どうか生暖かい眼で見守って頂ければ幸いです……!
───ある日、
比喩ではない。
本当に突然、神様が降って来たのだ。
それがどんな形で降って来たかは様々な諸説が流れているが故に、詳しく語る事は出来ないが、神が降って来た後の人類史は最早ぐちゃぐちゃとしか言いようがない。
例で出すにしても余りにも素っ頓狂なジョークにしか思われないが……
───例えば、
英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、中国語、ロシア語、日本語、etc.
世界に存在する言語は取り払われた。
何故か?
理由は簡単だった。
そんな理由で世界は簡単に変えられた。
そんな無法が何故罷り通ったか。
その理由も簡単だ。
───
あるいはこれは人々が神を求めた故の
神よ、我々を御救い下さいと願い、なら、
成程、そう見れば、確かに因果応報とも取れる。
確かに様々な悩みからは解放されたといえばされたのだから───神の手の平で
※※※
銀髪赤目の見た目だけならば少女の形をしているアマル・ティアは大荷物を纏めて移動していた。
自分の身の回りの必須な物を纏めたスーツケースに、更に大き目な楽器ケース。
何の楽器のケースかは知らないが、これくらいしか丁度良く入れられる物が無い為、利用させて貰ったのだ。
周りの人達が少しだけ邪魔そうにこちらの荷物を見て顔を顰めているが、気にしてはいられない。
そう言うと大袈裟と言われるかもしれない。
私だって大袈裟だと思いたい
だから、今は速く、逃げないといけないのだ。
そう思う度にくらりと頭が傾きそうになる。
逃げる? 一体どこに? 逃げ場なんてこの世界のどこにも無いというのに。
余りにも重たい事実にアマルは立ち眩みに似た症状で一瞬、足の膝を曲げかけ───ごとっと楽器ケースから鳴る音に曲がりそうになった膝を伸ばした。
慌てて楽器ケースの方に視線を向けるが、特に問題は無さそうだ。
はぁ、と溜息を吐いて気を取り直す。
───苦しい
こんなにも起きて欲しいと願うのに、同時に起きた時、それが違うモノだったと知る絶望が苦しい。
誰かの携帯端末から流れるニュースから声が聞こえる。
私はその言葉を当たり前のように咀嚼して理解出来ている───最早、何の言語なのか分からない、理解できてしまう言葉を。
人類の脳があらゆる言語を理解できる性質に変化されたのか、あるいは概念として総ての言語が統一されるよう改造されたのか。
かつてのバベル崩壊とは真逆の、しかし性質で言うなら同じような出来事が平然と起こる世界にアマルは嘆く事も許されない吐露を心に吐き出す。
人類の前に神は降臨された
───その結果、人類は神の手の平で弄ばれる玩具に成り下がった
霊長という単語も今や遠い。
ピラミッドの頂点は最早人類ではないのだから。
勝ち目が一つもない世界の事実から目を逸らし、アマルは荷物を持つ手に改めて力を込めて歩き出す。
……例え、逃げる場所が一つも無いのだとしても、アマルには諦めてはいけない義務がある。
その義務を最後の動力源として足を動かす。
諦めてはいけない───アマルまで諦めたら、きっと誰も味方してくれないのだから
※※※
アマルは都市にある駅に辿り着き、目的地に向かう。
向かう先が書かれた看板にはこう書かれていた。
誤字のようにも冗談のようにも見える内容に皮肉を感じながら歩き、傍にいた駅員に向かう。
神幹線は人間が運用している普通の公共の乗り物みたいに定められた時間に毎日走るものではない。
文字通り、気まぐれに運行が決められた乗り物故に聞かなければならないのだ。
「すみません、駅員さん。今日はこちら、
「はい? ああ、神幹線の? 残念ですが本日は
アマルはありがとうございます、と笑みを崩さないようにポーカーフェイスを浮かべながら、内心で舌打ちする。
特急とは勿論、この場合は各駅に停車する速度だ。
しかし、普通の場合、そこにもう2時間をプラスした特急に比べれば遥かにのんびりとしたコースとなる。
最早、慣れてしまったスケールに苦笑しそうになる顔を抑えながら、しかし、ある意味、その方が良かったかもしれない、と思い直す。
速度によるものなのか、転移によるものなのかは分からないが、どちらにしろ神の力が関わった無理筋である以上、余り強い力とかち合わせたくない。
ちらり、と大きな楽器ケースに視線を向けながら、そう思い───何となくの気分で駅員に追加の質問を投げかける。
「そういえば───特急の方、速度なのか転移なのか、議論はされていますが、駅員さんからはどう思われますか?」
質問の内容にああ、と駅員さんは苦笑して頬をかく。
「それに関しては私にも何とも……ただ、転移であるというのならば、昔、そういったテレポート云々はある種の分解と再構築みたいな話をどこかで聞いた事があるので───もしかしたら特急では一旦、我々は
はは、と駅員は冗談そうに転移の仕組みの一説を語る。
私もその一説を冗談として受け流すように微笑する。
何せ、そうしなければ酷く笑えない仮説だ。
たかだか列車に乗るだけで、乗車している私達は
神秘とはよく言ったものだ
神の秘奥は人知なんてあっさりと潰す。
科学者の人達は可哀想だね、と他人事のように同情するしかない。
