ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
ヴェルサスはノリッジへと車を走らせていた。その途中ヴェルサスはある過去を思い返す。
(子供の頃、学校で『おじいちゃん』について話題になったことがある)
(誰かの祖父はサンタクロースみたいな白い髭を生やしているだとか、誰かの祖父は昔軍人だったとか……。そんな、どうでもいい話だった)
(だが、俺には祖父の顔が分からなかった)
(パパに聞いても教えてくれなかった。屋敷の使用人達に聞いても、『ディオ様は100年以上生きておられますから、祖父君ならとっくに墓の中でしょう』と言われるくらいだった)
(だから……俺は自分で調べた)
(当時の俺には、もうアンダー・ワールドがあったからな)
――――――――――
幼いヴェルサスの前で、地面が掘り返される。
そこに現れたのは、一人の男の“過去”だった。
(出て来たのは、見た目からして小汚ねえ酒飲みのオヤジだった)
(そして行動も、ほとんど見た目通りだった)
酒に溺れる。
他人から金を騙し取る。
そして――――。
幼いディオに暴力を振るう。
(……)
幼いヴェルサスは、その光景を黙って見ていた。
(これが……俺の祖父?)
「ヴェルサス」
背後から声がした。
「……パパ?」
振り返ったヴェルサスは、少し驚いた。
そこにいたディオは、いつものような余裕ぶった表情をしていなかった。
まるで苦虫を噛み潰したような、本気で嫌そうな顔をしていた。
「こんなものを見る必要はない」
「え?」
その瞬間だった。
バキィンッ!
ダリオ・ブランドーの記憶が、突如として崩壊する。
(当時の俺は知らなかった)
(パパが何をしたのか)
(ただ、祖父の記憶が一瞬で壊れたことだけは分かった)
「どうして?」
幼いヴェルサスが尋ねる。
「くだらんものだからだ」
「でも……」
「忘れろ」
ディオはそれだけ言った。
(今になって思えば……)
(パパと祖父の関係は、最悪だったんだろう)
(あのパパにも……、息子に見せたくないものがあった)
――――――――――
車の窓から、ノリッジの街並みが見えてくる。
(正直に言えば、パパが善人か悪人かと聞かれれば……)
(ぶっちぎりで悪人だ)
(大っぴらにはしていないが、人だって何人か殺しているだろう)
(気に入らない相手を潰すこともある)
(自分が欲しいもののためなら、他人を利用することだってある)
(でも……)
(俺はそんなパパを嫌ってはいない)
(何故だ?)
(俺が同じ悪人だからか?)
(それとも……、俺にとってあいつが、ただの悪人じゃなく『父親』だからか?)
(分からない)
(ただ、一つだけ分かっている)
(俺が今からやろうとしていることも……)
(黄金に輝くような道を歩く人間のやり方じゃあない)
(俺が歩くのは、漆黒の道だ)
(このドナテロ・ヴェルサス・ブランドーには、間違いなくディオ・ブランドーの血が流れている)
(そして……あのダリオ・ブランドーの血も)
(人間なら誰だって幸せになりたい)
(だが、俺達ブランドー家は……その願いのためなら他人を蹴落とすことへのブレーキが、少し壊れているのかもしれない)
(誰かを押し退けても)
(誰かのものを奪ってでも)
(自分が幸せになりたい)
(そんな願いを……完全に否定できる人間なんているのか?)
