未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る 作:パラレル・ゲーマー
朝。
昨日の旧家電量販店での探索は、身体的にも金銭的にも大成功だった。
念動力を駆使しての回収作業は信じられないほど快適で、身体の疲れもほとんどない。
俺は目覚めとともに、今日もどこか新しい周回ルートへ行こうかな、と前向きな気分で伸びをした。
ふと、枕元の探索母機が短く明滅しているのに気づく。
片桐からのメッセージだった。
【本日は休め。これは忠告じゃない。命令だ。休め。】
「…………」
俺は画面をスクロールした。もう一件入っている。
【協会に来ても、お前には今日ルート情報を売らんからな。】
「……先回りされた」
完全にこちらの思考を読まれている。
さらに三件目。
【ナギも連れて休め。】
「なんでナギまで巻き添えで!」
思わず声に出してツッコミを入れた。
「ごはん」
横から声がした。
振り向くと、空中で寝ていたはずのナギが、すでにパッチリと目を開けてこちらを見下ろしていた。
「……はいはい。今起きますよ」
昨夜までの騒動は何だったのかと思うくらい、相変わらずの日常の始まりだった。
リビングに出ると、母さんが朝食の準備をしていた。
「おはよう。今日は外に行かないの?」
母さんが、いつもより遅く起きてきた俺を見て言った。
「片桐さんに、強制的に休まされたよ。ルート情報も売らないって」
「当たり前でしょう。あなた、ハンターになってからまだ一週間ちょっとしか経ってないのよ? 毎日外に出て、死にかけたり超能力もらったりしてるんだから、少しは落ち着きなさい」
「まあ……濃すぎて、もう一ヶ月くらい経った気がするけどね」
朝食のトーストを囓りながら、ナギが俺に聞いてきた。
「今日は、探索しない?」
「しない。というか、できない」
ナギは少しの間、宙を見つめて考えた。
「じゃあ、何する?」
「…………」
俺は言葉に詰まった。
休み。
前世では仕事中心の生活を送り、今世ではハンターになった途端に探索へハマりかけている俺にとって、突然一日空けろと言われても何をすればいいのか分からない。
……休みの日って、何するんだっけ?
俺が真顔で固まっていると、母さんが呆れたようにため息をついた。
「暇?」
ナギが覗き込んでくる。
「……うん。すごく暇」
「じゃあ、一緒にいる」
「いや、それは今も一緒にいるだろ。そうじゃなくて、何か予定を……」
「それなら、ナギちゃんの服を買いに行ったらどう?」
母さんが、名案とばかりに手を打った。
「服?」
俺と父さんの視線が、一斉にナギに向いた。
昨日出会った時からずっと着ている、簡素で装飾のない、白いワンピースのような謎の衣装。
「いつまでも、それ一着ってわけにもいかないでしょう」
「これ、汚れない」
ナギが自分の服の裾をつまんで言った。実際、廃墟を歩き回っても埃一つついていない。
「そういう問題じゃないのよ」
母さんが、同じ女性としての目線で語りかける。
「女の子なんだから、他の可愛い服も着てみたいでしょう?」
「分からない」
ナギは本当に興味がなさそうに首を傾げた。
「じゃあ、見に行ってみればいいじゃない。新しい自分を発見できるかもしれないわよ?」
母さんが、ニッコリと俺を見た。
「悠真、連れていってあげなさい」
「俺が!?」
「今日、お休みなんでしょう?」
「いや、そうだけど。俺、女の子の服なんて……」
「女の子の服くらい、ちゃんと選んであげなさい。エスコートの練習よ」
「十五歳男子に、よく分からない幽霊の女子服を選ばせるなよ!」
「幽霊じゃない」
ナギがすかさず訂正を入れる。
「悠真が、服を選ぶ?」
「お前も乗っかるな!」
結局、俺は母さんの勢いに押し切られる形で、ナギの服を買いにコロニーの商業区へ出かけることになった。