今はただ、その天井知らずの奇跡の力を頼ってなるべくどこかに行きたい。
その思いから切符を買い、空いてる車両に乗り込んだ。
※※※
世界各国を回る神幹線の割には中身はよくある車両。
アマルは余り人が乗っていない事に運がいいと思いながら、空いてる椅子に座り、荷物であるスーツケースは上の荷物置き場に起きつつ、楽器ケースは自分の隣に置く。
ふぅ、と吐息を吐くと同時にごとっと軽く楽器ケースの中身が揺れた事に気付く。
一瞬、硬直するが、直ぐに何ともない事実に気付き、ほっとしながら楽器ケースを撫でる。
………中にあるモノを本当は出したい。だが、出したらいけない
分からない、アマルにも分からないのだ。
今、このケースに詰まっているのは希望なのか、それとも救いようのない絶望なのか。
確かめるにはきっと開けるしかない。だけど、今は開けれない。
…………そもそも私は
開けなければ、二度と開けなければ、希望を夢見ながら、続けられる。
それが一番周囲にとっての幸福であるだろう。
………悔しい事に、きっと自分にとっても。
麻薬染みた甘美な未来。
いつかきっと、という言葉を信じて、何もしないままこのケースから眼を背けて日々を過ごす日常。
それが一番きっと幸福だった。
だけど、それを選べばこのケースの中にあるモノに全てを押し付け、見捨てる事に他ならない。
自らを賢いと思った事は無いアマルだが、それだけは分かる。
今、このケースの中にあるモノに味方と呼べるものは一人もいない事を。
少なくとも人類には味方はいない。
なら、私だけでもこのケースの中のモノを優先しないと本当にこのケースの中が虚無になってしまう。
希望所か、絶望すらない、"無い"モノとして扱われてしまう。
それだけは赦されなかった。
アマル・ティアには何が起きたとしても、それだけは選ぶ自由は無かった。
この世界の皆が見捨てる権利を持っていても、私だけはその資格を持ち得なかった。
逃げてはいけない責務を感じながら、高い音を鳴らして出発の合図を出した後、神幹線が動き出し、速度が乗って駅を抜け出した。
条件反射でちらっと窓の方に目を向けるとそこには
……断っておくが、自分の今の地域は普通に街中で海が近くにあるというわけでもなければ、そもそも今、この神幹線は海の上に作られたレールとかではなく、
「………今日は観光気分って事かな」
当然、科学ではない。
もしかしたら何時かは辿り着けるのかもしれないけど、現時点の人類の科学に列車を海の上で走らせる程の技術力は無い。
これもまた神の思し召し───という名の気まま。
神とは奔放
その有様は9割が災害だが、1割は酔狂という名の
その1割がこの神幹線───曰く、人が動けばそれだけ可能性が動く。
可能性とは決していい意味にだけ繋がる事ではない。
人が簡単に移動できるという事は面倒事も簡単に移動するという事。
つまるところ、この神幹線も善意等ではなく、"ただ面白そうだから"という上から目線の興味によるものでしかない。
とは言っても、それを承知の上で利用しているのだから、流石にこれに文句をつけるのは図々しいとは思うが。
神幹線の移動だが、これも毎回実は違う。
こんな風に海の上を走る事もあれば、飛行機の代わりに空を飛ぶ事もあれば、よく分からない異空間の中を走る事もある。
どういった高速移動になるかは神のその日の気分である。
なので、比較的一番常識的且つ見ていて楽しむ光景を見れた事にほっとした思いを抱いたら
「………ぅ」
がくり、と急速に込みあがる眠気に体が支配されていく。
張り詰めていた意識が解きほぐされ、体に重しとして乗っていた疲労を自覚する。
理性が眠ってはいけないと叫ぶが、本能が無理もないと囁く。
何せここに来るまで、ほぼ寝ずに慣れない行動をし続け、緊張し続けてきた。
ほんの少しばかり常人よりは頑丈な体を持っているとはいえ、限度を超えたという事だろう。
くらりと倒れる頭が隣に置いた楽器ケースに軽くぶつかる。
常識がこんな列車で寝れば、貴重品を奪われても文句言えないと言ってくるが、もう今となってはそんな物はどうでもいいだろう、とヤケになっている本音が振り払う。
意識が落ちていく状態で尚、思うのは罪悪感
どんな事情であっても、普通に眠れる自分の贅沢さが申し訳なかった。
無事であるのか、そうでないのかすら分からない状態である
何一つ分かってあげられないのがとても申し訳なかった。
視界も意識も闇の染まる感覚───せめてこれだけは同じ感覚を共有してくれたら、そんな思いを抱きながらアマルは眠りに落ちた。
※※※
ドォン!! という強烈な音でひっくり返る様にアマルは起き上がる。
無意識に近くの音楽ケースを抱き寄せ、庇うような体勢にまで引っ張った後に今の大きな音が私の事情によるものでは無かった事を知る。
では、何が、と思い、恐る恐るの姿勢で音がした方にほんの少し地面に足を付けてゆっくりと立ち上がりながら振り返ると───そこには如何にもな大男と小男がどう見ても銃刀法違反の銃器抱えながら、盛大に金を寄越せぇ! と叫んでいる構図だった。
………いやいやいや
噓でしょ?
第一話、故に短め且つまだまだなんのこっちゃです。
次をお待ちしていただければと幸いです(*- -)(*_ _)ペコリ