未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る   作:パラレル・ゲーマー

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第15話 前は持ち帰れなかったお宝を回収する

 朝、俺はいつもより早く目が覚めた。

 ベッドから起き上がり、真っ先に学習机の上に視線を向ける。

 そこには、昨日買ったばかりの真新しい《中容量型インベントリ》が、鈍い金属光沢を放って鎮座していた。

 

「……ある」

 昨日、大金をはたいて買ったのは夢じゃなかった。

 まだ中に何一つ入れていないというのに、新しい装備がそこにあるというだけで、無性に気分が良かった。

「ごはん」

 ベッド横の空中で、ナギがパッチリと目を開けて要求してきた。

「今日は俺より遅かったな」

「悠真、早い」

「早くあのお宝を取りに行きたいからな」

 

 俺は探索母機を手に取り、画面を確認した。

【回収予約中:旧文明高精度産業用サーボユニット】

 よし、まだ回収予約は有効だ。

 

 リビングで朝食を摂っていると、母さんが聞いてきた。

「今日も行くの?」

「ああ。昨日買ったあのインベントリの初仕事だからね」

 父さんがコーヒーカップを置きながら言う。

「高い買い物だったんだから、初日に壊すなよ」

「縁起でもないこと言わないでよ!」

「壊さない」

 ナギが横から真顔で保証する。

「お前が言うと、なんか別の意味で怖いんだよな……」

 

 部屋に戻り、俺は《中容量型インベントリ》を腰のベルトに装着した。

 標準型より一回り大きく、重さも少し増している。それでも探索の邪魔になるほどではない。

 むしろ、このずしりとした重みが、俺の三倍の収納力を保証してくれているようで心地よかった。

 

 *

 

 南第三ゲート。

 警備員のおっさんも、すっかり俺とナギの顔を覚えてしまったようだ。

「おはよう。また東部の物流センターか?」

「はい」

「最近ずっとそこだな」

「今日で、一つの大きな目標に区切りがつく予定なんです」

「大きいの、拾う」

 ナギが横で少し得意げに言う。

「?」

 警備員が首を傾げた。

「気にしないでください。行ってきます」

 

 巨大なゲートが開き、俺たちは崩壊世界へ足を踏み出した。

 俺とナギは、並んで低空飛行を開始する。

 ここ数日の周回で、俺の飛行技術は格段に上がっていた。

 以前は、地面から二十〜三十センチほどの低い位置を恐る恐る移動するだけだった。

 今は違う。道路状況に合わせて、滑らかに高度を調整できる。瓦礫の山があれば一メートルほど上がり、開けた道路に出ればまたスゥッと高度を落とす。

 無駄に高く飛んでリスクを上げることもしない。

『飛ぶ』という行為そのものが、ようやく歩くことの延長として身体に馴染み始めていた。

 

「……」

 俺は前方に視線を向けたまま、黙々と距離を詰めていく。

 六キロ先の巨大施設、《旧東部第六物流センター》が見えてきた。

 もう何度も通った場所だ。入り口の構造も、AR地図の表示も、自律搬送機が出やすい危険ポイントも、だいたいは頭に入っている。

 だが、油断はしない。

 片桐にも真壁さんにも、慣れてきた時ほど雑になるなと何度も釘を刺されている。今日も地図の更新情報を確認し、周囲の音と床の状態を意識しながら進んだ。

 

 今日は、入り口付近での細かい物資回収などの寄り道は一切しない。

 目的はただ一つ。あの予約済みの超高額サーボユニットだ。

 最短かつ最も安全な経路を選び、奥の第二倉庫区画へと真っ直ぐに向かう。

「拾わない?」

 ナギが、棚に残っていた電子部品を指差す。

「帰りだ」

「高いよ?」

「……お前、よくその部品の価値覚えたな」

「制御基板。高い」

「正解。でも、今日はまずあっちだ」

 

 第二倉庫区画の手前で、二人組のハンターと遭遇した。

 彼らは、俺が予約を入れているあのサーボユニットの前に立ち、じっとそれを見下ろしていた。

「……」

 俺は一瞬だけ警戒し、念動力を使えるよう意識を切り替えた。

 しかし、彼らの一人がAR上のマーカーを確認し、俺に気づいた。

 

【回収予約】

【登録者:相馬悠真】

 