両親が仕事へ出た後、俺は外出の準備をしながら個人口座の残高を確認した。
母さんから金をもらう必要はない。昨日の旧家電量販店で売った回収品と、高密度記憶素子の買い取り金がすでに振り込まれており、十五歳が一日遊びに出るには十分すぎる額がある。
「……自分で稼いだ金で、女の子の服を買うのか」
自分で口にしてから、妙に落ち着かなくなった。
いや、深く考えるのはやめよう。
ナギに必要な物を買うだけだ。
「悠真?」
ナギが不思議そうにこちらを見ている。
「なんでもない。行くぞ」
*
東京第七コロニーの内部は、壁の外の崩壊した世界からは想像もつかないほど『普通の都市』だ。
綺麗に舗装された道路を、箱型の自動清掃機が音もなく走り抜けていく。
頭上には、小型の物流ドローンが規則正しいルートで荷物を運び、地上の専用レーンでは無人配送車が行き交っている。
建物の壁面には大型の立体広告が浮かび、ARコンタクトには店の案内や混雑状況が必要に応じて表示される。
歩道を行き交う人々は清潔で機能的な服を着ており、子供たちは笑い合い、大人たちは仕事へ向かい、カフェや飲食店からはいい匂いが漂っている。
『崩壊世界』
その言葉だけを聞けば、食料を奪い合う荒廃した街や、電気も水もない生活を想像するかもしれない。
だが、少なくとも東京第七コロニーの壁の中で暮らす分には、そんなことはない。
水も電気も通信網も医療も娯楽も普通に存在する。
むしろ物流ドローンやARコンタクト、医療ナノマシンをはじめ、俺がいた二十一世紀より高度な技術の方が多い。
視界の隅には、商業区の【本日の混雑予測】と【目的地への最短経路】まで自動で表示されている。
前世なら、完全にSF映画の世界だった。
でも、今ではこれが日常だ。
商業区へ向かう途中、巨大な市場の前を通りかかった。
コロニー内の水耕農場で生産された葉物野菜が並び、隣では培養肉や代替肉がパックされて売られている。少し値段は張るが、本物の豚肉や鶏肉もある。卵は高級品寄りだが、普通の家庭でもたまになら買える。
パンも菓子も加工食品も調味料も、十分な種類が揃っている。
俺が子供の頃、一度だけ不思議に思ったことがある。
ハンターが外から食料や物資を持ち帰っているのに、なぜ壁の中では普通に食べ物が売られているのだろう、と。
答えは簡単だった。
コロニーには、水耕農場も、培養食品工場も、食品加工設備もある。
衣食住を維持するための生産設備そのものは、今でも普通に動いている。
外から回収される保存食だって、毎日の食卓を支える唯一の食料ではない。備蓄へ回されたり、生産量を補ったり、非常時用として蓄えられたりする。
では、なぜハンターが必要なのか。
超高密度の電子部品。特殊な医薬品やその原料。高性能な蓄電池。精密工作機械の部品。特殊素材や、失われた旧文明のデータ。
大転移以前、地球規模の巨大な産業網を前提として作られていた品々の中には、現在のコロニー単独では再現しづらい物が山ほどある。
技術そのものを知らないわけではない。
設備がない。原料がない。関連する工場が別の地域に飛ばされている。作ろうとすれば膨大なコストがかかる。
そして、外の一部ではそれらが時間異常によって繰り返し復元される。
だったら、拾ってくればいい。
崩壊したのは、技術そのものではない。
世界規模で物を作り続ける『仕組み』の方なのだ。
「着いたぞ」
俺は、商業区の中心にあるショッピングモールの前で立ち止まった。
自動ドアをくぐると、清潔で明るい照明と、控えめなBGMが流れる空間が広がっている。AR案内には各階の店舗情報が表示され、アパレルショップだけでも何軒も入っている。
服は当然のように新品だ。
コロニーの繊維工場で作られる衣料品には、防汚、速乾、温度調整、耐摩耗といった機能が組み込まれている。それでも特別な高級品というわけではなく、ごく普通の普段着として売られていた。
