ウルトラマリンの夜   作:神里岳

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8話

 六日目

 

「まだ動けなさそう?」

 キャミィはベッドの上で自分の胸板を枕にするリクロロの頭を撫でながら三度目の確認をした。

「動けん」

 リクロロも再度同じ返事をして、お互いの裸を密着させ頬ずりをした。返答は明瞭で、睡眠不足なわけでも、寝起きが弱いわけでもなさそうだった。

「キャミィのせい。あんなおっきいので、弱いとこばっかりねちっこくするから。昨日は完全に腰が抜けたし、朝になっても力が入らん。と思う。なんだか喉も痛い。気がする。責任取って、もっと甘やかせ」

「しょうがないなあ。よしよし」

 キャミィがあやし続けると、機嫌のよいニャースのようにリクロロは喉を鳴らした。髪を撫でる指が頬と首筋を伝い、肩の下まで降りようとしたとき、スマホロトムが鳴った。

「なんだ? 昨日言ってた仲間か?」

 リクロロは目を閉じて寝転がったまま尋ねた。メッセージに目を通し、キャミィは簡単な返事をした。

「うん。みんな時間通り集まれるって。クロ、カラオケって行ったことある?」

「ない」

「そっか、じゃあ僕と初体験だね」

「むう。二人きりがよかった」

「ふふ、実は僕も。今度また二人で行こうよ」

「……集合、早いのか?」

「うーん、そうだね。朝ごはん食べたいなら、ちょっと早めに出かけたほうがいいかな」

 ぱちりとリクロロが瞼を開き、キャミィを見上げながら、体と一緒に丸められていた腕を伸ばした。

「キャミィ、まだこんななのに、出かけられる?」

 リクロロの小さい手のひらが触れると、朝の膨らみがぴんと揺れた。

「そりゃ、クロとなら何度でもしたいけど、今からじゃほんとに動けなくなっちゃうよ」

「わかってる。でも……」

 でも? キャミィはにこにこと何も言わずにリクロロを見つめていた。

「でも、もっとしたい。ホテルの朝ごはんより、キャミィに喜んでほしい」

 キャミィは微笑み、リクロロの前髪をかき上げて、額に口づけした。

「今の、すごくかわいかった。とっても嬉しい。ありがと、クロ」

 甘い囁きに乗せた少年の喜びが波動のように伝わり、少女も体中を使って抱きしめた。

「口でしようか?」

 巻きついて離れないリクロロの腰を抱いて、キャミィの指が彼女の唇をなぞった。

「指でして。かわいいお口には、いっぱいキスしてほしいな」

 リクロロは微笑み、かわいらしい指をまとわりつかせると、細い胴体をぐっと伸ばしてキャミィのリクエストに答えた。

 

「はーい! 飲み物来たよ! どれが誰の? 呼ぶから取りに来て!」

 注文された七つのドリンクをマリカが一つずつ配っていく。彼らはキャミィがあの日にチヅルと入ったカラオケボックスのパーティルームに集まっていた。

 奥に座っているキャミィのもとへ、チヅルが飲み物を持ってきてくれた。

「ありがと。ねえチヅル、昨日は怖かったでしょ。ほんとはすぐ会いたかったけど、でも今日元気な顔見られてよかった」

 心配してもらえた嬉しさで、チヅルの目が揺らぎ、声が震えた。キャミィが集合場所に見知らぬ女の子を連れて現れたことへの不機嫌など、簡単に吹き飛んでしまった。

「うん、大丈夫。うちのほうこそ、いきなりあんなこと聞いてごめんね」

「ううん、頼ってくれて嬉しかったよ、ありがとう。無事でよかった」

 キャミィは案じるときも眉を垂らさず、そのため安心の表情も満面の笑顔だった。唇をきゅっと締めて曖昧に頷き、チヅルは自分の飲み物を取りに戻った。

「みんな、自分の飲み物ある? あるね? えーと、どこまで話したっけ?」

 マリカは出入口の近くの席に座っていて、リクロロ、アイネ、チヅルが同じソファー席に腰かけていた。向かいの席には扉に近い順にビルとタクオがいて、キャミィの席は誕生日の主賓のような中央奥の空間だった。