(黄金の道を歩く者は、俺達を『悪』と呼ぶだろう)
(それでいい)
(俺は多分、何度生まれ変わっても幸せになるために行動する)
(そして――――)
(その幸せを邪魔するものがあるなら、俺はそれを取り除く)
(それが……ブランドーの血ってやつなんだろうな)
車がノリッジへ到着する。
「……柄にもなく、メランコリックなことを考えちまったな」
「さて……仕事を済ませるとするか」
◇
ノリッジ、ブリテン島東部に位置する州都である。語源は「北の町」を意味しており、都会であるロンドンよりも治安が良く住みやすい街だという者もいる。
そのノリッジにてヴェルサスは行動を開始していた。今回のターゲットであるカーティスの住宅を遠くから見やるヴェルサス。
「あれがカーティスの家か……、成程、ブランドー邸には及ばないが立派な家だぜ」
ヴェルサスはアンダー・ワールドを発動させる。ヴェルサスの足元よりアンダー・ワールドが出現、何時でも能力を使える態勢に入る。
(俺のアンダー・ワールドの掘り起こせる地面の記憶の範囲は大体都市一帯くらい……、この距離ならなんの問題もねー)
そしてアンダー・ワールドは地面を掘り、ノリッジの地に記録された過去を現出させる。
そして約10分後……
『目ぼしい記録はこんなものでいいかい?』
「ああ、十分だ。贈収賄に横領。十分すぎるほど黒いぜこのカーティス氏はよ」
「まあパパを敵視してる奴なら俺には関係ないな」
ヴェルサスはアンダー・ワールドによってカーティスが行っていた不正の証拠を掴んでいた。過去より掘り起こされた違法取引の現場は撮影したし、その他の証拠となる重要書類も写しはとった。
「あっけなく終わっちまったな……」
『じゃあウインドナイツ・ロットに戻る?』
「いや、アンダー・ワールド。折角だからノリッジの観光にしゃれ込むぜ。ノリッジ大聖堂によったり、マーケットを物色したりしてよ」
ヴェルサスは元々、仕事の帰りに観光する気だった。故郷ウインドナイツ・ロットも好きだが他の観光地に興味がないわけではない。
『……俺は何も言わないよ』
「まあ、調査に数日かかるかもって言っておいたし問題ないだろ」
そしてヴェルサスはノリッジの観光をした。
「これが1096年に建設された大聖堂か……」
「教会絡みの建物に行くとどうしてもあの神父を想起しちまう……」
そしてマーケットでは。
「この観葉植物は車に入りそうだし買ってみるか」
更にウェンサム川沿い遊歩道。
(まっ、そろそろ戻ってもいいかな?)
ヴェルサスが車を停めてある所の方へ向かおうとした時だった。一人の通行人の女性がヴェルサスの目に留まった。
「!?」
その女性は顔立ち、背の高さ、体形などヴェルサスの好みにどストライクだった。
(うおおおっ!マジか!こんな所でめっちゃ好みの女を見かけるなんて!もしかしてこれがパパが偶に言っていた『引力』ってやつか!?)
ヴェルサスはその通行人の女性をそれとなく追いながら、内心でどうナンパするのか考えていた。
(伊達男の本場イタリアのジョルノ兄貴なら口説き文句なんて色々知ってそうだがよぉ~!)
そして、ヴェルサスは女性に声を掛ける。
「そこのレディ」
「はい。何か?」
(や、やったぞぉー!)
「俺はヴェルサス。ウインドナイツ・ロットから観光しに来た者なのだが、近くのカフェで話さないか?」
「はあ……」
女性は腕時計を確認する。
「特に差し迫った予定も無いですし構いませんが……」
(よ~しよしよしよし!)
「ああ……、丁度住人と話してみたかったんだ……」
◇
カフェテラスで二人はそれぞれ注文をして話始める。
「君の名前を知りたいな」
「ソフィア……、ソフィア・ミラーというわ」
「ソフィア、君は「引力」を信じるか?人と人の間には「引力」があるということを……………」
「引力……?」
「混乱させてしまってすまない。父からの受け売りの話なんだが、今日このノリッジで俺達が出会ったのは意味があるように思えてならないんだよ」
「その……、もしかしてですけど、私をナンパしている?」
(やべっ、偶にパパがやるムーブを真似してみたがきつかったか?)
