開拓者はファイノンの過去を聞いて、合点が言ったという顔をしていた。それはファイノンも同じだった。
「なるほど、貼り付けられた『物語』にも、僕がいたんだね。辛い思いをさせてすまない」
「ファイノンは悪くないよ。会えて本当に嬉しいから、いいんだ」
「相棒……うん、僕も同じ気持ちさ」
そんな時、後ろから足音が聞こえてくる。それを聞いて、穹が槍を構えた。
「相棒、警戒しなくていい」
「えっ? ……スクリューガム!? なんでここに!?」
『お二人とも、ご無事で何よりです。特にファイノンさん、行方不明とお聞きしていたのですが、こうして姿が見えて安心しました』
穹とファイノンは、とりあえず話を聞くことにした。その場に座り直す。
「それで、スクリューガムさん。外の様子はどうなんだい?」
『推測:ルパート3世は現在、ルアンさんと私で再度スリープモードになっています。しかし、奴は対策をしてきている。猶予はあと数システム時間、そちらでいうと数日でしょう』
「ここって、外とは時間の流れが違うの?」
質問を受けて、スクリューガムが頷く。
『肯定:こちらでの数システム時間が、オンパロス内部では数日に当たるようです。一日経てば一年はゆうに経ってしまうでしょう』
「そうだったのか……僕が稼いだ33550338回も、そこまでの時間ではなかったのかな」
『いいえ、あなたの努力は無駄ではありません。鉄墓の誕生はあなたの尽力により、数週間単位で遅延されたことが確認できています。この宇宙があるのは、ファイノンさんとヘルタさんのおかげだと言えるでしょう』
ファイノンの努力を賞賛するスクリューガム。それを受けて、穹も言った。
「そうだぞファイノン、俺の相棒なんだから俺と同じくらい自信持て!! ほら、自分は宇宙一のイケメン美少女だって言ってみな?」
「そ、それは恥ずかしいよ、相棒……!!」
『雑談をもう少ししていたいところですが、あまり猶予はありません。なので、簡潔に説明させてください』
二人が真面目な顔で聞き始める。
『まず、脱出手段の確保は急務です。しかし一度ハッキングしたからなのか、ルパートのセキュリティが高度化しています。もう一度セキュリティホールを作るのは難しいでしょう』
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
『非常に不本意ですが……ここにいるであろう、奴の力を借りるほかないかと』
「……リュクルゴスか。確かに奴なら、脱出手段を用意していそうだ。それにルパートの弱点も知っているかもしれない」
スクリューガムはそれを聞いて、頷いた。
『肯定:奴を協力させられれば、ルパート戦は奴がいないよりも、84%の危険度減少が予想できます。しかし……奴は侮れません』
「え? バットでボッコボコに殴ればいいんじゃないのか?」
『そうできれば簡単なのですが、奴はこの世界の管理者にして……ザンダー・ワン・クワバラ、一人目の天才にして、知恵の星神ヌースを作った張本人なのです』
「そんな凄いやつがいるのか!? でも、どうしてこんなこと?」
そこはスクリューガムではなく、ファイノンが語ってくれた。
「奴の目的は知恵の星神、ヌースの隕落だ。そのために作っていたのが、絶滅大君『鉄墓』……今はルパート3世だけどね」
『その通りです。奴はまだ、どこかで生きているはず。接触したなら、くれぐれもお気をつけて』
「わかった、任せてくれ!! 俺とファイノンなら負けないさ!!」
そこで、スクリューガムのホログラムにノイズが走り始めた。
『どうやら、通信が切断されそうな、ようです。最後にこれを、お渡しします』
「これは……?」
『界域アンカー。これを使えば、安定した通信が可能です……連絡が必要な際は、これを通します。それでは、ご武運を……』
スクリューガムが消えた。それから、ファイノンにアンカーを預けて……二人でライコスの居場所を考える。
