Free Companies Federation外伝:マトリョーシカの遺跡 作:ウラリンゴ
「お久しぶりです、インフェリアーレ様」
状況を半ば無理やり飲み込んだエドガーは回復したフリをしながら、恭しく挨拶した。
「相変わらずね」
そんなエドガーの内心を知りながらクラレは、冷たい顔からは想像できない微笑みを見せながら答える。
「して、いつこちらに?」
「多分あなたがあの要請書を受け取った時には、既にここに着いてたかな」
そんなに前から居たのか。
エドガーは頭が痛くなってきた。
「もう1か月になりますかね」
ローレンスは補足するかのように答える。
(要請書なんかより全然前じゃないか!)
エドガーは心内で盛大に叫ぶ。
この男、グルだったわけか。
エドガーは微笑みを絶やさない隣の司令官を見ながら、駅でやり取りされた白々しい会話を思い出す。
何がそれについては現地で、だ。
「ところで、なぜ私なのでしょう」
ここでエドガーはここ数日ずっと抱えていた疑問をやっとの思いで吐き出す。
「ああ、別にあなたを指定した訳では無いのよ」
クラレは思い出すように語る。
「あの要請を送るって決めた時に私も居たんだけどね、せっかくなら私が知ってる人だったら良いなーって思ったの」
話を聞きながらローレンスの顔から先程まで浮かべていた微笑みが消える。
「だから私の名前でもう一枚要請書を作ったのよ」
「・・・‥ッな!?初耳ですぞ!?」
ローレンスは、ここで初めてそれまでの模範的な司令官の顔を崩した。
「言ってないからね」
クラレはしれっと答える。
そしてエドガーはなぜ、要請書が2枚に分かれていたのかを察する。
「では、あのもう一枚の要請書は・・・‥」
エドガーは嫌な予感がしながらも、この質問は意味が無いと薄々理解していた。
それでも聞かなければならない。
「そう、私が、アルベルトに、要請したの」
ああ、アルベルト、すまないアルベルト。
エドガーは取引を覚悟して話を持ちかけてきた、あの哀れなアルベルトに心の中で謝り倒した。
つまるところ、彼もまた第零席の被害者だったのだ。
「アルベルトには後で酒でも送りましょう」
エドガーがアルベルトの胃痛の心配をしている間に、クラレは椅子から立ち上がる。
「じゃあ、取り敢えず仕事の話をしましょう」
◆
「今回見つかった遺跡については、恐らくローレンスからの報告で少しは分かるとは思うけど」
クラレはエドガー、バルト、ローレンスの三者が状況を飲み込めない内に説明を始める。
「何やら内部が外とは違うと」
エドガーが無理やり思考を回転させる。
「ええ、外から見た遺跡の外観は第5星歴の物だったんだけどね」
エドガーは身構える。
自身が判断を請われ、決定しなければならない要素。
「中がアラグの物だったの」
——アラグ。
エドガーは聞きたくなかった。
いや、想定はしていた。
道中の列車内、あらゆる可能性をシミュレーションしていたエドガーは、可能性の1つとして頭の中で整理していた。
ただ、当たって欲しくなかった。
願わくば、こんな答えが用意されていたのなら、現地住民とのトラブルとかの方向で済んで欲しかった。
「ただ、」
ここでバルトは立ち直る。
いつまでも主人を置いて放心状態では居られないからだ。
しかしタイミングが悪かった。
「私の予想では、さらに先があると考えているの」
「先、ですか」
「ええ、アラグより前があると踏んでいるわ」
アラグより前、というと第3霊災よりもさらに昔の事だ。
その実、あまり歴史や古代といったモノに詳しくないエドガーが質問を挟む。
「アラグより前と言いますと、第3霊災でしたかな?」
「そうなんだけど、もしかしてあまり知らない?」
クラレは不思議そうにエドガーに聞く。
「いえ、一般知識としては知っています。しかしさらに昔となると、資料も乏しいですからな」
「それもそうね」
歴史の授業はあまり好まないエドガーがクラレの答えを半ば誘導して終わらせる。
クラレもそれを理解して、苦笑しながらエドガーの分かりやすい誘導に乗ってあげた。
「マトリョーシカは知ってるよね?」
おもむろにクラレが机の上に小さな置物を置いた。
「ええ、ガレマール帝国・・・‥失礼、今は共和国でしたな。かの国の伝統工芸品ですな」
——ガレマール帝国/共和国。
北方の蛮神討伐を国是とする帝国主義の国家として、長年エオルゼアや周辺国と戦争を続けていた国。
現在では帝政が崩壊し、共和制に移行していると聞くが、エドガーは言いなれた単語がつい出てきてしまう。
「この玩具がどうされたので?」
「恐らくだけど、あの遺跡の内部はこのように」
クラレがおもちゃの頭を1つ抜く。
「遺跡の中に遺跡があるんじゃないかなって思うの」
「こんな荒野でよくそのおもちゃがありましたね・・・‥。あ、いや失礼しました」
ふと湧いた疑問がついバルトの口から出る。
彼自身、このような場に似つかわしくないと分かっていたのか、すぐに訂正の言葉で下げようとする。
「いや、いいのよ。この遺跡の説明を誰かにするのに便利だったから取り寄せたの」
彼女は何でもないかのように答え、その返答にバルトはホッとする。
「もちろん、本質は異なるわ。玉ねぎの様に皮をめくればまた同じ玉ねぎが出てくるのとは違う。今回の事案は皮をめくった先にあるのは全く別の物だし、なんならめくった皮より凶暴だわ」
第5星歴の遺跡に第3星歴の遺跡がある。
聞くだけで厄介だし、当事者となると帰りたくなってきたエドガー達。
しかしここには仕事で来たので、帰るなんて以ての外で、ましてや逃げる選択肢など論外であった。
「そこで、我々は決断を遅らせたの」
「すなわち、このまま調査を継続するのか、それとも危険性と予算オーバーを理由に中断するのか、です」
ローレンスが答えを引き継ぐ。
この男、いつの間に再起動していたのか。エドガーは現実逃避を兼ねた思考の逸れを自覚した。
「とまあ、ここまで説明してきたわけだけど、実際に見た方が早いと思うから明日朝一番に見に行きましょ」
彼女は軽い調子で言うが、既に時刻は夕方に差し掛かる頃合いだった。
エドガーは最後の質問であると断りを入れ、クラレに質問する。
「インフェリアーレ様は政治的判断と申されますが、それこそインフェリアーレ様も元老院議員な訳ですし、判断されるのでは問題があったのでしょうか」
エドガーの問いにクラレは笑みを零す。
「私が判断を委ねられたらそれこそ『最後まで』、と言うから」
エドガーとバルトは二人して妙な納得をした。
「それもそうですな」