未来の崩壊世界に転生したら、職業くじでハンターを引いたので旧文明を漁る 作:パラレル・ゲーマー
インベントリを中容量型に更新し、念願の大型サーボユニットを回収した翌日。
俺は珍しく外へは出ず、自室で装備の点検と休養に一日を充てていた。
ハンターになってからというもの、怒涛の勢いで毎日外へ出撃し続けていた。身体の疲労が限界に達していたわけではないが、ライフルや探索母機の細かなメンテナンスを行い、これまでの回収ログを整理する時間はどうしても必要だった。それに、急激に変化した日常の中で、一日くらいはコロニー内で平穏に過ごして一息つきたかったのだ。
そして、そのさらに翌日の朝。
食卓でいつも通りにトーストをかじり、目玉焼きを口に運んでいると、向かいの席に少し浮いた状態で座っているナギが聞いてきた。
「今日は、物流センター?」
淡い青系の服に身を包んだ彼女は、すっかりこの家の朝の風景に溶け込んでいる。
「いや」
俺はコーヒーの入ったマグカップを置き、静かに首を横に振った。
「そろそろ、別の場所にも行ってみようと思ってるんだ」
「どこ?」
「まだ具体的には決めてないよ。協会で片桐さんと相談してからかな」
俺がそう答えると、ナギは少しだけ考えるように視線を斜め下に向けた。
「物流センター、もう行かない?」
「行くよ。あそこが俺たちの能力に合っていて、しっかり稼げる場所だってことは十分に分かったからな。ただ、あそこしか知らないままっていうのも、ハンターとしてちょっと嫌なんだ」
俺が素直な理由を話すと、ナギは小さく頷いた。
「ナギは、あそこ好きだったか?」
俺がふと尋ねてみると、彼女は再び少しだけ考え込んでから答えた。
「……広い。高いところ、いっぱいあった」
「俺たちが飛べたからか?」
「うん。悠真も一緒に飛んでた」
彼女の言葉には、どこか穏やかな響きがあった。巨大なラックの間を二人で飛び回った時間は、ナギにとっても悪くないものだったらしい。
「違うところも、見たい」
ナギが真っ直ぐに俺を見て言った。
「俺もだ」
俺たちは、新しいルートへ向かうことを決めて家を出た。
*
第十四区画のハンター協会支部は、朝から多くのハンターたちで活気に満ちていた。
カウンターの奥で端末を叩いていた片桐のところへ行き、俺は用件を切り出した。
「おはようございます。そろそろ、東部第六以外の別の一般ルートも見てみたいんですけど」
俺の相談に対し、片桐は特に驚いた様子もなく頷いた。
「まあ、東部第六の物流センターばかり回っていても、ハンターとしての腕や経験は偏るからな」
物流センターでの稼ぎぶりは認めてくれているようだが、別環境を経験することの重要性も分かっているのだろう。
片桐は手元の端末を操作し、俺の母機にいくつかのルート候補を転送してきた。
【旧地下鉄第十二駅区画】
【旧医療機器保管区】
【旧北部データセンター】
先日、初めて一般ルートを選ぶ際に見せてもらった候補だ。《旧東部第六物流センター》はすでに購入済みなのでリストから外れている。
「そういえば、最初にも見せてもらいましたね」
「あの時は新人上がりだったからな。だが、今の能力を持ったお前の基準なら、また評価が変わるはずだ」
片桐は、三つのルートの特徴を改めて解説してくれた。
「地下鉄区画は狭く、上下の起伏が激しい上に一部が浸水している。小型の自律機械が多数徘徊しているが、お前の飛行能力なら線路の崩落や水溜まりを越えられるから、相対的には有利に動けるだろう」
「なるほど」
「医療機器保管区は、超高額な医療設備が狙える。ただし、その分だけ他のハンターとの競争が激しく、揉め事も多い。おまけに汚染区画があるから、本格的な防護装備がないと命に関わる」
それは今の俺たちには少しハードルが高い。
「で、最後のデータセンターだ。ここは高密度の記憶媒体、演算装置、通信制御部品といった小型の精密機器がメインになる。インベントリの容量単価は圧倒的に高い」
「小型で高価。俺のインベントリを考えると、かなり魅力的ですね」
「ああ。だが、お前には東部第六の物流センターよりも面倒な場所だと思うぞ」
片桐の言葉に、俺は少し引っかかった。