「ライコス、見たことはあるけどあんまり知らないんだよな……そうだ、あいつはいつも黎明の崖にいた!!」
「僕も同じことを考えていたよ。奴はいつもあの場所に現れた。行ってみよう」
「わかった!!」
黎明の崖の民会に使われていた場所に向かってみると……ライコスが一人、ぽつんと佇んでいた。足音を聞いて、ライコスが振り向く。
「やっぱりここにいた、ザンダー!!」
「はじめまして、開拓者殿。私の名前はリュクルゴス……いえ、もう隠す必要もありませんね。私の名前はザンダー・ワン・クワバラです」
「御託はいい。僕たちに協力してもらおう」
ファイノンを見て、ライコスは少し驚いている様子だ。
「……まさか、あなたが戻ってくるとは思いませんでしたよ。カスライナ殿」
「喋ってないで答えろ、イエスかノーか!! ノーならボコボコにするぞ!!」
「結論から言って、あなた達の脱出には全面的に協力します。しかしルパート3世……もとい鉄墓は最早、私の手を離れてしまった。私にできることはもうありません」
ライコスがそう言った瞬間、二人が武器を抜いた。
「拒否権はない。絶対に協力してもらう」
「それはノーってことだな!? よし、ボコボコにしてやる!!」
「やはりそうなりますか。ならば……」
穹がバットで殴りかかった瞬間、ライコスの姿が消えた。
『諦めて脱出するつもりになれば、いつでも私に言ってください。すぐに脱出させて差し上げますので』
「おい待て、逃げるな!! 卑怯だぞ!!」
「相棒、ここで叫んでも仕方ないよ」
ファイノンが穹を宥めるが、穹は怒りを抑えられない様子だ。
「だって、ボコボコにし損ねちゃったんだぞ!? 悔しいじゃんか!!」
「僕に考えがある。危ないから少し下がっていてくれるかい?」
「え? うん……何するんだ?」
ファイノンは胸に手をかけて、カスライナに変身する。そして……剣を目の前の空間に突き刺して引き裂いた。
「はぁっ!!」
「空間が裂けた……か、かっこいい!!」
「奴もなんの痕跡も残さずに逃げた、というわけじゃない。その痕跡をこじ開けたんだ。といっても、こんなことをするのは初めてだから……しっかり掴まっていてくれ」
「わかった、頼んだぞ!!」
裂けた空間の中に飛び込む。すると、すぐ違う空間に出た。
「ここ、ヤヌサポリスか……?」
「おのれぇ……早くそいつらを殺せ!!」
「この声……なるほど、ここか。気をつけていこう、相棒」
ファイノンはもうどこなのかわかったようだ。変身を解いて、穹と一緒に歩いていく。扉を開くとそこにいたのは……
「あれは……カイニス!? それにトリビー先生も、なんでここに!?」
「……ここに人が来るとはな。お前たちは何者だ?」
「カイザー、それより奴の処刑が先ではないか?」
「確かにそうだな……ふん!!」
杖を振って、反逆者を焼き尽くすカイザー……ケリュドラは、処刑を終えると二人に振り向いた。
「さて、どう答えるかは決まったか?」
「……僕はエリュシオンのファイノン、遠方からの旅人さ。そして彼は穹、同じくエリュシオンからの旅人で、僕の幼なじみなんだ。ここまで来たから、カイザーに謁見したくてね」
「そうそう、俺たち超仲良し!! 会えて嬉しいです、カイザーさん!!」
「ありがとう、相棒……」
その様子を見て、二人に嘘はなさそうだと思ったケリュドラは、矛を収めた。
「……エリュシオン、聞いたことがない場所だ。僕でも知らない場所があるとはな……まぁいい、嘘はなさそうだ。剣旗卿、案内してやれ」
「わかった。二人とも、ついてきてくれ」
「どうやら歓迎されているようだ、ついて行こう」
穹と一緒にセイレンスについて行く。小声で、穹はファイノンに尋ねた。
「なぁ、あの人は誰なんだ? どうしてトリビー先生が?」
「どうやら奴は最初の火を追う旅の時間に飛んだようだ。どこかに奴がいると思うけど、カイザーが見ている以上、不信感を与えないようにしておく必要がある。慎重に行こう」
「わかった、気をつけるよ」
