未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る   作:パラレル・ゲーマー

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第1話 十五歳になったので職業をくじで決める

 朝の澄んだ空気が、少しだけ油の匂いを孕んで窓の隙間から入り込んでくる。

 テーブルの上に置かれた目玉焼きとトースト、それに代用品の粉末から淹れた少し薄いコーヒー。これまでの十五年間、幾度となく繰り返されてきた相馬家のありふれた朝食の風景だ。

 だが、今日の空気はいつもと明らかに違っていた。

 

「……悠真、よく眠れた?」

 

 向かいに座る母さんが、コーヒーカップを持ったまま、探るような視線を向けてきた。その声のトーンはどこか上擦っていて、不自然なほど明るい。

 隣では、父さんが新聞代わりの情報端末をスクロールさせているが、文字を目で追う速度が普段より明らかに遅かった。さっきから同じページを何度もスワイプしている。

 

「まあね。いつも通りだよ」

 

 俺はトーストを齧りながら、できるだけ平坦な声で答えた。

 今年、俺は十五歳になった。

 そして、このコロニーでは十五歳になると、誰にでも特別な日がやってくる。ケーキを食べてお祝いするような呑気なものではない。これから先、最初にどんな仕事へ放り込まれるかが決まる、運命の分かれ道である。

 

「そうだな、うん。まあ、気負う必要はないさ」

 

 父さんが端末から顔を上げ、わざとらしく咳払いをした。

 

「農場なんかだと、ここから通うのも楽でいいよな。第一区画の水耕プラントなら、空調も効いてるし」

「機械の整備なんかも悪くないわよね。手に職がつくし、これから先ずっと重宝されるわ。あ、でも物流もいいかも。最近は忙しいらしいけど、お給料は安定してるって隣の奥さんが言ってたわよ」

 

 両親が口を揃えて、特定の仕事の名前を並べ立てる。

 それはつまり、「これらを引いてほしい」という強い祈りの裏返しだった。

 彼らの会話の中には、このコロニーに存在するもう一つの重要な職業の名前が、絶対に、意図的に、完璧に排除されている。誰もその単語を口にしない。口に出してしまえば、言霊となって息子に取り憑いてしまうとでも思っているかのように。

 

「そうだね。農場でも工場でも、なんでもいいよ。清掃局だって文句はないし、なんなら地下水路の泥さらいでも別にいい」

 

 俺がそう言うと、両親は一瞬だけホッとしたような、それでいて泣きそうな曖昧な顔をして、ただただ頷いた。

 俺の内心も彼らと全く同じだ。

 汚い仕事でも、きつい仕事でも構わない。

 ただ一つ、あの仕事——防壁の外へ放り出される『あれ』以外なら、なんだっていいのだ。

 

 俺は残りのコーヒーを飲み干し、「行ってくる」と短く告げて席を立った。

 玄関のドアを開けると、背中越しに「気をつけてね」「落ち着いて引くんだぞ」という、まるで戦地へ送り出すような両親の声が重なって聞こえた。

 

 *

 アパートの階段を降りて外に出ると、いつもの雑然とした街並みが広がっていた。

 見上げれば、青空を切り裂くように小型の物流ドローンが忙しなく飛び交っている。ブーンという低いモーター音を響かせながら、規則正しいルートに沿って荷物を運ぶ無機質な機械の群れ。

 通りに面した診療所の前を通ると、色褪せたホログラムの看板が『最新の医療ナノマシン注入完了・感染症リスク99%カット』という文字を虚空に瞬かせていた。

 少し先にある雑貨屋の店先には、旧時代の遺物らしきガラクタが並べられており、簡素な電子タグには価格が表示されている。

『水筒:1500円 / 10ドル / 12ユーロ』

 円もドルもユーロも、旧時代からそのまま生き残っており、このコロニーでは三つとも普通に使われている。公共の電子掲示板には、数カ国語が入り乱れたニュースが流れているが、手元の端末を通せば当たり前のようにリアルタイム翻訳が機能する。

 

