「ではここの問題についてですが……篠ノ之さん、わかりますか?」
「はい」
授業中、山田先生に当てられた私は、椅子から立ち上がり解答を述べる。
「はい、よくできました」
にこりと微笑む先生を見ながら、席に着く。
「………」
山田先生は、一度の授業でひとりの生徒を2回以上指名しない。
もう当てられる心配がなくなったということで、少しだけ眠気が襲ってくる。
居眠りはまずいので、気分転換に窓の外へ視線を移した。
広大な学園の敷地に用意されているのは、すべてISのパイロット、あるいは整備士や研究者を養成するための施設。
ここに集まるのは、様々な国籍を持った少女達(約1名除く)。
「………」
ISは、世界を変えた。
ならば、もしISが存在しなかったら、どうなっていたのだろうか。
「ですから――なのであって」
まずい。山田先生の声が途切れ途切れにしか聞き取れなくなっている。授業に集中できていない証拠だ。
意識を切り替えようとするが、一度始まった妄想は着実に私の脳内を浸食し続けている。
……もしもISがなかったなら。
姉さんが一躍時の人となることもなかった。
私達家族が離れ離れになることもなかった。
引っ越して、一夏と会えなくなることもなかっただろう。
私は普通の女で。当然一夏も、『世界で唯一』なんて肩書きのないただの男で。
そうであったなら……一夏が戦って、そのたびに傷を負うなんてこともなかったのかもしれない。
もしも。
もしも、そうだったなら――
「……き。おい、箒?」
「………?」
ふと声をかけられ、右を向くと。
「どうしたんだ。ぼーっとして」
不思議そうに私を見つめる一夏の顔。他の生徒も席を立っているので、どうやらすでに授業は終わってしまったらしい。
「……いや、なんでもない」
「そうか。なら行こうぜ」
「行く?」
「今日はみんなでお弁当食べるって約束だったでしょ?」
一夏の背後からひょっこり現れる鈴。
そうだった。だから今朝は早起きして台所に立ったのだ。
「わたくしも何か作るつもりでしたのに、シャルロットさんがなぜか止めてきて」
「せ、セシリアはまた今度ね? うん」
「喜べ。今日は私が軍隊メシというものを用意してきてやったぞ」
いつの間にか、周りにはいつものメンバーが揃っていた。
「……ISがなければ、こいつらと一緒にいることもなかったか」
「うん? 箒、何か言ったか」
「いいや。ふふっ」
あれだけ夢中に妄想していた内容は、すでに頭から吹き飛んでしまっていた。
実際ISがなければどうなってたんでしょうね。