The Greatest Pitcher of All Time〜絶望の右腕と史上最高の32年〜 作:晴れのち曇り
**1. 異例の「守護神継続」**
トミー・ジョン手術から驚異的な回復を見せた陣内恭平が、春季キャンプで立ち投げを開始した3月上旬。
ファンやメディアの間では「神楽坂の先発復帰」が当然の既定路線として語られていた。前年、緊急補強的に抑えへ回って51セーブを挙げたものの、本来は20勝を狙える球界最高峰の先発投手だからだ。
しかし、オープン戦開幕前の記者会見で、監督の口から告げられた方針は全員の予想を裏切るものだった。
「今季も9回は神楽坂で行く。陣内には申し訳ないが、今の神楽坂の1イニングは人類の領域を超えている」
会見後、グラウンドのベンチ裏で陣内と神楽坂が向き合っていた。陣内はまだ完全には肘を振り切れない右腕を摩りながら、苦笑いを浮かべた。
「すまんな神楽坂、俺が完璧に治りきってねえばっかりに……またお前に9回を押し付けることになっちまった」
「誤解です、陣内さん」
神楽坂は一切の感情を挟まない平熱の声で即座に否定した。
「押し付けられたわけではありません。昨季の51セーブの投球データを解析した結果、僕の解剖学的出力は1イニング限定においてNPB全体の打撃スタッツを99.8%無力化できることが実証されました。つまり、僕が9回に鎮座し続けることが、チームの勝利期待値を最大化する唯一の解です」
「……相変わらず可愛くねえ言い草だな。けどな、俺が完全に復活したら、その座は意地でも奪い返すからな」
「お待ちしています。ただし、僕の残す数値(データ)を超えるのは至難の業ですよ」
神楽坂の不敵とも取れる言葉に、陣内はポンと彼の肩を叩いて笑い飛ばした。
その夜、都内のレストランで結衣と向かい合っていた神楽坂は、運ばれてきたハンバーグを正確に一口大のサイズへナイフで切り分けていた。
「翔……本当に今年も抑えでいくんだね。先発でタイトルを狙いたい気持ちはなかったの?」
「個人のタイトルは、勝利を積み重ねた副産物に過ぎません。昨季の51セーブは僕の想定内の数字でした。ですが、今季は違います」
神楽坂はフォークを止め、真っ直ぐに結衣の瞳を見つめた。
「今季は、前人未到の領域へ足を踏み入れます。NPBのシーズン最多セーブ記録(54セーブ)の更新……目標は『56セーブ』です」
「ご、56セーブ……!? 前の記録より5つも上だよ!?」
「はい。数学的に言えば、チームが僅差でリードする展開が年間60試合以上発生し、かつ僕が登板機会の93.3%以上を完璧に抑え込む必要があります。僕の出力向上と指頭圧の再調整をもってすれば、十分に達成可能な計算です」
呆然とする結衣に対し、神楽坂はポケットから小さなノートを取り出して差し出した。
「これは……?」
「結衣さん専用の、僕の今季のコンディショニングおよび投球データのトラッキングシートです。あなたが現場で僕を記録する際、最も効率的に事実を整理できるようフォーマットを最適化しておきました」
「翔……これ、全部手書きで作ってくれたの?」
「あなたの取材精度向上は、僕のメンタル安定に直結します。……それと、無理な連日取材であなたが体調を崩さないよう、取材スケジュールの推奨休憩時間も組み込んであります」
ノートをめくると、細部まで整然とした文字でびっしりと書かれた記録欄と、結衣の体調を気遣う注意書きが添えられていた。
「……ふふ、ありがとう翔。翔がそこまで完璧に準備してくれたんだもん。私、翔が56セーブを達成するその瞬間まで、一球たりとも見逃さずに記録し続けるね!」
「期待しています、結衣さん」
#### **2. 56個の絶望**
シーズンが開幕すると、ベルーナドームの9回は相手チームにとって「完全なる処刑場」と化した。
先発陣がギリギリで繋いだ1点リード。9回のマウンドに背番号18が降り立つと、球場全体に重厚なテーマ曲が響き渡り、相手ベンチからはため息漏れる。
* 平均球速**161km/h**の浮き上がるようなストレート
* 156km/hで打者の手元で鋭く変化する高速カットボール
* 打者が振った時には既に捕手のミットに収まっている146km/hのゴースト・スプリット
絶望的な精度で投げ込まれる三種の神器の前に、パ・リーグの猛者たちは手も足も出なかった。
4月:11セーブ
5月:10セーブ
6月:9セーブ
連投が重なる猛暑の7月、神楽坂の登板過多を懸念する報道陣に対し、結衣は神楽坂から託されたデータを元に冷静な分析記事を書き続けた。神楽坂の投球フォームの効率性、指頭圧の疲労分散アルゴリズム——神楽坂が単なる「根性」ではなく、計算された「解剖学的理論」で無双していることを、結衣のコラムが証明し続けた。
そして秋風が吹き始めた9月下旬。
神楽坂はすでにシーズン**55セーブ**に到達し、従来のNPB記録(54セーブ)をあっさりと塗り替えていた。
残り試合数はあと3。迎えたベルーナドームでのレギュラーシーズン最終戦。
#### **3. 前人未到の金字塔**
9回表、2対1の1点リード。
満員のスタンドから湧き起こる、地鳴りのような「神楽坂」コール。
