ウザ絡みされる聖園ミカ
普段よりゆっくりと館を歩く。今見えているあれもこれも、私が預かると思うとわくわくしちゃう。どう飾ろうか、どんなイベントをしようかと妄想が止まらない。
属する「パテル分派」にて次期生徒会長の候補として指名された私は、かなり上機嫌なのだ。
さっき受けた説明によると、首長の候補は他にいないらしい。じゃあもう私で決まったようなものだ。生徒会なんて柄ではない気がしていただけに、それでもティーパーティーでの活動を頑張った甲斐があるなぁ。
……でも、決して"相応しいから"選ばれたのではないことはわかってる。家柄だとか人脈だとか、そういう"私じゃない部分"を他の子と比べて品定めされて、無難なお飾りになれそうなのが私だっただけ。政治力がある子はむしろ候補から外れて引き続き得意な事をしている。パテルの生徒会は保守的で硬直しているから、外の派閥に強く干渉される「首長」の立場はむしろ"暇な人"(かつ外に出して恥ずかしくなかったりそれなりに外で影響力が持てそうだったりする人)がなるものだ。
でも、それでも私が首長になれるんだ。なんだかんだで名目上は一番偉くなれるんだ。
これから何かおっきい事をしたら、無難なだけの私じゃないと思ってもらえるのかな。「あの代は"時間のある人"がいなかったのでぇ、無理を言って"普通"の方に首長になってもらったんですってぇ」なんて、言われたくないな。何か誰にもできない事をしなくちゃ。
そうは思っても、当然首長になってやりたい事は無い。だって降って湧いた立場だし……
これはよく考えたらピンチなかも……?
でも幼馴染のナギちゃんも首長を目指してあれこれ頑張っていると噂に聞くし、悲観するのもまだ早いと思いたい。あの子なら政治も得意だし性格も素直でかわいいし何より仲良しだから、一旗揚げるのを手伝ってくれるかもしれない。
まずナギちゃんに、もったいぶらずに首長候補になったことを伝えてしまおう。向こうも首長の1人が私だと知っていたらいろいろやり易いはず。まずは協力して、"
とはいえナギちゃんの政治手腕はあまりわかっていない。上手くやっているのか、実は何もしていないのか……
よく聞くのは、なんかママみたいで相談しやすいなという話だ。あの子がママだなんて皆わかってないな〜と思うのだけれど、人脈ができているのは本当。所属に拘らず支持があって、当然「フィリウス分派」でも強く慕われているみたい。変なイメージで好かれるのは大変そうで可哀想だけど、ナギちゃんっぽくて面白い。天然さがよく表れている。
そして慕われるだけあって活動の目標もよく知られている。"愛のある学園"を目指しているらしい。
その影響力はなかなか大きいみたいで「正義実現委員会の負担軽減をめざす予備役導入案」とか、「補習授業部をモデルとした疑似学級授業制の提案」とか、平和で皆が充実した学園生活を目的とした政治がフィリウスで流行っているとか。
"愛"を以て学園を運営する……「シスターフッド」と似た方向性だ。フィリウスとシスターフッドで手を組むなんてこともあるのかな、それは抑え込むのが大変そう……私の代ではやらないでほしい。
ナギちゃんはただでさえ何か思いこむとソレしか見えなくなっちゃうし、しかもソレにずる賢く対処(なお空回り)してくるのに、シスターフッドの影響力も後ろ盾になると、穏便には止められなくなっちゃう。最悪ひっぱたくにしてもいろいろガードを搔い潜らなくちゃならないだろうし……めんどくさいかもな〜……女のメンタル爆弾導火線管理なんかしてらんないじゃんね……
ただ、今のところ大きい事業は無さそうだし爆発の心配は要らないと思う。日々のやり取りは元気そうだし、話を逸らしたり隠し事したりも露骨じゃないし。対立した子に対してもにこやかなトークで丸め込んでいるくらいには、お題目通りの"愛"ある言動をしているからだ。
影響力が強まってきてからはティーパーティーの子がちょくちょくナギちゃんの陰口を叩くようになったけれど、それはつまり表立ってやり返せないってこと。外堀さえ埋めずに正面切ってのお話で"理解"させちゃえるトークスキルを持っている……底を見せないというか、舐めた立ち回りでもすごく強いんだ。逆に搦手を使ってくるのは、前情報が厄介な時と、体調が悪い時と……私とケンカする時くらい? まぁ裏で誰かが仕込んでいるのかもしれないけど……
もし全部実力なら、弱ると視野狭窄になって? 手段を問わずに邪魔を完遂しそうな? 表の政治力は最強な同僚になるってこと……?