 そして、そのすべての風景をぐるりと取り囲むように、遥か遠く、空を遮るほどの高さでそびえ立つ巨大な防壁。

 コンクリートと鉄と未知の複合素材で覆われた、世界を分断する壁。

 

 俺は歩きながら、その壁をぼんやりと見上げた。

 この世界は、前世の俺が生きていた時代と比べて、進んでいるのか遅れているのか、よく分からない。医者に行けばナノマシンで細胞レベルの治療を受けられるし、荷物は無人のドローンが勝手に届けてくれる。だが、街のインフラは継ぎ接ぎだらけで、人々は巨大な壁の中に閉じこもって生活している。

 

 そう、俺には前世がある。

 二十一世紀の日本という国で、ごく普通のサラリーマンをやっていた記憶だ。

 特殊部隊のエリートでもなければ、世界を救うような天才科学者でもない。毎朝満員電車に揺られ、適当に仕事をこなし、給料日を楽しみにしながら発泡酒を飲む。そんな、どこにでもいる歯車の一つだった。

 自分がどうやって死んだのか、最後の瞬間の記憶だけが、すっぽりと抜け落ちている。病気だったのか、事故だったのか、それすら分からない。

 次に気がついたとき、俺は赤ん坊になっていた。

 

 とはいえ、転生モノの小説みたいに「おお、ここは異世界か!」と瞬時に現状を把握し、赤ん坊の体で魔法の訓練を始めたわけではない。

 最初の数年の記憶なんて、寝て、泣いて、お腹が空いてミルクを飲んで、また寝る。ひたすらその繰り返しだった。前世の成人の意識がはっきりとあったわけではなく、薄ぼんやりとした夢の中で「俺、前にも生きていたような気がする」と徐々に自覚していった感じだ。

 物心がついて、言葉を理解し始めるにつれ、俺はここが剣と魔法のファンタジー世界などではないことに気づいた。

 親が話す言葉は日本語だったし、街の名前には「東京」やら「ニューヨーク」やら、前世で聞き慣れた固有名詞が飛び交っていた。

 つまり、ここは異世界ではなく、俺が死んだずっと後の「未来の地球」らしい。それも、どうしようもなく一度ぶっ壊れてしまった後の世界だ。

 

 学校に入ってから、歴史の授業で教わったことがある。

『昔の人類は、今よりずっと豊かで、大きな都市を世界中に作って暮らしていました。しかし人間が傲慢になりすぎたため、神々がお怒りになり、《大転移》が起きました』

 

 神様が本当に怒ったのかどうか、俺は知らない。ただ、学校ではそう教えられている。

 その《大転移》とやらによって、この世界の空間接続は滅茶苦茶になってしまったらしい。

 たとえば、東京の隣に突然ニューヨークの街並みがくっついたりしたそうだ。前世の常識で言えば、太平洋を飛行機で何時間もかけて越えなければならない距離だったはずだが、今ではゲートと呼ばれる空間の歪みのようなものを抜ければ、徒歩でも移動できるらしい。

『らしい』というのは、俺自身がこの十五年間、一度もコロニーの外へ出たことがないからだ。ニューヨークも、ゲートも、壁の外に広がるという崩壊した世界の景色も、すべては授業の映像でしか見たことがない。

 《大転移》によって世界中の都市や山、海、さらには得体の知れない場所までが無秩序に繋がり、交通も物流も国家システムも一瞬で崩壊した。多くの人間が死に、生き残った人々が各地に防壁を築いてコロニーを作り、なんとか命を繋いで現在に至る。

 

 それが、この意味不明な未来世界だ。

 だが、そんな世界に転生してから十五年、俺の生活は案外平和だった。

 壁の外がどれほど地獄だろうと、コロニーの中には家があり、学校があり、店がある。両親は俺を愛してくれているし、一緒にふざけ合う友達もいる。前世ほどの贅沢はできないが、毎日生き残るために銃を撃ち合うような殺伐とした人生ではなかった。

 二度目の人生も、このままずっと平凡に、そこそこ幸せに生きていけるだろう。

 

