神の手の平から零れた悪心   作:悪役

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神は瞼を下ろす

 

 

───暗雲から生じた雷が不自然な軌道で一直線に自分達に向かって落ちてくる

 

 

「くっそ、野郎があああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

それを斧を担ぐ男、レオが真っ先に挑み、斧を振り下ろす。

竜巻だろうが稲妻だろうが、俺の斧は吹き飛ばす。

概念だからだとか自然現象は無理なんてダサい言い訳なんて許せる程、篝火に所属している俺らは生温くねえっていう自負はある。

そう、雷一つくらいならいい。

 

 

問題はその雷が上から所か正(・)面(・)、横(・)、終(・)い(・)に(・)は(・)下(・)から発生するのは聊かばかり自(・)由(・)過(・)ぎ(・)る(・)

 

 

そのどれもが当然雷速。

理不尽過ぎる仕打ちに歯を砕きそうになるが、砕いているような余裕があるなら仲間を一人でも多く救う方がマシっていうもの。

一つは斧で砕き、下から来たものはステップで躱した。

後は左右から降って……いや、降ってねえな。飛んできているでいいな。

とりあえず来ている雷光に対して意識と能力を伸ばし───雷(・)を(・)曲(・)げ(・)る(・)。

余波で地面と周りの建物が拉げるのを見届けながら、直ぐに次の行動に移すための呼吸を行い───

 

 

「今の、重力ね?」

 

「───」

 

何時の間にか背後を取られている事を悟り、一瞬で心拍が緊張の形に固定される。

 

 

「竜巻に対しても雷に対しても超大な重力で捻じ伏せてるのね。幾らかしら? 10倍? 100倍? ううん、大体3000倍くらいかしら?」

 

凄い凄い、と微笑む気配が背中から感じ取れる。

覚られている……が別に神に対して隠しきれると思っていたわけでもないので問題はない。

今、俺が考えるべきは神が俺の背後を取り、何時でも手を下せるという状態である事。

命の危機を前にした時ほど、その人間の本性が明かされるというのなら、俺が次にする事は

 

 

「………はっ」

 

酷くぎこちない、誰がどう見ても強がりとしか言えない笑みを浮かべる事だった。

その事実に俺はホッとする。

自分の本性によって信念を裏切るようなクソ野郎じゃない事実に、俺は心の底から俺を誇る。

その在り様にくすり、と微笑まれた事を知り、レオは酷く軽く命を賭けて問うてみた。

 

「なぁ、神様。一つ、聞いていいか?」

 

「なぁに?」

 

まるで幼い子供を見守る母親のように問いを許す。

これで、俺が凶器(おの)を持っていなければ、見た目の年齢を除けば、そういう風に見えるかもしれない。

だが、今、俺はこの神を打倒する為に斧を持ち、そしてこの幼女の姿をした神はこの微笑みのまま、当たり前のように俺達を砕こうとしている。

最初から今まで、ずっと微笑みのまま───ム(・)カ(・)つ(・)く(・)程(・)に(・)。

 

 

「あんた、ずっと笑ってるよな。ここに来た時も、戦ってる最中も。そりゃ、戦いを楽しんでるって事か? それとも俺達、人間の無様さだとかなんだとか、ともかくそういったのを笑ってんのか?」

 

「………んーー」

 

一瞬の神の逡巡。

迷い……ではなく、神にとってどう言い表したらいいかという思考の時間だろう。

それを隙と捉える事は出来た。

だが、神の隙というのは基本、人間にとって最高速度でぶち込んだとしても足りない刹那でしかない。

故にわざと隙を放置し、時間を稼ぎ、仲間が立て直す時間に使う。

そうして時間を使って返ってきた言葉は

 

 

「ううん。別にこの程度の戦いに愉しみを覚える事も無ければ、人間の無様さを笑う程、興味は無いかなぁ」

 

「───」

 

 

神々を人間の視点から理解するのは時に難しい。

蟻から見た人間と人間から見た蟻が同じ視座になる事が難しいのと同様に、神々と人間では視点の高さがどうしても違うのは承知している。

どんなに知能が高かったとしても、決して人間と猿が同一の生き物になれないように、神と人間が完全に共感し合うのは難しい事だって分かっている。

だけど、じゃあ、こいつは、このクソ神はーーー!!!

