The Greatest Pitcher of All Time〜絶望の右腕と史上最高の32年〜   作:晴れのち曇り

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消える魔球と『68』の戴冠

三年目の春季キャンプ。背番号「68」を背負う神楽坂翔の存在感は、もはや一過性の話題ではなく、パ・リーグの確固たる脅威となっていた。

前年は神楽坂の13勝、逢坂の10勝という「ドラフト同期ダブル二桁勝利」の活躍があったものの、ライオンズは救援陣の崩壊が響いてリーグ4位。惜しくもBクラスでシーズンを終えていた。今年目指すのは、明確に「5年ぶりのリーグ優勝」ただ一つだった。

「おい、そこのドラ1とドラ6。ノックの後に無駄なおしゃべりしてる暇があったら、さっさとアイシングしてこい」

ブルペンの脇で、低く通る声が響いた。声の主は、この年のドラフト3位で入団した大卒社会人ルーキー、陣内隆一(26)だ。社会人野球で4年間、名門の守護神として修羅場を幾度も潜り抜けてきた男の眼光は鋭く、年下の高卒組を寄せ付けないピリッとした雰囲気を纏っていた。

「……相変わらず厳しいですね、陣内さん」

神楽坂がアイシングバッグを右肩に当てながら歩み寄ると、陣内はミントガムを噛みながらフンと鼻を鳴らした。

「厳しいんじゃなくて効率の問題だ。去年このチームが4位に沈んだ最大の原因を知ってるか? 先発が7回までリードを作っても、8回9回で後ろがゲームを壊した試合が14試合もあったからだ。俺はな、お前らみたいな年下のガキが作った勝ち星を消すのが一番嫌いなんだ」

「言ってくれるじゃねえか、ルーキー」

防具を外しながら歩いてきたベテラン捕手・橘謙吾が、ニヤリと笑いながら陣内の肩を叩いた。

「だが、神楽坂。陣内の言う通りだ。去年ウチがBクラスに落ちたのは、終盤の失点率の高さが原因だ。お前がどんなに『計算通り』に抑えても、チームが勝たなきゃ意味がねえ。今年は俺がブルペンも含めて全試合コントロールしてやる。お前はただ、俺のミットだけ信じて投げてこい」

橘の力強い言葉に、神楽坂は「……了解です、橘さん」と短く頷いた。

陣内は開幕から、チーム最大の泣き所だったクローザー(抑え)に抜擢された。150キロ超の角度のある直球とスライダーを武器にする26歳は、接戦の9回を淡々と締めくくる重厚感を備えていた。

 

#### 2

シーズンが開幕すると、ライオンズは前年とは見違えるような快進撃を見せた。

開幕からホークス、バファローズと熾烈な首位争いを繰り広げ、五月終了時点で首位と1.5ゲーム差の2位につける。パ・リーグ各球団の「神楽坂対策」は熾烈を極めていたが、彼と橘のコンビが先発する試合の勝率は8割を超えていた。

六月上旬、首位攻防戦となるHホークス戦。勝てば単独首位に踊り出る大一番で、神楽坂はマウンドに上がっていた。

6回まで無失点に抑えていたものの、球数はすでに90球を超えていた。相手打線はファールで粘り、甘い直球をじっと待つ徹底的な「神楽坂攻略法」を実行していた。

「……手元で見切られ始めてるな」

ベンチに戻り、冷やしたタオルで首元を拭く神楽坂の隣に、橘がドカッと腰掛けた。

「相手の打撃コーチ、完全に『低めのスプリットは捨てる』指示出してるぞ。直球の球威が落ちる7回を狙い撃ちする気だ」

「……ええ。ですが橘さん、見切られるなら、見切られた軌道からさらに数センチ落とせばいいだけです」

「ハッ、言うのは簡単だがな」橘はニヤッと不敵に笑い、プロテクターを叩いた。「だが、お前のその狂気じみた指頭圧なら、本当にやってのけるかもな。よし……7回は、あえて初球から『もっと手前で落とすスプリット』で行くぞ。相手の『捨てろ』っていうヤマを逆手にとって、ストライクゾーンの上から下に落としてやれ」