前世なら、高級アウトドアウェアに付いていたような機能である。
俺は、比較的入りやすそうなカジュアル系の服屋へナギを連れて入った。
「いらっしゃいませ……?」
女性店員の語尾が、不自然に上がった。
無理もない。
俺の隣には、半透明の身体で地面から浮いている銀白髪の少女がいる。
店員の動きが完全に止まった。
「私は、幽霊じゃないと思う」
ナギがすかさず言った。
「まだ俺、何も言ってないから!」
「え、あ、はい……」
店員はどう答えればいいのか分からない様子で、ぎこちなく笑った。
「あの、この子の服を見繕ってほしいんですけど」
「か、かしこまりました。それでは、まずサイズの測定を……」
店員は気を取り直し、店内のスキャンブースへナギを案内した。
ナギがブースの中央で静止する。
青い走査光が、半透明の身体を上から下へ通過した。
ピーッ。
【ERROR】
画面が赤く点滅する。
店員が首を傾げ、もう一度実行した。
【BODY DATA UNAVAILABLE】
「知ってた」
俺が呟くと、店員は泣きそうな顔で振り返った。
「……す、寸法は、手動で合わせましょうか?」
「?」
ナギだけが、何が問題なのか分かっていない。
だいたいのサイズを見繕い、店員が何着か服を持ってきてくれた。
ナギが、その中のブラウスを手に取る。
今は触れるつもりでいるため、すり抜けることなく普通に持てていた。
「着られるか?」
「試す」
ナギは服を持って試着室へ入る。
俺はカーテンの外で待った。
しばらくして。
「悠真」
中から、少し困った声が聞こえた。
「どうした?」
「服が、落ちる」
「は?」
説明を聞くと、ナギが「服を着ている」と意識している間は問題ないらしい。
しかし別のことへ意識が向いた瞬間、身体だけが服をすり抜け、服が床へ落ちてしまうという。
「それ、全然ダメじゃん! 外歩いてる途中で意識が逸れたら大惨事だぞ!」
「難しい」
「何か方法ないのかよ」
「…………」
しばらく沈黙した後、ナギが言った。
「これは、私の服」
何をしているのか分からない。
だが昨夜の夢で見た、幼い少女の無茶苦茶な現実改変が一瞬だけ頭をよぎった。
「悠真」
「できた?」
「できた」
試着室のカーテンが開く。
「…………」
ナギは普通に服を着ていた。
正確には、服の方が普通ではなかった。
彼女が身につけているブラウスまで、ナギ自身と同じようにわずかに半透明になっている。
「服まで透けてる……」
ナギが袖を見下ろす。
「私の服だから、私と同じになった」
「その理屈で解決するの、本当にやめてくれない?」
昨夜の夢がただの夢ではない気が、こういう時だけ少し強くなる。
「……ど、どういう素材のお召し物なのでしょうか?」
店員が恐る恐る尋ねる。
「こっちが聞きたいです」
理屈は不明だが、着替えられることだけは分かった。
「まあいい。好きなの選べ」
「分からない」
「色は?」
「白」
「今と同じじゃねえか! せっかくだし違う色も試してみろよ」
店員が気を利かせ、何着か追加で見繕ってくれた。
最初は、白を基調としたワンピース。
「まあ、似合うな」
「そう?」
悪くない。ただ、今までのナギと雰囲気はあまり変わらない。
次は、淡い青色の薄手のワンピース。
銀白色の長い髪と淡い青紫色の瞳に、その色が妙に馴染んでいた。
白一色だった時よりも神秘的な印象が薄れ、普通の女の子らしさが増している。
「…………」
俺は一瞬だけ固まった。
「悠真?」
「……似合う」
「さっきより、間が長かった」
「気のせいだ!」
店員が微笑みながら、黒を基調とした少し大人びた服を持ってきた。
「こちらもいかがですか?」
「いや、俺に聞かないでください!」
「彼氏さんの意見も参考になると思いますよ」