「これ、お前の予約品か?」

「はい」

「いいの見つけたな。デカすぎて俺らじゃどうせ持って帰れねえけど」

 男はそれだけ言うと、ユニットには一切触れずにその場を離れていった。

 

「取らないんですね」

 俺が少し拍子抜けして言うと、男は振り返って笑った。

「当たり前だろ。予約入ってる物パクったら、後で協会で揉めてクソ面倒になるからな」

 もう一人の男も肩をすくめる。

「それに、そんなセコい真似する奴とは誰も情報交換しなくなるし、いざって時に誰も助けてくれなくなる。割に合わねえよ」

 罰則以上に、信用を失う方が痛いらしい。

「ただ、予約期限が切れたら、遠慮なく俺らがいただくけどな」

「その前に持って帰りますよ」

「頑張れよ、新人」

 彼らは手を振って去っていった。

 

 ついに。

 俺とナギは、あの巨大な金属塊の前に到着した。

 前回、泣く泣く床に置いて帰った時と全く同じ状態で、そこにあった。

 

【旧文明高精度産業用サーボユニット】

【状態:良好】

【回収予約:相馬悠真】

 

「……待たせたな」

 俺が感慨深げに呟くと、ナギが不思議そうに聞いてきた。

「待ってた?」

「物に聞くなよ」

 

 俺は深く息を吸い、念動力を展開した。

 重量六百キロ超。もう、持ち上げること自体には何の苦労もない。

 フワッ。

 巨大なサーボユニットが、空中に浮き上がる。

 前回なら、「持てるけどインベントリには入らない。かといって、これを抱えたまま六キロ帰るのは危険すぎる」という状況だった。

 だが、今回は違う。

 俺は腰の《中容量型インベントリ》を起動し、収納口を空中の巨大なユニットへ向けた。

 

 シュンッ。

 

 一瞬の処理音とともに、六百キロの巨大な金属塊が、視界から完全に消え去った。

 

【収納完了】

 

 続いて、ARに表示されたのは。

 

【インベントリ使用率:36%】

 

「…………」

「入った」

「……入った……!」

 

 分かっていたことだ。容量が三倍になったのだから、入るに決まっている。

 それでも、前は諦めるしかなかった獲物が一瞬で収納された瞬間は、たまらなく気持ちよかった。

「最高だ、これ」

 俺は無意識にガッツポーズを作っていた。

 

「まだ入る」

 ナギが言う。

「そうなんだよ。まだ六割以上も空いてるんだ」

 これまでなら、このサーボユニットはそもそも収納できなかった。

 だが今日は、こんな巨大な獲物を飲み込んでも、まだ普通の探索を続けられるだけの余裕がある。

「帰る?」

 ナギが聞いてくる。

「いや」

 俺は口角を吊り上げた。

「今日はここからが本番だ」

 

 俺の思考回路は、完全に切り替わっていた。

 新人ルートを回っていた頃は、「容量単価」がすべてだった。小さくて、高く売れる物を優先して持ち帰る。

 でも今は違う。

『大型で、超高額な物』も、普通に回収候補へ入れられるのだ。

 

 俺たちは帰路とは違う区画へ足を踏み入れた。

 今まで容量のせいで見送っていた大型モーターや電源ユニットも、今日は全部回収候補になる。

 

 大型モーター。

 収納。

 

【インベントリ使用率:47%】

 

 大型電源ユニット。

 

【インベントリ使用率:55%】

 

 小型の制御部品。

 

【インベントリ使用率:58%】

 

「やばい」

「なにが?」

「楽しすぎる」

 俺の笑いが止まらなくなっていた。

 

 途中で、二台の自律搬送機に遭遇した。

 今の俺にとって、こいつらはもう大きな脅威ではない。しかも、無傷で止めれば高価な部品の塊になる。

 俺は念動力で二台の搬送機を同時に固定した。

 タイヤの空転すらさせない。

 以前は「ボルトを回して、パネルを開けて」と一つ一つ意識していた作業も、今ではかなり自然にできる。

 一台を完全に固定しながら、もう一台の駆動輪だけをピンポイントで止める。一台目のサービスパネルを遠隔で開け、電源コネクタを抜く。

 数分後、俺は弾丸を一発も撃つことなく、二台の搬送機から無傷のモーターと制御基板を回収していた。

 