……平時は頼もしいし、非常事態は私が伸せばいっか。
まぁトリニティでバチバチギャンギャン言ってたら誰も付いて来なくなるし、敵対したら皆団結していじめてくるもん、ナギちゃんのやり方はティーパーティーとして当然のものだ。よっぽどタイヘンな事件でも無ければスタンスを崩さないでしょう。
そして当然のことを当然に熟し、少なくとも反発に正当性を持たせない話運びを徹底できるナギちゃんは強力な味方だ。どう頑張ってもキレちゃうことはあるのにそう"しない"強さは頼もしい。私が育てただけある。今度かわいいフレンチプレスでお茶淹れてあげよう。
2人でお茶して、2人で頑張って過ごす日が楽しみだな! 秋学期が待ち遠しい──
「そこな君、待ちたまえ」
楽しい未来を思い描きながら気分良く歩いていると、ガゼボから声をかけられた。変な服のちっさい子だ。犬だか狐みたいな耳をしている。横に座る他2人は友だちって雰囲気ではなさそう……配下かな?
「ここに来るのはわかっていたよ、聖園ミカ」
うわ。
……まぁ私は多少名が知られているし、こういう絡まれ方をされるのは初めてじゃあない。首長候補になったからには印象は良くしたいし、ちゃんとしようかな。
「ご機嫌よー! 確かに私が聖園ミカだけど、何かご用かな?」
返事をすると、ちっさい子は微笑んだ。よくある根拠無しな自信からくる笑みではなく、仲良しの友だちを見て思わず、みたいな表情だ。なんだこの子。
配下の子が出てきて、招かれてしまったので仕方なくガゼボに入る。彼女たちはお茶を置いて去って行った。なんだこの子たち。呼びつけといてマトモなお茶も出せないの? 水出しならともかくカップなのに作り置きとか、あり得ないでしょ……
流石に眉をひそめていると、ちっさい子は大丈夫、淹れたてだと言って飲むよう促してきた。
カップを持ってみると、確かに香りがよく立っていて冷めていない。しかもほんのり薔薇とバニラが香って心地良い……私が好きなフレーバーだ……そもそも風味がすごく柔らかくて穏やか……この後お茶会で、どうせドッシリした物が出るから助かるな。
なんだこの子?
