時廻戦   作:眠いから寝る

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処女作です



九秒

第一話「九秒」 ――寒い。 最初に思ったのは、それだった。 冷たい風が頬を撫でる。 雪が降っている。 俺は、見知らぬ場所に立っていた。 「……ここ、どこだ?」 声が出た。 その声を聞いて、少し違和感を覚える。 高い。 自分の声じゃない。 俺は自分の手を見る。 小さい。 細い。 どう見ても、以前の自分の手ではなかった。 「……」 服も知らないものだった。 俺は周囲を見回す。 雪。 木々。 遠くに見える道路。 人の気配はない。 「……俺は……誰だ?」 その問いに答えるものはなかった。 名前。 思い出せない。 家。 思い出せない。 家族。 学校。 友達。 何も浮かばない。 ただ、知識だけは残っていた。 言葉。 一般常識。 そして―― 『ジョジョの奇妙な冒険』。 なぜか、それだけは妙にはっきり覚えていた。 「……なんで?」 自分でも分からない。 漫画。 アニメ。 登場人物。 スタンド。 波紋。 時間停止。 傷ついたものや生物を元に戻す能力。 触れた無生物に命を与る能力。 そんな断片だけが、頭の中に残っている。 俺は立ち上がった。 身体は軽い。 けれど、状況は最悪だった。 自分が誰なのか分からない。 ここがどこなのかも分からない。 そのときだった。 ――何かいる。 背後から、嫌な気配がした。 振り返る。 そこにいたのは、人間ではなかった。 歪んだ身体。 異様な顔。 人間の形をしているようで、どこか違う。 「……呪霊」 その言葉が、勝手に口から出た。 「……呪霊?」 俺は自分で驚いた。 どうして知っている? 頭の奥に、いくつかの言葉が浮かぶ。 呪力。 術式。 呪術師。 呪霊。 「……そういう世界なのか?」 呪霊がこちらを見る。 次の瞬間。 襲ってきた。 俺は反射的に身を引いた。 速い。 けれど―― 避けられる。 攻撃をかわしながら、俺は違和感を覚えた。 身体が勝手に動く。 戦い方を知っている。 「……なんなんだ、俺」 呪霊が再び迫る。 俺は手を前に出した。 その瞬間。 世界が止まった。 雪が空中で止まる。 風も止まる。 呪霊も止まる。 音すら消えた。 「……」 俺だけが動いている。 頭の中に、言葉が浮かんだ。 ――The World。 「……時間停止?」 理解した。 今、俺は時間を止めている。 一秒。 二秒。 三秒。 俺は呪霊の横を通り過ぎる。 四秒。 五秒。 距離を取る。 六秒。 七秒。 八秒。 九秒。 そして―― 世界が動き出した。 俺は息を吐く。 「……九秒」 正確に九秒。 なぜ分かるのかは分からない。 呪霊がこちらへ振り返る。 俺は走った。 身体の感覚に任せて攻撃を避ける。 そして―― 何かがおかしくなった。 一瞬。 世界が飛んだ。 さっきまで目の前にいた呪霊が、突然少し離れた場所にいる。 「……今のは?」 時間が抜けた。 そんな感覚。 俺は知らないうちに、何かを使っていた。 呪霊が再び襲ってくる。 俺はその動きを読んだ。 避ける。 踏み込む。 そして、持っていた小さな刃物を突き立てる。 呪力を込める。 呪霊の動きが止まった。 やがて、その姿が崩れていく。 「……」 静かになった。 俺はその場に立ち尽くす。 「……祓った?」 自分でも信じられない。 あれがどれほど強い呪霊だったのか。 俺には分からない。 ただ。 自分が何かを倒した。 その事実だけは分かった。 「……なんなんだよ、これ」 そのとき。 遠くから、誰かが近づいてくる気配がした。 俺は振り返った。 雪の向こう。 白い髪の男が歩いてくる。 目元を布で覆っている。 「へぇ」 男が立ち止まった。 「間に合ったと思ったんだけどな」 「……誰?」 男は少し笑った。 「僕? 五条悟」 その名前を聞いた瞬間。 頭の奥が、わずかに疼いた。 「……五条悟」 「知ってる?」 「……分かりません」 五条と名乗った男は、呪霊が消えた場所を見る。 そして俺を見る。 「君がやったの?」 「……たぶん」 「たぶん?」 「自分でも、よく分かってません」 五条は少し黙った。 そして―― 「面白いね」 そう呟いた。 俺はまだ知らなかった。 この出会いが。 俺の失われた記憶と。 この世界の運命を大きく変えることになるなんて。




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