時間は進んで、死と理性の火種の返還から数日。穹はサフェルに呼ばれて、ミュリオンとスティコシアに来ていた。そこでフレイムスティーラーの痕跡があり……後ろを振り向くと、フレイムスティーラーがいた。
「お前の火種をもらっていくぞ……」
「……違うな、別人だ。剣の構えの角度が違う」
「……なんでそんな細かいところでバレるわけ? グレっち、意外と観察眼すごいタイプ?」
自分の詭術がすぐに見破られてしまったことに、サフェルは少し不満そうな顔をしている。それを見たミュリオンが言った。
「そんなところまで見てるの? すごいのね!」
「いやぁ、それ程でも……あるな」
「自信あったんだけどなぁ……まぁいいや、今のがあたしの『詭術』だよ。すごいでしょ?」
サフェルは自身の力について、穹とミュリオンに語っていた。そこでファイノンから連絡を受けて、神悟の樹庭で特訓をすることに。穹は駆け足でファイノンのところに向かって……今ファイノンは、ミュリオンの力で記憶から再現したフレイムスティーラーと戦っていた。
「ぐぅっ!! はぁ、はぁ……やはり強いな」
「大丈夫か、相棒? ちょっと休憩しよう」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
一緒に水を飲みながら、一旦休憩する。その間も穹は、ファイノンに天外の話をしていた。
「それでさ、絶滅大君相手に大ピンチだったんだけど……景元将軍と丹恒の連携技で倒したんだ!! かっこよかったなぁ、ドカーン!! って感じで!!」
「へぇ、羨ましいな……僕もその場に居合わせていれば、見られたかもしれないのに」
「あたしも!! その場にいなかったのが、ホント残念だわ!!」
しばらく話したあと、ファイノンと穹とミュリオンは息抜きに本を読むことにした。ミュリオンは占いの本を読んでおり、それを見たファイノンが幼馴染のキュレネについて語る。そんな時に、元老院の粛清者がやってきて、穹達を抹殺しようとする。
「オンパロスの敵め……ここで粛清してやる!!」
「疲れてはいるが、お前達の舌を切り落とすことくらい簡単だ。どうだ、やってみるか?」
「お前ら、相棒をオンパロスの敵って言ったか? 殺す……」
粛清達はその宣言通り、全員死んだ。ほとんど開拓者がやったのだが……それから、アグライアの訃報を知って、急いでオクヘイマに戻る。丹恒も同時期に戻ってきていた。アグライアは黄金裔のピュエロスから落ちて、心臓は粛清者の刃で貫かれていたらしい。ヒアンシーが死亡確認は済ませたとのこと。
「アグライア、死んじゃったのか……?」
「そうか、アグライアが奴らに……許せないな」
「これはライアちゃんの書いてた遺書だよ、読んであげて」
そこには、オクヘイマの粛清者達を排除するために自殺を選んだこと、ファイノンを後任として置くこと、それから丹恒と開拓者への謝罪、同盟関係をこれからも続けて欲しいという旨が書いてあった。
「アグライア……もっと話しておくべきだったのかな」
「不信感を抱いていたことを、取り消すつもりはないが……彼女もまた、誇りを持った黄金裔だったということか」
「とにかく、この混乱を収めないと。僕はみんなの前で演説をしてくるよ。アグライアの後任としてね」
「あ、俺もついていくよ!!」
演説をしに行こうとした時に、ハートヌスがそこにやってきた。手の中にはアグライアの神性を込めたお守りと……穹と丹恒にとって、見慣れた剣があった。
「あれは……!!」
「黒衣の剣士の剣に似せて作った剣だ。太陽の力を込めてある。剣の名前は……」
「ヘリオス……」
穹が小さく呟いた声は、運悪く二人の耳に入ってしまったようだ。
「……どうしてわかった?」
「え、いや、なんとなく……」
「ヘリオスか……ありがとう、使わせてもらうよ。それと、アグライアのお守りもね」
しかし、ファイノンは特に訝しむこともなく、ヘリオスとお守りを受け取った。そして、ファイノンはみんなの前で演説をする。アグライアの死と、団結の重要性……そして再創生の希望を示す。計算されたアグライアの死は、オクヘイマに団結と黄金裔への支持を与えてくれた。天空の火種を回収する間、ケファレの火種をサフェルに任せて、エーグルの元へ向かう準備をする。