「面倒? 俺の念動力と相性が悪いんですか?」
「念動力の出力の問題じゃない。お前自身の問題だ」
片桐は俺の目を真っ直ぐに見た。
「お前は、見えた相手には滅法強い。だが、まだ見えていない相手に対しては、ただの普通の十五歳のガキだ。データセンターは狭い通路と無数の防火扉で視界が極端に悪い上に、旧文明の警備システムがかなり生き残っている。不意打ちを食らえば、いくら念動力が強くても対応しきれないぞ」
その指摘に、俺は素直に頷くしかなかった。
「……真壁さんにも、この前似たようなことを言われました」
「だろうな」
片桐は小さく鼻を鳴らした。
「それでも、行ってみます」
俺は迷わず《旧北部データセンター》のルート情報購入を申し出た。一般ルートの情報料は決して安くないが、中容量型インベントリを駆使して稼いだ今の俺なら問題なく支払える。
母機に新しいデータがダウンロードされた。
【一般探索ルート:旧北部データセンター】
【推奨人数:3~5名】
【危険度:中】
【主要回収物:記憶媒体/演算装置/通信制御部品】
【警告:旧警備設備稼働確認】
【警告:内部通信障害あり】
【最終地図更新:2日前】
「推奨人数が、物流センターより多いんですね」
「索敵と警戒にリソースを割く必要があるからな。それと、新しい警告があるだろう。内部通信障害だ」
片桐が画面を指差す。
「データセンターの内部は、旧文明の分厚い遮蔽設備や残存ノイズの影響で、区画によっては母機の広域通信が極端に不安定になる。奥の方へ行くと完全に通信が切れる場所もある。緊急信号も通らないことがあるから、初見で一人で突っ込むような真似は絶対にやめろよ」
「分かりました。慎重に行きます」
「何だ、今日は東部じゃないのか」
背後から、聞き覚えのある落ち着いた声がした。
振り返ると、真壁さんをリーダーとする三人組のパーティーが立っていた。彼らも今日出撃するためのルート情報を更新しに来たらしい。
「真壁さん。おはようございます」
「おはよう。お前らも今からか?」
「はい。今日は東部じゃなくて、北部データセンターに行ってみようと思ってます」
「北部か。初めてか?」
「はい、初めてです」
俺が答えると、片桐がカウンターから身を乗り出して真壁さんに尋ねた。
「お前ら、今日はどこへ行く予定だ?」
「うちも北部ですよ」
真壁さんが答えると、俺は少し驚いた。
「奇遇ですね」
「一般ルートなんて限られてるからな」
真壁さんは少しだけ思案するような表情を見せ、やがて俺に向かって言った。
「じゃあ、途中まで一緒に来るか? 初見で迷ってウロウロされても、後から行く俺たちが面倒だろ」
俺は一瞬だけ考えたが、これは願ってもない誘いだった。
「……お願いします」
俺は素直に頭を下げた。ナギの方を振り返る。
「ナギも、一緒に行くよな?」
「うん」
ナギは俺の隣で、当たり前のように頷いた。
「そういや、こいつらにはちゃんと紹介してなかったな」
真壁さんが、後ろに控えていた二人のメンバーを振り返って言った。
これまで何度か言葉を交わしていたが、きちんとした名乗りはまだだったのだ。
小柄だが目つきの鋭い、二十代後半くらいの女性が一歩前に出た。
「榊原美緒。パーティーでは索敵用のドローンと、電子系の解除を担当してる。よろしくね」
続いて、俺と一番年齢が近そうな、二十代前半の若い男性が人の良さそうな笑顔を向けた。
「大橋遼です。射撃と回収、それから敵の解体を担当してるよ。相馬君のことは、だいたい聞いてるからよろしく」
「どんな話を聞いてるのかちょっと怖いですけど、相馬悠真です。よろしくお願いします」
俺が苦笑交じりに答えると、大橋さんは軽く笑ってくれた。
ナギも俺の横にスッと並び、自分の胸に手を当てて名乗った。
「ナギ」
「知ってるよ。幽霊騒ぎから念動力まで、かなり有名だからね」
榊原さんが言うと、ナギは目を丸くした。
「そうなの?」
「協会じゃね」
ナギが不思議そうに俺を見るので、俺は肩をすくめた。
「俺も、ここまで噂が広がってるとは最近知ったよ」
*
南第三ゲートから外へ出た。
真壁さんたちは徒歩で進み、俺とナギは地面から三十センチほど浮き上がった状態で、彼らの歩く速度に合わせてゆっくりと低空飛行でついていく。