それから一同は黎明の崖へと案内され、各国家代表との話し合いに参加することになった。そこにはアグライアもいて、不思議な気分になる穹であったが、怪しまれないために我慢する。
「天外からの客人とは……信じ難いですが、剣旗のセイレンスが言うならそうなのでしょう。はじめまして、穹さんにファイノン。私はアグライアと申します」
「あたちたちはトリビー!! よろしくね、ファイちゃんにグレーちゃん!!」
「うん、よろしくな」
それから各国家の代表との話し合いに向かい、それが終わった後にカイザーに協力を申し出る。
「そういうわけで、カイザーの神権奪還に是非とも協力させてほしいんだ。オンパロスのためにもね」
「俺からもお願いします!!」
「なるほど、ファジェイナ討伐に協力したいと……誰かから聞いたのか? 何にせよ、殊勝な心がけだな。いいだろう、許可してやる」
「ありがとうございます、死力を尽くさせてもらいます!!」
そしてスクリューガムに、現在の状況を伝えることにした。ファイノンがバレない場所を教えてくれたので、上手くいった。
『なるほど……協力を取り付けられたのですね、流石です。ライコスの目星は?』
「ついている。恐らく、もう少しすれば発見できるだろう」
「期待しててくれ、終わらせたら速攻で連絡するからな!!」
『ありがとうございます、ですがくれぐれもお気をつけて』
通信を切って、そこでファイノンと話し合う。
「次はどうなるんだ、ファイノン?」
「討伐前には必ず宴会が開かれる。そこに多分、奴は来るはずだ。そこを叩こう」
「よし、わかった。作戦開始だな!!」
ファジェイナ討伐前の宴会に向かうと、持ち物検査を受けて……アンカーを渡すように言われる。
「ここは素直に渡しておこう、相棒」
「そう? じゃあはい、壊さないでね」
「わかった、丁重に扱おう」
宴会に参加していると、二人はセイレンスに呼ばれる。そこでファジェイナの神血の蜜露を飲むことで、セイレンスの歌で見えなくなっていた物が見えるようになった。
「あ、いた!! あいつ……なに話してるんだ?」
「気づかれたらまずい、静かにね」
「奴は何かを企んでいる。君たちには奴を止め、正しい方向へカイザーを導いてほしい」
「任せろ、そのために来たんだ!!」
それから宴会は滞りなく進み、カイザーが現れる。しかしそこで、カイザーはセイレンスが二人と結託してカイザーを殺そうとした、裏切り者であると叫ぶ。
「えっ、どういうこと……」
「待ってくれ相棒、カイザーは意味もなくこんなことをする人じゃない。話を合わせてみよう」
「オッケー、それなら……カイザー、話を聞いて!! ライコスはあなたを騙してる!! オンパロスは、データでできた世界で、奴はそこの管理者で……」
「戯言を……断峰卿、連れていけ!!」
連れていかれそうになる二人だったが、そこでライコスが現れた。ライコスは地下牢に二人を閉じ込めて、二人を自分から守ろうとしていたことを指摘する。
「やっぱりそうか。カイザーは警戒心が強い人だ、最初から僕たちのことも、ライコスのことも信頼してなかった。僕たちは試されていたんだ」
「そういうことだったのか……ライコス、見つけたぞ!! 観念しろっ!!」
「執念深いですね、開拓者殿。その姿勢には感服します」
「ごちゃごちゃ言ってないで、歯を食いしばれ!! ボコボコにしてやる!!」
そう叫んで、バットを振り抜こうとする。だがそこで、ライコスが管理者権限で穹の動きを止める。
「ですが、全ては徒労。その執念深さも、無駄になる……ん?」
「そう上手くいくと思ったか?」
「カスライナ殿、流石ですね。私の不意をつくとは……ですが、それでは私を殺せないのもご存知のはずです」
その場からライコスがまた消えた。穹が解放されて、安堵のため息をつく。
「助かったよ、ありがとう相棒!!」
「気にしないでくれ。それより、奴は一体どこに行ったのか……」
「やはり神礼官は裏切り者だったか。だがその口ぶりだと、奴は逃げたようだな。どこに消えたのか、すぐに探させて……」