「順番に自己紹介して、ひととおりこれまでの話したとこ」

 リクロロは両手でグラスを持ってストローを咥え飲み物をすすった。自己紹介の折に、彼女は自分がキャミィを殺すために雇われたこと、今はその意思がなく、キャミィに協力する立場であることを詳らかにしていた。参加者はみなキャミィに呼ばれ集まった理由を簡単に話していたが、リクロロの証言には流石に全員が色めき立っていた。

 キャミィはその場の全員を端から順番に眺めて、言った。

「今日初めて聞いた人も、とっくに当事者になってる人も、いると思う。だから改めて話すね。今、フロンティアシティには薬物に関わっている悪の組織、ライフル団がいる。僕はそいつらと戦って、幹部の一人を撃退するところまで行ったけど、つい昨日、僕を始末するために殺し屋が送られてきた」

 まばらな注目がリクロロに集まった。リクロロは踏みとどまるように背筋をしゃんと伸ばしていた。キャミィは続けた。

「僕は、僕の大好きなフロンティアシティで悪さをする連中は許さない。でも、ここからは本当に命がけだ。僕たちはみんな、自分たちの命や、それぞれの生活とか未来がある。だから、この先の話をする前に、今、決めてほしい。やばいやつがいるってことだけ覚えて帰ってもう関わらないか、僕と一緒に戦うか」

 空気が張りつめるのがわかった。眼鏡を直すタクオと腕を組んでいるビルが笑みを浮かべているのが見えた。少なくとも彼らが味方してくれることはわかっていた。だからこの問いかけは、初めから女の子たちのためのものであった。守られているばかりではない、力ある少女たちのための。

「その前に、はっきりさせたいんだけど」

 まず声を上げたのはマリカだった。彼女はグラスの縁を指でつつきながら、眉間を力ませた。

「キャミィ。クロちゃんのこと、ほんとに信用していいの? 実はマリカたちを騙してるだけで、キャミィのこと、まだ狙ってたりするんじゃない?」

 避けては通れない追及だった。注目の的になったリクロロは、短く息を吸い込み、一息で吐き出した。

「言い訳はしない。信じてもらうしかない」

 不屈だった。あるいはそう思わせるほどにリクロロは愚直だった。

「あたいはみんなにとっては悪いやつで、ライフル団にとっては裏切り者だ。本当はどこにも行くところなんてない。でも、キャミィがここに連れてきてくれた。キャミィの聞かせてくれた夢、誰でも誰とでもポケモンバトルで仲良くなれる街、あたいも好き。その夢が本当になって、あたいが暴力の世界から離れて生きられるなら、この街のために戦う」

 やや間があって、クロはうつむきながら、赤らんだ頬を指先でかいた。

「それに、なんだ。キャミィの役に立てると、あたいも嬉しい」

 柔らかな笑いが部屋に満たされた。それは嘲笑ではなく、温かい同情と共感だった。私たちもそうだよ、というような。

「私も、改めてお供したいと思ってます」

 次に口を開いたのはアイネだった。キャミィが最初に目にした露骨なあざとさは鳴りを潜め、まだ重大な悩み事は解決していないながらも自暴自棄や沈み込む様子はなく、自然と言葉を選び取っていた。

「私、今は会えないんですけど、大事なポケモンがいて。もう一度会えるまでトレーナーを続けるって約束したんです。もしも仲直りできたとき、この街がいけないお薬だらけで、楽しく過ごせない暗黒街だったら、悲しいじゃないですか。それに、私だって、悪いお薬の誘惑なんかに負けないって決めたんです。誰もが自由でいられる街を守るために、私も戦わせてください」