「了解です。キャッチャーボックスの土に刺さらないよう、高めの軌道から落とします」

7回裏。二死二塁のピンチ。

相手の4番打者に対し、神楽坂が投じた渾身の一球。高めのストライクゾーンから放たれたボールに、打者は直球と確信してバットを振り抜こうとした。しかし、ボールは打者の手元で物理法則を無視するようにすとんと急降下し、ストライクゾーンの低めを通過した。

「ストライク! バッターアウト!」

完璧なリードと投球。捕手ボックスの橘は立ち上がり、痺れるような手応えの残るミットをバシッと叩いて、マウンド上の神楽坂に不敵な笑みを送った。

7回無失点でマウンドを降りる神楽坂。ベンチ前で待っていた陣内が、グラブでポンと神楽坂の胸を叩く。

「ナイスピッチ。橘さんのリードもエグいな。……首位の座、俺がしっかり奪い取ってきてやる」

9回裏、陣内が152キロのクロスラインで相手打線を三者凡退に打ち取り、ゲームセット。ライオンズはついに**「単独首位」**へと浮上した。

【神楽坂:7回 102球 被安打4 奪三振9 失点0(今季7勝目)】

【陣内:1回 12球 被安打0 奪三振2 失点0(今季15セーブ目)】

 

#### 3

試合後の取材エリア。興奮冷めやらぬ報道陣の中に、ノートを抱えた葵結衣の姿があった。

「翔ちゃん、お疲れ様! 単独首位浮上、本当におめでとう!」

「ありがとう、結衣」

神楽坂が答えると、横を通った橘が「おいおい、番記者のお嬢ちゃん」と声をかけてきた。

「今日の勝利は、俺と神楽坂の緻密な計算の賜物だぞ。記事には『橘の神リード』ってデカデカと書いとけよ?」

「もう、橘さん! ちゃんと書きますってば!」

結衣は笑いながらペンを動かし、それから真面目な顔で神楽坂を見上げた。

「でも本当に、今日の7回のスプリットは凄かった。橘さんとの息もぴったりで……去年まではBクラスで苦しんでたチームが、今はすごく強固な一つの塊になってる感じがするよ」

「……橘さんの存在は大きいです」

神楽坂はアイシングされた腕を見つめながら言った。

「僕が自分の肉体と数値だけに集中できるのは、橘さんが相手打者の心理や狙い目をすべて頭に叩き込んで、ミットで導いてくれるからです。それに、9回には陣内さんが控えている。僕一人の力じゃ、このチームを首位に立たせることはできませんでした」

「……へえ、翔ちゃんがそんな風に人を褒めるなんて珍しい。すごく大人になったんだね」

結衣は眩しそうな目で神楽坂を見つめ、そっとノートを閉じた。

 

#### 4

夏場を迎え、リーグ優勝を巡る争いは激しさを増した。

2位ホークスが猛追を見せる中、ライオンズの首位を死守したのは、神楽坂・逢坂の2本柱、ベテラン橘の巧みなリード、そして抑え・陣内の鉄壁の投手陣だった。オールスター明け、神楽坂は橘との完璧なコンビネーションで怒濤の8連勝を記録。チームを力強く牽引した。