「彼氏じゃないです!」
「彼氏?」
ナギが首を傾げる。
「今は気にしなくていい!」
結局、ナギが選んだのは淡い青色の服と、カジュアルなパーカーとショートパンツ、それに少し暖かめの普段着だった。
「自分で好きなの選べって言っただろ」
「これが好き」
ナギが淡い青色の服を指す。
「なんで?」
「悠真が、似合うって言ったから」
「…………」
不意打ちでそんなことを言われると困る。
「……まあ、本人がいいならそれでいいけど」
母さんに裸足のままなのを心配されそうなので、スニーカーも一足買った。
靴までナギ自身の状態に馴染んだらしく、彼女が履いてしばらくすると、服と同じようにわずかに透けて見えるようになった。
「重くない?」
「重くない」
「そりゃ浮いてるもんな」
俺は個人端末を使って支払いを済ませた。
三着と靴を合わせても、昨日売った高密度記憶素子の買い取り額からすれば大した金額ではない。
服そのものが貴重品だったら、こうはいかない。
日用品が普通に大量生産され、普通の値段で売られていることを改めて実感した。
店を出る。
ナギは、買ったばかりの淡い青の服を着たまま、俺の隣を浮いていた。
いつもの白い謎衣装より、ずっと普通の十五歳くらいの少女に見える。
……服ごと半透明で、浮いてさえいなければ。
「やっぱり、浮いてると幽霊感あるな」
「幽霊じゃない」
「分かってるって」
*
服を買い終わっても、まだ昼前だった。
せっかく強制的に休みにされた日である。
このまま真っ直ぐ家へ帰るのも、少しもったいない。
「次は?」
ナギが聞いてくる。
「次?」
「休み」
どうやら、休みの日には他にも何かするものだと思っているらしい。
「……とりあえず、飯でも食うか?」
「行く」
食べ物の話になると決断が速い。
俺たちは、商業区にある大きなフードコートへ向かった。
平日の昼前だというのに、それなりに人が入っている。
テーブル上にARメニューが展開され、料理の写真だけでなく、栄養情報や使用食材まで確認できる。
厨房では調理ロボットが調理の大半を担当し、人間のスタッフが盛り付けや接客を行っていた。
技術は前世より遥かに進んでいる。
ただし並んでいる料理は、ラーメン、カレー、ハンバーグ、パスタ、丼物と、意外なほど馴染み深い。
そこは少し安心する。
ナギはメニューをじっと眺める。
「これ」
「どれ?」
「全部」
「全部は無理だろ!」
「食べられる」
「食べられるかどうかじゃない。量と値段の問題だ!」
「悠真、昨日たくさん稼いだ」
「聞いてたのかよ!」
結局、ナギはハンバーグとオムライス、それに小さめのパスタを注文した。
料理が届く。
ナギは幸せそうに食べ始める。
「……どう?」
「おいしい。これは、悠真の炒飯よりおいしい」
「正直だな!」
今度はパスタ。
「これは、悠真の方がおいしい」
「……まあな」
俺は少しだけ胸を張る。
「嬉しい?」
「別に」
「嬉しそう」
「飯食え」
食後、そのまま商業区の娯楽施設へ寄ることにした。
そこは前世のゲームセンターを何世代も進化させたような場所だった。
AR空間投影と触覚フィードバックを組み合わせ、何もない空間に立体的なゲームフィールドを作り出している。
昨日拾った旧文明のゲーム機に物欲を刺激されたばかりだが、純粋な技術だけ比べれば、当然こちらの方が遥かに新しい。
旧文明の遺物は、何でも現在より優れているわけではない。
今では失われた規格や特殊な技術、膨大なデータ、あるいは希少性そのものに価値がある。
一方で、大転移後の人間たちだって、何百年も立ち止まっていたわけではないのだ。
「これ、撃つの?」
ナギがARシューティングゲームの操作説明を見ながら尋ねる。
「そう。画面に出てくる敵を撃つ」
「分かった」
ゲーム開始。
次の瞬間。
ピピピピピッ!
