ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
ロンドン、サイエンス・ミュージアム。その科学博物館では産業革命など技術と産業・社会の関わりをテーマとして展示している。
今日もサイエンス・ミュージアムには多くの人が訪れており、様々な思いを展示物に馳せる。
「あれが、チャールズ・バベッジの脳か」
学生達がサイエンス・ミュージアムの一角で容器に入った人の脳を見ている。
「いくら天才数学者だったからって、その脳みそを展示してるってのはなんか猟奇的だよな……」
学生の一人がそう零す。
チャールズ・バベッジ。19世紀に活躍した数学者であり、世界で初めて「プログラム可能」な計算機を考案した「コンピュータの父」と言われる男である。その死後は脳の半分がサイエンス・ミュージアムに展示され、もう半分はイングランド王立外科医師会に保管されている。
「ねえ、なんかあの容器から視線を感じない……?」
「ちょっと!怖いこと言わないでよ!脳に目がついてるわけでもあるまいし!」
同じくその場に居合わせる女学生達がそう会話する。
そんな時である、
「おや、建物が揺れている……?」
「地震か?」
「本当に地震かよ?日本みたいな所と違ってこの国じゃあ地震なんて超珍しいぞ」
そうこうしている内に揺れは大きくなっていく。
「うわあ!なんだ!?」
「おい見ろ!チャールズ・バベッジの脳が光ってるぞ!」
学生の一人がチャールズ・バベッジの脳が入った容器を指さす。確かにチャールズ・バベッジの脳が淡い光を放っているように見えた。
「ご来場の方々落ち着いてください!」
「揺れが収まり次第避難を……!」
博物館の学芸員がサイエンス・ミュージアムを訪れている人々に呼びかける。
その内に揺れは収まっていく。
「なんだったんだ……?」
そんな中である。
「あっ!?チャールズ・バベッジの脳が無くなっているぞ!」
学生の一人がチャールズ・バベッジの脳が容器ごと消失しているのに気が付いた。
「どさくさに紛れて盗難されたか!?」
「そんな筈は……」
そんな時、サイエンス・ミュージアム内に声が響く。
『この国はどうやら随分様変わりしてしまったようだね』
『これは私のアブニー・パークを使う時が来たようだ……』
「なんだ今のアナウンスは?」
「ご来場の皆様!落ち着いてください!」
「今すぐ確認を取りますから……」
学芸員はそう呼びかける。しかし、
『アブニー・パーク』
そのアナウンスと共にサイエンス・ミュージアムを中心として世界は塗り替えられていく……。
◇
ロンドンのとあるカフェ。そこでヴェルサスとソフィアがお茶をしていた。
「アイス・ダイアナが行方不明になったのは驚いたわ!」
「盗難にあったって話だけど、人一人が入ってる氷塊を盗むなんてできるのかしら?」
「ヴェルサス、貴方はエディンバラに直々に行ったんでしょ?何かなかった?」
「いやあ、俺達がエディンバラに着いた時にはもうアイス・ダイアナが無くなってたらしいぜ……」
(メイガンのことはスピードワゴン財団にも固く口止めされてるからなぁ、こう言うしかないぜ)
「それにしてもよ、ソフィアはロンドンに来るのはこれが初めて何だったか?」
「いえ、仕事で来たことはあるわ。でも、レジャー目的で訪れたのは初めてかしら?」
「まっ、俺もウインドナイツ・ロットに居りゃ大抵の事は済ませられるし、ロンドンには頻繁には行かねえな」
「でも、今回はロンドンでお茶ってなってるわよね?」
「そりゃあ……、言いにくいがウインドナイツ・ロットじゃあんな事があったばかりだろ?」
「いつかゆっくりと俺の故郷を案内したいがまだ、時期尚早だと思ってな」
「ふふっ、そんな事気にしなくてもいいのに」
「あの落雷のダメージもすっかり回復してるわよ」
「ああ、本当に後遺症の類が無くて良かったぜ……」
そんな会話をしているヴェルサスとソフィアを離れた所から様子を伺っている二人組が居た。変装しているリキエルとウンガロだ。
「……今のところいい雰囲気みたいだな」
「ああ、そう心配せずとも良かったかもね」
リキエルもウンガロも普段とは違う服装をして帽子を目深に被る等で悟られないようにしている。
「しっかし、アイス・ダイアナの件も良くああいうカバーストーリーになったよ」
「まあ、スピードワゴン財団が裏で相当苦労してるみたいだね」
「そういえばリキエル兄ちゃん、メイガンさんとの連絡はどうなの?」
「そうだな、メイガンは凄いよ。初めて触ったスマートフォンをもう大体は扱えているらしい」
「財団に監視されてて検閲も入っているとはいえメールを送って来たし」
「ヴェルサス兄ちゃんもリキエル兄ちゃんも春が来てるねえ……」
「まっ、俺は焦ったりしないけどさ」
ヴェルサスとソフィアの会話は続く。
「そういえばね、前にバンシーに付きまとわれていた時に彼女の写真を撮ったんだけど写っていなかったの」
「あれは幻覚な訳ないけど、そういうものなのかしらねえ」
(そういえば、あの森に居た妖精達も写真に写らなかったな。人外同士何か関係があるのか?)