 

 

「───戦いが楽しいわけでもなければ、人間に対して怒りや悪意を持っているわけじゃねえっていうのにぃぃぃーーーー!!! 俺達を暇つぶし感覚で潰すのかテメェェェェェェェェェェ!!!!」

 

 

殺し合いの愉悦で殺されるならまだ分かる。

闘争を求める権能を持っているのに、闘争しないのは無理があるという理屈を納得はしないが理解は出来る。

人間に対して邪な形での発露しか出来ないのならまだ分かる。

邪神としての性による奔放さというなら、ただただ分かり合えずに戦い合うのみだった。

だけど、こいつはどちらでもないと言う。

理由なんて無いという。

人間との戦いを愉しいと思う事も無ければ、人間に対して邪悪である必要も無いというのに、戦いを所望した。

この神は理解している筈だ。

人間が酷く脆く、呆気なく死んでしまう存在だという事を。

それをただ勇気を見せたから武も見せろだなんて、理由にもなっていない理由で命を賭けさせる。

 

 

これを暇潰しと言わず、なんと言う。

 

 

瞬間的に沸点まで上がった怒りはそのまま斧を振り向きざまに薙ぐという形になって発現する。

神が指摘した通り、自らに備わった重力を操る能力をふんだんに使う。

斧を操る挙動は軽く、斧が相手にぶち込まれる瞬間に重さを一瞬で増す。

神の言う通り、その質量、凡そ通常の地球の重力の三千倍。

神によって与えられた能力を倍返しにして返してやる、という意気込みと神の発現によって引き起こされた怒りとこれまでの喪失に対する怒りを全部載せた一撃は───

 

 

 

「───くそっ」

 

 

余りにも可愛らしい指先で止められた。

重力の能力も、自らの体を鍛え上げられた末に獲得した筋力も全部込めている。

今、目の前の空色の髪を揺らす神には間違いなく巨大な重力が叩き込まれているというのに笑み一つ崩す事が出来ていない。

 

 

「何でだよ………何でだよ、クソッタレがぁ……!!!」

 

 

神の一撃に耐える事も出来る。

神の速度に合わせる事も出来る。

決して、防御も回避も出来ない相手ではない。

ただ致命的に───攻(・)撃(・)が(・)通(・)ら(・)な(・)い(・)。

神との戦いで人間に欠けているのは攻撃だった。

どれ程強い打撃も、どれ程鋭い斬撃も、物理に属さない攻撃も全てが神に通らない。

中途半端に戦闘が成立しているからこそ見えてしまう絶望。

最後の一線を俺達は超えれていないという事を残酷にも示す指先に俺は許せなくてしょうがない。

 

 

───そんな俺の絶望すら微笑ましそうに笑う神は微塵も容赦なく指先を押し続け、結果、俺も仲間と同じようにピンボールの如く弾き飛ばされた

 

 

※※※

 

アルマリアはレオ先輩が吹き飛ばされる光景を見た。

重力使いの先輩が自らの能力が暴走したかのように弾き出される光景は自爆のようにも見えるが、実際は彼の能力を以てしても弾かれたという絶望。

 

 

「………っ!」

 

その事実に即座にアルマリアは二振りの剣を握って神に突撃する。

数十メートルの距離を、わずか二歩で0にし、剣を振るう。

自らの最速を注ぎ込み、鋭さを二振りの聖剣に託した一瞬×字の振り下ろしを渾身の勢いで下す。

1秒以下によって発生した×の斬撃の手ごたえは有り───だけど、その実態は

 

 

「───どうして……!!?」

 

 

振り下ろされた刃は二つ共、狙い通りに首に向かって振り下ろされているというのに、その斬撃は首の皮一枚すら切れていない。

聖剣の切れ味に嘘は無い。

既存の最高硬度の物質は当然として、神々が放つ攻撃や物質に対しても一定の成果を出している。

間違いなく現在の世界で、純粋な切れ味だけを語ればトップクラスに位置するという自負がある。

もうこれ以上は無い剣を用意している。

用意しているのに……

 

 

それでも斬れないなんて……!!

