アマルは狭い部屋に椅子に座って向かい合っていた。
部屋の内装は無機質且つ剝き出し。
灰色の、小さな机と椅子を入れれば、それだけで部屋に余裕は無い。
その味気無さに加え、窓すら無いと来た。
仮にここで暮らせと言われた場合、とてもじゃないが冗談じゃないと批判が殺到する部屋だろう。
しかし、その部屋の名前に尋問室と付けば、これ程、名と雰囲気が合致する部屋は無いだろうな、とアマルはどうでもいい事を思った。
尋問
そう、アマルは今、尋問を受けている
部屋の奥側の椅子に座らされ、その対面する形式で少し苛ついた表情で向かい合う男性……レオと名乗った者と自分に真っ先に大丈夫ですか、と駆け寄ってくれた金髪の少女、アルマリアと名乗った子が少し居心地が悪そうに座っていた。
場所は当然だが変えられた。
篝火……神に対して立ち向かい、神の理不尽を前に人を救う事を理念に行動する組織が本拠地の一つとして扱っている孤島にこうして施設を建てているらしい。
恐らくだが、いざという時、誰も巻き込まない場所を選んで、という事なのだろう。
そうして、私は容疑者……ではないが、今回の騒動における事情聴取を聞く為に連れ去られた
無論、完全な建前だ。
レオという男性が視線で示すように、彼らは千載一遇のチャンスを邪魔した私に対する追求を行いたいのだろう───私の横の席に座らせている、空色の髪が特徴的な機械人形についてを。
今も動かない少女を私は両腕で抱きしめていた。
愛しいから、と言いたい所だが、実際は彼らに対して少しでも自分を盾に出来るようにする為だった。
当たり前のように音速超過の動きを発揮する彼らを前に私程度の能力では見てからではどうにも出来ないから、常に盾にするくらいしか方法が無いのだ。
その様子に男はふぅーと分かりやすく不満だ、と意思表示をしながら、ようやく言葉を紡いだ。
「………先に、前提を言わせて貰うぜ? 俺は今でもあんた事、その器をかち割った方がマジでいいと思っている。あんたから見た俺はさぞ卑劣漢として恨んで呪われるだろうが構いやしねえと心から思う───これまでずーーーーーーーーーーーっと我慢してきた怒りを、張らせれる機会が巡って来たと思った……いや思っているからだ」
隠す気も無い意思表示にアマルは何も答えれる事はない。
何せ、詰められているアマルですら心の底から彼の言葉に同意しているからだ。
篝火の活動についてアマルは何もかも知っている、とか言える立場ではない。
だから、実はとか秘密裡にとか言われたら分からないのだが……残念ながら噂通り彼らほどの超越者であっても、神を倒した事は無いというのは本当のようだ。
でなければ、こんな風に私に対して怒りを向けて、邪魔をしやがって、なんてチクチク言いはしないだろう。
勿論、それを器が小さいとか、厭味ったらしいとは思わない。
これまでに流れた血と涙を思って怒る彼の怒りが器だ嫌味だなんて言えるわけがない
彼の怒りを全て受け入れるには、私は沈黙するしかない。
肯定も否定もする資格は、少なくとも今の私にはない。
レオもその態度に少しは溜飲を下げてくれたのか。再びふぅーと息を吐き
「───だから、今、あんたの話を聞いてるのはこの馬鹿の甘えだと思え」
パン、と軽く隣にいる金髪の少女の頭頂部にチョップを入れ、うっ、と傷を受けた後───一瞬、少女の手がブレたと思った瞬間、気付けばレオの首から上が天井に突き刺さった状況に変貌していた。
余りにも一瞬の修羅場変更に思わず、ちらりと横のうちの子を見たが目をつぶっていたのでセーフ。
成程、超人という事はつまりボケとツッコミのレベルも超人クラスになってしまう弊害があるという事か……としみじみと思っているとレオが自力で天井から脱出し
「くらアルマリア……ツッコミっていうのは人を殺すっていう意味は含んでないって何度言やわかるんだこら……!!」
「だって急に頭叩かれたからつい……というか先輩も反応出来ないのダメじゃないです?」
「くそっ、この天才児が……」
とりあえず二人の関係値は見えたかもしれない。