 そしてキャミィのほうを向き、秘めていた愛嬌を発露させて付け足した。「キャミィくんの力になれたら、私も嬉しいです」

「うちも」キャミィが微笑み返してすぐ、チヅルも話に乗ってきた。

「うちは、大好きなメガニウムがいる。うちの子を最強のポケモンにする、メガニウムとマスターの上のチャンピオン級まで行くって決めたんだ。うちの夢がかなうまで、フロンティアシティにはなくなってほしくない。きっと、同じ思いのトレーナーは何人もいる。この戦いはもう、うちらだけのものじゃなくて、もっと大きなものがかかってると思う」

 満員のスタジアムと、所属するジムのコーチ、受付嬢の顔を、キャミィは順番に思い浮かべた。

「でも、うちは一人じゃない。うちが夢を見られる街と、そこに住む人とポケモンたちのために、うちも戦う」

 チヅルもまたキャミィに向き直って、恥じらいながらも目を合わせた。

「だから、連れて行って。キャミィと一緒がいい」

 キャミィは大人びて落ち着いた笑顔を作った。それは普段の天真爛漫な少年が見せない美しさで、チヅルは胸に拳を握って、ただ眺めることしかできなかった。

「キャミィってさ」マリカは少しむくれながらキャミィを茶化した。「本当に女の子の趣味いいよね」

 キャミィは自分の魅力と、それを最も強く引き出す表情や声の抑揚をわかっていた。

「マリカにも何度だって会いたくなるくらいだからね」

 マリカは眉を垂らし、唇を歪め、耳まで赤らめて、片手で腕を抱いた。

「しょうがないなー。キャミィのお願いだから聞いてあげちゃう」

 勢いよく頭を振って、顔を上げると、緩み切っていた笑みが消えた。

「でも、勘違いしないで。キャミィの助けになりたいのは本当だけど、マリカはマリカの意志で誘ってほしいって頼んだから。目の前でことが起きてるのに、傍観者でいるとか、まっぴらごめんなの。そこにいるのが悪いやつなら、なおさらね。ここにはヒーローってやつがいるんだって思い知らせてやるために、マリカも戦うから」

 少女たちは互いに顔を見合わせ、微笑み合った。女の子同士のつながりがいかに強固なものか、キャミィはわかっていた。

「で、男たちはどうなのよ?」

 マリカはすっかり上機嫌に戻っていた。ビルは視線でタクオに先を譲り、青年は眼鏡に手を当てて語り始めた。

「そうですね。積極的に当事者になったということであれば、自分も同じです。キャミィさんと出会ったのは、取材の成り行きで、ただの偶然です。しかし、この問題に立ち向かい、助け合ううちに、自分たちは他人ではなくなり、この出来事も他人事ではなくなっていました。これまで多くのトレーナーを記事にしてきましたが、薬物で未来を失うトレーナーのことなんて、文字に起こすのを想像したくもありません」

 タクオは前かがみになり、年長者の落ち着きの中に静かな怒りを燃え上がらせた。

「悲劇を止めなければ。文化や社会の破壊を防ぐため、自分は戦い続けます」

 キャミィは頷き、そして全員の視線がビルに集まっていた。黒髪の少年は封印の解かれたように腕組を解いて、さも彼こそがお頭のような尊大さで口を開いた。

「俺は親友に頼られて来た。男が戦う理由なんざ、それで十分だ。言ってみれば、ここに座ってることが俺の動機だ。が、もし俺個人の意見を付け加えるなら……」

 さても見事な役者だとキャミィは感心していた。ビルは演説の天才で、身振り手振りや言葉の間と抑揚、表情の変化までも巧みに操り、聞くものを没入させる男だった。その力は今も発揮され、新たな友人たちは劇場でも鑑賞するように彼だけを見て、聞いていた。

