トリガーハッピーは救われたい   作:IHco

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いつものおさんぽコース
怪盗を見守る作戦


 きらきらと輝く、高価らしい芸術作品が見える。

 優家(すぐりや)様の"裏会場"なだけあって、潜入は簡単にできた。今ここからが正念場だ。スタッフに気づかれてバリケードを破られる前に、まず照明を落とさなければならない。

 良い物は横から見ても美しいのだなと思いつつ、作品を照らすピンスポットを残し、スイッチを「OFF」に切り替える。あの作品はもう慈愛の怪盗のものだ。日の目を見ることはなくなるだろう。培った感性はそれをもったいなく思うが、役目は忠実に熟すものである。躊躇はない。

 

 会場の方が騒がしくなってきた。慈愛の怪盗から事前に希望があった、照明を切ってからのご高説を垂れる演出は良いサプライズになっているらしい。美しい作品だけの世界に機嫌が良くなったのか、あるいは私たちの協力に調子こいてるのか、悠長な感性学の話が聞こえる。

流石の教養であるのはわかるが、急ぎの場で魅力の紹介をするのなら史学美学神学哲学幾何学、他多くの関係する知識を網羅して超圧縮して、興味のフックに総当たりでアプローチした方が効くはずだ。トリニティ中央美術館の学芸員をはじめ、プロはそうする。まぁプロの技術を以てしても"可"でしかない私の美術の成績をもって「理解させる」ことの困難さは理解できる……あるいはだからこそ、彼女は一点集中の解説を試みているのだろうか。落ち着いてお話しできる機会があれば、尖った説得力のある意見が聴けるのかな。

 

 衒学的な彼女に微笑ましさを覚えつつ部屋を移る。私の作戦では照明を破壊することになっているからだ。

 警備員は照明のスイッチや予備のスイッチに押しかけてくるだろうから、明かりが点く前に電灯を壊し、慈愛の怪盗の独壇場を作ってやらねばならない。怪盗には頼まれていないが──むしろ破壊は矜持に反するらしい。どうもスマートで劇的で泥臭くない「怪」盗に憧れがあるみたい──優家様の指示だから、あの子には目立ってもらう。「怪盗とは別の勢力を匂わせ、武力と投機の界隈に需要と慎重さを持たせましょう」「無法者のクズ独自ルールに付き合う義理はありません」「クズどもには大掛かりな犯行にも"手をつける"と思ってもらいます」とのことで、後の反響を狙った作戦であるらしい。優家様はすごいなぁ。こっち陣営も立場と権威を纏った無法者だからこそ、その割り切りに勇敢さを感じる。

 そういえば壊した照明とか警備員の残り方すら大事な要素らしく、事前に爆弾等を設置する案は始めから否定されていたっけなぁ。とにかく内部犯行が疑われないようにせよとのことだった。だから選ばれたのは、射撃でした。嬉しかったなぁ……さすが優家様は私を喜ばせる方法をよくご存じだ。

 あと、私は決して面を曝してはならないので、作戦全部をぶん投げるか遂行するかのラインの上で立ち回りをせねばならない。だから起こす事をできるだけ陽動に転用してひと所に留まらないようにするのだ。迷惑万歳! 

 

 高級スニーカーで静かにスタッフ用通路を駆け抜け、すれ違う(ロボ)はすぐさま首に電気が流れる(スタン)ナイフを突き立てて壊す。爆発とか炎上とかしないことを祈って必ず壊すつもりでやるのがコツだ。これでもまだ起動していたり裏で通信していたりするのがやっかいだけれど、そこもまた祈りのパワーでどうにかする。

 警備用ロボットと人格シミュレーターのセットは優家様の銃くらいの値段だったか……ロボット生産会社が儲かるわけだわ。そんな連中の頭を押さえつけてくれている連邦生徒会のおかげで、私たちはコスい政治活動ができるってワケ。一体何をどうやっているのやら。

 ロボットじゃなかったら投げ倒すつもりだ。コツは首を全力で投げて後頭部を叩きつけるコト。今はナイフか9mm弾の拳銃しか持っていないので、こうでもしないと人間や獣の目を回させるのは難しいのだ。拳銃の接射ができればもっと速く制圧できるけれど、まだ静かだし撃ったら位置バレ作戦バレになるのがネックよね。

 

「おい、なんか音しなかったか?」

 

「わからん。見てくるか?」

 

