ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
イギリス、ウインドナイツ・ロット。
かつて総人口千人にも満たなかった小さな山村は、十九世紀末から目覚ましい発展を遂げ、現在ではイギリスでも名の知れた都市の一つとなっている。
そんなウインドナイツ・ロットへ向かう道路を、一台の車が走っていた。
「~♪」
運転席の男はご機嫌だった。
理由は単純。父の金で買ったばかりの新車で、ドライブを楽しんでいたからである。
「ん?」
しかし、男の乗る自動車が走る道路の途中で警察が検問を敷いていた。男はあからさまに嫌そうな顔をする。
(ちぇっ、俺は別に犯罪者じゃあねえーがよお、警察は苦手だぜ)
男はそういう星の元に生まれているのか、過去に何度も非も無いのに警察に職務質問を受けたり補導されそうになったことがある。そういった体験が男に警察への苦手意識を植え付けていた。
しかし、だからと言って今更進路を迂回するのも面倒だと判断した男は検問の為に停まっている警察車両の方へ向かっていく。
自動車を停める男。警官が車の窓を覗き込む。
「お名前を確認させていただけますか?」
男は露骨に顔をしかめた。
「……ドナテロ・ヴェルサス・ブランドー」
警官の表情が少し変わる。
「ブランドー……? あのウインドナイツ・ロットの?」
「そうですよ。だから何です?」
「いえ、失礼しました」
「失礼しましたで済ませる気か? 俺はただドライブから帰ってきただけなんだけど」
「しかし、犯人はこの近辺を逃走している可能性がありまして」
「だったら俺じゃなくて犯人を探せよ」
そう言った男――ヴェルサスだったが、ふと道路脇へ目を向ける。
「……まあ、いい」
「何か?」
ヴェルサスは車から降りた。
「ちょっと確認したいことがある」
「?」
ヴェルサスの傍の地面から人型の異形が出現する。目元にパイプのような器官が付いており、鼻や口などの顔の部位は見受けられない。
その異形の名はアンダー・ワールド。スタンドと呼ばれる力の像(ヴィジョン)である。
スタンド。それは人間の生命エネルギーが形となって現れた特殊な能力である。
普通の人間には、その姿を見ることすらできない。
「やれ」
『了解』
アンダー・ワールドは地面を軽く掘る。すると、掘った穴の中に“映像”が映る。
暴行事件を起こした男。
逃走する。
途中で車を盗み、脇道へ入る。
ヴェルサスはその光景を眺めながら、
「……なるほどな」
と呟く。
警察に振り返る。
「北東の旧道。たぶんそっちです」
「なぜそんなことが分かるんです?」
ヴェルサスは肩をすくめる。
「信じる信じないはあんた達次第ですがね」
「……」
警官たちは困惑した表情を浮かべている。
「一応そちらを調べてみるか……?」
「だが根拠のない情報では……」
「そういう話は後にしてくださいよ。こっちの時間も無限じゃない」
数分後、ヴェルサスは検問を抜けウインドナイツ・ロットにある自宅、通称ブランドー邸へと車を走らせるのだった。
◇
ヴェルサスが新車でブランドー邸に到着した時には辺りはすっかり暗くなっていた。
ヴェルサスは敷地内の駐車場に新車を停めると、不用心に鍵もかけずに降車して邸宅に向かった。彼はこう考えていた。まさか『ブランドー家』から自動車を盗る命知らずはこの街にいないだろうと。
ヴェルサスはそのまま上機嫌で屋敷に入りリビングへと向かう。
(今日はご機嫌な一日だったぜ。何処かの偉い人が1週間だけ幸せでいたいなら車を買えって言ってたけど本当なんだな)
そう思いながらヴェルサスがリビングに足を踏み入れると、
「……ん?もう夜だってのにやけに部屋が薄暗いな」
ヴェルサスがこの屋敷の使用人であるヴァニラかダービーに明るくするよう頼もうとした時、薄暗いリビングのソファに誰かが座っているのに気づいた。
「なんだ、パパじゃないか」
ソファに座っていた人物はヴェルサスの父親である男、ディオ・ブランドーだった。
「パパ、いくら吸血鬼だからって室内灯は点けても大丈夫なんだろう?なんで……」
そこまで言いかけた時、ヴェルサスはディオから漂ってくる剣呑な気配を感じ取った。よく見ると、ディオの座る前のテーブルの上には一枚の明細書があった。