……後、改めるわけでもないが、アマル・ティアの性能ではどう足掻いてもこの二人……いや一人一人であっても勝ち目がない事もよく分かった。
「だから改めて言うぜ。あんたが今、こうしてまだ客扱いしているのは───」
「………せめて真実を話してもらうから、でしょう? 分かってる、それくらいはちゃんと話す」
我が儘を願った分、ここまでの経緯を言うのは酷く当然の事だ。
別段、明かして問題や恥ずかしい事はない。
ただ、別の問題がある。
「分かっている事は話す………話すけど、隠しているとか、騙そうとしている、とかそういうのではなくて、私の視点でも本当に分かってない事の方が多いの。それだけは留意して欲しい」
これは本当に本当だ。
私は当事者の一人ではあるが、大事な所に置いて、ほぼ何も分かっていない。
例えば、私は何故この子が神の器になったのかさえ分かっていないのだ。
これが推理物の物語なら噴飯ものの情報しか知らない、穴だらけの内容。
そこが一番知りたい所なのに、という部分がほとんど"私も知らないけど?"ってなってしまうのだ。
告げた内容に二人とも一瞬、訝しんだが、直ぐに一旦頷いて話を促した。
その事に私も一度頷く。
どこから話したものか……と思ったが、やはり大前提からだろうと思い、私は口を開けた。
※※※
「私は一応、吸血種………という事になっている」
銀髪の少女の姿をしたアマル・ティアという少女が自らの出自を話すのに嫌に懐疑的だ。
彼女が吸血種である事は既に調べがついている。
その程度には篝火にも伝手がある。
勿論、伝手以外にも先輩達の中にそういった事を探るのが得意な人もいるので、ダブルチェックは完璧である。
なので、そんな"なっている"と言うような所では無いとアルマリアは思い、首を傾げる。
その態度に気付いたのか、アマルという少女は苦笑し、その理由を続ける。
「吸血種、と言ってもほとんど血を吸う必要性が無いの。吸血衝動みたいなのも無いし、よくある吸血鬼あるあるもほとんど当て嵌まらないか、軽度過ぎるようなものなの。自分で言うのもなんだけど、吸血鬼というより血も飲める程度のって感じ。異能云々も貴方達に比べれば、比べるのも烏滸がましいくらいのしょぼさ」
あっ、と私は理解に繋がった事を単音で示した。
用は吸血種と呼ぶには余りにも血を吸う必要性が無い自分がそれに該当するのか、という事。
確かに血を吸う鬼と血も吸えなくもない人間では、意味が大分違う。
前者は血を吸う必要性がある生物だが、後者は血も飲める飲み物に入るだけのほぼ人間。
それで吸血鬼と同列にされるのは聊か不満……というより血が飲める事しか共有事項が無いんだけど、という事なのだろう。
吸血鬼あるある……太陽の光に弱い、とか銀が弱点とかそういう系もほぼ当て嵌まらないのなら、確かにそれはもうほぼ普通の人間と変わらない。
何なら少量なら人間だって血は一応飲めるわけだし、本当にあんまり吸血種とは言えないのだろう。
でも、何でそんな自らの種族特徴を今、ここで話すのか。
その湧いた疑問もまた彼女の口から明かされた。
「………でもね、その代わり、便利なようでとても生き辛い事に特化していてね───ある時から
……思わず、息を吞む。
隣のレオ先輩も一瞬、アマルさんには気づかれない程度だが呼吸が一拍遅くなったのを感じ取った。
そこでアマルさんは私の方を見て、笑みを浮かべる。
その笑みの理由は分からないが、笑みの形は分かる。
それは人間が酷く疲れ切った時に形作られる、諦めに似た笑み。
しょうがない、という言葉で割り切られ、捨てられた小さな絶望の形。
「貴女とそんなに変わらない姿でしょ? ───でもね、実際はもう普通にお婆ちゃんくらいなの。だっていうのに何時までもこんな喋り方で威厳もクソも無いっていうね」
アマル・ティアという少女───否、本来は老婆と呼ばれてもおかしくない年月を生きた少女のまま自らの不老を嘆くように苦笑した。
……それはつまり、ご家族はおろか下手をしたら少女と親しかった同年代の者達は既に彼女を置き去りにしている者が多いという事。