 順調にはいかないものだ。階段の上から声がする。上の警備はちょっと成績の良い人を雇っているらしいから、きっと2人でカバーしながら見に来るだろう。私はSRTでもなんでも無いので、警戒されているのに真正面から制圧なんてできやしない。素直に階段横の優家様仕込の隠し穴を使おう。後ろ暗い歴史がある館なだけあって、ちょいちょい死角とセットで配置してあるのだ。

 ぴょんと1階分跳ねて、上階への階段の下、壁の装飾に偽装された溝に手をかける。高級スニーカーさまさまだ。あとはこの溝を滑らせれば上階に通ずる隠し部屋に入れる。

 溝を滑らせるってなんだよと思いつつとりあえず手を動かしてみると、スーッと壁の一部が動いて狭い通路が現れた。優家様だと胸でつっかえるなぁ。ガサ入れ対策とか潜入の用途だろうか。この建物は昔から現地に赴かないタイプの悪役令嬢に使われてきたのかもしれない。

 入ってしまおう。

 中は当然真っ暗なのでペンライトで床を照らしてみる。かなり急な階段があるだけの狭い空間だ。高さを見るに、上階の上の方にまた狭い出口があるようだ。階段を登り切ったところで耳を澄ませよう。

 

「見よう」

 

「カバーする」

 

 ありがたいことに配置から外れてくれるらしい。どこまで見るかな。下もチラ見しないかな。

 足音は私の所を過ぎ、階段の前まで行った。

 

 ピピ ピピ

 

 簡易連絡用の音かな。結構重い音でよく通る。下の階の仲間への物だろうか。"秘密のオークションだから通信を禁止する"という規則を律儀に守っているのかもしれない……可哀想に、そんなんじゃあ(今から)早死にするよ。だからヒラ社員なんだ。通信しろよ! 

 マニュアル通りに肉声(?)じゃない方で声かけしたのは間違いだ。そんなんじゃあここの異常に気付くのは近くの警備員だけで、客とかには伝わらない。そして優家様は動きづらくなるほどには警備員を過密に配置しなていないし、今は慈愛の怪盗が好き放題しているので当然要所を守る分しか残っていない。つまりそもそもその連絡を受け取れる範囲には誰もいないってこと。だからここは(たぶん)2人だけってこと。

 

 ピピ ピピ

 

 降りて行った。相方もカバー位置を変えた。都合良く私を通り過ぎた所だ。相方の方を狙おう。

 こっちを見ていないのと他所から見えていないことを祈りつつ、引き戸を開ける。思ったより高い……でも奇襲には丁度良いからさっさと飛び掛かってしまおう。

 

 縁を掴んで飛び出し、ナイフを構えて突っ込む。

 

 こいつは反応してきた。長物(メイン)の銃口で突いてくるつもりらしい。

 

 私は迫ってくるソレの奥、突き破るべき喉をぼんやり見て、迫るハンドガードを平手で弾く。

 

 そして腕で首を巻き取って押し倒し、刃を突き入れる。とても強い弾力に割り込む感触とともにブチブチバチバチと音がして、腕の中の頭部が激しく震える。

 

 割と良い手応えだ。下に行ったヤツは……自信が無いけれどナイフを投げて仕留めよう。こっちを向きかけた顔目掛けて投げてみる。お祈りパワー! 当たった! 

 ロボットは胸に刃を生やして崩れ落ちた。首じゃなかったので駆け寄ってとどめをさしておく。

 

 これで難所は越えたでしょう! 

 

+++++++++++++++++++

 

 さて、さらに何人か壊して使用予定の上階ボックス席にたどり着いた。ここの人は超お偉いさんで、如何なるトラブルでも真っ先に避難(トンズラ)させる手筈になっていて無人のはず。中に入れば防音が割としっかりしているとの事なので、サプレッサーを付けておいた普段の拳銃を使おう。やっと撃てる。

 

 ホルスターのロックを押しておいて、静かにドアノブを回す。回った。鍵はかかっていない。

 そのままドアを引き開け滑り込み、拳銃を抜きクリアリングする。

 椅子の下やカーテンの裏も手早く確認したが誰もいない。計画通りだ。拳銃はしまっとこう。目標を撃つために防弾窓を少し開けておく。

 そろりと見下ろしてみると、客はステージではしゃいでいるのが慈愛の怪盗だと気づいた頃合いに見える。怪盗の方はステージでスポットライトを浴びながら上機嫌で何かしらのパフォーマンスをしていて、照明の熱さと興奮で汗ばんでいるのが見える。とても青春を感じて彼女が眩しい。彼女も眩しくって破壊工作なんか見えないだろう。