崩壊したアスファルトの道を進みながら、大橋さんが横に並んできて話しかけてきた。
「相馬君って、職業くじでハンターになったんだよね?」
「そうです。十五歳になって、講堂で引いたくじの文字が『ハンター』でした」
「俺もくじ組だよ」
「え、そうなんですか?」
俺は驚いて大橋さんの顔を見た。真壁班のような熟練パーティーのメンバーが、俺と同じくじ引き出身だとは思っていなかったのだ。
前を歩いていた真壁さんが、肩越しに振り返った。
「俺は二十代半ばまでコロニーの工場勤務だったんだよ。でも、外の方が圧倒的に稼げたからな。自分で希望を出してハンターに転職した」
「自分からハンターになったんですね」
「職業くじは最初の配属を決める制度だからな。何年か働けば転職申請そのものは出せる。特に慢性的に人手不足のハンターへ入ってくる方は、比較的通りやすい」
「じゃあ、ハンターから別の仕事へ移ることもできるんですか?」
「申請はできる。ただ、そっちは空きも適性も必要だし、危険職だからって簡単に抜けられるほど甘くはねえよ」
なるほど。
十五歳でハンターを引いた時に両親が絶望した理由がなくなるわけではない。少なくとも最初の数年は、危険な仕事をこなすしかないのだ。
「だから、毎年職業くじを引いて泣いてる十五歳のガキどもを見ると、自分から死地に飛び込んだ昔の俺は、相当頭がおかしかったんじゃねえかと思うよ」
真壁さんが自嘲気味に笑う。
さらに、榊原さんも会話に加わった。
「私は元々、コロニー内の設備保守の補助をやってたんだけど、単調な仕事に飽きてね。真壁さんに誘われてハンターになったの」
大橋さんが懐かしむように空を見上げた。
「俺は、くじを引いた瞬間は本当に人生が終わったって思ったよ」
「今は、どうなんですか?」
「今は悪くないと思ってる。稼ぎはいいし、毎日同じ工場や農場に通って同じ作業を繰り返す仕事より、俺の性には合ってたみたいだ」
「……それ、ちょっと分かります」
俺も、自分が今このハンターという危険な仕事を楽しんでしまっていることを自覚している。
ナギが、空中でフワリと真壁さんの隣へ移動して聞いた。
「真壁は、外が好き?」
真壁さんは少しだけ歩くペースを緩め、崩壊した街並みを見渡した。
「……好きか嫌いかで言えば、好きなんだろうな。じゃなきゃ、こんな仕事何年もやってねえよ」
「怖くない?」
「怖いよ」
即答だった。
「怖いのに、来る?」
「怖くなくなったら、多分その日の俺は死ぬからな」
真壁さんは、冗談を言っている様子もなくそう答えた。
ナギは少しだけ考え込むような顔をした。
「怖い方が、いい?」
「少しくらいはな。逃げる理由になる」
俺は横で二人の会話を黙って聞いていた。
ナギは、今度は俺の方へと漂ってきた。
「悠真も、怖い?」
「怖いよ。外のゲートを出る時は、毎回心臓が少しだけ跳ねる」
「でも、楽しい?」
「うん。それも本当だ」
「……そっか」
ナギはそれだけ言うと、納得したように前を向いた。俺たちの間に、静かな足音と風の音だけが流れていった。
*
《旧北部データセンター》に到着した。
それは、東部の物流センターとは対極に位置するような建物だった。
低く、横に広い無骨なコンクリートの塊。分厚い外壁には窓がほぼ一つもなく、入り口には何重もの分厚い防火・防爆扉がひしゃげた状態で半開きになっている。外からは、内部の様子が一切窺い知れない。
ARコンタクトに情報が表示される。
【一般探索ルート:旧北部データセンター】
【警戒区域進入】
【内部地図:部分取得】
【通信状態:不安定】
「物流センターより、ずっと圧迫感があるな……」
俺が建物の重苦しい雰囲気に圧倒されていると、榊原さんが横でドローンの操作端末を起動しながら言った。
「中はもっと狭くて息が詰まるよ。気をつけて」
内部へ足を踏み入れる。
物流センターとの環境の違いは、視覚的に明らかだった。
物流センターは天井が高く、高層ラックが並んでいたため、視線が遠くまで抜け、俺の飛行能力が存分に活かせた。
しかし、データセンターは違う。