いや、そうでなくても……何時までも変わらない者を見る側も、何時までも変われない自分を見せつける側も心苦しさを感じてしまうのでは無いだろうか。
そして、それは神がいる事になってから、余りにも当たり前のように発生している悲劇の一つでしかない
多くの不可能が可能にされてしまったこの世だが、可能になってしまった不可能の内容が全て幸福をもたらすわけではない。
現に目の前の女性のように、"不老"が実現されてしまったが故の擦れ違いが起きてしまっている。
その事実にアルマリアは歯嚙みするが……
「───悪いが、あんたの事情に同情する為に話を聞いてるんじゃねぇ」
先輩の言葉に思わず、私は立ち上がり、先輩を睨む。
「───先輩っ。その言い方は余りにも───」
「いいの。確かにちょっと同情を誘うようなやり方だった。ごめん」
私の口から吐きだされかけた怒りの言葉を本人が遮った。
思わず、アマルさんの方に眼を向けるが、本人も苦笑するばかりであった。
……こんな時に苦笑する人ばかりだ、とアルマリアはその事実に湧き上がる思いに蓋をしなければいけない理性という存在の必要性が分からなくなりそうだった。
「ごめんね? でも、前提の話として必要だったから」
そう言われてはアルマリアは何も言う事が出来ない。
拳を握るだけ握って、私なりに不満ですとアピールする為にちょっとだけ乱暴に椅子に座る。
その事に隣のヤンキー先輩が呆れたように肩を竦め、正面のアマルさんが苦笑を深めたのに思わず、口だけで子供扱いしてっ吐き捨ててしまう。
※※※
「まぁ、それでこれのせいであんまり人付き合いとかしんどくなってね。同じ吸血種の人達とならって思ったけど……血も吸えないのに、
一瞬、レオはその理由に思考を巡らせ、数秒後に理由を悟る。
……そりゃそうだ。吸血種=全員がその特徴を受け入れているわけじゃねえか
今では大分マシだ───神によって
当たり前だが、こんな超常的な事や本の中にしかいなかった架空の生物、特徴があるなんて直ぐに受け入れられる筈がない。
差別、区別、恐怖、暴動
どれが起きても何も文句が言えねえ事体だっただろう……それを納めたのも神の一声だった、という一説があるのだからろくでもねえ
神様によって管理された地球という名の虫籠。
だからといってすべての虫の心が納得いくかは話は別……と思いたい。
ともあれ、その中でアマル・ティアという女性の体質は確かに同じ吸血種の者と寄り添い合えるかと言えば、半々といったところ。
何せ、血を吸う必要性が無い不老長寿の者を自らと同列に出来るかっていうのは吸血鬼側にも言える事だ。
何せ、アマルには不老の苦労を分かち合う事は出来ても、血を吸う事の苦労までは分かち合えない。
なのに、アマルから一方的に不老の苦労話だけ聞かされるのは場合によっては
そう思考を進め、そこで気付く。
「………成程な。だから、あんたそれを造ったんだな?」
話を進める為に先回りした思考から弾かれた言葉をアマル・ティアに告げる。
甘すぎる後輩は首を傾げ、問いを告げられた女性は頷いた。
「そうだね、うん………ロボットなら……機械なら私の
アマル・ティアの能力の主眼が不老、死に難さであったとしても、それは心の強さを支えるものではない。
生きたいという願望を支えるのは力ではない。
生きる喜びこそが生を輝かせる。
ロボットなら、本当に彼女の孤独を埋めれていたかは定かではない。
だけど、一人では生きたくないと思ったから、造り上げたんだろう。
「一人で手探りで作ったからもう大分時間をかけてね……一応、言っておくと違法な方法とか、あるいは何か凄い神秘を込めて、とかそんなのは取り入れてない。本当に私が出来る可能な範囲でこの子を造った………こんな精巧では無かったの……」
アマル・ティアは抱きしめている子供の形をした機械人形を悲しそうに見る。
その言葉にレオは目を細める。
「あんたが完成させたんじゃないのか?」
「完成間際まで手掛けたよ───途中で奪われてさえなければ」
ドロリ、と怒りの毒が後半の言葉に塗りこめられていた。