次々に出現するターゲットが、一発も外れることなく撃ち抜かれていく。
「お前、能力使ってないよな!?」
「使ってない」
「じゃあ何でそんなに当たるんだよ!」
純粋な反応速度なのか、空間認識能力が異常なのか。
俺が唖然としていると、突然ナギの手が止まった。
「どうした?」
「なんで、敵を撃つの?」
「そういうゲームだから」
「話し合えばいい」
「ゲームが成立しないだろ!」
結局、ゲームの目的そのものに疑問を持ったナギは途中から真面目に撃たなくなった。
次はレースゲームを試す。
こちらでは逆に、ナギは壊滅的だった。
「なんで、これを回すと曲がる?」
「ハンドルだからだよ!」
「車が曲がればいい」
「ゲームの車はお前の思った通りには曲がらない!」
壁。
壁。
また壁。
ゴールする頃には、俺が大差をつけて勝っていた。
「悠真、上手」
「ゲームならな!」
初めてナギ相手に、何の但し書きもなく勝てた気がする。
少し嬉しい。
娯楽施設を出て商業区を歩く。
途中には自動診断ブースを備えた診療所があり、義肢や身体補助具を扱う専門店もある。公共充電設備では配送ドローンや個人端末が次々と充電され、その奥では水再生設備の稼働状況が公共表示に流れている。
外では廃墟を漁っているのに、壁の中ではこんな生活が普通に続いている。
この奇妙な落差こそが、今の世界なのだろう。
夕方になる頃には、俺の方がすっかり疲れていた。
ナギは朝からずっと浮いているので、相変わらず元気そうだ。
「お前、ズルい」
「なにが?」
「ずっと浮いてるから足疲れないだろ」
「悠真も、浮けばいい」
俺は少し考える。
昨日、念動力で自分自身を持ち上げられるんじゃないかと思ったばかりだ。
「……それ、今度安全なところで試してみるよ」
「うん」
「いきなり空飛んで壁に突っ込んだら笑うなよ」
「笑わない」
「そこはちょっと笑っていい」
帰り道。
ナギは買った服の袋を大切そうに抱えていた。
「母さん、驚くだろうな」
「うん」
俺は隣を浮いているナギを見る。
新しい服。
新しい靴。
昨日までとは少し違う姿。
「……その服、やっぱ似合ってるよ」
今度は変に間を置かずに言う。
ナギは一瞬俺を見て、それから小さく頷いた。
「うん」
*
家へ帰ると、予想通り母さんが大喜びした。
「まあ! すっごく可愛いじゃない!」
「悠真が、選んだ」
「店員さんもかなり選んでくれましたからね!」
「あらあら」
母さんが面白そうに俺を見る。
「何その顔!?」
帰宅した父さんもナギを見て、
「よく似合ってるな」
と穏やかに笑った。
夕食の席。
母さんが、今日の出来事を聞いた。
「それで、一日何してたの?」
「服買った。ごはん食べた。ゲームした」
ナギが事実だけを順番に並べる。
母さんがニヤッとした。
「まあ。すっかりデートみたいね」
「母さん!」
「デート?」
ナギが首を傾げる。
「男の子と女の子が二人で出かけて、ご飯を食べたり遊んだりすることよ」
「全部やった」
「やったけど! 定義が雑すぎる!」
ナギが俺を見る。
「悠真」
「なに?」
「今日は、デート?」
「違う!」
「……嫌?」
一瞬で返答に詰まった。
別に今日が嫌だったわけではない。
むしろ、服を選んだり飯を食ったりゲームをしたり、普通に楽しかった。
「……嫌では、ない」
ナギが頷く。
「じゃあ、デート」
「だから勝手に確定するな!」
母さんの爆笑がリビングに響いた。
*
夜。
俺の部屋。
鏡の前で、ナギが新しい服姿の自分をじっと眺めている。
普段なら鏡そのものにも大して興味を示さないのに、今日はずいぶん長い。
「ナギ」
「なに?」
「気に入った?」
ナギは鏡の中の自分を見る。
しばらくして、自分の服へ視線を落とした。
「これも、私?」
俺は一瞬だけ意味を考えた。
名前ができた。
今度は服を自分で選んだ。
白い謎の衣装しかなかった昨日までとは、ほんの少し違う自分。
「そうだよ」
ナギはもう一度鏡を見る。
「そう」
それだけ言って、小さく頷いた。
自分が何者なのか分からないままでも、こいつは少しずつ『ナギ』になっているのかもしれない。
ベッドへ入ろうとした時、探索母機が短く鳴った。
片桐からの通知。
【明日、朝一で協会へ来い】
【ハーモニーモールの週次リセット観測を行う】
【最初の発見当事者として立ち会ってもらう】
「……休み、一日で終わりか」
俺がため息をつくと、横でナギがこちらを見る。
「明日、外?」
「たぶんな。しかも、あのガーディアンがいた場所だ」
「行く」
「だと思ったよ」
ナギは、新しく買った服のまま空中で横になった。
寝間着については、また今度考えればいい。
片桐に言われた通り、今日は一日ハンターの仕事を休んだ。
……休んだはずなのに、廃墟を探索するより何倍も疲れた気がするのは、たぶん気のせいだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!