「どんな悪党にも、悪事を働く理由がある。過去や目的、生まれ育ちのために、やむを得ず犯罪に染まるやつもいれば、暴力そのものが楽しいなんて輩も、弱者を踏みにじることでしか商売できないなんて野郎もいる。だが、俺たち平和に暮らすものからして、すべての悪者に共通していることがある。ならんことはならんということだ」

 ビルは一拍置いて、リクロロに補足した。「ありがてぇことに、それに気づいて正義に目覚めた尊い仲間もいる」

 リクロロは座りを正した。その発言に異を唱えるものはいなかった。ビルはキャミィに目配せし、キャミィはウィンク一つでビルの配慮に感謝した。

「信念は人それぞれだろうと、現実に誰かを救う行動、道徳ってのが、世の中にはある。そのうちの一つは、巨大で理不尽な悪と戦うことだ。ここにいるやつら全員、そのために集まったんだろ? 俺もそうだ。人として善い行いをするために、俺も参戦する」

 キャミィはふと、ここにいる全員がフロンティアシティで知り合った新しい仲間だと気づいて驚いた。キャミィは常々、こんなにもこの街を愛しているのは自分くらいのものだと心のどこかで思っていた。彼の友人たちは自ら決めて選んでいた。自分たちの居場所に留まり、献身するという選択を。

「おい」

 あまりに気さくな呼びかけだったので、キャミィはビルの声に気づくのが遅れた。

「みんなかしこまって宣誓したんだ。お前もなんか言えよ」

 希望、決意、覚悟、思いに満ちたいくつもの双眸がキャミィに向けられていた。大きな、とてつもなく大きな絆を感じ、脳の奥に明々とした火が灯った。

「僕は、ここにいるみんなのことが大好き」

 感情が直接伝わったかのように、興奮と安らぎが広まった。

「この街が好き。ポケモンが、ポケモンバトルが好き。それを分かち合える友達が好き。だからこれは、僕の好きのための戦いになる。大事な思い出、楽しい日常、どんどん進化していく未来、そういうもの全部のために、愛を貫くために、僕は戦う」

 かすかにかかとを踏みしめ、キャミィは自分の影に潜む存在にも意識を向けさせた。

「ついてきてくれてありがとう。ライフル団を倒して、街に平和を取り戻そう」

 三人の競技トレーナーと、二人の男友達、それに一人の普通の女の子は、フロンティアシティの勇敢な英雄たちは、頷いた。

 ゲンガー。顔を出していないがこの場にいる秘密の仲間にもキャミィは思いを馳せた。ともにここまで努力して、楽しんできたことが、ひとつの正義になろうとしていた。

「よし、作戦会議だ。タクオさん、新しく何かわかったことある?」

 タクオは凝り性な男で、自分のスマホロトムをカラオケのモニターにつなぐと、簡単にまとめられた資料を大画面に映し出した。そして、これまでの一連の事件を簡潔に再度おさらいすると、本題に入った。

「まず、ライフル団代表、つまりライフル団ボスのテデコカという人物についてですが、元競技トレーナーということがわかりました」

 キャミィを含めた現役の四人はますます神妙な面持ちになった。

「公式サイトでは自己ベストはマスター級と記載されていましたが、実際にはハイパー級が最高レートのようです。試合の映像は入手出来なかったので、顔はわかりませんが、主にダブルバトルをプレイしていたトレーナーのようですね」