「まあ、幻覚でないのは俺も見た訳だし保証するぜ」
「そうね……、あっ、店員さんアールグレイを頼むわ」
「かしこまりました」
そんな時である、ブランドー兄弟は何かを感じ取った。
「「「……ん?」」」
「なんだ……、今のは?」
「ん?ソフィア?」
「どうかしたのヴェルサス?」
ヴェルサスの目の前に居たソフィアは、今日は普通の今時の恰好をしている筈だった。しかし、
「いつの間に着替えたんだ?」
今のソフィアの恰好は、ブラウンを基調としたコルセットや前後で長さが違うハイロードレス等のまるでヴィクトリア朝時代の服装だった。帽子にはゴーグルがついている。
ソフィアはキョトンとした顔で、
「何を言ってるの? 着替えてなんかいないわよ?」
と答える。
「いや、待て待て! さっきまで普通の服だっただろ!」
「普通って……これが普通でしょう?」
ヴェルサスは思わず辺りを見まわす。すると、今までいたロンドンの景色が数秒前に記憶していたものとは異なることに気づいた。
「ウンガロ……」
「うん。俺にも見える」
「兄貴だけじゃないな」
リキエルとウンガロも異変に感づいている。
ヴェルサスは混乱を覚えながらも周囲を観察する。
カフェの内装はやけに歯車やパイプが目立っている。
通行人の服装もソフィアの衣装と似たような、ヴィクトリア朝時代を思わせる服装になっている。
道路を馬車と蒸気機関車が融合したような乗り物が走っている。
街中の遠くの方に巨大な煙突が見える。
「おいおいおい~!どういう事だよ?」
ヴェルサスは冷や汗を流す。おかしい。明らかにロンドンはこんな感じでは無かった。
そんな時、
「兄貴!」
「兄ちゃん!」
リキエルとウンガロがヴェルサス達の所に駆け寄って来た。
「あら?確かヴェルサスの弟君たち……」
「おい!お前ら付いてきていたのかよ!」
「話は後だ!兄貴ロンドンはこんな景色じゃなかったよな!?」
「ああ、そうだな」
「こんなレトロチックな所じゃなかった筈だが……」
「街がこんなスチームパンクな事になってるのはもしかしてスタンドのせいかな?」
ウンガロのその発言にヴェルサスは、
「スチームパンクってなんだ?」
と聞く。
「スチームパンクってのは、簡単に言うとSFのジャンルの一つでもしも蒸気機関が電力に駆逐されずに発展していったらっていうもしもの歴史を描いた話のことさ」
「今のこのロンドンの景色がそうだと?」
「俺の目には思いっきりそのスチームパンクに見えるね」
「さっきから何の話をしているの?」
「いや、ソフィア。ちょっと弟とSFの話をしてたのさ」
「で、これからどうする兄貴?」
「ちょっと待て、今のところ俺達に害は無さそうだし……」
「ちょっとこのロンドンを歩いてみないか?」
「えっ、大丈夫なのか?」
「ここでじっとしていても事態は変わらないと見た」
「この街を散策して、こうなった原因を探すのが良さそうだぜ」
「そう言って単にソフィアさんとのデートを継続したいだけなんじゃないの?」
◇
先ずヴェルサスはロンドンの代名詞と言える時計塔、ビッグ・ベンに向かう。
「歩けど歩けど蒸気と歯車ばっかりだな……」
そう言うヴェルサスの頭上を大型の飛行船が通り過ぎる。
「飛行船か……、ジェット飛行機なんて無くなってるのか?」
「もうすぐビッグ・ベンね」
そして、四人の目に見えたのは。
「すげえな……」
ヴェルサスの知るビッグ・ベンよりも更に巨大な歯車やパイプが目立つ時計塔だった。
「なんか……、こう、俺達の知るビッグ・ベンよりも迫力が違うな……」
「記念写真でもとる?」
ソフィアはこれまたレトロチックなデザインのカメラを取り出す。
「そうだな……、折角だし」
「リキエル、ウンガロ。お前達も入れ」
そしてブランドー兄弟はフラッシュを焚かれながら記念撮影をする。
「現像は後のお楽しみね」
次にヴェルサス達はロンドンを代表する公園、ハイド・パークを訪れていた。
(公園だしこの辺はあまり変わらないと思ったら……)
ハイド・パーク内では何人もの子供が何かのガジェットを装着してあまり高くは無いが飛行して遊んでいた。
「わーッ!」
「待てーッ!」
「随分とハイテク?な遊びをやってやがる……」
「なんか俺達の世界よりも技術進んでる所ない?」
「あんな事が出来てるってことはディストピアとかそーいうのではなさそうか……?」
「なんか楽しくなってきたなぁ!ソフィア、次はロンドン・アイに行ってみるか?」
「いいわよ!観覧車でしょ?」