いくら私のおっかけをしてても"今欲しいような紅茶"をピンポイント、ジャストタイミングで出してくるのはおかしい。考えでも覗いているか、未来でも見えているみたいな……あっそういう人いたなぁ。
「落ち着くだろう、私も好きなんだ。淡く、穏やかにこの時を彩ってくれる……私たちが意識しない程度にね。これは──」
「あーっと、お気遣いありがとう。百合園セイアさんだよね?」
予知が実在するという話は、トリニティでは有名だ。目の前のちっさい子──百合園セイアは「サンクトゥス分派」の中心人物で、予知夢によってティーパーティーに多大な貢献をしているんだったかな。あまりに経典の天使じみているものだから、サンクトゥスの人はもう皆彼女に心酔しているらしい。彼女の茶会入り前は割と公正で生徒の話を聞く分派だったのに、今じゃあ百合園ファンクラブになっちゃった。
そんなすごい子が相手とはいえ、私はこの後予定があるし。割と不作法をお見舞いされてるし。なんかよくわからない変な人のトークに付き合わされてあげている立場のアピールとして、話を急かしておこう。
「いかにも。君の今にも飛び立ちそうな足音は、夢と同様よく響くものだからすぐわかったよ。もちろん君は地に足をつけて今日を過ごすが、茶会の仲間たちはどうも様子が違うらしくてね。それをわかっておきながら捨て置くのは薄情というものだろう? なにせ祝おうという相手が地団駄を踏んで暴れるんだ……だが私たちがこうして出会えたからには──」
「じゃあご存じの通り、私は今からお茶会なの。いろいろお気遣いいただいたのはありがたいけどさ、あんまり時間無いんだよね……なんの御用かな?」
なんで知らない人にこんなこと言われなきゃいけないの? やんちゃとか暴力的とか。確かに気分は(冷や水かけられて)落ち着いたしお茶はこの後くどくならないような気遣いも感じられるけど……失礼じゃんね。ていうかそれ以外何言ってるのかわからなかった。
ティーパーティー相手ならあんまり遠慮しなくて良いし、不満ですよのアピールを重ねておいた。
「そんなに焦ることはない。君が君主なら話は違うが、まだただの主役だろう。遅れるくらいで丁度いい。何せもっと遅れる者がいるからね」
「えー、今日遅れるのは"無い"でしょー」
「まぁ彼女にも事情はあるさ。意志がどれだけ強くともその器は不完全で、時計の針を追い越すことはできない……解るよ。病弱の身を赦してほしいとは言わないが、悪意あってのものではないんだ」
ううん、そもそも今日は「首長候補がわかるんだって! 皆でお祝いしよ!」という旨での集まりなのだから、遅れて来るなんて失礼だ。時間の2分前くらいに部屋の前の角でバッタリ会って立ち話をしている位が、マナーでしょう。
「事情なんか片付けていられる人でこそのティーパーティーでしょ……自分の面倒も見れない人が誰かの役に立とうとか、順番が間違ってるじゃん」
「そうは言うが、私たち1人1人は等しく人間であることを忘れていないかい? 人間は君が思うように何もかもできるが、何もかもはできないことも私が示すところだ……見るべくは熟す事の順番の意味だ。彼女を見るに……その根は愛情にあるんじゃないかな。たぶん」
「真意なんかどうでもいいよ。迷惑はかけちゃダメってこと」
「これから首長になろうという君がそれを言うのかい……? では君自身は迷惑をかけないと言い切れるかな。君は今まで自分で送ってきた人生が完全無欠だったと考えるのかい? これからやりたい事は自己完結できるかい? 多くの人はそれができない。そして最もそうできないと理解している者こそが君主たり得るのさ──異なる可能性の共鳴こそが、未来の幅を作るからね。あるいは異物への対処の如何は
はなしがながい
しかもなんかこれ、お説教されてる? 失礼なワンちゃんにアレコレ言われるの、腹立つんだよなー……まず自分の躾を済ませてくれないと、聞く気になれないなー。
ていうかセイアちゃん、話が回りくどい気がする! これ何の時間? もう面倒くさいしさっさと聞き出しちゃおう。
「じゃあさ、それ誰?」
「うん? わからないのかい?」
なんだこいつ
「セイアちゃーん、私は予知なんかできないんだからさ。この後のことなんかわかんないよ?」
「いや普通に考えたらわかるだろう」
ぶっ飛ばそうかな……
「そーれーだぁれー?」
「……! 優家ジーナだろ……かなりにおわせたじゃないか……」
あぁあの子か……まぁそうだろうなーと思ってた。
じゃあどれだけ遅くなるかわからないし、あの子より後に行くのは無しかな。皆に心配かけちゃうし、いつまでもお茶会にならない。やっぱり時間通りに行って先に始めておこう。主役は私だし、あの子煩くて嫌だし、見栄っ張りだから「忙しくってごめんあそばせぇ!」とか言うもんね。嫌だね。
うん、時間通りに行って先に"空気作り"しとこう。
「うーん、それじゃあやっぱり間に合うように行きたいかなー」
「え、しかし他の人はジーナが遅れるとか君が最後に登場したがるとか考えて遅れていくはずだよ……」
「ごちそうさまでした! じゃあね! 体弱いならもっと服着なよー!」
まだ慌てるような時間じゃないし、せっかくなんか気遣ってもらったから、ちゃんと落ち着いて余裕を持って行けそうだ。セイアちゃんとはまたのんびりできる機会に会えることを祈って、席を立った。
あれ、そういえば用件聞いてなかったけど……まぁいっか。予知してたんならこうなるのも織り込み済みでしょ。
「次期首長同士として挨拶しに来たのに……本当に話を聞かないじゃないか……はぁ……」
お茶会用に取った部屋に着いた。
なんか皆して遅れて来たんだけど?