許せない、という未だに焼き付いて、終わった事である筈なのに勝手に終わらせるな、と叫びたくなる程の激情。
見れば、少女を抱きしめる手が何時の間にか握り拳になっている。
「………先に、言っておくと。誰というかどんな集団に奪われたかっていうのは分かってない。本当に、本当に唐突に私の家に上がり込んだかと思えば、無理矢理この子を奪っていったから」
「集団か」
「うん。来た連中だけしか見てないけど、人種も何もバラバラだった」
まぁ、もう人種なんてもの、意味はないかもね、とぼやきの一言には同意するしかないが、それが主題ではないので捨て置く。
「心当たりはねえのか? 例えばそれに対して使った部品にとんでもねえのが混ざっていたとか」
「部品にケチは付けなかったとはいえ、普通の家電量販店で得れる物に混ざってたなら、もう私にはどうしようも無かった気がするけど?」
つまり、心当たりは無し。
嘘をついているかどうかは一旦さておき、この機械人形には摩訶不思議な素材等は関わっておらず、アマル・ティア本人にも神秘を利用した覚えは無し。
つまり、その後、出来上がったであろう機械人形の出来映えは常識の枠に当て嵌まるレベルの出来……仮にとんでもなく素晴らしい物が出来上がっていたのだとしても、人類の範疇に留まる物だったという事。
わざわざ狙われるには、と本人も思っているといった所か。
なら、別のツッコミ所から突くべきだろう。
「けど、あんた───ここにそれがいるって事は取り返した……つまり奪ってきた集団の拠点を知っているって事じゃねえのか? なら、あんたを襲った集団について一つや二つ、知れた事くらいあるんじゃないか?」
そう聞いた時、初めて目の前の女性から見た事が無い表情が浮かんだ。
失笑だった。
ただし、余りにも愉快な様を思い出した、という様ではない。
最早、笑わなければやってられない、という事態に出くわした時に浮かべる歪み方。
思わず眉を歪めると、その笑みに沿うた声色で答えを聞かされた。
「そうだね、本当だったらそうだったんだと思う───見つけた場所が
※※※
アマルは滅び、という単語をあんまり易く使うものではないと思っている。
余りにも不吉だし、場合によっては大袈裟に捉えかれない単語だからだ。
無論、震災の直撃を受けたりした際に、当事者がそう受け止めてしまう事を責めるものではない。
ただ、滅びと形容するともう何もかもがお終い、のように感じてしまう、というだけだ。
───だけど、あの光景はそんな私でも滅びと告げる以外が出来なかったのだ
ある裏技を使い、アマルは奪われたあの子を取り戻しに向かった。
場所は普通の住宅街。港区だとかもっと秘された場所とかではなく、少し閑散とはしているが、余りにも普通過ぎて隠しきれているのか、と思いながら、私は本当にどうやって取り戻すかを考え……いや、恐怖していた。
当たり前だ。
私は少しだけ特異ではあっても特殊ではない。
潜入だとか戦闘だとか、そういった本の中の人間のような能力も無ければ才能も無い。
どうやって取り返せればいいか、見当も付かず、縮こまって───次の瞬間、目の前にあった住宅街全てが吹き飛んだ。
「───」
ギリギリ。ギリギリだった。
後、もう数十歩。
時間で換算すれば一分か、二分程の距離。
勇気を出して踏み出していたら自分は同じように衝撃で吹き飛ばされていただろう。
臆病で無力だったから、アマル・ティアは生き残れた。
そして目の前の光景に広がったのは滅びの光景だった
全ての家屋が、総ての命が、推し潰され、存在を消されていた。
残った炎こそが全てを焼き払ったという証明───これを滅びと言わずになんと言う。
そんな滅びの中心で無傷で浮く空色の髪を靡かせた存在を神と言わずなんと言う。
神の姿は神秘的で蠱惑的で……そして面影があった。
私が形作ろうとした物に
話し合う事を夢見た者に
それら全てが奪われたのだと知ったのは神が全てを包むかのように微笑みを浮かべた時だった。
機械が、あるいは人が形作るには余りにも透明な笑みを見て、自然と相手を神だと
「………それが私の知ってる全て。後は、もう知っている通りだと思う」