 

 

アルマリアは人を、あるいは人型に属する者を斬りたくてしょうがない、なんて言うサイコキラーではない。

だけど、この世は誰かが剣を握らなければ失う事が多過ぎて。

だから握りたくもない剣を握りしめて、怖くて仕方がない戦いの場に出ているのに……肝心の斬らないといけないモノを斬れない。

何の為の聖剣か。

成果も出せない癖に聖なる剣だなんて馬鹿馬鹿しくて……悔しくてしょうがない。

悔し涙が浮かび、視界が朧気になる中、神がてを振りかざす。

ゆっくりと、体を斬ろうと藻掻いている私に対して、決して微笑みを絶やさないまま手を伸ばす。

最初の仲間たちが吹き飛ばされた時、この神は褒めようとしたのに、と嘆いた。

きっと、その時と同じような事をしようとしている。

 

 

褒めようとして、褒められる事も我慢できない人間を見て、残念、と

 

 

悔しい、本当に悔しい。

私だけが弱いと見られるだけなら耐えられる。

言う通り、私は弱く、足りない所なんて両手の指を合わせても足りない所だらけだから。

だから、弱いと言われても受け止められる。

 

 

だけど、神は何時も私達を一纏めにする。

 

 

私の不出来を皆に適応する。

私の弱さを人類の弱さと見做す。

そんなわけがない。

私はまだ若いから全ての人間を理解しているなんて豪語はしないけど、少なくとも篝火に入ってから弱い人間なんて見た事が無い。

それをたかが神に勝てないからで弱い扱いする相手に見下されるなんて───

 

 

「───くそったれぇ……」

 

 

思わず口に出したのは先輩がよく漏らす汚い言葉。

でも、その言葉こそが一番暴れまわる神に対してぶつけてやりたい一言(ほんね)。

……だというのに、目の前で漏らした渾身の負け犬の遠吠えに対してすら一切顔色変えずに手を伸ばされる現実に反射的に衝撃に対応する足る為に首を竦め

 

 

「───きゃ!?」

 

急に腰に糸のような何かが括りつけられ、後ろに引っ張られる。

かなりの勢いで引っ張り上げられる私は目の前の神のあら、という残念そうな声を聞き届けられながら後ろに弾かれるように引っ張られる。

釣竿の先の餌の如く引き戻された後、後ろへの衝撃を二人ほどの腕が受け止め、支えてくれて、ようやくこれらが篝火の仲間達の助けだった事を知る。

本来で言えば、安心と同時に礼を言う所。

だけど、私はその真逆の感情に支配されていた───だって、周りの仲間……私にとっての先輩たちが、老若男女問わずに皆、私に向けてしょうがないぁ、という笑みを浮かべていたから。

 

 

「なぁにやってんだアルマリア。さっき吹っ飛んだレオみたいに突っ走って。そういう馬鹿はレオのような筋肉馬鹿に任せとけ」

 

「全くもってその通り。あのゴリラは可愛い末っ子に悪影響ばっかり与えますね」

 

ちげぇねえ、異議なしと周りも含めて苦笑を浮かべて冗談を言える空気に益々私は不安を膨らませる。

冗談を言うのはいい。

心が折れていないかの確認をしていると思えば、幾らでも受け入れられる。

この笑みの後にさて、こっからどうするか、と未来に対してどうするか、という相談をされたのならば、杞憂だった、と私も笑う。

そんな希望を

 

 

「じゃ、アルマリア───貴(・)方(・)は(・)も(・)う(・)下(・)が(・)り(・)な(・)さ(・)い(・)」

 

仲間から齎された言葉こそが神の存在以上の絶望の言葉であった。

───神に対しての討伐数が0の篝火。

攻撃が通じない以上、最後はどうしても嬲り殺しにされる中、誰もが嫌がり、しかし最後には選ばざるを得なくなる酷薄の選択肢……古来より殿軍(しんがり)とはつまり、死兵(いけにえ)である事実。

思わず神を前に消耗していた体を一気に動かして立ち上がり、声を張り上げた。

 

「………っ! まだ全然大丈夫です! 全然…! 戦えます! 剣を振るえます!!」

 

「そりゃ結構。なら民間人も含めて十分任せれそうだ」

 

張り上げた根性論は、この後、私に託される任務を理由にされた。

そうやって誤魔化されるのが如何にも子供扱いされているようで、私は我慢できない。

それならまだ先程の神の一撃を受けて傷を負った方が遥かにマシだった。

私の態度から悟ったのだろう、周りの先輩達はあーと少し考える素振りを見せてから、一人代表して男の先輩が前に出る。

 

 

「いいか、お前。今、私がここで逃がされるのは弱いからとか女だからか、とか思ってんだろ?」

 