普通に有り得なくない? 淑女としてダメでしょ。親しき中にも礼儀ありでしょ?
あなたたちのおうち、番地は? ん? 家庭教師してあげるよ。月謝は壁職人に渡してね。
そんな感じでだらしなくお茶会を始めるハメになった。もうなんかゲンナリしてきたのに、さらにこの場に合わない気配がした。
ぎゅむっ ぎゅむっ
嫌な音だ。テニスボールみたいな先っぽの杖の音だ。この持ち主は口煩いし、小柄なのにお乳がおっっっっっっきくて下品だし、ヨタヨタ動くから邪魔だし……皆そう思ってる。でも政治屋としてそこそこだからティーパーティーとしては良い人材とされている。でもギャンギャンバチバチやるのは見るに堪えない、やっぱり嫌われ者。
彼女は「パテルのオババ」。
パテル分派では珍しく、裏で見えない政治闘争が好きな変人だ。
「遅れてごめんなさいねぇ、少しぃ忙しかったの」
予想は良い線いってたんじゃないかな。
「良いよー、いつも通りだもんね。気にしないで!」
「そうそう。"根回し"やら"交渉"やらはジーナ様にしかできませんものね」
「私たちとは別のアプローチをしてくださって、いつもありがとうございますね。パテルでそうするのは大変でしょうに」
「いっそジーナ様が動き易い分派でもお探ししましょうか」
おっとそれはライン越えだ。言質になっちゃうし、品が無いもん。この場ですべきは、あくまで"自発的に"お帰りいただくようにする言動だ。
そう思って諫めようとすると、その前にジーナが口を開いた。
「いえいえぇお気遣い痛み入りますわぁ。でもぉ、わたくしパテルのためを思ってこそぉ、あれこれ取り組めますのぉ。楽しくってよぉ?」
口調もだらしなくってムカつくー☆
こんなに"無様でいること"ができるって目の前で見せられると、私も"そう"なっちゃわないか……あるいはもう成り下がっているかもしれないのかと不安になる。ガリガリと椅子を引いて杖にお乳を乗せて慎重に座る様を見ていると、こうはなりたくないと強く思う。自分が"そう"なのに付き人も用意していないなんて、気遣いすらまともにできないのもよく表れている。
だから彼女は「オババ」なのだ。役に立つけど浮世離れしていて、そしていつか私たちが陥るかもしれない"なりたくない"ものを表す、戒めなんだ。
ジーナが座ったのでホストの子がお茶を出そうとする。当然私たちは先にいただいている。
今回はノンフレーバー、山海経種ダージリンのセカンドフラッシュで、ぶわっと香りが広がってなかなか美味しい。私にはちょっと渋いけど、まぁよくある味だから慣れている。ナギちゃんのブレックファスト用のセイロンブレンドみたいな超渋いのにスッとするやつ程尖った味でなければ、美味しく楽しめる。
ふと今からお茶が入れられようとしているカップに目をやってみた。トリニティ生たるもの、毒を盛られないかさりげなく確認するのもマナーだからだ。あ、なんか粉入ってる。みんなで笑う用ってことかな。
うーん、ジーナはどうせ背が低くって見えてないだろうから、バレずに飲ませることはできそう……でも帰ってくれたら嬉しいけど、居座ってくれても役に立つし、そこは自分で選んでもらいたいから盛るのは無しかな。あと証拠が残るし。こういう卑しいの嫌いだし。
ここは次期首長の寛大さを見せつつ他の子を牽制するために、止めておこう。勝手なことすんな!
