Free Companies Federation外伝:マトリョーシカの遺跡   作:ウラリンゴ

2 / 3
やるなら最後までやりたい

「お久しぶりです、インフェリアーレ様」

 

 状況を半ば無理やり飲み込んだエドガーは回復したフリをしながら、恭しく挨拶した。

 

「相変わらずね」

 

 そんなエドガーの内心を知りながらクラレは、冷たい顔からは想像できない微笑みを見せながら答える。

 

「して、いつこちらに?」

 

「多分あなたがあの要請書を受け取った時には、既にここに着いてたかな」

 

 そんなに前から居たのか。

 エドガーは頭が痛くなってきた。

 

「もう1か月になりますかね」

 

 ローレンスは補足するかのように答える。

 

(要請書なんかより全然前じゃないか!)

 

 エドガーは心内で盛大に叫ぶ。

 

 この男、グルだったわけか。

 エドガーは微笑みを絶やさない隣の司令官を見ながら、駅でやり取りされた白々しい会話を思い出す。

 

 何がそれについては現地で、だ。

 

「ところで、なぜ私なのでしょう」

 

 ここでエドガーはここ数日ずっと抱えていた疑問をやっとの思いで吐き出す。

 

「ああ、別にあなたを指定した訳では無いのよ」

 

 クラレは思い出すように語る。

 

「あの要請を送るって決めた時に私も居たんだけどね、せっかくなら私が知ってる人だったら良いなーって思ったの」

 

 話を聞きながらローレンスの顔から先程まで浮かべていた微笑みが消える。

 

「だから私の名前でもう一枚要請書を作ったのよ」

 

「・・・‥ッな!?初耳ですぞ!?」

 

 ローレンスは、ここで初めてそれまでの模範的な司令官の顔を崩した。

 

「言ってないからね」

 

 クラレはしれっと答える。

 そしてエドガーはなぜ、要請書が2枚に分かれていたのかを察する。

 

「では、あのもう一枚の要請書は・・・‥」

 

 エドガーは嫌な予感がしながらも、この質問は意味が無いと薄々理解していた。

 それでも聞かなければならない。

 

「そう、私が、アルベルトに、要請したの」

 

 ああ、アルベルト、すまないアルベルト。

 エドガーは取引を覚悟して話を持ちかけてきた、あの哀れなアルベルトに心の中で謝り倒した。

 つまるところ、彼もまた第零席の被害者だったのだ。

 

「アルベルトには後で酒でも送りましょう」

 

 エドガーがアルベルトの胃痛の心配をしている間に、クラレは椅子から立ち上がる。

 

「じゃあ、取り敢えず仕事の話をしましょう」

 

 ◆

 

「今回見つかった遺跡については、恐らくローレンスからの報告で少しは分かるとは思うけど」

 

 クラレはエドガー、バルト、ローレンスの三者が状況を飲み込めない内に説明を始める。

 

「何やら内部が外とは違うと」

 

 エドガーが無理やり思考を回転させる。

 

「ええ、外から見た遺跡の外観は第5星歴の物だったんだけどね」

 

 エドガーは身構える。

 自身が判断を請われ、決定しなければならない要素。

 

「中がアラグの物だったの」

 

 ——アラグ。

 

 エドガーは聞きたくなかった。

 

 いや、想定はしていた。

 道中の列車内、あらゆる可能性をシミュレーションしていたエドガーは、可能性の1つとして頭の中で整理していた。

 ただ、当たって欲しくなかった。

 願わくば、こんな答えが用意されていたのなら、現地住民とのトラブルとかの方向で済んで欲しかった。

 

「ただ、」

 

 ここでバルトは立ち直る。

 いつまでも主人を置いて放心状態では居られないからだ。

 しかしタイミングが悪かった。

 

「私の予想では、さらに先があると考えているの」

 

「先、ですか」

 

「ええ、アラグより前があると踏んでいるわ」

 

 アラグより前、というと第3霊災よりもさらに昔の事だ。

 その実、あまり歴史や古代といったモノに詳しくないエドガーが質問を挟む。

 

「アラグより前と言いますと、第3霊災でしたかな?」

 

「そうなんだけど、もしかしてあまり知らない?」

 

 クラレは不思議そうにエドガーに聞く。

 

「いえ、一般知識としては知っています。しかしさらに昔となると、資料も乏しいですからな」

 

「それもそうね」

 

 歴史の授業はあまり好まないエドガーがクラレの答えを半ば誘導して終わらせる。

 クラレもそれを理解して、苦笑しながらエドガーの分かりやすい誘導に乗ってあげた。

 

「マトリョーシカは知ってるよね?」

 

 おもむろにクラレが机の上に小さな置物を置いた。

 

「ええ、ガレマール帝国・・・‥失礼、今は共和国でしたな。かの国の伝統工芸品ですな」

 

 ——ガレマール帝国/共和国。

 

 北方の蛮神討伐を国是とする帝国主義の国家として、長年エオルゼアや周辺国と戦争を続けていた国。

 現在では帝政が崩壊し、共和制に移行していると聞くが、エドガーは言いなれた単語がつい出てきてしまう。

 

「この玩具がどうされたので?」

 

「恐らくだけど、あの遺跡の内部はこのように」

 

 クラレがおもちゃの頭を1つ抜く。

 

「遺跡の中に遺跡があるんじゃないかなって思うの」

 

「こんな荒野でよくそのおもちゃがありましたね・・・‥。あ、いや失礼しました」

 

 ふと湧いた疑問がついバルトの口から出る。

 彼自身、このような場に似つかわしくないと分かっていたのか、すぐに訂正の言葉で下げようとする。

 

「いや、いいのよ。この遺跡の説明を誰かにするのに便利だったから取り寄せたの」

 

 彼女は何でもないかのように答え、その返答にバルトはホッとする。

 

「もちろん、本質は異なるわ。玉ねぎの様に皮をめくればまた同じ玉ねぎが出てくるのとは違う。今回の事案は皮をめくった先にあるのは全く別の物だし、なんならめくった皮より凶暴だわ」

 

 第5星歴の遺跡に第3星歴の遺跡がある。

 聞くだけで厄介だし、当事者となると帰りたくなってきたエドガー達。

 しかしここには仕事で来たので、帰るなんて以ての外で、ましてや逃げる選択肢など論外であった。

 

「そこで、我々は決断を遅らせたの」

 

「すなわち、このまま調査を継続するのか、それとも危険性と予算オーバーを理由に中断するのか、です」

 

 ローレンスが答えを引き継ぐ。

 この男、いつの間に再起動していたのか。エドガーは現実逃避を兼ねた思考の逸れを自覚した。

 

「とまあ、ここまで説明してきたわけだけど、実際に見た方が早いと思うから明日朝一番に見に行きましょ」

 

 彼女は軽い調子で言うが、既に時刻は夕方に差し掛かる頃合いだった。

 エドガーは最後の質問であると断りを入れ、クラレに質問する。

 

「インフェリアーレ様は政治的判断と申されますが、それこそインフェリアーレ様も元老院議員な訳ですし、判断されるのでは問題があったのでしょうか」

 

 エドガーの問いにクラレは笑みを零す。

 

「私が判断を委ねられたらそれこそ『最後まで』、と言うから」

 

 エドガーとバルトは二人して妙な納得をした。

 

「それもそうですな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。