Free Companies Federation外伝:マトリョーシカの遺跡   作:ウラリンゴ

3 / 3
着いたよ

 翌朝、朝食を早めに済ませ、空が白み始めて一行は拠点を出発した。

 荒野の朝は昼間とは違い肌寒く、エドガー達は元老院の制服を脱いで現地で動きやすく、多少汚れても良い服装に着替えている。

 対してクラレは昨日と同じく、ラフな格好でエドガーの隣を歩いていた。

 元老院ぐらいでしか見かけることが無いクラレの格好は黒や深い青色のドレス姿が常なので、エドガーやバルトからしてみれば新鮮な気持ちで挑む行脚と言えるだろう。

 

 道中、エドガーはクラレに極個人的な質問をする。

 

「ところで、こちらに来られたのは趣味と実益と申されておりましたが」

 

「ああ、あの時の。覚えてたんだ」

 

 エドガーの問いに、バルト達も興味があるのか耳を傾ける。

 

「あんまりみんなには言ってないんだけど、昔っから歴史とか古代だとかは好きだったんだよね。FCF作る前はよく遺跡調査の依頼を受けてたよ」

 

 懐かしそうな顔をして答えるクラレは何を思い出しているのか、遠くを見ていた。

 

「ただまあ、第4席には負けるよ……。彼女を差し置いて歴史好きは名乗れないかな。私はどちらかと言うと現地調査や実地の方が好きだし」

 

 エドガーはよく緑色のドレスを着て元老院に出席している、ミコッテの女性を思い浮かべる。

 

「そんなあなたは?エドガー」

 

「私ですかな?」

 

「ええ、趣味よ趣味」

 

 ——趣味。

 唐突に向けられた質問にエドガーは困惑した。

 

 趣味?趣味って何だろう。もしかしたら今まで考えた事が無いかもしれない。

 今は辞書を持って無いが、恐らく仕事の事かもしれない。

 ここ数十年、ほぼFCの仕事か政治しかしていない彼の思考はスタン状態の如く見事に止まる。

 

 自分自身で聞いた数十秒前の質問が、自分に帰って来たことでエドガーは昨日の錯乱をぶり返していた。

 

「趣味……ですか」

 

「まさか、無い?」

 

 クラレは信じられない様なものを見る目で、エドガーを凝視した。

 趣味に生き、趣味に寝る彼女からしてみれば、何気ない質問だったのだろう。

 まさか、趣味が無いなんて返答が返ってくるとは考えていなかった。

 そして一体何を糧に生きてるのか、余計なお世話を自覚しながらもエドガーの生き様が心配になって来た。

 

「い、いえ。無いわけでは無い、とは思いますが……」

 

 エドガーの忠実で有能なバルトはふと、答えに窮し返す言葉を必死に考えるこんな様子の主人は初めて見た、と場違いな感想を思い浮かべるが、後が怖いので間違っても口にはしなかった。

 バルトは出来る側近なのである。

 

「そうですな。強いて言えば言語学でしょうか」

 

 思わず口から出てきた言葉は、果たしてエドガーが趣味だと自覚していたのか。

 

「へぇ、いいね。私もエオルゼア公用語はリムサに行く時必要だって事で勉強したけど」

 

「私も必要だから学習したに過ぎませんが、その先は、まあ趣味ですな」

 

 エドガーは経験から続けた学習を無理やり結び付けた。

 

「特に最近は、最近の言葉ですと友好部族ですかな?彼らとの取引が増えましたからな。彼らの言語はそれぞれ独立した特徴を持ちますので都度学習しなければならず、なかなか骨が折れるものです」

 

「大変だ……。そういえば、どっかで聞いた話だけど、光の加護を受けた人って言葉の壁を越えられるとか言ってたような。羨ましいよね」

 

 クラレは生家で苦労した第2言語の勉強を思い出して、少し頭を項垂れる。

 

「超える力でしたか?あれは言語を介さずに意思疎通が出来るとか。あまり詳しくはありませんが、光の加護を受けた者は例外なく数奇な運命を辿るとか言いますし。私は御免被りたいですな」

 

 エドガーも聞きかじった程度なのか、あまり詳しくはないようだ。

 光の加護、超える力、いずれも光の戦士と呼ばれる冒険者が持つ力で、蛮神のテンパードにならない等、人智を超えた恩恵を受けるものだ。

 エドガーはあまりその人について詳しくは無いが、今もどこかで冒険をしているのだろう。

 

「そんなこと言ってー。エドガーも結構数奇な生き方してる気がするけど?光の加護を持たないで運命が激動なんて、加護持ちになったらどうなるの?」

 

「インフェリアーレ様には及びますまい」

 

 二人の会話を聞くバルトは口にはしない。しかし、口にはしないが恐らく隣を歩く司令官と同じ感想を持っている自信があった。

 黙して語らない司令官と目が合うと、確信を持ってこの感想が間違っていない事に気付き、かつこれは墓場まで持って行くと心に決めた。

 

「実は私も、まだFCFを立ち上げてない時に帝国語を勉強しようとした時があったんだよね」

 

「ガレマール公用語ですかな?」

 

 エドガーが聞き返す。

 

「うん。あの時はまだ帝政で侵攻が続いていたでしょ?あそこから攻められた時に言葉が分かったら、相手の思惑が見えるかなって思ってね」

 

 実に好戦的だと、エドガー等3人は同じ感想を持った。

 言葉を学んでやることが、戦闘時有利になるためなんて。あまりない発想に、クラレが第零席たる所以を垣間見た気がした。

 