 

 さて、隠密行動のためにと優家様から面白い武器を持たされている。

 私は銃を撃つのがとても好きだ。だからこれを撃つのがとてもとても楽しみで、今日はこのために頑張って忍び込んできたのだ。急拵えの方のホルスターからパイプみたいな銃を抜いた。

 これはなんかウェルロッドというらしい。半分サプレッサーでできた見た目の拳銃で、弱装弾でなくても減速して割と静かに撃てる代物とのことだ。ただサプの素材が脆くって20発も撃てば壊れるし、9mm弾を弱く射出する上にボルトアクションなので制圧力皆無とも聞いている。つまり細挽きコショウの方が強いってコト……ミレニアム魔改造品があるならともかく、まず使い物にならない銃らしい。だから珍しいんだって。

 でもさぁボルトアクションってたまに撃ちたくなるじゃん。しかも拳銃かつとても静かって言われたら気になるじゃん。

 

 撃ってみたい。

 

 だから、コッソリと、脆いターゲットを、気づかれず破壊する段取りを徹底する必要があったってコト。そしてもう撃てる。

 

 ブローバックしないし目の前で構えちゃお、CAR風に。消音全振りサプの性能を直に感じたい。蓄光サイトが見やすくて良い。すごくキマる感じがする。射程はがんばって30m当たるようにしたと聞いている。あれ、じゃあ冷静に慣れた構えで撃ないと外すんじゃね? 

 でももう今が撃つ時だ。逡巡をよそに体はグリップをしっかり握りこむ。

 

 

 

 狙って

 

 息を止めて

 

 頭が静かになる

 

 引金を引き絞る

 

 ガク引きしないよう力で構えて

 

 引ききる

 

 シアーが落ちた音がした

 

 

 バっと銃声がしてサイトの奥で電灯が割れた。

 

 

 

 なんか……まぁ割と静かって感じかなぁ。

 階下の様子を覗うが、聞かれてはいなさそうだ。静かにボルトハンドル(?)を回し引き、薬莢はキャッチしポッケにしまう。

 撃発の破裂音はキレた教員が黒板にチョークを叩きつける音ぐらいだったが、それ以外は本当に静かだ。潜入可能なシチュエーションは広がるかも。うん、面白い。良い銃だ。この整備が最高のものなら、使える機会はあるだろう。

 

 さて、ハンドルを押し回して次を狙う。ここからは手早く照明を壊してトンズラしなければならない。普通にハイグリップで構え直してガンガン撃とう。トリニティの職人技と神に成功を祈ってバッシャコバッシャコ撃っていく。

 パリンパリンと順調に命中するが、まだ気づかれた様子は無い。

 この調子なら追加で持ってきた2マグも撃ち切れそうだ。弾切れで空撃ちしてしまったので、ひとまず左手に持っておいた空薬莢をポッケに移した。ボルトを引いてマガジンリリースレバーを押し下げる。

 

「おゎっ」

 

 珍しいパーツ配置なせいかマガジンを外した弾みで銃を取り落としそうになった。落としたらサプが壊れかねない……危ない危ない……

 手袋を挟まないように慎重にマガジンを挿し、またバッシャコバッシャコ撃っていく。怪盗はそろそろトンズラするようで、煙幕を焚いて煙が広がるのを待っているようだ。急がねば。

 急ぐ射撃、急ぐリロードはガンマニの華だ(諸説有)。空薬莢をしまって……

 

 撃ち切ってボルトを引いたら、マグリリースを左親指で押しつつマグも左手でもぎ取りポーチへシュート! 最後のマガジンを銃にスチャっと流し込み、仕上げに掌底でボルトを叩き込んだ。

 リロードを急ぎつつもミスしないように素早く済ませた私は、さらに照明を撃つ。

 

 うわぁああああああああイケてるぅううううううう!!! 

 

 ボルトアクション拳銃のロマンたるや……素晴らしいわ! 