 さらに奥へ進むと、真壁さんのパーティーと再会した。

「お、金欠新人」

 真壁さんがニヤリと笑う。

「もう金欠じゃないですよ」

「買ったのか?」

 俺が腰の中容量型を見せると、真壁さんは目を丸くした。

「早っ!」

「何回回ったんだ?」

「六回です」

「お前、本当に毎日ここに来てたのかよ」

「途中で一日、ちゃんと休みましたよ」

「そういう問題じゃねえよ」

 真壁さんが呆れ返る。

 

「例のサーボユニット、無事に入りましたよ」

「マジか」

「あれ入れても、まだ容量が半分以上ありました」

「……それ、この物流センターで使うと、マジでエグいくらい儲かるぞ」

 ベテランの真壁さんも、俺の装備更新の威力を認めてくれた。

 

「容量の問題は解決したな」

「はい」

「じゃあ、次に足りなくなるのは『目』だ」

「目?」

 真壁さんが、パーティーのメンバーが操作している索敵ドローンを指差した。

「容量が大きくなるってことは、滞在時間が長くなる。より奥の危険なエリアへ行けるってことだ。つまり、危険区域にいる時間が増える」

「…………」

「荷物が増えて長丁場になった時ほど、先に敵を見つける索敵能力の方が大事になるんだよ。お前は敵の動きを止められるからって、『見えてから対処すればいい』っていう悪い癖があるだろ」

 

 図星だった。

 俺は能力が強いから、敵が目の前に出てからでもどうにかできる。だからこそ、先に危険を見つける意識が甘くなりやすいのだ。

「見えない所から床が抜けたり、天井が落ちてきたりするのは、いくら念動力が強くても止められねえだろ」

「……ですよね」

 昨日、装備カタログで見た【小型索敵ドローン】が頭に浮かんだ。

 

「目、増やす?」

 ナギが横から顔を出して聞いてきた。

「そういう言い方すると、ホラー映画みたいで怖いな」

「幽霊の方が怖いけどな」

 真壁さんが笑う。

「幽霊じゃない」

「はいはい、悪かったよ」

 

「まあ、その容量なら、欲張って詰め込みすぎんなよ」

 真壁さんが別れ際に言った。

「それ、片桐さんにもよく言われます」

「じゃあ、二人分の忠告としてちゃんと聞けよ」

「了解です」

 

 その後も、俺たちは探索を続けた。

 中容量型のおかげで、大型部品を複数積んでもまだ余裕がある。

 標準型なら、とっくに容量上限へ引っかかっている量だ。

 それでも現在の表示は、

 

【インベントリ使用率:63%】

 

「……感覚がおかしくなりそうだな」

 これだけ拾って、まだ六割ちょっと。

 

 だが、俺はここで探索を切り上げることにした。

 容量が三倍になったからといって、三倍長く探索し続ける必要はない。

 日没までの時間。自分の集中力。帰路の安全余裕。

 いくつか追加の小型高額部品だけを回収し、最終的に、

 

【インベントリ使用率:74%】

 

 で撤退を決めた。

 

 南第三ゲートへ向かう帰り道。

 あの超重量のサーボユニットを含め、大量の物資を抱えているはずなのに、全部腰のインベントリへ収まっているため、外見上は身軽そのものだ。

「前回は、六百キロの塊をどうやって六キロ引っ張って帰るか悩んでたのにな」

 今は、何も持っていないのとほとんど変わらない。

 

 ゲートをくぐると、警備員が声をかけてきた。

「今日は少し長かったな」

「いっぱい入るようになったんで」

「また装備増えたのか?」

「買いました。大奮発です」

「十五歳で金回りいいな……」

「命張ってますからね」

 軽い冗談を交わし、ハンター協会へと戻った。

 

 *

 

 査定カウンターに回収品を出す。

 大量の部品。いつもよりさらに多く、しかも大型の物がゴロゴロと出てくる。

「……お前、今日やたら多くないか?」

 査定員が目を丸くした。

「インベントリ変えたんですよ」

「なるほどな」

 