その時だった。カイザーの部下の一人が、息を切らしながら走ってきた。
「はぁ、はぁ……申し上げます、カイザー!!」
「どうした、落ち着いて話せ」
「創世の渦心に繋がる水盆が、突如として……全て枯れてしまいました!!」
それを聞いて、カイザーとファイノンは合点がいったという顔をする。
「なるほど。籠城場所としては、確かに最適だ」
「相棒。どうやら奴は、創世の渦心に逃げ込んだようだ」
「え、だけど水盆は枯れちゃったんだろ? どうやって行けばいいんだ?」
穹の問いに対して、ファイノンが答える。
「大丈夫さ、方法はある。この時代のスティコシアなら、まだあれが使えるはずだ」
「なるほど、最奥の水盆を使うつもりか。入口まで案内してやれ、剣旗卿」
「わかった。ついてこい、二人とも」
そして二人はセイレンスに案内されて、スティコシアに向かう。そして内部に入っていくと……
「……なんだあいつら、見たことないな。赤黒い敵? ヴォイドレンジャーに似てるけど……」
「鉄墓がまだいた時代の、暗黒の潮の造物達だ。奴が配置したんだろう。僕らの敵じゃない、一気に片付けて進もう!!」
「なるほど、それなら遠慮はいらないな!!」
先手必勝。造物をボコボコにしながら、二人は奥に進んでいく。邪魔なものはカスライナが吹き飛ばして、無理やり進んだ。
「ここから創世の渦心に入れるのか?」
「うん、今すぐにでも入れるよ」
「よし!! 武器は持ったな、突撃だ!!」
創世の渦心に二人が飛び込む。そこにはやはりライコスがいた。
「ここまで追いかけてくるとは……その行動力は、尊敬に値しますね。しかし、私にできることは本当にないのです」
「できるできないじゃない、お前にはやらなければならないことがある」
「無理やりにでもやらせるし、わかったと言ってもぶん殴る!! もう許さない!!」
ライコスは二人の態度を見て、説得は無駄だと判断したようだ。周囲からコードが伸びてきて、ライコスの背中に接続される。
「それならば……仕方がありませんね」
「かかってこい、ボコボコにしてやる!!」
「この壊れた舞台から……ご退場願いましょう!!」
ライコスの顔部分が開いて、真の姿を現した。暗黒の潮の造物達を差し向けてきたが……穹とカスライナの敵ではない。
「雑魚は俺に任せろ、カスライナはあいつを!!」
「わかった!! 覚悟しろ、リュクルゴス!!」
「無駄です、あなたの行動パターンは見えて……」
そこでカスライナの動きが変わる。穹の動きを真似て、攻撃を仕掛けた。存護の槍を使う時のように、先端を向けて猛スピードで突貫する。
「はぁぁぁっ!!」
「ぬぅっ……!? ぐっ!!」
「今だ、相棒!!」
ライコスの四本腕の片方が切断される。距離を取ろうとしたが、そこには穹が待ち構えており……穹が顔面目掛けて、全力でバットを振り抜く。
「はぁぁぁぁっ!!」
「ぐぉぉっ……!!」
「どうだ、話を聞く気になったか?」
カメラアイが損傷し、片腕もない。勝負は決した。ライコスは戦闘態勢を解いて、降参する。
「えぇ、これ以上の戦いは無意味……降参します」
「お前なぁ、さっきからできることはないだの、徒労だの言ってるけど……文句をぶつくさ言う前に自分のやったことの責任取れよ!! ヘルタって人が死んだのも、ルパートが生まれたのも、お前の責任だろ!!」
「その通り。お前は責任から逃げているだけの、ただの臆病者だ。オンパロスの無数の命が失われた罪は重いぞ。死を以って償えと言いたいが、まだお前にはやるべきことがある」
ライコスはそれを聞いて、頷く。
「そうですね。私にはやるべきことがある……全面的に協力しましょう」
「よっしゃ、やったなファイノン!!」
「流石だよ相棒、おかげでリュクルゴスを簡単に説得できた!!」
二人は手を取り合って喜び合う。しかし、二人のやるべきことはまだある。
「さて、指示をお願いします。私は、何をすればよろしいですか?」