ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
イングランド、バークシャー州アスコット。
イギリス王室が所有するアスコット競馬場では、この日も大勢の観客が競馬に熱狂していた。
三角形のメイントラックを騎手を乗せたサラブレッド達が駆けていく。
観客にはブランドー兄弟も居た。ヴェルサス・リキエル・ウンガロはある騎手のレースを観戦しに来ていたのだ。
実況アナウンスが鳴り響く。
「シルバー・バレット!独走状態です!他の馬に大きく差をつけているッ!」
シルバー・バレットと呼ばれた馬がゴールに到達する。
「今レースを一着で制したのは、ディエゴ・ブランドー選手が駆るシルバー・バレットだぁーッ!」
ワアアアアアア……!と、アスコット競馬場に歓声が響く。
そんな中ヴェルサスが、
「よし勝った!シルバー・バレットの馬券を買って正解だったぜッ!」
「まっ、強豪だしオッズは低かったけどよ」
競馬の勝敗予想に勝ったようだ。
◇
レース終了後、ブランドー兄弟はディエゴの元を訪ねた。
「どうした?俺のファンが詰め寄せているのか?」
「なに?来ているのはブランドー家の兄弟だと?」
ディエゴはマネージャーから話を聞き、ヴェルサス達を出迎える。
相対するヴェルサス達ブランドー兄弟とディエゴ。
(……パパにそっくりだ)
ヴェルサスはそう思う。吸血鬼であるディオは今でも若々しい容姿をしているが、ディエゴの容姿はそのディオにそっくりだった。もし二人が並べば実の兄弟と思われてもおかしくないだろう。
「すごかったぜ……あの馬をあんな速さで操るのかよ!」
リキエルは素直にディエゴを称賛し、
「顔だけじゃなくて、なんか威圧感もあるな……」
ウンガロはディエゴの何かを感じとったのかヴェルサスとリキエルより少し引いた位置に居る。
一方、ディエゴは三人を見て、
(こいつらがブランドー家の……)
と観察する。
そして表情は紳士的に。
「君達がヴェルサス、リキエル、ウンガロか」
「初めまして。ディエゴ・ブランドーだ」
と挨拶した。しかし内心では、
(……苦労を知らなそうな顔をしている)
ブランドー兄弟にあまり良い印象を持っていなかった。
「それにしても、ウインドナイツ・ロットのブランドー家のご子息達が俺に何の用かな?」
「サインが欲しいとか、それとも君達の父が何か言伝でもあるのかい?」
ヴェルサスが前に出る。
「それなんだが、今度貴方と俺達で会食をする予定になっているよな?」
「そうだな。君達の父ディオ・ブランドーと君達を交えての会食が四日後にあるな」
「パパ……、ディオ・ブランドーがその会食に遅れることになっちまったんだ。悪いな折角会食に応じてくれたのによ」
「そうか……。いや、君達の父にも事情があるのだろう。俺は気にしないよ」
「ああ、パパも遅れるが必ず行くから会食自体はキャンセルしないで欲しいんだ」
「分かった。スケジュールは何とか調整しておくよ。君達の父にもよろしく言っておいてくれ」
「こちらこそよろしく頼んだぜディエゴさん。じゃあ俺達はこれで」
ヴェルサス達ブランドー兄弟はディエゴの居る控室を後にする。
「……」
「どうしたウンガロ?」
黙り込むウンガロにリキエルが尋ねる。
「……あの人、たぶん俺たちのこと嫌ってるよ」
そう言うウンガロにヴェルサスが、
「そうか?」
「勘違いじゃないか?」
と、言うが。
「目が笑ってなかった……」
「なんかヴェルサス兄ちゃんが“パパ”と言った瞬間にピクリと反応してたしさ……」
ウンガロは浮かない顔だ。
一方控室のディエゴは、
「ウインドナイツ・ロットのブランドー家め……」
「貧しかった頃には一度も手を差し伸べなかったくせに」
「俺が成功した途端に親戚面か……」
一人そう呟くのだった……。
◇
そして数日後、ブランドー家とディエゴが会食する日。
早めにロンドンに到着したブランドー兄弟は、折角だからとロンドンをぶらつくことにした。