「………違うんですか?」

 

「ああ違う───人間の財産、金髪巨乳を残すためだ」

 

 

代表の先輩は周りから一斉に殴られた。

 

 

「テメェ、この勇者がぁ!! 金髪美少女で妥協するかと思ったら本能に忠実じゃねえかこの野郎!!」

 

「うるせぇぞヘタレ共ぉ! 人間が三大欲求に正直に生きてなぁにが悪い……!!」

 

男達の熱い憤りに対して女性の先輩達が冷たい眼で男達を見る中、今度は女性側から代表して前に出て、

 

 

「馬鹿共は置いといて大丈夫よアルマリア───大体短命なのは馬鹿って相場が決まっているから」

 

「言いたい事は分かるんですけど、一応、それが問題だからシリアスしたつもりなんですが……」

 

その返しに女性の先輩はほら、と笑い

 

 

「そこで笑える理由を持ってないでしょ? だ(・)か(・)ら(・)よ(・)」

 

 

アルマリアは思わず、え? と首を傾げた。

笑う理由を持ち得ないから私は逃がされる? そんなの無理がある。

命を捨てると覚悟を決める状況で笑う事なんて出来る筈がない。

そんなの強がり以外の理由があるだろうか? 今だってこの話している間、他の先輩が必死に時間を埋めるように突撃している状況で?

 

 

笑えるわけがない───死にたい人間が神を相手に心が持つわけがないのだから。

 

 

そんな私を見て、周りの先輩達はやっぱり笑う。

あの神のように貼り付けられた仮面のような笑みではなく、分かっていない私をそれでいいんだよ、と受け入れる人間らしい笑みのまま、彼らは言葉を重ねた。

 

 

「いいか、アルマリア。俺達は死んでもいいから最後まで残るわけない───俺達はかつて分からなかった理由を、今度はお前に任せる為に残るんだ」

 

言葉の意味を理解して息をのむ。

……当たり前だ。

今、こうして生きて戦っている先輩はかつては私と同じように誰かの後輩だった。

神を相手に倒した数が0である以上、当然、かつての先輩が戻ってこれたかは正しく神の気まぐれ。

戻れた人もいたかもしれない……が、その希望的観測は神に委ねた結果論だ。

神だろうがなんだろうが、他人に命を文字通り握られた状態で"戻れた"、と言えるかは定かではない。

だというのに

 

 

「それにお前、頭が固いんだよ。"どうにもならない"っていう悲壮感が顔に貼りついてるぜ───俺達のような"どうにかなんだろ"ってくらい思える馬鹿にならないと任せられないわ」

 

 

違いない、と皆が笑う。

……確かに私には分からなかった。

この状況で皆さんが笑って、自分達の命を託そうとする理由が。

強がりである事は分かっても、ここで強くあろうと出来る彼らの強さが私には分からない。

それなら一緒に生きて帰ろうと願ってしまう私の甘い訴えを、切り捨てるのではなく、自分達もそのつもりだ、と言い切れる彼らに、私は届いていない。

 

 

「未熟、だなんて思わなくていいわよアルマリア。こんな事、本当は預けたいようで預けたくないバトンなんだから」

 

内心の悔しさにすら先輩は苦笑して否定し、立ち上がる。

膝を付く私とは真逆に、誰もが神に向かって抗うという意思表示を揺るがさない。

凄い、と思わず唇だけが音を鳴らさず奏でる。

どれだけの人が死を前に笑みを浮かべ、武器を持ち、後輩を庇う事が出来る。

生還という席を欲しても何ら文句も言えない。

私がまだスクールに通う程若いからなんて理由にもならない。

 

 

生きたい

その願望は20,30、あるいはもっと年を重ねた人物であったとしても陰る事が無い最大の願いなのだから

 

自らの渇望を折って、自らの信念を切望する神狩りの姿───神が殺せないからなんだ。

ここにいるのは間違いない万夫不当の英雄達。

憧れるには十分過ぎる命の輝き。

 

 

「───ふぅん?」

 

その姿に、百を超える妨害、総てを微笑みを持って迎え入れ、砕き通した神が裁定する。

命を愛でる在り様は正に神にしか許されぬ生物の上位者としての立場。

例えそれがこちらに死を願う刃であっても、少女の形をした神の愛は変わらず。

 

 