「……なんだよ」
「ヴェルサス……!」
ディオがギロリとヴェルサスに目を向ける。そして口火が切られた。
「ヴェルサス! お前また家の金を俺の許可なく使ったな!」
「パパ、俺達金持ちだし贅沢してもいいじゃないか!」
ヴェルサスのその言葉にディオは更に頭に血が上ったようで、
「“俺達”じゃあないッ!」
「この家の金はこのディオの物だ!」
「ちぇっ」
「パパの金だって結局は働かずに他人から貢いで貰ったものじゃねーか……」
「なにィ?」
そんな中、リビングに一人の老婆と一人の男性が入ってきた。老婆の名前はエンヤ。ディオの側近でありディオにスタンド能力を教えた人物だ。もう一人の男性はテレンス・T・ダービー。ブランドー家の執事を務める男である。
「まあまあディオ様」
「坊ちゃんも悪気があったわけでは……」
「甘やかすな、エンヤ!」
「そうだぜ、婆ちゃん」
「ヴェルサス!お前は黙っていろ!」
「ヴェルサス様」
「なんだいダービー?」
「今回使用された金額は、一般的な家庭なら数年分の収入に相当します」
「……お前、そういうのをわざわざ言うなよ。パパ、少し前にリキエルの奴に誕生日プレゼントでバイクをプレゼントしたじゃないか。あれと似たようなもんだろ?」
「それとこれとは話が別だ!今回お前が買った車は文字通り桁が違う!」
「ケチケチするなよぉ!」
「まあまあディオ様、坊ちゃん。ここは穏便にですねえ~……」
そんなこんなでブランドー邸で小さな修羅場が発生する中、にわかに外からエンジン音がした。
「ん?」
「どうした?」
「いや」
「今、俺の車のエンジン音がしたような……」
ヴェルサスが窓の外を見てみる。すると、何者かが乗った新車が走り去っていくところだった。
「…………」
「なあ、ヴァニラやヌケサクに俺の車を運ぶように頼んだ?」
「そんな事知らん」
ヴェルサスは固まる。そして数秒後、
「俺の車が盗まれたあああああああああああっ!?」
新車の運転席では、泥棒がほくそ笑んでいた。
「鍵をかけないとは噂以上のボンボンだったなあ!」
男はヴェルサスが車を購入した自動車ディーラーの手下である。その自動車ディーラーは影で富豪に車を売ってはその車を盗ませ回収するという事を何件かやっていた。
富豪なら車を盗難されても世間体を気にして警察に届けないケースが多いからだ。ウインドナイツ・ロットの名士であるブランドー家もそうだろうと判断された。
しかし、男の一味はブランドー家を見誤っていた。ブランドー家はそんななまっちょろい富豪ではない。
◇
場面はブランドー邸に戻る。
「パパ!車が盗まれた!」
「それがどうした」
「俺の新車だぞ!」
「お前が勝手に買った車だ」
「パパの金で買った」
「……」
ヴェルサスは続ける。
「つまり」
「盗まれたのは俺の車でもあるが……」
「元を辿ればパパの金でもある」
「…………」
ディオの顔色が変わるのを見たエンヤ婆はやれやれといった顔をする。
「おやおや……」
「何だよ婆ちゃん」
「あの泥棒さん……」
「本当に運が悪いねえ」
「?」
「ヴェルサス」
「アンダー・ワールドを出せ」
「……パパ?」
「俺の金を盗んだ愚か者を探す」
件の泥棒は車をウインドナイツ・ロットを出る方向へと走らせていた。
「今回もボロイ商売だったぜ。こりゃ今回のボーナスも期待できるな!」
泥棒はそう言いながら運転を続けていたが、
「ッ!?」
車のタイヤが突如として地面の穴に足を取られた。
「なっ、なんだこの穴!?こんな穴下調べした時にはあいてなかった!」
泥棒は車を進めようとするが、タイヤは空回りするばかりだ。
地面に穴をあけたのはヴェルサスのアンダー・ワールドだった。車から100mほど離れた地点でヴェルサスが呟く。
「アンダー・ワールドを使えばどの道を通って逃走するかくらい分かるんだよ……!ましてや生まれ育ったこの街ならな!」
「で、『世界(ザ・ワールド)』を持つ吸血鬼のパパなら簡単に追いつけるって訳だ」
「あっ!?」
泥棒は驚愕した。ただでさえ車が進まないところに、運転席の傍に男がいつの間にか音もなく立っていたのだから。
「……」
(こ…、こいつ知ってるぞぉー!確かブランドー家の現当主、ディオ・ブランドー!通称DIO!な、何でこんな所にぃー!)