ロンドン、イギリスの首都にして歴史ある都市。三人は先ずロンドン自然史博物館に来ていた。ここはかの大英博物館と違い、主に自然科学分野を担当している。
「ほー、あれがディプロドクスの全身骨格標本かぁ~!」
三人は中央ホールに飾られる巨大な恐竜の骨格標本を見て感心の声を上げる。
「デカいな」
「ゾウやキリンよりよっぽど大きいぜ!」
「古代の地球ではあのサイズの生き物が地上をのし歩いてたんだからなぁ……」
すると、胸の辺りに造花だろうか、薔薇を飾っている中性的な人物が横から口をはさむ。
「ディプロドクス……、名前の由来は『二重の梁を持つもの』を意味する恐竜だ……。草食性で、胃石と呼ばれる石を飲み込んで消化の助けとしていた」
ヴェルサスが訝しげに、
「……誰だあんた?」
と尋ねる。
「おっと失礼。私はフェルディナンド」
「地質学・古代生物学を修めている学者だ」
「ふーん。じゃあ恐竜に詳しいわけ?」
「まあその辺の者よりよっぽどな」
「君達、大地は尊敬しているか?」
「はい?」
「因果応報、大地を敬わない者はいずれその報いを受ける」
「恐竜は偉大だった」
「地上を支配していた」
「それなのに滅びた」
「なぜだと思う?」
「隕石じゃねえの?」
「……隕石など、ただのきっかけに過ぎない」
「彼らは大地に対する畏敬を失っていた」
(なんか……、変な人に絡まれちゃったなあ)
(ああ、見た限りこの博物館の職員でもなさそうだぜ……)
リキエルとウンガロが目配せする。
リキエルはとりあえず話を合わせることにする。
「へえ……恐竜の絶滅についてそんな説があるのか」
「とても興味深い学説ですね……」
ウンガロも同意しておく。
ヴェルサスは
「大地を敬うって、具体的にはどうすりゃいいんだ?」
と聞く。
博士は真顔で、
「まず地面に唾を吐かないことだ」
「……それだけ?」
「まあ他にも色々あるが、我々が存在できているのは大地あってのものだということを忘れるな」
「人間は大地から恵みを受けながら、それを当然だと思っている」
「まあ、それは分からなくもないけどな」
「ほう?」
「でも恐竜だって滅びたんだろ? だったら大地を敬ってたって意味ないんじゃねえの?」
「……」
その瞬間だけ博士の表情が変わった。
しかしヴェルサスは気にせず、
「まあ、俺は恐竜のこと詳しくないからよ」
「あんたがそう思うならそれでいいんじゃないか?」
と続ける。
「……君」
「ん?」
「名前を聞いてもいいかな?」
「ヴェルサス。ドナテロ・ヴェルサス・ブランドーだ」
「……ブランドー」
「そうか」
「覚えておこう」
その後ロンドン自然史博物館を後にしたブランドー兄弟は、他のロンドンの名所を訪れる。
キングス・クロス駅
「この辺でホグワーツ特急のある9と3/4番線に繋がるんだぜ!」
「それはハリーポッターでの話だろ?」
「ハリーポッターのファンも多く来ているみたいだな」
グリニッジマーケット
「美味そうなチョコレートだなあ!」
「ああ、でも会食が控えているんだ。買っても直ぐに食べるのは無しだな」
ナショナル・ギャラリー
「これがゴッホの『ひまわり』か」
「この絵の他に何枚もひまわりの絵を描いたってんだから、ゴッホはよっぽどひまわりに執着してたんだろうな」
そんなこんなで、観光してきたブランドー兄弟はディエゴとの会食場所である高級ホテルへ向かった。
そして、レストランでディエゴとの会食が始まる。他愛のない話が進み、家族の話へとなっていった。
ディエゴは寂しそうな顔で、
「俺の母親は気高く、美しい女性だった……、俺の為に働き詰めになってそれが元で若くして天に召されてしまったが……」
と口にする。ウンガロは直感的に、
(この話に対するディエゴの思いは本当なんだろうな……)
と感じた。そしてディエゴは、
「君達の母親は?」
と聞く。
するとヴェルサスが、
「知らない」
「……え?」
「顔も覚えてない」
「……どういうことだ?」
ディエゴは信じられないといった顔で尋ねる。
(母の顔を覚えていない?)
(そんなことがあるのか?)