天井は低く、狭い廊下が迷路のように入り組み、短い間隔で曲がり角が現れる。分厚い防火扉が半開きになって視線を遮り、床には切断された太いケーブルが這い回っている。非常灯の赤い光だけが、不気味に空間を照らしていた。
ここでは、俺の飛行の利点は極端に薄い。飛べないわけではないが、天井が低いため、せいぜい床に散乱するケーブルや障害物を避ける程度にしか使えないのだ。
場所によって、同じ能力でも使い勝手は大きく変わるらしい。
「先に見てくるね」
榊原さんが、腰のポーチから小型の索敵ドローンを取り出して放った。
直径二十〜三十センチほどの、静音性の高い四枚羽根のドローン。サーマルセンサーに加え、機械の微弱な電磁波検知、距離測定、構造スキャンまで備えている。
「お願いします」
俺たちはその場で待機し、榊原さんの報告を待った。
「角の先、三十メートル。小型の旧型警備機械が三機。待機状態ね」
榊原さんが手元の端末の映像を見ながら、淡々と報告する。
「ルートを変更するか?」
真壁さんが大橋さんに確認する。
「西側の通路も空いてますよ」
「西は四日前に床の沈下記録があるから、避けた方がいい」
三人が、短い言葉で的確に作戦を練っていく。俺はその後ろで、こういうのが本当のパーティーの動きなんだなと感心していた。
「相馬」
真壁さんが俺を振り返った。
「あの警備機械三機、お前の念動力で止められるか?」
「俺から見えている位置まで出てきてくれれば、問題なく拘束できます」
一度位置や形を把握した物なら、多少視界から外れても操作はできる。だが、壁の向こうに何がいるのか分からない状態では、そもそも対象として正確に捉えようがない。
「なら、私がドローンの映像を見ながら、敵が角から出てくるタイミングと位置を読み上げる」
榊原さんが提案してくれた。
「お願いします」
俺は、曲がり角の手前の壁際に立ち、精神を集中させた。
「距離二十。こちらに向かって動いてる。十、五、三、二、一……出るよ」
榊原さんの完璧なタイミングのコール。
曲がり角の先から、三機の警備機械が姿を現した瞬間。俺は迷わず念動力を伸ばした。
ガキンッ!!
三機の機械が、前へ進もうとした姿勢のまま空中でピタリと停止した。
すぐさま、大橋さんが低い姿勢で駆け寄り、動けなくなった機械の背面パネルを開けて、主電源を次々と落としていく。
あっという間に、三機の警備機械は完全に停止した。
一発の銃弾も撃たず、誰も危険に晒されることなく戦闘が終了した。
「……これ、かなり楽ですね」
俺は思わず本音を漏らした。敵の強さそのものは、物流センターの搬送機より弱かった。だが、一番の違いは「敵が来ると分かっていた」ことだった。位置、数、タイミング、退路。すべてが事前に把握できている安心感は絶大だった。
「見えてから避けるより、見える前に避けた方が絶対に安全だからね」
榊原さんがドローンを手元に呼び戻しながら微笑んだ。
「この前俺が言った通りだろ」
真壁さんが満足そうに頷く。
最初のサーバールームに到着した。
部屋の中には、旧文明のサーバーラックが無数に立ち並んでいる。俺の母機がスキャン結果をポップアップさせた。
【高密度記憶モジュール】
【演算アクセラレータ】
【光通信制御装置】
「……物流センターの部品に比べると、ずいぶん小さいですね」
俺が手のひらサイズの記憶モジュールを拾い上げて言うと、大橋さんが笑った。
「小さいけど、それ一個で結構な値段になるぞ」
俺はそれを中容量型インベントリに収納した。
【インベントリ使用率:1%】
続けて、周辺のモジュールを複数まとめて収納する。
【インベントリ使用率:2%】
さらに別のラックからも回収する。
【インベントリ使用率:4%】
「……全然、数字が増えないな」
「いっぱい入る」
ナギが感心したように言う。
「今日は、本当にいっぱい入りそうだな」
物流センターの時は、大型物資を入れるとすぐに容量が埋まってしまった。だが、このデータセンターでは、中容量型インベントリがなかなか埋まらない。
ここでは容量よりも、どれだけ安全に長く探索できるかの方が重要になりそうだ。
ナギも、空中で漂いながら回収を手伝ってくれていた。