「……その車は誰のものだ?」
その言葉と共に泥棒はディオの足元に転がっていた。
「!?」
泥棒は今自分に起きたことに理解が及ばなかった。ディオは自身のスタンド、時を止める能力をもつザ・ワールドを使い、時間が停止している間に泥棒を車外に引きずりだしたのだ。
「な…、何で外に!?さっきまで運転席に居たのにっ!?」
「答えろ、このディオが質問しているのだ」
「し…、知らない!」
「答えを間違えたな」
ディオから放たれるプレッシャーが増していく。泥棒は恐怖のあまり股間に黄色いシミを作っていく。
そんな中、追いついてきたヴェルサスがディオに声を掛ける。
「パパ、殺すのはやめとけよ。後で面倒だぜ」
「誰が殺すと言った?」
「言ってないけど顔が完全に殺す顔なんだよ。……で、これからどうする?」
「決まっている。先ずはこいつの元締めを調べる。その先だが……、これだけは言える。このディオは舐めて来た相手を許さないということだ」
ディオは泥棒に軽く触れる。ただそれだけの動作だったが、彼を脅すにはそれで充分だった。
「さあ、言え」
「いっ言う!言う!俺は命令されただけだ!」
「○○モーターズの社長に言われたんだ!」
「へえ……!」
その名前を聞いたヴェルサスは静かに怒る。泥棒の口から出て来たその名前は自分が新車を購入した所の名前だったからだ。
「俺に車を売った奴が?」
しかし、泥棒はそれどころではなかった。ヴェルサスの様な若造より目の前にいるディオ・ブランドーそのものに怯えていた。
そしてディオは、
「そうか」
「なるほど」
「つまり、その男は……」
「このディオを甘く見たわけだな」
プレッシャーが収まり、とても落ち着いた表情をしていた。しかし、ヴェルサスは
知っていた。それが、ディオが怒りの矛を収めた訳ではないことを。
(あー、終わったな……。同情はしないけどよ)
後日、その自動車ディーラーが破滅したのは言うまでもない。
◇
さらに後日、ヴェルサスはスマフォで自動車のリストを見せられていた。
「パパ、これは?」
「ヴェルサス、あのディーラーが所有していた車のリストだ。“訳あって”格安で手に入るようになってな。一台だ。一台だけ好きな車を選べ」
「プレゼントしてやる」
ヴェルサスは驚く。
「えっ、いいのかよ?」
「今回だけだ」
「マジか?」
「ただし」
「次からは俺の許可を取れ」
「分かった分かった」
「じゃあ、この一番高い奴で」
「………」
「お前は遠慮をしないな」
「パパに似たんだよ」
こうして、ヴェルサスの車の盗難事件は幕を閉じた。
人生、何が起こるか分からないものだ。
しかし、ヴェルサスはこの時まだ知らなかった。
これから先、車を盗まれる程度では済まないほど、奇妙な出来事に巻き込まれていくことを。
To Be Continued...
……人物紹介……
・ドナテロ・ヴェルサス・ブランドー
主人公。ディオの次男。年齢は原作より若い20歳。原作と同じくスタンド能力アンダー・ワールドを有している。裕福なディオの息子として原作よりかなりマシな人生を歩んでいるが、所謂ボンボン育ちで原作とは別方向に歪んでいる傾向がある。スタンド能力があれば世の中何とかなると考えており、アンダー・ワールドの能力で掘り起こした食べ物を無銭飲食したり、他人の弱みを握ったりして悪用している。しかし、兄や弟たちとの仲は悪くなく、彼らとの交流もあって根は比較的常識的かつ善人より(善人とは言ってない)。自身のスタンドを有効的に使うため出向く場所の過去・歴史は入念に調べる。父ディオのことはパパと呼んで慕っているがディオの悪い所に影響されている部分はある。
・ディオ・ブランドー
ヴェルサス達の父。吸血鬼でスタンド使い。傲慢で上昇志向が強いが原作よりはマイルドな性格。結婚はしていないが愛人達との間にそれぞれジョルノ、ヴェルサス、リキエル、ウンガロをもうける。この世界ではジョナサンの肉体を奪っておらず、ジョースター家とは仲が悪いが殺し合いには至っていない。息子達には彼なりの愛情を持って接しているが、それは父として屑だったダリオを反面教師にしている所が大きい。
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等があったら幸いです。