四人は市街を走る小型の蒸気機関車に乗ってロンドン一の観覧車と言えるロンドン・アイの方へ行く。
ロンドン・アイもまた、ブランドー兄弟の知っている世界とは違ったスチームパンク的なデザインになっていた。
「今更だが、料金はポンドで大丈夫なんだよな?」
4人がロンドン・アイを眺めていると、そこにとある存在がやってきた。
「やあ、ロンドンの皆、安んじているかね?蒸気と歯車の力は皆の為にあるからね」
「ん?誰……、!?」
『彼』の姿を見たブランドー兄弟は一様に警戒した。その姿は一見紳士服を来た人間の男性に見えた。しかし、よくよく見ればそれは明らかに人間で無かった。
顔の一部が歯車。
衣服の隙間から蒸気が出る。
胸部に蒸気機関。
関節が機械。
頭部に無数の細い管。
話すと機械音が混じる声。
彼は人間と言うより人間を模した機械と言った方が正しい見た目をしていた。
「なんだお前は!?」
「普通に話しかけて来たけどどう見ても人間じゃねえ!」
「『銀河鉄道999』の機械人間みたいだ!」
ブランドー兄弟はその異形相手に身構える。しかし、
「あら、あなたはチャールズ・バベッジさんでしょう?」
「…………え?」
いつものような声色でそう言ったソフィアにヴェルサスは思わず二度見した。
そして、そのチャールズ・バベッジという名前を聞いて一番同様していたのはウンガロだった。
「『チャールズ・バベッジ』!?そ……、そんな筈は無いッ!」
「彼が活躍したのは19世紀!俺達のパパ、ディオ・ブランドーが生まれた頃の時代だ!」
「そういえばパパって19世紀生まれだったな」
ディオ・ブランドーの生年は1867~1868年、チャールズ・バベッジはその約3年後の1871年に亡くなっている。
「バベッジさんは体を機械化して21世紀まで生きてるのよ?」
ソフィアのその言葉にヴェルサスが、
「おいおい……、何時からロンドンはサイボーグが出歩く街になったんだ?」
と呟く。
バベッジは、
「はっはっはっ、これでも長年コツコツと身体を改造し続けて来たからねえ。エドガー・アラン・ポーの『使いきった男』は知っているかね?大体それと同じだ」
とジョークなのかどうか分からないことを言う。
「ちょっと待てソフィア。お前が学生時代歴史の授業の成績は如何ほどだったかはしらねえが、19世紀に生まれた筈の男が21世紀に生きてるとかどう考えてもおかしいだろ!」
「ヴェルサス、貴方前に言っていたけどパパの年齢が100歳を超えてるって言っていたじゃない」
「それと似たようなものよ」
「いや、それはだな……」
「いい?イギリス人の常識だけどバベッジさんは19世紀に自らの考案した階差機関、そして解析機関を完成させて産業革命にあったイギリスの技術力を更に押し上げたの。バベッジさんが考案した機関はこの国のコンピューター全ての先祖と言っても過言は無いわ」
「そして、今もなおバベッジさんは自ら機関をアップデートさせ続けているのよ」
「ま、マジかよ……!」
「うろたえるな兄ちゃん!そんなのまやかしだッ!」
「どう見てもこの自称チャールズ・バベッジのサイボーグが怪しいよ!」
「自称とは酷い言いぐさだ。肝心要の脳みそは生身のままだと
いうのに……」
「ところで、君達は私のもう片方の脳の行方を知らないかね?」
「……“もう片方の脳だと”?」
「そうだとも」
その時ウンガロが何かに気づいた。
「そうだ聞いた事がある……!チャールズ・バベッジの脳は死後、半分がイングランド王立外科医師会に保管され、もう半分がサイエンス・ミュージアムにて展示されている……!」
「今ここにある私の脳は博物館で展示されていた方なのだがね、王立外科医師会が保管した方がまだ見つかっていないのだよ」
「なにぃ?」
ヴェルサスが訝しげにバベッジを見る。
「すみませんバベッジさん。私たちはそういう事は初耳で、存じていないわ」
ソフィアのその言葉を聞いたバベッジは、深いため息と共に大量の蒸気を吐き出した。
「そうか……、もう片方の脳が無ければ私は完全になれないと言うのに……」
「完全だと?」
「こちらの話だ。邪魔をしてすまなかったね」
バベッジはその場を離れようとした時である。
「見つけたぞ……!」
その場に半分人間半分恐竜の恐竜人が現れた。
「えっ、何あれ!?」
恐竜人を見て驚くソフィアだが、ヴェルサスはその正体を知っていた。
「ディエゴ・ブランドー……!?」
To Be Continued...
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