「天空に行くためには、私が儀式をして虹の橋を架けないといけません。そのために、ご先祖さまから祝福をもらわないといけないんです」
「なるほど、だからここに来たんだな」
「神悟の樹庭に一人目の御先祖様が眠っているんです、今から呼びますね」
そこにいた天空の民から祝福を授かり、続けて創世の渦心で祝福を授かり、最後にヒアンシーの祖母から英雄セネオスの話を聞いたあとに祝福を授かったことで、条件が揃った。ヒアンシーから儀式の準備が整ったという報告を受けて、一同は黎明の崖へと向かう。
「エーグルを倒せば、天外との隔離も消える。君たちの仲間とも連絡が取れるようになるだろう」
「姫子、ヨウおじちゃん、デーさん、パム、なのか……元気かな」
「穹、心配するな。みんなならきっと大丈夫だ」
丹恒が穹を励ましながら、黎明の崖の頂上からヒアンシーが虹の橋をかけた。それを渡っていくと、天空の要塞にたどり着く。輝きの民と雨の民の醜い争いを見ながら、光から逃げ回るエーグルを追いかけていく。また道の途中で、暗黒の潮に侵食されたソラビスを発見した。
「グォォォォ……!!」
「紫の水晶が体中に刺さってる……痛そうだな」
「すぐに解放して差し上げますから……!!」
体を破壊すると、ソラビスとルネビスは要塞の案内を申し出てくれた。一同はそれについていき、天空の民の歴史を見ながらエーグルの元へと向かっていく。ヒアンシーの知る歴史と違う事実が次々に現れて、地上に伝わっている伝説は脚色されたものであることがわかった。あと、イカルンがルネビスの子孫であることも。
「我々はセネオスの意思に従い、天空の民を黄金池へと落とした。同じ人間同士で、考え方が違うだけで争う。セネオスは人間の愚かさに、嫌気が差したのだ」
「そうだったのか……あれ? じゃあ、ヒアンシーはどこから来たんだ?」
「その答えはこの先にある。ついてくるがいい」
ヒアンシーは真実を見る覚悟を既に固めていた。そこで映し出された真実は、天空の民の名も無き黄金裔がセネオスに命乞いをし、セネオスの伝説を語り継いで、いつか必ずこの世界を背負う力がある者がここに戻ってくると、そう言った。セネオスはそれを承諾し、今に至る。つまりヒアンシーは英雄の子孫などではなく、ただの名も無き黄金裔の子孫でしかなかったのだ。それでも、ヒアンシーの決意は揺るがない。
「人間は確かに不完全です。でも、不完全だからこそ、人間は変わっていけるんです。私は天空の火種を継ぎます。オンパロスの空を取り戻すために!!」
「我らもそれを望んでいる。頼んだぞ、ヒアシンシアよ」
「やろう、相棒!! 再創生を果たして世界を救うんだ!!」
「よし、気合い入れるぞ!! エーグル、どこからでもかかってこい!!」
そこに現れたのは、巨大な機械の妖鳥だった。エーグルは荒れ狂う陽光と灼熱を武器に、一同に襲いかかる。だが全員の尽力もあって、なんとかエーグルを倒すことに成功した。火種を回収すると同時に足場も落ちてしまったが、それをアグライアのお守りが救ってくれた。お守りから出た金糸が網になってくれたのだ。歳月の力でお守りを回収しようとしたが、足場が崩れて失敗。お守りは黄金池の中に沈んでしまった。
「悲しんでいる暇はない、逃げよう相棒!!」
「……うん、わかった」
「急ぎましょう、ここもすぐに崩れてしまいます!!」
急いで要塞内を駆け抜けていく一同だったが、脱出の最中にエーグルが復活し、荒れ狂う雷雲と隕石を武器に再び襲いかかってくる。
「クリスタルが体中から突き出てる……暗黒の潮に侵されてるのか!!」
「あぁ、セネオス様……なんて痛々しいお姿に……!!」
「早く倒さないと、僕たちにもオンパロスにも未来はない!! 行くぞ!!」
暗黒の潮に侵されたエーグルは、動く度にバキバキと水晶が砕ける音を立てている。壊れた部分が水晶で修復されては砕けるのを繰り返し、もがくように大暴れしていた。