「でも、最初に勉強した単語が全く使えない単語でね。あいつから教わったんだけど」

 

 元老院組二人は、『あいつ』と言う情報のみで、ヘラヘラした顔でサムズアップする第1席を思い浮かべる。

 議会中、よくクラレの隣に座って会議を聞いてるフリをしながら二人でコソコソ話している光景は、議員たちの間では有名だった。

 エドガーは一度だけ二人の会話を盗み聞きしたことがあるが、お腹が空いたなどこの後何を食べようなど、どれも毒にも薬にもならない話ばかりで肩を落とした記憶がある。

 そして二人に第2席が注意するまでがいつもの流れであった。

 

「ちなみに、多分言えないと思うのですが、その単語の最初の音は何です?」

 

 バルトが興味本位で聞く。

 

「С(ス)だよ」

 

「ダメですな」

「ダメですよ」

「ダメですぞ」

 

 三者三様の同じ返答が、同じタイミングでクラレに返ってくる。

 『С』から始まるガレマールの使ってはいけない単語など、辞書を引くまでもない。

 

「分かってるよ……。ただあの時は第XIV軍団も目の前だったし。ガレマールの挨拶を教えてって言ったのに、あいつったら意味わかんないぐらい強い罵倒語を教えてきたんだよ」

 

「第零席様の仰るあいつが誰かは存じ上げませんが、とんでもない奴も居たもんですね」

 

 ローレンスはしみじみと答える。

 

「まあ、そのあいつの名誉のためにここでは言わないよ。嘘を教える人を救う私は何て慈悲深いんだろうね。ただあいつもガレマールの言葉はそれしか知らなかったみたい」

 

「ハハハ……」

 

 ◆

 

「着いたよ」

 

 日が昇ってすぐ、一行は遺跡に到着した。

 

「……これは」

 

 最初に声を漏らしたのはエドガーだった。

 

 荒野の中に一段下がるポケットの様な窪み、その陰に隠れるように鎮座する遺跡がそこにはあった。

 これは分からない。恐らくかなり近づかなければ見落とすなんてレベルじゃなく素通りする自信がエドガーとバルトにはあった。

 

 しかし、それ以上に奇妙だったのが。

 

「思っていたより、大きいですな」

 

「やっぱりそう思うよね」

 

 クラレは嬉しそうに振り返る。

 歴史に詳しくないとはいえ、エドガーもFCマスターであり、源流は冒険者であった。

 そこに関する洞察力や観察力は並大抵のものでは無い。

 

 遺跡は大きい、しかし地層やポケットに隠れるこの歪さが遺跡の異常性を際立たせていた。

 

「ここから見える感じ、やはり第5星歴の物に見えますね」

 

 望遠鏡で周囲を観察したバルトが、見える範囲での感想を述べる。

 

「そうでしょう。なので我々は当初、植物や呪いといったモノを専門とするチームを編成していたのです」

 

 拠点司令官ローレンスは説明を続ける。

 つまるところ、どうせ第5星歴なんだから植物だとか呪いだとかあとはちょっと薄ら暗いものがあるんだろ、と踏んでいたら手痛いしっぺ返しを食らった話である。

 

「私も、モルボルとかなんか頭と胴体が一致してないモンスターとかかなと思ってたんだよね。臭い消しとか用意してたんだけど無駄になっちゃった」

 

「オーラムヴェイル帰還者御用達の臭い消しですな」

 

 エドガーが冒険者時代、大変お世話になったアイテムを思い出し、感慨に耽る。

 

「そうそれ!あのダンジョンの依頼は出来るだけ避けてたんだけどね。入ったら3日は臭いが消えないから嫌いだったよ……」

 

「男性である我々も忌避するダンジョンです。女性はもっと嫌でしょうな。中も複雑で迷いやすいですし」

 

 ダンジョンから帰ってきても臭いから人に避けられるあの期間は、中々心に来る経験であった。

 

「なんか青燐水のガスとか充満させて、ファイアで引火したりとかって駄目なのかな」

 

 クラレの物騒な発想に、バルトの否定は早かった。

 

「ダメでしょう。岩盤の崩落が目に見えますし、あれでも貴重なモルボルの繁殖地です」

 

 冒険者同士の話に花が咲いてしまうが、 ここでローレンスの咳払いが聞こえる。

 

「御三方とも、どうか今は」

 

「そうだったね」

 

 クラレ達3人が苦笑して、話を元に戻す。

 

「それで、本題なんだけど。あれの中が昨日も説明した通り、第3星歴のものなんだよね」

 

「アラグ、ですな」

 

 口にするたびに気力と体力が削ぎ落されている気分になる。

 有名なのはクリスタルタワーだが、あれは聖コイナク財団が調査をしていたのだったか。

 もう全部あいつらに任せてしまえば良いんじゃないか?エドガーは度重なる心労によって現実逃避が日課になりつつあった。

 しかし行かねばならない、見なければならない。

 元老院議員として調査の進退を決めなければならない。

 そのためにはやはり、一度は見なければ。そう心に決めて、一歩を踏み出したエドガー。

 

「あ、待った」

 

 に対して覚悟を踏みにじるクラレの一言。




С〇ка(スーカ)・・・ロシア語で卑俗な表現。良い子は検索してはいけない。なお、仮にXIV軍団にこれを言ったとて、殆どが属州から徴兵されているところを見るに、通じるのは精々将校程度だと思う。
黄金のレガシーの一幕で、ユルスがピロシキを出していたため、ガレマールはロシアが舞台とみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。