「待って! そのカップ欠けちゃってる」
「……そうですか? 私しっかり確認しましたが……」
とりあえずテキトーな嘘で止めてみたけど、ホストの子は私がシンプルにお茶会にいちゃもん付けようとしてると勘違いしていそうだ。ちがうって! そんな当たり前に毒盛んなって!
仕方が無いから本当に割ろう。ポケットの中で銃弾の先っぽをちぎっておく。あとは皆の気を逸らしてから投げないと……いや、ここは私が入れ直しに行くのも有りかな……? でも出しゃばるのはお下品だし……
そうやって悩みだした時、ジーナが口を出した。
「あらぁ、わたくしぃ、見えないくらいの破片でも胃がダメになってしまいますのぉ……聖園様は素晴らしいフィジカルをお持ちですしぃ、視力も陶芸家のように精密でしょぉ。せっかくですしぃ検めていただきませんかぁ?」
助けてあげようってのに、陶芸家呼ばわりされちゃった☆やめよっかなー☆
でもこれは助けようとしたことに気づかれてるし、ここで「やっぱやめたー」とか言うとコイツに「部下に忖度して統制もできない無能首長」とか触れ回られかねない……素直にカップを粉砕しよう。注意くらい引いてくれるといいなー。
「任せてー」と応えてホストの子が口を開く前に立ち上がり、カップをお淑やかにもぎ取る。そしてキレイなデザインだよねーと言いつつ、音を聴くようなそぶりで指先でカップを突いた。ねぇオババ呆けてないでもうちょっと手伝ってくれても良かったんじゃない? もう終わっちゃったよ。
「ちょっとミカ様!?」
「ほーら、やっぱり変な音するよ……ほら見て、お茶が滲みてきちゃってる」
「うそ、そんなはずは…………いえ、失礼いたしました、ジーナ様。入れ直しましょう」
たぶん私が割ったのはバレてない……かな。でもこれ以上しゃしゃり出るのは品が無いよー。手助けはこんなんで満足してもらおう。
そう思ったのに、ジーナはにたりとタレ目を細めてまだ口を出してきた。
「そういえばぁ、聖園様が次の首長様なんですよねぇ? せっかく目利きの良い所を見せていただきましたものぉ、わたくしに合いそうなティーセットを見繕ってくださらない? 未来の首長様のセンス、もっと拝見したいですわぁ。きぃっと素敵なこの場に相応しいものをぉ、選んでくださいますよねぇ?」
ホストの面子を潰すなっての! 下品だし文句があからさますぎる……最悪ー。
でもまぁジーナを守るのには丁度いい方便、か。もう全員状況を察しているだろうけど、あくまで無邪気な遊びとしてやってみせれば、この茶番劇は終えられそう……図々しいオババめ。顎で使われるようで癪だけど、今後のために我慢、我慢。
ていうか場が収まるにしても私が"解ってやってる"か"解ってないおバカ"かで解釈の余地があるのが嫌だな……やっぱりやり方ムカつくー!
とりあえず一通りティーセットを見てみよう。うわ、子供用のプラカップがある……ヘヴィキャリバーだ。たぶんこれを使えっていうのがホストちゃんの言い分なんだろうけど、あなたもあなたであからさまだよ……そんな品格を疑われるようなことはしちゃあいけません。無難に内側の模様が無い花柄のを選んでおこう。これ安そうだし、皆も溜飲を下げてくれるでしょ。オババも中身がよく見えて丁度良いんじゃない?
選んだカップを持って行って、手ずからお茶を注いであげる。心の底から感謝してほしい。
「ジーナちゃんには今日はこれが似合うと思うな! 落ち着いた感じで!」
こんなに明るくて可愛い私に裏なんてあるわけがない。この場の全員にそう言い聞かせるつもりではしゃいでみせた。オババはそんな私をじっと見て、ありがとうございます、とだけ言ってお茶を飲み始めた。どういう感情なのかわからない……助けてあげたんだから分かり易いようお礼しなよ……ちょっとしおらしい風味なのは何なの……?