そして10月、シーズン最終戦。

勝てばリーグ優勝が決まる大一番で、神楽坂と橘のバッテリーは8回1失点の圧巻の投球を見せ、9回を陣内が無失点で締めてゲームセット。

**埼玉西武ライオンズ、5年ぶり18度目のパ・リーグ優勝。**

マウンド上で橘が真っ先に神楽坂のもとへ駆け寄り、大きな体で神楽坂を抱きしめた。

「よく投げ抜いたぞ、神楽坂! お前は最高の相棒だ!」

「……橘さんのミット通り投げただけです。ありがとうございます」

神楽坂の今季成績は**【17勝4敗 防御率 1.95】**に到達。パ・リーグの**「最多勝利」**および**「最優秀防御率」**の二冠を達成した。

また、年間を通して神楽坂たちの勝ち星を守り抜いた陣内も、ルーキーながら**【35セーブ】**を挙げ、最優秀新人(新人王)を確実なものとした。

**【神楽坂 翔・プロ3年目(21歳)成績:25試合登板 17勝4敗 防御率 1.95(最多勝・最優秀防御率)】**

**【陣内 隆一・プロ1年目(26歳)成績:52試合登板 2勝1敗 35セーブ 防御率 1.62(新人王確実)】**

**【チーム成績:143試合 82勝58敗3分(パ・リーグ優勝)】**

優勝記者会見の囲み取材。ある記者が問いかける。

「神楽坂投手、チームをBクラスから5年ぶりの優勝に導き、自身も17勝で二冠達成。そろそろ球団から、エースナンバーである『18』への変更打診などもあるのではないでしょうか?」

神楽坂はマイクを手に取ると、隣に座る橘と目を合わせ、迷いのない声で言い放った。

「打診されても断ります。橘さんとともに、この『68』という番号で優勝できた。相手打者を絶望させる僕にとってのエースナンバーは、これからも68です」

会場がどっと沸き、橘が満足そうに頷く中、記者席の後方でカメラを構えていた結衣は、誇らしげに微笑んでいた。

その夜、発刊されたスポーツ紙の一面には、神楽坂と橘が抱き合う優勝胴上げの写真とともに、結衣が書いた見出しが大きく躍っていた。

*『背番号68、圧巻の17勝でチームをBクラスからパの頂点へ。*

*名捕手と歩んだ完璧な軌跡が、ライオンズの新しい黄金期を切り拓く——』*

 

**【歓喜】埼玉ライオンズ、5年ぶりのパ・リーグ優勝wwwwww**

1: **風吹けば名無し**

きたあああああああああ!!!

西武優勝おめでとう!!!神楽坂17勝目&二冠達成!!!

2: **風吹けば名無し**

神楽坂翔(21・3年目):25試合 17勝4敗 防御率1.95

【獲得タイトル】最多勝利、最優秀防御率

去年Bクラス(4位)だったチームを一人で引き上げたレベルのバケモノ数字で草

3: **風吹けば名無し**

去年の西武「先発が抑えても救援が吐き出してBクラス転落」

今年の西武「神楽坂・橘バッテリーで7〜8回まで完璧に抑えて9回陣内で終戦」

橘のリードと陣内の補強が大成功すぎるだろwwww

4: **風吹けば名無し**

今日の試合で優勝決まった瞬間、ベテランの橘が神楽坂のことガバッと抱きしめたの胸熱すぎたわ

「最高の相棒だ!」って叫んでたらしいぞ

5: **風吹けば名無し**

> > 4

> > あの冷徹な神楽坂が橘に「橘さんのミット通り投げただけです」って感謝言ってるの尊すぎんか???

> >

>

6: **風吹けば名無し**

ホークスとの首位攻防戦で、相手が「低めのスプリット捨てる」の読んでストライクゾーンの上から下に落とした配球えぐかったなww

橘と神楽坂の脳汁出まくりバッテリー最高や

7: **風吹けば名無し**

ドラ3ルーキー陣内(26)の35セーブも地味におかしい

社会人上がりの貫禄すごすぎたわ。「年下のガキの勝ち星消さない」の有言実行カッコよすぎ

8: **風吹けば名無し**

記者「背番号18に変更しないんですか?」

神楽坂「橘さんと68で優勝できた。僕のエースナンバーは68です(即答)」

ぐうの音も出ない格好良さで草

背番号68がこんなに輝く日が来るとは……

9: **風吹けば名無し**

結衣記者の「名捕手と歩んだ完璧な軌跡が、ライオンズの新しい黄金期を切り拓く」って見出しで泣いたわ

最高のシーズンだったな!CSと日本シリーズも頼むぞ!!

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