「───綺麗。その刹那(かがやき)だけは神々では真似できないわ。殺意という悪を謡いながら、大事な人を守りたいという善を飲み込んだ誓いでもある。ん……いや、善じゃないのかしら。そうする、という我を決めたのかな?」

 

「身勝手って言ってくれてもいいぜ神様」

 

「かもしれないわね───でも馬鹿にはしないわ。神(わたし)を前に軽口を出しながら命を賭す勇者だもの。差し出された命(モノ)に泥を塗る行為なんて───」

 

 

勿体無いにも程がある、と神は微笑んだ。

勇者の魂を供物として当たり前のように受け入れると神は言う。

 

 

誰かの命を奪う事を何とも思わない神の所業───神(・)? こ(・)れ(・)が(・)?

 

 

それはアルマリアの心に生まれた禁忌の疑問。

……いや、あるいは篝火に、または神と対峙した者がその在り様に思わず、イメージしたものかもしれない。

神を突き詰めれば突き詰める程、何故か対義が成立する矛盾。

極め過ぎた善が時に息が詰まる程の牢獄になるように。

赦された悪がまるで自由に見えてしまうように。

あらゆる生命、信念、法、理を愛でる立場である神は同時にそ(・)れ(・)に似通るように人間には見えてしまった。

だから、その言葉を自然と吐き出した。

 

 

「何が……何が神様ですか……!!」

 

それはありふれた負け犬の遠吠え。

きっと神様が生まれる前から使われた定型文。

何の魔法にも、奇跡にも届かない言葉。

 

 

 

「人の命を啜って愉しんでいるのなら、そんなの───と変わらないじゃないですか……!!」

 

 

「──────」

 

 

何の意味も持たない筈の言葉。

断言する、この言葉に何の力も無い。

神は本物として現れ、力を実現させてきたが、この言葉は相も変わらず何の力も無い、ただの言葉だ。

どの神に同じ言葉を告げても、何の意味も持たないだろう。

 

 

───しかし、この神だけは違う。

 

 

何の奇跡も帯びない言葉が神の瞳を揺るがせた。

何の意味も持たない言葉が神の動きを停止した。

 

 

それは言葉を発したアルマリアはおろか、篝火にすら予想出来なかった空白であり───誰もが神の瞳に血(・)の(・)色(・)が一瞬、浮かび上がる事を見逃し───

 

 

「───え」

 

次の瞬間、少女の形をした神があっさりと中空から墜ちた。

これまで使っていた浮遊の力の一切を消失させ、さりとて優雅にゆっくりと墜ちるのでもなく、本当にただ重力に従って墜ち………そのまま地面に頭から落ちた。

地面に激突する姿に何らかの助けは見えない。

神域によって再現された大地はコンクリートだが、これまでの戦いの余波で大地が剥き出しになっている。

剥き出しの大地に墜ちた神は泥によって汚されてさえいる。

 

 

あり得ない事が起きている。

神が自らの意思無しに地に伏せるなんてこれまでの篝火の歴史に存在しない

 

 

それ故にアルマリアはおろか、歴戦の先輩達ですら動きを止めている。

あらゆる神威に襲われても心折れず戦える篝火の行動は神以上に止まっていた。

 

 

「───何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

その状況を一喝する叫びが空間を打つ。

反社的に大声の元を見るとそこには血達磨になっているレオ先輩が立っていた。

しかし、どれだけ血が抜けてもそれを補って余り得る意志の強さが眼光となって宿り、それらを口に出して叫んでいた。

 

 

 

「チャンスだ……!! 神が気絶している!! ───神(・)殺(・)し(・)の(・)チ(・)ャ(・)ン(・)ス(・)だ(・)!!!」

 

 

それは人類の最大の禁忌にして篝火の悲願。

神の討伐数が0である篝火の希望。

いつの日か、と願いながら、未だ誰も届いていないこの世界における願望の終着点。

それが今、目の前に転がっている。

よく分からない神の不調(アクシデント)という手柄とは言いづらいし、聊かばかり正当性が無いけど……分かっている。

今、泥を飲んででもここで為して希望を生み出す事にどれ程の価値があるかを私達は知っている。

 

 

流された血と涙を思い、私は、篝火は駆け出した

 

 

誰もが神への殺意を宿していた。

誰もが過去に思いを馳せていた。

 

 

───だから、その中で唯一、倒れ伏せたモノに対して救いを求めていた者だけがイレギュラーに停止する事無く、殺意に曇っていないが為、身を投げ出せていた。

 