ムカついた!
おばちゃんみたいに手をパタパタ振るようにして、さっきちぎった銃弾を首に投げてやった。
「どういたしましてー(射出)」
「いッ」
これはホストちゃんのと違って誰にもバレない、極めてお淑やかなやり方だ。わぁ、キスマークみたいな痕できた。オババは淫らなんだなー。
オババは一瞬顔を顰めたけど、何も無かったみたいにすぐに取り繕ってみせた。案外タフなんだよね。
さて、私の溜飲も下がった所で……
やっっっっっっっっっっとお茶会が進む……なんかもう疲れたなぁ……
お茶会は終わったというのに、キスマのオババに引き留められてしまった。勘弁してほしい。
「聖園様ぁ、他の連中のことぉ……どう思ってますかぁ?」
しかも今更迎えにだけ来た、彼女の配下にしっかりめに逃げ道を塞がれちゃった。この配下、ぼーっとした顔のくせに妙に動けるから鬱陶しいなー……
オババの問自体もちょっと答えに困る。結局お茶会はずっと私がアレコレとフォローをしていたような気がする。まぁ、それができるから首長候補になれたんだし、いつも通りトリニティ生として当然のことをしただけなんだけど、今日に限ってはなんか引っかかる。
──順番が間違ってるじゃん。迷惑はかけちゃダメってこと。
──最もそうできないと理解している者こそが君主たり得るのさ。
あっ、セイアちゃんか。今のオババとのやり取りも予知してたのかな……何様? ムカつくー☆でも、これは考えておくべきことなのかも。
日常生活でさえ足を引っ張り合うパテル分派の子たちをまとめて、一丸となってティーパーティーに臨むべきか。
腹心の子を作って、頼るか。
1人で頑張るか……
まぁ元々パテルは外圧が無いと動かないって思ってたし、パテルの皆から変えるとか導くとかの展望は見えない。だから選択肢はあと2つ。
「まぁ、正直頼りないかな」
「ふーむ、それは何をするのにぃ頼りないのですかぁ?」
「何って……どういう意味?」
「聖園様はぁ首長として何をなさるおつもりでぇ?」
それまだ考え中のやつ……
「おやぁ……おやぁおやぁ……考えておられなかったんですねぇ。ティーパーティーの者がそれではいけませんねぇ……」
「無茶言わないでよ、首長の話聞いたのは今日なんだから」
オババが不機嫌そうに溜息をついた。生意気ー☆
……ただ、"わざとらしくない"態度を見たのは今日初めてかもしれない。この子も説教してくるのかな……今日はこんなのばっかりだ。
「そもそもぉ、首長以前にティーパーティーは政治の場です。マニフェストが要りますぅ。我々家格のある者はぁ、なんでもない生徒を守る役目を持ちぃ、さらにそれを強く発揮するためにティーパーティーに"参加"しますよねぇ?」
呆れたように、言い聞かせるように言われた。やっぱり説教だ。ムカつくー☆
無様な彼女に諭すようにされるのはとても屈辱的で、思わず言い返した。
「あのねー、それにしてもまず昔からの業務の引継ぎからやってたし……そもそも私たち華の女子高生だよ? ティーパーティーのためだけに生活してきたわけじゃないんだし、時間もまだあるし、これから考えれば良いじゃん」
「猶予があってぇこれから考えても間に合うのはぁ、そうですがぁ……話が解っていないよぉですねぇ……」
ジーナちゃんはすごい顔をしている。呆れっていうか、困惑しているかも?