 そして、その先の生活を決めるのが、今日の職業抽選だった。

 

 *

 このコロニーでは、十五歳になると労働の義務が生じる。基礎教育はそこまで。

 問題は、その仕事の決まり方だ。

 就職活動はない。履歴書を書く必要も、志望動機を面接官に語る必要もない。そもそも、個人の希望を聞いて人員を配置するような余裕が、この社会にはないのだ。

 毎年、行政が「今年は農場に何人、工場に何人」と必要な人員枠を決定する。

 そして、その枠を十五歳になった若者たちに割り振る。

 その手段は、信じられないことに「くじ引き」だった。

 

 子供の頃、初めてその制度を知ったとき、俺は心の中で「嘘だろ」と突っ込んだ。

 だが、本当にくじ引きなのだ。健康上の理由でどうしても不可能な場合を除き、「嫌だから」という個人の感情は一切考慮されない。

 

「あー、マジで緊張してきた」

 学校の講堂の入り口で、同級生のケンタが顔を引きつらせながら呟いた。

「俺、農場でいいわ。土いじり最高」

「毎日野菜しか見ない生活だぞ? 飽きないか?」

「壁の外に出るより一万倍マシだろ。俺は工場でも整備でもいい。とにかく、ハンター以外ならなんでもいいわ」

「それはそう。ハンターだけは死んでもごめんだ」

 ケンタの言葉に、周囲にいた連中が一斉に頷いた。俺もその中に混じって、深く同意する。

 

「ハンターだけは勘弁してほしいな」

 

 ハンター。

 それは、コロニーの防壁の外へ出て、崩壊した旧文明の領域から物資を回収してくる仕事だ。

 食料、医薬品、機械の部品、旧世界の電子機器など、コロニーが存続するために必要な資源は、内部の生産だけでは賄いきれない。だから誰かが外へ行き、危険を冒して物資を持ち帰らなければならない。

 必要不可欠で、誰かがやらなければ全滅する。それは理解している。

 だが、壁の外には得体の知れない危険が溢れており、毎年多くのハンターが死に、あるいは行方不明になっている。十五歳の子供たちからすれば、完全な外れ職だった。

 

 俺だって、外の世界そのものに興味がないわけではない。

 十五年間、壁の中しか知らないのだ。本当に東京とニューヨークが歩いて行ける距離にあるなら見てみたいし、旧文明の廃墟という響きには少しだけロマンを感じる。

 だが、それは安全なバスに乗って窓から眺める『観光』ならばの話だ。

 命懸けの仕事として行くなんて、一言も頼んでいない。前世で一度死んでいる身としては、「二度目くらいは平和に長生きしたい」という思いが強かった。

 

 講堂の中に入ると、前方の中央にポツンと抽選箱が置かれていた。

 システムは無駄にハイテク化されているのに、運命を決める行為そのものは、物理的な箱の中に手を入れて札を引くという、極めてアナログな方式だ。そのアンバランスさが、どうにも滑稽で、同時に恐ろしかった。

 

「それでは、名前を呼ばれた者から前へ」

 

 行政から派遣された係員が、感情の消え失せた声で告げた。

 順番に生徒たちが呼ばれ、箱の中に手を入れていく。引いた札の結果は即座に読み上げられ、端末に記録されていく。

 

「《水耕農業》」

 引いた女子生徒が、膝から崩れ落ちるように安堵の息を吐いた。ケンタが「勝ち組じゃん」と小声で囁く。

「《機械整備》」

 引いた男子が小さくガッツポーズをした。

「《物流》」

「まあ、悪くないな」と苦笑いしながら列に戻る者。

 

 順調に当たり職が消化されていく。

 だが、ある生徒の番になったとき、空気が凍りついた。

 

「《ハンター》」

 

 係員の無機質な声が講堂に響く。

 引いた少年の顔から、スッと血の気が引くのが分かった。手にした札を凝視したまま、瞬きすらしていない。

 誰かが「うわ……」と漏らし、慌てて口を閉ざした。

 講堂全体が、まるで葬式のような沈黙に包まれる。

 