彼女は物流センターでの経験から、価値の高い部品の形状をある程度覚えているようだ。
「これ?」
「おお、高密度記憶モジュールだな。高いやつだ」
「持つ」
「頼む」
ナギは半透明の指先で部品を摘み上げ、俺の近くへと運んでくれる。
「ナギちゃん、よく手伝ってるんだね」
榊原さんが、作業をしながらナギに話しかけた。
「悠真と一緒に拾う」
「楽しい?」
ナギは少しだけ動きを止め、自分の内側の感覚を探るように考えてから、静かに頷いた。
「うん。悠真が、嬉しそうだから」
榊原さんが少しだけ目を細めて笑った。
俺は少し離れた場所でその会話を聞いていて、なんだかひどく恥ずかしくなり、無言でサーバーラックの裏側に隠れた。
「ナギちゃん自身は?」
榊原さんがさらに問いかける。
「私も、楽しい」
榊原さんはそれ以上何も言わず、小さく笑った。
*
さらに奥の区画へと進んでいくと、前方を先行していた索敵ドローンがスゥッと戻ってきた。
「止まって」
榊原さんの低い声に、俺たちは全員その場で足を止めた。
「前方に、固定式の警備装置。天井収納型の拘束ユニットね。高圧スタン射出とワイヤー拘束の複合型」
ドローンの映像を共有してもらうと、通路の天井に、ひっそりとセンサーラインを張っている旧文明のトラップが確認できた。
「……これ、俺だけなら完全に気づかずに踏んでましたね」
「だから、先にドローンで見るのよ」
榊原さんが冷静に言う。
真壁さんが、いつになく真面目な顔で俺を見た。
「こういう狭くて閉鎖的な施設じゃ、火力で押し切るより、こうやって事前に危険を察知する力の方がよっぽど大事な時があるんだ」
「分かりました」
俺は素直に頷き、彼らの指示に従った。
榊原さんがドローンのセンサーで安全なルートと装置の死角を特定する。
俺は指定された位置まで慎重に移動し、天井のセンサー部を念動力でガッチリと固定して作動を物理的に封じる。
その間に大橋さんが素早く接近し、装置のメイン回線を物理的に切断して停止措置を行う。
真壁さんは後方で周囲の警戒に当たる。
四人とナギの役割が、見事に噛み合っていた。
俺一人なら、念動力で装置そのものを潰して突破していたかもしれない。だが、壊さずに安全に通れるなら、それに越したことはない。
「これも、持ってく?」
停止した警備装置を指差して大橋さんが聞く。
「高いんですか?」
「制御部とセンサーだけ外せば、結構いい値段で売れるぞ」
俺たちは手際よく部品を回収した。共同で回収した部品はその場で母機に取り分を登録し、俺は自分の分だけをインベントリへ収める。
さらに三十分ほど奥へ進むと、俺のARコンタクトに黄色い警告が表示され始めた。
【通信品質低下】
【中継ビーコン接続:不安定】
データセンター特有の通信障害だ。片桐の警告通り、これ以上進むと広域通信が完全に遮断される恐れがある。
「今日はこの辺までだな」
真壁さんが撤退の判断を下した。
俺のインベントリの表示は、まだ、
【インベントリ使用率:18%】
だった。
「まだ二割も使ってないですけど」
俺が言うと、真壁さんはニヤリと笑った。
「インベントリの容量で撤退を決めるような場所じゃねえってこと、もう分かっただろ」
俺は少しだけ未練を感じて奥の暗闇を見つめた。空き容量はたっぷりある。高額品もまだまだ眠っているはずだ。
だが、通信が不安定な初見のルートで、さらに奥へ進む必要はない。
「……そうですね。戻りましょう」
俺は自分自身で納得し、踵を返した。
真壁さんは特に何も言わず、そのまま帰還ルートの先頭へ戻った。
*
帰路の道中は、行きよりも少しだけ空気が緩んでいた。
「どうだった、北部のデータセンターは?」
大橋さんが俺に聞いてきた。
「東部の物流センターとは全然違いますね。もっと狭くて、見通しが悪くて面倒でした」
「稼げそう?」
「かなり。でも、俺一人なら、今日よりずっと時間がかかったと思います」
榊原さんが横から顔を出して言った。
「索敵ドローン、欲しくなった?」
「かなり」
俺が即答すると、大人三人が楽しそうに笑った。
「ナギは?」
俺が聞くと、ナギは少しだけ考えてから答えた。
「暗かった」
少しの間を置いて。
「でも、いっぱい拾った」