マウンド中央に立った神楽坂は、ロジンバッグを手に取ると、ゆっくりとバックネット裏の記者席に目を向けた。そこには、身を乗り出すようにしてノートを握りしめる結衣の姿があった。
(結衣さん。約束の数字(56)を、今ここで回収します)
1人目の打者を、3球連続の161km/hストレートで三見逃し三振。
2人目の打者を、146km/hのゴースト・スプリットで空振り三振。
ツーアウト。前人未到の記録まで、あと一人。
打席には相手チームの主砲。
初球、外角低めギリギリに突き刺さる157km/hの高速カットボールでストライク。
2球目、内角高めへの162km/hストレートでファール。追い込んだ。
3球目。神楽坂の手から放たれたボールは、綺麗な回転を描きながらストライクゾーンへ飛び込み——打者のバットが空を切る直前、急激に沈み込み、消えた。
「空振り三振! ゲームセット!」
「神楽坂翔、シーズン56セーブ達成!! 前人未到! 前代未聞のNPB新記録達成!!」
歓喜に沸くベルーナドーム。マウンド上で神楽坂は静かに右拳を握り締め、天を仰いだ。
捕手の橘が抱きつき、ベンチからナインが一斉に飛び出してくる。パ・リーグ5連覇を達成したチームの輪の中心で、背番号18は静かに息を吐いた。
**【25歳(7年目)シーズン最終成績】**
**65登板 4勝0敗 56セーブ 防御率0.42**
**(最優秀救援投手・NPB年間最多セーブ新記録)**
#### **4. データを超えた熱量**
試合後のヒーローインタビュー。超満員のファンの前でマイクを向けられた神楽坂は、いつもの冷静な口調で語り始めた。
「56セーブという数字は、僕一人の力で達成できる確率の領域を超えていました。僕にマウンドを託してくれたチームメイト、最高のリードをしてくれた橘さん、そして……僕の投球データを誰よりも正確に記録し、信じ続けてくれた『専属記者』の存在があったからです」
スタンドの記者席でその言葉を聞いていた結衣の目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。周りの記者たちが結衣を温かい拍手で囲む。
深夜、すべての取材とセレモニーが終わり、誰もいなくなったベルーナドームのグラウンド。
ライトアップが消えかけたマウンドの傍らで、結衣と神楽坂が二人きりで立っていた。
「翔……本当におめでとう。56セーブ……私、翔の勇姿を最後までノートに記録できたよ」
結衣は胸に抱えたノートを大事そうになでた。
「ありがとうございます、結衣さん。あなたの記録があったからこそ、僕は毎試合、誤差ゼロの状態でマウンドに立つことができました」
神楽坂は結衣へ近づくと、ポケットから小さな鍵を取り出し、彼女の手のひらに握らせた。
「……? これ、何の鍵?」
「僕の自宅の鍵です。来季以降、僕の栄養管理とコンディショニングサポートを、より密接な位置で行っていただきたいと考えています」
突然の「鍵の譲渡」に、結衣の顔が一気に真っ赤になった。
「え、えぇぇ!? 翔、それって……同居ってこと!?」
「解剖学的観点から見ても、移動時間とコミュニケーションコストの削減はパフォーマンス向上に極めて有効です。……ですが、それ以上に」
神楽坂は一瞬だけ言葉を詰まらせ、結衣の手をぎゅっと力強く握りしめた。
「……僕の視界の届く範囲に、常にあなたがいてほしいと、僕の感情データが要求しています」
不器用だが、これ以上ないほどまっすぐな情熱の言葉。
結衣は涙の浮かんだ目で微笑むと、深くうなずいた。
「うん……! 喜んで。翔の専属サポート、一生かけて務めさせてもらうね!」
抑えとして前人未到の域に達した25歳のエース。
先発での支配力、抑えでの絶対的防波堤——日本球界に神楽坂翔の敵は、もう誰一人として存在しなくなっていた。
**【神】神楽坂翔(25)、シーズン56セーブでNPB新記録達成wwwwwwww**
1: **風吹けば名無し**
神楽坂翔(25・7年目):65登板 4勝0敗 56セーブ 防御率0.42
NPB年間最多セーブ記録更新(56S)
マジで人間やめてて草
2: **風吹けば名無し**
防御率0.42って何だよwwww
シーズンで失点したの何回だよwwww
3: **風吹けば名無し**
162キロ直球、156キロ高速カット、146キロ消えるスプリット
これを9回に出てこられたらどの球団も絶望するわ
4: **風吹けば名無し**
ヒロインで「僕のデータを正確に記録してくれた専属記者のおかげ」って言ってて全ライオンズファンニッコリ
5: **風吹けば名無し**
結衣記者のノート、もはやライオンズの国宝だろ
6: **風吹けば名無し**
陣内「俺の出番ねえじゃん……」
7: **風吹けば名無し**
> > 6
> > 陣内もリハビリ頑張って中継ぎで復活してるからセーフ
> >
>
8: **風吹けば名無し**
先発で21勝(防御率1.32)
抑えで51セーブ(防御率0.65)
抑えで56セーブ(防御率0.42)←New!
NPBでやること全部やり切ってて草
来年はまた先発に戻るんか?
9: **風吹けば名無し**
神楽坂「日本にはもうデータ回収できる相手がいません」