 唐突に、キャミィの記憶が蘇り、ずっと頭の中で鈍く積みあがっていた雲が晴れた。

「思い出した。僕、戦ったことある」

「知り合いだったのですか?」

「ううん、だけど印象に残る試合だったから、覚えてるんだ。ここで勝ったらマスター級に上がれるって試合で、僕に勝った男だよ」

 そこかしこで首が傾げられた。ビルですらその逸話を知らなかった。

「ええと、その試合でキャミィさんはマスター級になったんですよね?」

「ガブリアスが攻撃をよけたんだ。それがなかったら僕の負けだった」

 どよめきが起こった。ツキのあるなしは勝負の常、そこに異議を唱えるものはいなかった。だがしかし、それでも。

「つまりその……テデコカ氏の栄光をキャミィさんが阻んだ形になった、と?」

「そうだね。だから、試合に勝ったのは僕だけど、勝負に勝ったのはテデコカかな」

「その辺の掘り下げはいい。時の運だ、キャミィは悪くねぇ」

 ビルはぴしゃりと一喝した。「テデコカってやつの話を続けてくれ」

「は、はい。彼はそのシーズンを最後にバトルの第一線からは退いていました。それからしばらく活動の記録はなく、次に姿を現したとき、彼は対戦を知らない初心者や伸び悩む経験者を対象とした啓発的な団体、ライフル団を立ち上げています」

 そうして、思い悩むトレーナーや、モチベーションの低いトレーナーをターゲットに、薬物をばらまいていたのだ。

「しかしながら、立ち上げ以来の情報を追っても、テデコカ氏の顔を含め素性は謎に包まれています。実務のほうは、ライフル団でバトルの指導も担当している、ピエートという人物が行っているようですね」

「そいつ、知ってる。あたいに仕事をよこしたやつ」

 リクロロは空のグラスをテーブルの奥に押しやった。タクオがスライドさせた画面には、ブルーのオールバックに黒いハーフリムグラスの、目つきの悪い男が写っていた。

「接触したのですか? 詳しく教えてもらえますか?」

「あたい、顔の見えるやつの依頼しか受けないから、会いに来たんだ。あっちから。路地裏にいるあたいにしたっぱが会いに来て、団に勧誘するふりをして仕事の話ができる別の場所まで歩かされて、そこにいた。不愛想な男だったけど、汚い仕事に慣れてる感じだった。前払いって知らない薬をよこしてきたけど、あたいは薬はやらないんだ。金でよこせって言ったら、薬で受け取らないなら成功で全額だって。ほんとは前金ないと受けないんだけど、相場の三倍はあったから、受けたんだ」

「あの、その薬、こういうやつじゃありませんでしたか?」

 アイネのスマホロトムがテーブルの中央に飛んで画面を見せた。小さなプラスチックの袋に入った顆粒剤だったが、リクロロは首を横に振った。

「違う。あたいに見せられたのはカプセルだった。ミニエーってやつ。こいつは?」

「えっ。実は私も、別な人にこれがミニエーだって言われたんです」

「うちが見たときは、粉の薬だった。アイネが見たのと同じやつ」

「……なるほど。形状が変わっている、もしくは複数の形態を持っている、ということでしょうか。あるいは、新しく出回っている薬は、試作品や改良型の可能性もありますね」

 紛糾する議論の邪魔はできなかったが、リクロロの体が薬物に侵されていないことを、キャミィは密かに、心からありがたく思った。

「ともかく、これは典型的な麻薬密売組織のやり方です。汚れ仕事の報酬として薬物を手渡し、今度は依存症によって、報酬を与えていたはずの相手に同じ薬を高額で売りつけるようになったり、薬をにおわせて操ったりするんです。組織の幹部がこれをやっているのですから、こうなってくると、やはりライフル団は組織ぐるみでこの件に加担していると見て間違いないでしょう」

「なぁ、その……ピエート、ってやつ? いつもどこで何してるか、わかんねぇのか?」

「それが、先日のガンシャ女史の出来事以降、ライフル団は表立った活動を一切していません。問い合わせ窓口も機能していないと見てよいでしょう。ただ……」

 断言はできませんが、と付け加えて、タクオは続けた。

「チヅルさんがミニエーを目撃したのは、ライフル団と無関係な草の根的集会の場だとお伺いしております」

「うん、名前もついてない、普通のオフ会だった。主催のプロフィール見たけど、どこにも所属してない、一般トレーナーだったよ」

「であれば、ライフル団は表向きの活動をやめ、本格的に裏社会の組織として動き始めたのかもしれません。手下も集まって、商品もできた、いよいよ次は団に属さないものに対して商いを始め、ネットワークを広げようという段階なのではないでしょうか」