「そうだな」
ナギは満足そうに前を向いた。
南第三ゲートへ無事に帰還し、俺たちはそこで真壁班と別れることになった。
「今日は本当にありがとうございました。すごく勉強になりました」
「こっちも楽だったよ。お前が面倒な敵をまとめて止めてくれるからな」
真壁さんが手を上げる。
「また一緒になったらよろしくね」
榊原さんが微笑み、大橋さんが冗談めかして言った。
「次は相馬君が奢ってよ」
「査定額を見てから考えます」
俺も冗談で返し、彼らを見送った。
協会に戻っての査定。
カウンターに出したのは、記憶モジュールや通信制御部品といった小型の部品ばかりだ。見た目は物流センターの巨大なモーターなどに比べてひどく地味だった。
しかし、端末に弾き出された査定額を見て、俺は目を見開いた。
「こんなに高いんですか?」
「記憶媒体と演算系の部品は、小さい割に高いんだよ。状態が良ければな」
査定員が説明してくれた。
今日の探索は真壁班との同行で短時間であり、奥までも行っていないため、一昨日の物流センターでの大当たり日よりは総額は低かった。それでも、標準的な周回としては十分すぎるほどの稼ぎになっていた。
「どうだった?」
片桐が俺に感想を聞いてきた。
「稼げます。でも、一人で奥まで行くのはやめときます」
「上出来だ」
片桐は短くそれだけを言った。
俺は、備え付けの端末で装備カタログを開き、【小型索敵ドローン】の項目を表示させた。
前にカタログを見た時は「まだ買わない」と思っていたが、今日、その必要性を実際に体験した。
「買う気になったか?」
片桐が背後から覗き込む。
「候補には入れます。今日、あれがどれだけ便利で命を救うか、嫌ってほど分かったので」
「選ぶなら、自分の用途をちゃんと決めろよ」
片桐が画面をスクロールさせる。
そこには、一種類のドローンだけでなく、廉価な視界偵察特化型、壁越しの構造スキャンに強い型、通信を補助する中継型、それらを複数備えた高価な複合型など、様々なバリエーションが存在していた。
「……また悩む要素が増えたな」
俺はカタログを閉じ、今日のところは購入を見送ることにした。
*
夜。
自室のベッドの上で、俺は今日一日の出来事を思い返していた。
「今日は、人が多かったね」
空中で横になっていたナギが、ぽつりと言った。
「真壁さんたちのことか?」
「うん」
「嫌だったか?」
「嫌じゃない」
ナギはゆっくりと瞬きをした。
「榊原、色々教えてくれた。ドローンも、見せてくれた」
「気に入ったのか?」
「飛ぶ。でも、私より遅い」
「まあ、あれはあくまで偵察用だからな」
「悠真も、買う?」
「たぶんな。でも、種類がいっぱいあるみたいだから、ちゃんと選んでからにするよ」
「何が、いい?」
「まだ分からない。次に協会で片桐さんに詳しく聞いてみるつもりだ」
「分かった」
ナギは納得したように頷いた。
部屋の中が静かになる。
俺は、昼間に真壁さんが言っていた言葉を思い出していた。
『怖くなくなったら、多分その日の俺は死ぬからな』
少しの間を置いて、ナギが静かな声で俺の名前を呼んだ。
「悠真」
「ん?」
「……怖い方が、いい?」
彼女も、昼間の真壁さんの言葉を思い返していたのだろう。
俺は少しだけ考えてから、自分の言葉で答えた。
「怖い方がいいっていうより、『自分が今怖い状況にいる』って分かってる方がいいんじゃないかな」
「どうして?」
「危ないって思えば、逃げようってちゃんと考えられるからさ」
職業くじでハンターに決まった日の夜、父さんにも「危ないと思ったら、迷わず逃げろ」と言われた。その言葉は、今でも俺の中に残っている。
ナギは、その言葉を自分の中でゆっくりと消化しているようだった。
「悠真は、逃げる?」
「ああ。本気で危なかったら、迷わず逃げるよ」
「……私も?」
俺は少しだけ微笑んで、真っ直ぐに彼女の淡い瞳を見つめ返した。
「ナギも、一緒に逃げよう」
「…………」
ナギは数秒間だけ俺を見つめ、やがて、わずかに目元を和らげて小さく頷いた。
「うん」
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!