 

「───止めて!!!」

 

 

音速で動く篝火(わたしたち)が武器を持って動き出すよりも早くに倒れ伏した神に身を全て擲つ姿に全員が思わず咄嗟に身を止めた。

篝火が咄嗟に身を停止出来たのは、擲った者が人だったから。

その中でアルマリアは唯一、貴方は、と思考を回せたのは、擲った者がアルマリアがこの場に来た時に最初に声を掛けた被害者の一人だったからだ。

 

 

 

白……否、銀髪の髪と赤い眼を宿した肉体年齢は凡そ自分と変わりないように見える少女が、倒れ伏している神の体を庇うように自らの全身で覆い、抱きしめていた。

 

 

一瞬だが、私以外の篝火の視線に間違いなく怒りが宿り、視線を介してその少女を焼いた。

その怒りは決して安くない。

神を殺そうとして藻掻き、果てに人の域を超えた者達の怒気。

易いものではない。事実、怒りの集中砲火を受けた少女は分かりやすく震えた。

それだけで少女がこのような鉄火場に慣れた者ではない事が判明した。

だからか、暴れそうになる焦りと怒りを抑え込み、先輩の一人が叫んだ。

 

 

「───そこをどけ! それは神だ! それも人を救う神じゃない!!」

 

 

その言葉は恐らく銀髪の少女が神に対する信仰を持った者だと思ったのだろう。

こんな風に人を容易く翻弄する神であっても……やはり人間は弱いというべきか。

神に縋る者なんて幾らでも出てくる。

そうした人間の一人だと思い、剝き出しの事実を告げ、最(・)後(・)通(・)牒(・)を告げたのだろう。

だけど、返ってきた言葉は

 

 

「───違う……! あんな……あんな腐れ神なんてどうでもいい……!」

 

明確な神の否定。

嘘には見えない。

少女は心の底からあんな身勝手な神は死ねばいい、と叫んでいた。

なら、何故その死を迫る刃を止めて、止めて、と叫ぶのか。

篝火の者達は神殺しに執着して目が曇っていたが為、再び怒りに身を焼かれていた。

失った者を思えば、それはどうしようもない激情だった。

 

 

 

───だから、この場で一番、後輩である(執着がまだ薄い)アルマリアが思考を巡らせた。

 

 

銀髪の少女は神なんてどうでもいいと叫んだ。

銀髪の少女は倒れ伏した神の体を守った。

 

 

吐き出された言葉と擲つ体による矛盾が成立した状況───なら、それらが矛盾しないとするならば?

 

 

銀髪の少女は神なんてどうでもいいと叫んだ。

銀髪の少女は倒れ伏した神の体を守った───体(・)を(・)。

 

 

「───まさか」

 

 

理解に至り、両手に握っている聖剣を握る力がほんの少し緩む中、銀髪の少女……アルマリアは知らないが、アマル・ティアと名乗る吸血鬼の少女が震えながら懸命に許しを請うように言葉を続けた。

 

 

「………神、なんてどうでもいい。あんな盗人猛々しい腐れ神なんて知った事か……」

 

 

吐き出された言葉には、正しく吐くように綴られた怒りが籠められていた。

私も、きっと篝火の先輩達も何度も聞いた理不尽に対する怒り。

その中で必死に自分の体で覆うように神を───否、神が宿るそ(・)れ(・)を庇った。

 

 

 

「だけどっ……この子は、この子は違うの……私が、必死に生み出そうとしたこの子は違うの………!」

 

 

そ(・)れ(・)は空色の髪をした、染めたりしなければ普通はあり得ない髪を持ち、体は酷く人間的で、顔立ちは美麗でありながら、その姿形(フォルム)に似合った幼さと愛くるしさを両立させた少女の顔立ち。

今は眠る様に目を閉じながら、何時でも目をパチクリとさせて起き上がりそうな───とてもじゃないが作(・)り(・)物(・)に(・)見(・)え(・)な(・)い(・)。

 

 

 

 

───それでも、そこに眠るのは作り物であった。

まるで泡沫の夢を見るが如く、機械人形の少女は神の器となって瞳を閉じていた。

 

 

 

 

 




遅筆申し訳ない……。
だけど、今はただ速度を優先するよりも着実に一話一話更新する事を優先させて頂きます……!

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