 

 

 ただそもそも一射ずつにかける時間が長いので大して急いだ甲斐は無く……そうして悦に入っている間に怪盗は逃げ出し、会場はどんちゃん騒ぎになってしまったので、私はそっとウェルロッドをしまった。愛用の自動拳銃で壊し残しを撃って逃げた。

 

+++++++++++++++++++

 

 野生のテラスで黄昏ていると、テーブルにふわりと封筒が舞い降りてきた。

 かなり薄い。シックでイケてる意匠が描かれている。中身は二つ折りの紙だろうか。差出人などは書かれていないようだ。なんだかバニラの甘い香りがする。

 

「開けないのですか?」

 

 いつの間にか横の椅子に、慈愛の怪盗が座っていた。気づかなかった。流石である。

 あっ封筒の塗料が重しになってるのかぁ。模様たるアートが狙って投げるための工夫も兼ねているとは、とても良い物だ……

 

「……開けないのですか?」

 

「これ凄くってさぁ……ずっと観ていられるから、まだかなぁ」

 

 香りが消えるまではこうして観察して、その機能をもたらした事情や心を想像していたいものだ。こんなに工夫のこもった物だもの、さぞ宛てた人を思ったものに違いない。

 慈愛の怪盗には悪いがこれはもらって帰ろう。香りが消える前に開封して、中身も見ちゃおうかな。誰に何を伝えたかったのか、青春怪盗少女の内心を舐め回して想像して、その可愛らしさを私が盗み食いしてしまうのだ。

 そうと決まればどうやってトンズラするかの算段を立てねばならないが、正直私はどんくさいので、普通に正義実現委員会(治安維持組織)に通報しようとしても電話を奪われてしまうだろう。そもそも違法オークションの帰り道なので人と接触したくはない。

 

 うだうだ考えていると、彼女は銃を突き付けてきた。その仕込銃、優家様のヤツより尖ってて突き殺されそうで怖すぎである。イカす。

 

「あまり馬鹿にされると困ってしまいます……美しくもないあなたのことで、思いを抱えることになってしまう」

 

 そう言ってぐいと銃を押し当ててくる。この子は静かにブチ切れるタイプらしい。次の行動が読めない。でも私はどんくさいので反射的に返事をしてしまう。

 

「芸術に感想を持てるんだし、作った物を盗られたらなんか思うでしょ」

 

 やっちまったなんかブチ切れ確定だ。肩に力が入ってきているし、腐っているとか愚か者とか呟いている……正論パンチやめてよ……そりゃ相手が盗人だからって手紙盗んで良いとはならないけどさ。

 

「わかった開けない! 返すから見逃してよぉ~帰るんだってだるぃんだよぉ~」

 

「つまり……だから……それは…………とぼけているのですか……! 私に悪評を擦り付けて気づかないとでも……! この後に及んで知らぬふりが通るとでも……! 利用し合うにしてもコケにされて大人しくしておくとでも……!」

 

 一旦静かにしておこう。

 

「寄贈するとも言いながら、あまつさえ今なら間に合うからと価格を吊り上げて儲けの道具にも……作品を再び闇に葬ろうともして……! 私が乗らなかったらどうなっていたことか……!!」

 

「恥知らずめが……!!!!」

 

「ですからそれは……あなたへのものです!」

 

 

「えっそうなの? ありがとうー!」

 

 

 お礼への返事は突きだった。超痛い……

 慈愛の怪盗はツッタカ歩いて去って行った。

 

 

  無粋なものへ

 

 化身を与えましょう。それを求めているのだから。

 地は鏡。全てはあなたの思うがままです。

 像を与えましょう。それは在るのだから。

 空は鏡。全ては無限の帰り道です。

 迷える子羊よ、すくわれなさい。

 

慈愛の怪盗  

 

 

 なかなか冒涜的なことを考えるんだなぁ。

 去り際に置いて行ったのだろうか、やたら綺麗なのに数字が変わらないデジタル時計もテーブルにあった。これじゃ方位なんかわかりゃしないし、まるで役に立たなさそう。ピカピカだから鏡みたいに使えなくはないけれど、わざわざこれでなくても良いし……

 

 とにかく嫌がらせをされちゃったみたいだ。顔真っ赤でかわいい。

 

 でもこんな証拠とか経典を辱める文とか残しちゃったらさ。

 そんなに調子に乗っていると近いうちに捕まっちゃうと思うな。

 

 お嬢様の庇護下でぬくぬく過ごせるありがたみと切なさを噛み締めて、おうちに帰ろう。時計は川にでも投げておこう。




目標
・徹底して一人称現在視点でやる
・たまに聖園で時期を確認する
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