「ハンター職。登録します」

 

 係員は少年の絶望など一瞥もせず、端末の画面をタップした。ピッという短い電子音が、彼の人生の決定を冷酷に告げた。

 その光景を見て、俺の胃がギリギリと締め付けられるのを感じた。

 

 ハンターが一枚消えたのはありがたい。だが、その間にも農場や整備といった当たり札が次々と箱から消えている。

 正面に掲示された今年の職種別人数を見る限り、ハンター枠はまだ残っていた。

 残り枚数を考えれば考えるほど、胃に悪い。

「っしゃあ! 俺、整備だったわ!」

 ケンタが戻ってきて、俺の肩をバンバンと叩いた。

「悪いな、悠真。俺は安全圏に逃げ切ったわ」

 その屈託のない笑顔を見て、俺は心の中で『裏切り者め』と悪態をついた。

 

「次。相馬悠真」

 

 ついに名前が呼ばれた。

 足取りが重い。講堂の床が泥沼になったかのように、一歩踏み出すたびに靴が沈み込む錯覚に陥る。

 前へ出ると、係員が顎で抽選箱を示した。

「一枚引いてください」

 

 俺は深呼吸をして、箱の中に手を入れた。

 指先でごわごわとした札の束に触れる。

 この瞬間だけは、神様に祈るしかなかった。

『神様。人類が傲慢だったとか、文明をぶっ壊したとか、昔のいざこざについては今日は何も言いません。だから頼む、農場をください。工場でもいい。物流でも清掃でも、下水処理でもやります。とにかく、ハンター以外ならなんでもいいんです』

 

 目をつぶり、一枚の札を掴み取った。

 そのまま引き抜き、ゆっくりと目を開けて、札の表面を見る。

 

 そこに印字されていた文字。

 

 《ハンター》

 

 ……え?

 一瞬、脳が情報を処理するのを拒否した。

 何か見間違えたのかもしれない。俺は札を裏返してみた。白紙だった。

 もう一度表を見る。

 変わっていない。

 

 《ハンター》

 

「……悠真」

 列からケンタの掠れた声が聞こえた。だが、その先は続かなかった。かける言葉が見つからないのだろう。

 

「相馬悠真。ハンター職で登録します」

 

 係員の声が頭の上から降ってくる。

 ピッ。

 行政端末から鳴った短い電子音が、やけに大きく脳内に響いた。

 登録完了。

 俺のこれから先を大きく左右する処理が、たった数秒で事務的に終了してしまった。彼らにとっては、毎年繰り返されるただのルーチンワークに過ぎない。

 

 嘘だろ。

 十五歳だぞ、俺。

 前世なら、まだ高校に入学して部活だの恋愛だのと浮かれている年齢だぞ。

 それが、今世では廃墟へ出向いてガラクタを漁る仕事に配属されるらしい。

 

 *

 全体での抽選が終わった後、ハンター職を引いてしまった数名の生徒だけが別室に集められた。

 重苦しい空気の中、係員からペラペラの一枚の紙が配られる。そこには、配属先の組織名と事務所の住所、そして出頭日時が書かれていた。

『翌朝八時出頭』。

 装備等は配属先で支給されるらしい。

 

「あの、明日からですか?」

 俺は思わず係員に尋ねた。

「はい」

「研修とか、訓練期間みたいなものは……?」

「必要事項は、すべて配属先の現場で説明されます」

 取り付く島もない返答だった。

 さすがに、銃の撃ち方や外の歩き方くらいは、事前にちゃんと教えてもらえるよな? 素人をいきなり放り出したりはしないはずだ。俺はそう自分に言い聞かせるしかなかった。

 

 *

 夕方。

 夕日に照らされたコロニーの街並みは、朝見たときよりも少しだけ薄暗く、窮屈に見えた。

 重い足取りでアパートの階段を上り、自宅のドアを開ける。

 

「おかえりなさい、悠真」

 キッチンから母さんが顔を出した。その表情には、隠しきれない不安が張り付いている。

「……どうだった?」

 

