しいし!!」
そこで穹が、みんなに向かって言う。
「それじゃ、みんな改めて……列車の大浴場完成を祝って!!」
「「かんぱーい!!!」」
「みんな仲良しね……こんな日々が、ずっと続いてほしいわ」
「あぁ……本当にな」
大人達は牛乳を飲みつつ、それを微笑ましく後ろから見守るのであった。
次回、二相楽園編。