「君が俺との出会いをどうとるかは君の自由だ。俺は君の事を知りたいと思っている」
ソフィアは何かを考えるような仕草をする。そして、
「何か今の貴方、ちょっと無理してる気がするわ。緊張してるの?“素”で話すというなら私も貴方に応じる」
「むっ!?……いいのか?その、俺なりに格好つけてたんだが」
「仮に引力を信じるとして、先ずは友達から始めましょう?」
「……分かった。普通に話すぜ」
「で、ソフィアはノリッジ生まれなのか?」
「ええ。ずっとこの辺りよ」
「へえ。俺は旅行が好きでさ。知らない土地を見るのは結構楽しいんだ」
「さっきまで観光していたって言っていたものね」
「ノリッジ大聖堂も見たし、マーケットも見た。ウェンサム川も歩いた」
「結構しっかり観光してるのね」
「せっかく来たんだからな」
「じゃあ、ネス湖には行ったことある?」
「ネス湖っていうと……」
ソフィアがスマフォを操作して画面を見せる。そこには首の長い恐竜の様なシルエットが水面から出ている画像が映っていた。
「“ロッホ・ネス・モンスター”、通称ネッシー。イギリス各地の湖には怪物伝説が付き物だけどネス湖のネッシーの話はその中でもトップクラスに有名ね」
「へえ、ネッシーの話が好きなのか?」
「ええ、子供の頃からネッシーの話が大好きで何度もネス湖に行ってみたけど結局痕跡すら見つけられなかったのはいい思い出よ」
「………」
ソフィアの話を聞きながらヴェルサスはあることを思いついていた。
(もし、ネス湖に行ってネッシーが居るっていう証拠を掴めたら……!)
(もしも、ネッシーを捕まえてソフィアにプレゼントしたらよお!ソフィアの心を射止める事が出来るんじゃないのか?)
「ネス湖かあ……、そういえば俺は行ったことが無かったし一度行ってみようかなあ……」
「そうね、アーカート城とか見どころもあるしおすすめしておくわ」
「よし、決まったな!」
ヴェルサスは席を立つ。
「ソフィア。良かったらだが連絡先を交換しないか?あと話に付き合ってくれたお礼にカフェ代はこっちが持つぜ」
「いいの?私ケーキとか頼んじゃったけど……」
「金持ちなんでな」
「そう、ありがとう!じゃあ連絡先も交換しましょう」
「ああ!」
二人は連絡先を交換する。
(よしよし!パパの言う“引力”っていうのもあながち戯言じゃあなさそうだな)
ヴェルサスはソフィアと別れた後、車を駐車した場所へ向かうのだった。
「よし、決まった!」
「パパへの報告なんざさっさと済ませて、ネス湖へ行く準備をしなくちゃあな!」
◇
ブランドー邸。
ノリッジから戻ったヴェルサスは、ディオの前に数枚の資料を並べていた。
「贈収賄」
「横領」
「政治家との癒着」
「愛人への裏金」
「それから、過去に同業者を陥れて財産を奪った件」
ヴェルサスは最後の資料を机の上に置く。
「……これだけか?」
ヴェルサスは思わず顔をしかめた。
「十分だろ」
ディオは資料に目を通す。
「そうだな」
「ちなみに、あいつ……カーティスはどうなる?」
「知らん」
「知らんのかよ」
ディオは資料を置いた。
「私に喧嘩を売らなければ、私も何もしなかった」
「だが、あの男はこのディオに手を出した」
「それならば、その結果を受け取るのは当然のことだ」
ヴェルサスは少し沈黙する。
「……それ、結構怖い台詞だぞ」
「そうか?」
「そうだよ」
ディオは特に気にした様子もなく、再び資料へ視線を戻した。
ヴェルサスは肩をすくめる。
「まあいいや。俺の仕事は終わったんだしな」
「そういうことだ」
こうして、カーティスの件はブランドー家の手から離れた。
その後、彼がどうなったのか。
ヴェルサスは知らない。
そして、知ろうとも思わなかった。
更にヴェルサスが自室に戻った時にはカーティスの事はもう記憶の隅に追いやられていた。今のヴェルサスにとって大事なのはソフィアを射止める為にどうネッシーを捕獲しようかというものだった。
「さてと……、ネッシーの捜索に使えそうな物は注文するか現地で過去に使われた物を掘り起こすとして……」
「流石に俺一人だと色々非効率だろうし、観光のていで誰か誘うか」
ヴェルサスは自分の所有するパソコンでネス湖で行う捜索で使えそうな道具を調べながら、誰を誘うか考えていく。
「使用人の誰かは……、忙しそうだから断られるかもな。じゃあ弟たち……、ウンガロはインドア派だし今回は足手まといになるかもしれねえ」
「となると誘うのはリキエルにするか。あいつのスタンド考えてみれば未確認生物を操るスタンドだし、ピッタリかもな」
と、ヴェルサスは勝手にリキエルを今回の件に巻き込む事を結論づけるのだった。
To Be Continued...
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