 俺はすぐには答えられなかった。

 靴を脱ぐ動作をやけにゆっくりと行い、言葉を選ぶ。だが、どんなに言葉を飾っても事実は変わらない。

 

「……ハンターだった」

 

 母さんの動きがピタリと止まった。

 手に持っていたお玉が、カチャンとシンクに落ちる音が響く。

 それが俺の質の悪い冗談ではないと悟ったのだろう。彼女の表情が凍りつき、唇がわずかに震えるのが見えた。

 リビングの奥でニュースを見ていた父さんも、画面から目を離してこちらを向いた。

 

「再抽選は……できないの?」

 母さんが縋るように聞いてきた。

「無理だよ。俺、健康診断でもどこも異常なかったから」

 だが、母さんの目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ち始めると、俺もそれ以上は笑えなかった。

 

 大声で泣き喚くわけでもなく、行政に怒鳴り込みに行くというわけでもない。

 この社会の仕組みを、両親は痛いほど分かっている。毎年、誰かの家の子供がハンターに選ばれる。コロニーが生き残るために必要な仕事だ。だから、制度そのものに怒りをぶつけることはしない。

 ただ、自分の息子がその『誰か』になってしまったことが、どうしようもなく辛いのだ。

 母さんは両手で顔を覆い、静かに泣き続けた。

 父さんは長く、本当に長く沈黙していた。そして、重い口を開いた。

 

「いつからだ?」

「明日の朝。指定された事務所に行けって」

「……そうか」

 父さんは立ち上がり、俺の肩に手を置いた。その手は少し震えていた。

「いいか、悠真。危ないと思ったら、迷わず逃げろ。外の物資なんかどうでもいい。持ち帰る物より、お前の方が何倍も大事なんだ。絶対に、生きて帰ってこい」

 

 その言葉を聞いて、俺の胸の奥がギュッと締め付けられた。

 転生した直後は、この世界をどこか客観的に見ていた部分があった。だが、十五年間、俺に愛情を注ぎ、育ててくれたこの二人は、決してゲームのNPCなどではない。本当に俺の家族なのだ。

 母さんの涙と、父さんの震える手を見て、俺自身の中にもようやく強烈な現実味が湧き上がってきた。俺は明日、死ぬかもしれない場所へ行くのだと。

 

 *

 夜。

 自室のベッドに仰向けになり、行政端末の画面をぼんやりと見つめる。

 

 氏名:相馬悠真

 職業:ハンター

 配属:第十四ハンター組

 出頭日時:明朝八時

 

 何度リロードしても、文字は変わらない。

 端末を放り投げ、ベッドから起き上がって窓の外を見た。

 暗闇の中に、等間隔に設置されたライトに照らし出される巨大な防壁が見える。

 十五年間、あの向こう側がどうなっているのか、自分の目で見たことは一度もない。

 外には、崩壊した旧文明の都市がある。世界中を無秩序に繋ぐゲートがある。そして、得体の知れない怪異や、暴走した機械の残骸が徘徊しているという。

 明日の朝、俺は初めてあの壁の向こうへ行くことになる。

 

 授業の映像でしか知らなかった外の世界が、いきなり自分の職場になる。

 そう考えると、胸が高鳴るより先に胃が重くなった。

 

 前世で一度死んで、未来の崩壊世界に生まれ直した。それ自体はもう、十五年も前に受け入れた話だ。

 むしろ今では、こっちの方が自分の人生だと思えるくらい、この家とコロニーで普通に暮らしてきた。だから、明日からいきなり命懸けの仕事へ放り込まれるなんて、本気で考えたこともなかった。

 

 今日までは。

 

 職業を決めるくじ引きで、もっとも引いてはいけない《ハンター》を引いてしまった。

 明日の朝には、十五年間一度も出たことのない、あの巨大な壁の外へ送り出される。

 リビングでは、まだ母さんが泣いている気配がする。

 俺だって泣きたい。

 どうやら、俺の二度目の人生は、本格的に始まる前に終わってしまったらしい。




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