「躾されていないのですかぁ? 聖園家ではぁ?」
なんだこいつ
「名家斯くあるべしとの教育はぁ? 我々の持つ義務と野心についてぇ」
「ティーパーティー入りの研修はぁ? 慣例的に求められる働きについてぇ」
「"とっくに持っているモノ"がぁ、あなたにはぁ欠けているのです」
真顔になっちゃっているかもしれない。失礼な子だ。私も家も真正面からバカにしてくるなんて。
「だからそれが
「いぃえ、それではパテルのぉ存続が保障されません。外敵や、内部崩壊から守ったりぃ……他の勢力に対しぃ優位に立って魅力的に見せたりぃしなければぁ、組織は終わりますぅ」
そんなのまだ"終わって"ないんだから今まで通りやれば大丈夫でしょ……おしゃれしたり遊んだりしたいのに、そんなにのめり込んでたら政治だけで高校生活が終わっちゃう。今楽しめなかったらティーンはもう取り返せないんだから、そんな政治なんか誰かに任せておくべきだ。家でも政治については自由にしろって言われているし、私がやりたいか決めて良いはずだ。
と思っていたけど。
思わず息を吸い込んでしまった。音が立っちゃったかもしれない。
だって、急に自覚が襲ってきたから。
そう言えばもう任せられる誰かなんていなかった。今その立場にいるのは
自覚ができると彼女の言う「当然」についてわかってきた気がする。
高校生だからって甘えようにも、甘えられる人はもういない。でも私たちはまだ子どもだし最近まで甘えてきた側だったから、私みたいに立場に自覚の無い子もいるだろうし……当然彼女みたいに野心ができていて、でも政争で勝つことばっかり考えて勝手に動く子もたくさんいそう。
そう考えるととんでもないポジションを押し付けられちゃったな……言うこと聞かせなきゃ……
それに例に出された「組織の終わり」は、少し考えればもう私が知っているものだった。
"保守的"とか"硬直"とかいうイメージがあるのは組織に活気が無いからで、新入生の加入理由が「優雅そうだから」「家がそうだから」ばかりなのも他の活動実績も発信も無いからで、そしてそんな理由で入ってくる子は"優雅で家等に都合が良い事"以外活動しない。だから"保守的"になる……人の循環が終わってパテルも終わりかけているという話も、説得力がある。
解決すべき課題も既にあって、それはパテルを蝕んできている……
呆けている私に、ジーナちゃんはさらに言葉を重ねる。今度は彼女が真顔だ。
「そもそもご友人のぉ桐藤様はぁ、最初から全部なさっていたではぁありませんかぁ。もしや目の前にいながらご存じなかったですかぁ」
胸がギュッとなった。
「そうですかぁ……」
とても寒く感じる。
ナギちゃんのことを見ようとしていなかったかもしれない……? それこそ一緒に勉強したり、一緒に将来の夢とか語り合ったりしたけど、その時のナギちゃんの視線は私と全く違ったのかも……"私"が、薄っぺらいモノである気がしてきた。
幼馴染、親友、首長候補……ナギちゃんはそうあるために頑張ってくれていただろうけど、私がやっていたのはそう言うだけの"ごっこ遊び"だったかもしれない……
「せっかくわたくしはもちろん、ご友人も大層多くいらっしゃるよぅですしぃ、訊いて回ると良いでしょぅねぇ。あぁ、この犬も使ってくださぁい。忠実ですぅ」
それはできない。
キレイな思い出は嘘で、今持っているモノも全部私が思う都合の良い妄想なのかもしれないから。実際どう思われているのか、実質はどうであるのか、明らかになるのが怖い。それにお飾りとはいえ首長の面子は保たないと、
こんなこと誰にも相談したくない。できない……
「パテルらしく"振る舞う"ことではぁパテルを守れません……パテルを"守って"こそぉパテルらしく振る舞えるのですぅ。首長たればぁ、その順番、違えてはなりませんよぉ」
「行きますよぉワン子」
「うい~」
ジーナちゃんは軽薄な従者に手を引かれて帰って行った。
いや、ひどくない? そっちがオババだからって高校生に政治なんか強要しちゃダメくない? 私は薬入れなかったのになんで劇薬ぶち込まれなきゃいけないわけ?
あいつらいつかぶっ飛ばそう。それがこの後すぐか卒業直前か、ご自慢の働きで決めようじゃんね。
セイアはwhataboutismじゃなくて「管理職は人を使えよ」と言っています。
主人公はワン子です。百合します。