 そして最後。

 ドスンッ、という重低音とともに、巨大なサーボユニットがカウンター前の床に実体化した。

「おおっ!?」

 査定員が驚きの声を上げる。彼もこの予約品の存在は知っていたらしい。

「これ、お前が予約してたやつか!」

「はい。ついに持って帰れました」

 状態確認。

 念動力で丁寧に扱ったため、輸送による損傷もなく、状態は良好だった。

 

「これ、実際にコロニーで何に使う物なんですか?」

 俺が聞いてみると、査定員が答えてくれた。

「これ、第十二区画にある精密加工工場のラインで、ずっと探してた規格なんだよ。産業用ロボットアームの交換部品だ」

「マジですか」

「ああ。買い取り先はもう決まってるようなもんだ」

 

 俺が外から拾ってきた巨大な部品が、本当にコロニーの工場へ回され、今の生活を維持する設備の一部になる。

 少しだけ、ハンターという仕事への実感が湧いた。

 

「なんで、新しく作らないんですか?」

「同じ規格の物を今のコロニーで完全新造しようと思えば、特殊素材もいるし、専用の生産ラインを組むコストも馬鹿にならねえ。作れないわけじゃないが、リポップする旧文明品を拾ってきた方が圧倒的に安上がりなんだよ」

「なるほど」

 

 査定額が提示された。

 サーボユニット単体だけで、中容量型インベントリの購入費の三割近い額になっている。

「…………」

「どうした?」

「いや、昨日あれだけ大金払ったばっかりなのに……」

 端末の残高が一気に回復していく。

「お金、戻った」

 ナギが嬉しそうに言う。

「戻ったというか、稼いだんだよ!」

 

 しかも今日はサーボユニットだけではない。

 大型部品に、無傷で回収した自律機械のパーツ。それらを合わせた総収益は、これまでの一日分を明らかに上回っていた。

 

 俺が査定結果を見ながらニヤニヤしていると、片桐が言った。

「気づいたか?」

「何にですか?」

「ハンターが、いつまで経っても金が貯まらない理由にだよ」

「…………」

 

 俺は無言で母機を操作し、装備カタログを開いた。

 

【小型索敵ドローン】

 

 値段は、中容量型インベントリほどではないが、決して安くもない。

「これ、真壁さんにも勧められました」

「まあ、お前には合ってるだろうな」

 片桐も同意する。火力、運搬力、機動力は申し分ない。今の俺に足りないのは、危険を先に見つけるための情報だ。

 

「で、今日買うのか?」

 片桐が聞いてくる。

「いや」

 俺は画面を閉じた。

「まだ買いません」

「……ほう」

 片桐が少し意外そうな顔をした。

「中容量型を買ったばっかりですし。何回かこれを使ってみてから、本当に今すぐ必要な装備を決めますよ」

「お前にしては、まともな判断だな」

「俺はいつもまともですよ」

「?」

 ナギが首を傾げる。

「お前まで首傾げるな!」

 

 *

 

 家に帰り、夕食の席で母さんが聞いてきた。

「今日は、昨日買ったのちゃんと使えたの?」

「めちゃくちゃ使えたよ。最高の買い物だった」

「それなら良かったじゃない」

 昨日、価格を聞いて驚いていた母さんも、納得してくれた。

「元は取れそうか?」

 父さんが現実的なことを聞く。

「今日だけで、購入費のかなりの分は取り戻せたよ」

「そんなに!?」

「まあ、毎回今日みたいに上手くいくとは限らないけどね」

 

「大きいの、拾った」

 ナギが自慢げに報告する。

「良かったわね、ナギちゃん」

「うん」

 なんだか、完全に普通の家族の会話みたいになっている。

 

 夜。

 自室のベッドの上で、俺は母機を開いた。

 昨日まで、回収予約一覧の一番上に表示されていた。

 

【回収予約中:旧文明高精度産業用サーボユニット】

 

 今日は、もうない。

 回収が完了したからだ。

 

「……なんか、ちょっと寂しいな」

 

 何日も毎朝確認していた表示だった。

 消えてほしくて追いかけていた目標なのに、本当に消えると妙な空白が残る。

 

 しばらく空になった回収予約一覧を眺めてから、俺は装備カタログを開いた。

 

【小型索敵ドローン】

 

「次、これ?」

 空中に浮いているナギが覗き込んでくる。

「……どうしようかな」

「欲しい?」

「欲しい」

「じゃあ、買う?」

「だから、まだ買わないって!」




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