いきなり武器屋に連れてこられて「ロマンは行動にて掴むべし」「思考は実行の前段階にすぎず、飛んで実行もまた正しい」と言われた時は、惹かれつつノりきれなかったけれど、ハジメは私の悩みを
さっきまで持っていたバリスティックシールドは取り回しが悪かったし、何よりも視界が悪いのが合わなかったけど、銃撃の中で安全圏があるという感覚は、カフェでのペアリング体験みたいな不思議な心地良さを感じた。
そして今は透明なライオットシールドを構えている。ちゃんと守れるし、ちゃんと見えるし、鈍くならない。そしてこうやって気にしている事から私の欲を逆算すると、こういう盾こそが私を私たらしめるのが予想できる。
これだ。これがさながらコーヒーのように、私を浮き彫りにしてくれるんだ。あまりにもしっくりくるから物理の授業で聞きかじっただけの、跳弾もやってみちゃった。一発芸がひとつ増えた。
さて、そろそろ真面目にデートを通して気になりだしたことを実践しよう。ハジメには私をナンパして実践主義を唆した責任があるので、ちょっと実験台になってもらおう。
良いデートだったなぁ。たくさん話に付き合ってくれた。話せて良かったと安心させてくれた。彼女への感謝はナゴヤコーヒーのメニューくらいにモリモリだ。これが終わったらそういうのを伝えよう。
「ちょっとあの辺立って。バーストね」
前の、射線に被らない所に立ってもらった。これで撃たれながらかばいに行ければ、私は私を伝えられることになる。
こんなの初めてだ。言葉や共感に乗せる以外にも私を表現できるなんて、それが荒っぽいケンカに隠れていたなんて思いもしなかった。
あまりに予想外だった。"楽しいお話の続き"の感覚がこんな無骨な盾の裏にもあっただなんて、私の本心が"そこにもある"物だなんて、考えもしなかった。「守りたい」なんてキザったらしい台詞、冗談でしか出てこなかったのに。
私のキザでロマン溢れる気持ちと、あなたと居たいという願いを繋げてくれた、彼女にこそ最初の実践を披露したい。あなたと居るために守るんだ。
踏み出して良かったなぁ。ハジメのおかげで私は本当に歩けるようになるよ。
その時を待つ。
ダダダと体に衝撃が走った。来た!
火花は出るけどハジメがよく見える。これなら見逃さない。
彼女へ向けて足を踏み出す。
2射目が来た。大丈夫。見える。体もブレないしびっくりもしない!
3射目は早かった。すごい。ハジメはちゃんといる! 体が軽い! 行ける! あの飄々とした顔がよく見えている! 彼女は少しずつ後ろに下がっている。どうしたのかな? それでも……
「大丈夫……届く……!」
4射目が続いた。弾数が多く少し抵抗を感じたけど、大した事じゃあない。どんどん彼女に近寄っていく。
5射目も撥ね飛ばした。私はできる。私は守りに行ける。もう友達のピンチを見過ごしはしない。
6射目も軽々と弾きたかった。でも銃弾は止まない。さすがに音と衝撃と眩しさがキツい……でも気合を入れて絶対に流されないように構えて、この大根脚をアンカーにしてズシンズシンと歩く。スイーツの新しいありがたみに感謝して、目を明けて彼女を見続ける。
彼女はスイッチを押したまま
「どうしたの!? 何かあった!?」
応えは返ってこない。うるさくて聞こえないだけなら良いのだけれど、なんだか正気じゃなさそうに見える。私を見ているのに目がキョロキョロ動いているし、息も荒らそうだ。
何が起こっているのだろう? 脅威が無いか私も見まわしてみたけれど、何も起こっていない。
「ハジメ! 待って!」
ついに彼女の背中が壁についた。両手でスイッチを強く握りしめ、まだ下がろうとする足が地面を空しく掻いている。まだ届かない。
私は友達を守りに行きたいのに、この
火花で誕生日ケーキの花火みたいになりながら急ぐ。まだ弾を受けながら走れるほど上手くは盾を扱えないのが、"遠さ"を自覚させてくる。
それでも、それでもと頑張っている中、タレットが止まった。彼女はまだスイッチを握っている。間に合わなかったんだ。
少しのガッカリを感じることが鬱陶しい。ハジメは怯えているのになんて自分勝手な事を考えていたのだろう。「まず届けなきゃ」って何?受取拒否されているのに……あぁ、私ってまだまだ相応しくなかったな……
そうやってウジウジしているうちにハジメの視線が落ち着いた。盾越しに一瞬目が合って少し下に逸れた。カフェの時のような曖昧な苦笑いも作っていて、打ち解ける前に心の時間が戻ってしまったみたいだ……
黙っているのはマズいけれど、気を遣いすぎると余計に悲しくさせるだろう。とりあえず自分で言いたい範囲で教えてもらおうかな。
「どうしたの、待っていてくれれば良かったんだけど」
「ほら……追われるとホラさぁ……」
何かトラウマでも踏んづけてしまったのかな……ぼそぼそと要領を得ない言い方をされた。せっかく"私と心のペアリング"を導いてくれたのにお返しがこれじゃあ、申し訳ないなぁ……
しかし見えるのが不自然な笑顔であっても、それを無碍にするのは良くなさそうなので、私も不敵に笑ってみせた。あなたもこうやって笑ってくれて良いんだよと知ってほしい。
「石像じゃなくて盾になれるか試したかったんだけど……ふふ……まぁ、相応しそうじゃない?」
欺瞞も良いところだけど、盾を持ちたいこの思いは本物だとわかったから、ちょっと自分を褒めたい気持ちもある。まだ相応しくなくても、これは大事に育てていきたい。ハジメも何か言ってくれないかな?
期待して近づいてみても、彼女はぼんやりしたままだ。かなりやらかしてしまったのかもしれない……
「帰って良いんだよ」のつもりで、でもお願いもしてみよう。私は私も彼女も大事にしたいから。
「こっちにする。もうちょっと選ぶの手伝ってほしいんだけど、都合は大丈夫?」
こっくり頷いてくれた。優しいなぁ。
今日のデートは良い学びになった。私は友達と、雨の日に軒先を貸してお茶を出すような、いっしょに過ごす事を守れるような感じになりたいな。そして、いっしょにいる人に「ナツはそういうヤツだ」って認めてもらいたい。
「これが……承認欲求……」
嘯いてみる。
気は楽になんてならない。無責任に彼女に近づいてしまって、無責任に甘えてしまった罪悪感は私を放さない。ロマンは感じたけれども、結局それが互いにとって良い物かは話さないとわからない。
結局ハジメに相談したことは解決していない。陽キャだと思って頼ったらメンヘラだったんだ、しょーがない。ただ、
そして、なんとか届けたい気持ちができた。ハジメには、ハジメといっしょに居たい人がちゃんといるってことだ。
出ちゃった。原作を読んでください。お願いします。