ふぅ、とアマルは吐息を吐いた。
不思議な事に真実を吐き出した私は少しだけスッキリしていた。
現実は一切何も変わっていないというのに、酷く現金な事に起きた事をようやく吐き出し、共有出来る誰かが出来たという事がとても心地良く感じているらしい。
「………あの、アマルさん。それで終わりだと、じゃあその時、貴方はあの神と対峙したんですよね? どうやってあの神を……?」
「………ああ、ごめん。大事な所だと思うけど……それも今の状態と一緒なんだ───急に神の意識が途切れたのよ」
彼女は尻餅をついて振るえている私を見て、近寄り、睥睨し、微笑み、私の名を出した。
『初めまして、アマル・ティア。私への捧げもの、中々気に入ったわ』
神は微笑みながらまじまじと自分の手指を、足を、神を見た。
本当なら、その体に芽生える筈だったモノが手にしていた物を自分の物へと塗り替えるように。
何一つ恥じず、悔いも無く、舐る様に与えられた物を自らの物と公言して止まない神の傲慢。
傲慢こそが神の本質であるならば、神のみは赦される………赦される?
まだ生まれていないモノを身勝手に奪う
奪われたのが機械人形だから、とか考える気は一切なかった。
その簒奪者として驕った姿に泥と罅を与える事しか考えれない短絡的な頭は一瞬で叫ぶための呼吸を無意識に行い、吐き出した。
「───その子のモノを奪うな
我ながら不遜な物言い。
信心という物を育まなかった事。
奪われた後、心身を休ませる余裕が無かった事。
大事な子を奪われてムカついていた事。
つまり、色々とストレスが溜まった所を爆発してしまっただけなのだろうけど………何故かその叫びを生片神は少し瞳を丸くした後、バタンと倒れたのだ。
思わず罠かと疑ったが、暫く経っても意識を取り戻す兆しが無い為、恐る恐るの形だがこの子を取り戻し、そして逃げ出した。
向こうからしたら、嘘だのなんだの考えないといけないだろうけど、私からしたら本当に言える事は全部言えた。
嘘は本当に何一つついてないのだ
この子がどうして連れ去られたのか、とか。どうやってこの子が神になったのか、とか。
そういった本当に知りたい事は全部空白の回答。
あの爆心地に生存者は多分居ない事を考えると、真実を知っているのはあの腐れ神と………今も眠るこの子くらいだ。
この子の目元にかかった髪を手で除けながら、この子の事を案じる。
願わくば眠る様に目を瞑っている体のように、心もまた安らぎの中であれば、と願い……アマルは自嘲する。
機械人形に心があるのか、という美しくも残酷な疑問
そんな人間には知る事が出来ない時に使われる定型文こそが私達の敵という皮肉に気づいた私は笑うしか出来なかった。
※※※
人間の概念で語るとすれば闇。
見渡す限り光が見えない場所で
枯れる事なく吐き出される激情に際限は無い。
闇と呼ばれた場所もまた闇ではなく、そもそもここは世界のどこでもなかった
天国だとか地獄とかいう言葉遊びでもなく、死後の世界とかでもない。
闇と分類したのはそもそもここがどこかではなく、形も意味も無い場所とも言えない虚空だからだ。
故に物質はおろか意志も何もない。
だから
無価値な
勿論、吠え立てていると言っても、実際に音を出しているわけではない。
そう表現するのが近いだけであり、実際は音にも形にもなってない無形の咆哮。
意志も何もない、というのに、その激情だけは明確。
勿論、どれだけ明確であっても、無形である
………だが、逆に言えば、形が無いという事は際限が無いという事
肉体の枷も、常識も、質量も、世界の枠組みすらないのならば、その
それもまた無形である以上、無限であっても無価値の評価は覆る事は無いが……関係ないと言わんばかりに激情は積み重なる。
無価値な激情が海の果てを超え、空を突き破り、
一瞬たりとも風化せず、休みも無い
当然、色という概念も無いそこで染め上げても、意味は持たない。
───無価値な
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