「ギュオアァァァァ!!!」
「くっ、なんて暴れっぷりだ……手がつけられないぞ!!」
「まずい、底が見えてきた……!! このままじゃ、僕たち全員……!!」
そこでヒアンシーが、天空の火種の力を使う。ソラビスとルネビスの力も借りて、辺りの暗かった空を虹が突き破る。
「セネオス様、見てください!! 人の素晴らしさを、そして……未来へと進む人の意志を!!」
「このヘリオスで狩る神は……お前が最初で最後だ!!」
「行くぞ相棒、これでトドメだ!!」
「任せてくれ!!」
エーグルは空からおびただしい量の隕石を降り注がせ、妨害を試みるが……ソラビスとルネビスがそれを防いでくれた。虹の橋を渡って、エーグルの元へと二人が駆け上がる。それでも諦めずに、エーグルが極太の光線を放ったが……ヒアンシーがそれを光線で迎撃する。
「天空の英雄よ、人の意思を見届けてください!!!」
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
赤、金色、虹色。三つの光条がエーグルを……否、セネオスを貫いた。今度こそセネオスは人に未来を任せて、消滅していく。その影響で要塞は今度こそ、完全に崩壊を始めた。そして、天空の火種からケファレの黎明のミハニが消えたことを知ったヒアンシーは、丹恒達に言った。
「私は創世の渦心に火種を返したら……天空に残って、天から皆さんを守ります。たんたん、渦心に繋がる水盆をお願いできますか?」
「……わかった。少しでも多くの人を守ってくれ」
「ヒアンシーもいなくなっちゃうのか……?」
「ごめんなさい、グレーたん。でも大丈夫です。再創生さえされれば、世界は必ず救われますから。また会えますよ!!」
そう言って、ヒアンシーは天空に残った。そして丹恒、ファイノン、ミュリオン、そして穹は、急いで要塞から脱出するために走る。
「オクヘイマ、大丈夫かな……!?」
「黎明のミハニが消えてしまったんだし、きっと酷いことになっているはずだ……急がないと!!」
「俺から姫子さん達に連絡を送っておく、返事が来るといいが……」
みんなで虹の橋を駆け降りて、オクヘイマへと戻る。少しでも無事な人が多いことを祈りながら一同は、オクヘイマに……
「……えっ?」
辿り着かなかった。周囲には、誰一人いない。生命の気配すらもしない。そこにあったのはただの廃墟。美しい黎明の崖は見る影もなかった。それどころか、さっきまでいたはずのファイノンも丹恒も、どころかミュリオンすらいない。
「ここ……どこだ? 丹恒? ファイノン? ミュリオンまで、どこ行ったんだよ? 俺を驚かそうとしてるのか? その手には乗らないぞ?」
穹は震える声でそう言ったが、誰一人答えてはくれなかった。辺りに響く音は廃墟が崩れる音と、水晶が恐ろしくも美しく鳴る音だけ。
「丹恒? どこ行ったんだよ、俺のこと忘れないって言ってくれただろ……? 相棒、どこなんだ? せっかくまた、仲良くなれたのに……また俺のこと置いていくのか? ミュリオン、どうしていなくなったんだ? お前までいなくなったら、俺は……どうしたらいいんだ……」
茫然自失のまま穹が歩く。死体すらない、紫の水晶が広がる大地。水晶に映る穹は、酷い顔をしていた。
「みんな、俺を置いていく……なんでだよ、みんな俺のこと、嫌いなのか……? 俺の何がいけないんだよ……!?」
「あなたは悪いことなんて何もしてないわ、悪いのはあたしよ」
「この声……ミュリオン!? ……じゃない、誰だ!?」
穹が顔を上げる。だが、そこにいたのはミュリオンではなかった。ピンク色の長い髪をもった、白い服の美しい少女。穹は警戒している。
「警戒しないで。間違いなくあたしは、あなたの相棒のミュリオンよ。姿は変わっちゃったけど……信じてくれるかしら?」
「……この感じ、ミュリオンなのか。教えてくれ、なんでこんなことに? 何がどうなってるんだ?」
「大丈夫よ、今から全部……説明してあげるわ」
キュレネの登場です。