(こいつは、自分を産んだ女の顔すら知らずに生きてきたというのか)
ヴェルサスはゆっくり語り始める。
「俺は母の顔を覚えていない」
「俺達兄弟はそれぞれ腹違い。俺達の母親は皆パパの愛人だった(兄や弟達も母親の話題を出さないという事は俺と同じような印象なんだろう)」
「パパも別に話題に出さないという事は世間一般でいう『愛』とかそういうものは無かったんだろうな」
「だからか俺は母の愛というものは宇宙の果てを知らないように知らねー」
「……」
「因みに昔パパにパパのママ、つまり祖母の事を聞いたが一度だけ『平凡な母親だった』と返ってきたくらいだ(アンダー・ワールドで掘り起こしたことは無いが、祖母は酒浸りでDVもしていた祖父に比べればまともな人物だったのだろう)」
「……そうか」
「あんたの母親は苦労したんだろうな。そしてそんな母の事を話すってことはディエゴ、あんたは母の事が好きだったんだな」
「……ああ」
「そうか」
ディエゴは少しだけヴェルサスの事が分かった気がした。
こいつは母親を捨てたわけでも、嫌っているわけでもない。本当に知らないのだ
と。
(だが、……それでもこいつは、何不自由なく生きている)
ディエゴは複雑な気持ちになる。目の前のドナテロ・ヴェルサス・ブランドーは同じ姓を持っているにもかかわらず、自分とは対照的だった。
幼い頃は貧乏だった自分、幼い頃から裕福だったヴェルサス。
立派な母に育てられた自分、母の顔すら知らないヴェルサス。
自力で競馬界の頂点を目指している自分、親の財産で気ままに生きるヴェルサス。
(……)
(何なんだ……、この気持ちは……!)
(決して好意的なものではないと分かるが……)
ディエゴは話題を変えることにした。
「それにしても、ディオ・ブランドーは遅いな……。確かに遅れるとは聞いていたが」
「まあ、パパの事だしろくでもない理由なんじゃねえの?」
◇
会食が続く中誰が言っただろうか、
「……なあ、なんか街の方、騒がしくないか?」
キャアアアアア!!
逃げろォォォ!!
窓の外から何かが聞こえる。そんな中、
バタン!!
とホテルの従業員が逃げ込んでくる。
服は破れ、血を流している。
「た、助けて……!」
「外に……怪物が……!」
ヴェルサスは、
「なんの騒ぎだ?」
と従業員に近寄ろうとする。
するとディエゴが即座に、
「おい、ヴェルサス! その男に近づくな!」
「明らかに様子がおかしいぞ!」
と止める。
「何?」
負傷した従業員は、
「た……助け……」
と膝をつく。その瞬間、
ピシッ……
皮膚に亀裂が入る。
「……え?」
ピシピシピシッ!!
腕が太くなる。
指が変形する。
顔が前方へ伸びる。
服が裂ける。
そして、
ドドドドドド……
人間だったものが巨大な恐竜へ変貌する。
「う、嘘だろ……!?」
「人間が……恐竜になった……!?」
「なんだよこれ!?」
そしてディエゴだけが冷静に、
「話は後だ! 逃げろ!」
と、テーブルを従業員が変身した恐竜に向かって蹴り飛ばす。
「ガアアアアアァァッ!」
テーブルにぶつかる恐竜。その隙にブランドー兄弟とディエゴはその場から逃げ出す。
「なんなんだよ!?あの恐竜は!?」
「スタンド能力か!?恐竜に変身できるスタンド能力!」
「何はともあれとっとと外に出るぞ!」
(スタンド能力?まさかブランドー家の連中は不思議な力を持つという噂を聞いたことがあるがそれか?)
四人はホテルの外に出た。だが――
そこにあった光景は。
「ガアアアアアァァ……」
「ギャギャギャッ!」
「うわああああッ!?」
「キャアアアア!?」
道路を走る人々。
ひっくり返った車。
建物から逃げる人。
その中を、
ティラノサウルス型
ヴェロキラプトル型
トリケラトプス型
などの恐竜が走り回っている……!
「おいおい……!ジュラシックパークかよぉ……!」
リキエルがそう呟く。
ヴェルサスはあることに思い至る。
「……あいつら、全部人間だったのか?」
先程ヴェルサス達の目の前で恐竜に変身した従業員。更に脳裏にはあることがよぎった。
『大地を敬わない者はいずれその報いを受ける』
ロンドン自然史博物館で出会ったフェルディナンド博士の顔。
「……まさか」
「恐竜に変身する能力じゃねえ……!」
「他者を恐竜に変える能力だとしたら……!」
「ど……、どうすんだよ兄ちゃん……?」
あまりの事にウンガロはそう聞く。
ディエゴもヴェルサスを見る。
「……」
「リキエル! ウンガロ! あっちの路地へ!」
「人がいる! 助けるぞ!」
ディエゴはそんなヴェルサスを見ながら、
(……こいつ)
(自分が助かることしか考えていない男ではなかったのか?)
この異常事態の中そう考える。
「助けたら俺達も逃げるぞ! 英雄ごっこする気はねえ!」
「全員助けなくていいのか!?」
「馬鹿かリキエル!?本体が何処に居るのかも分からない上にここはロンドン!何百万人居ると思ってる!?」
(少なくとも……、現実は見ているようだが)
To Be Continued...
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