 転がって巨大化した雪玉のように現実が重みを増し、ずしりとのしかかってきた。

「ライフル団って、手下のポケモンどうしてるのかな? 前さ、アジト突ったとき、結構な数のしたっぱがいたよね?」

「そいつに関しちゃ、俺に心当たりがある」マリカの疑問に答えたのはビルだった。

「キャミィ、俺に会いに来てアジトの話したときのこと、覚えてるか? したっぱの手持ちに、なんか違和感があるって言ってただろ」

「うん。何かわかったの?」

「お前がアジトで見たしたっぱのポケモンは、バトルの統計で言やあ下から数えたほうが早いポケモンばっかりだ。つまり、連中の手下は、需要が低くてスカウトされちゃ逃がされる、牧場の柵の向こうで溢れかえってるはずのポケモンで構成されてるってことよ」

「それって、逃がされるはずのポケモンたちを誰かが調達してるってこと?」

「たぶんな。ちょっと調べたら、案の定ここ最近そういうポケモンたちの数が不自然に減ってやがる。牧場に戻ってないってことだな。ライフル団のボスって競技やってたんだろ? 例えば、金のない競技屋から買い付けて、横流しでもさせてた、とかな」

 ジムに所属する競技トレーナーたちは顔を見合わせた。ビルは続けた。

「ジムのボックスも、トレーナーが管理できるポケモンも限りがある。頻繁に逃がされるポケモンってことはつまり、供給だけはいつもあるポケモンってことだ。連れてこられたポケモンにゃ迷惑な話だが、頭数をそろえるだけだったら、かき集めようと思えば……」

「……ばれにくいし、そもそも誰も気にしない、か」

「それこそ、薬の力でジムごと配下になってる可能性もある。もちろん、お前らのジムを疑ってるわけじゃないぜ? だが、ある程度質を無視しても、素早く、大量に、安定して仕入れるとなると、こいつが一番手っ取り早そうだと思ってな」

 想像力は、時に実物を上回る怪物を作り上げる。際限なく強くなる、手に負えない幻影の魔物を。このポケモンには絶対に勝てない、というような。彼らもまた形のない爪牙に迫られつつあった。

「うーん……あたい、もうわからん。どうする? キャミィ」

 幻影の弱点、これを打ち破る方法をキャミィたち競技トレーナーは知っていた。

 現実と仲良くすることだ。

「……そう、だね。今からポケモンの供給を止めても、遅いかもしれない」

「だな。ライフル団は育ち過ぎた。それに、取引の現場を探し回ってたら、きりがねぇ」

「てことは、今からこの群れを崩すには」

「オヤブンをとっちめれば一発だ!」

「……ええと、つまり」先に結論へ辿り着いた少年たちを、タクオが追いかけてきた。「否が応でもテデコカ氏の居場所を突き止め、直接対決するしかない、と?」

「そ。人とポケモンの補充も、縄張りの拡大も、結局は枝葉を伸ばしていくって話。そこを狙っても間に合わない。根元を狙うんだ」

「そ、そう簡単にいくんでしょうか?」アイネも口を挟んだ。「またほかの誰かがボスになるだけなんじゃないですか?」

「オヤブンってやつは、腕前半分、人気半分なんだ」ビルが答えた。「二つ合わせて初めてカリスマってやつになる。両方あるやつが頭やってて、そいつが急に倒れると、群れってのは案外どうしようもねぇもんだ」

「……わかった。でも、具体的にどうするの? ボスも幹部も、どこにいるかわからないよね?」

 チヅルの質問にはキャミィが返事をした。正直で、飾らない答えだった。

「全然わかんない。だから、今度はそれを突き止めることが、僕らの作戦の第一歩だね」

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