ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
ザバアアアアアッ!!
湖面を巨大な波が走る。
「うおおおおおぉっ!?」
「兄貴!ボートがひっくり返る!」
ヴェルサスは急いで湖から戻ってきたアンダー・ワールドを呼び寄せる。
「アンダー・ワールド!」
『分かってるよ!』
「よし!あのネッシーを捕まえるぞ!」
ヴェルサスは湖面を進む巨大な影へ指を突きつけた。
「まずはあいつの記憶を掘り起こして――」
『……』
「おい」
『……』
「アンダー・ワールド!何やってる!早く掘れ!」
『ここは水上だ』
「はあ?」
『地面がない』
「……」
ヴェルサスの動きが止まる。
「……はっ!」
「そうか!」
「アンダー・ワールドは地面の記録を掘り起こすスタンド!」
「水は地面ではないっ!」
『今さら?』
「うるせえ!」
しかしそれで諦めるヴェルサスでは無かった。
「なら最初から準備していた方法で行く!」
「リキエル!」
「何だ!?」
「ボートに積んだケースを取れ!」
リキエルがケースを開く。
「これか!?」
「そうだ!」
中に入っていたのは、圧縮された巨大な投網を発射する捕獲用ランチャーだった。
「兄貴……本当にこれでネッシーを捕まえるつもりなのか?」
「当たり前だ!」
ヴェルサスはランチャーを構える。
「ソフィアへのプレゼントだからな!」
「まだそれ言ってるのかよ!」
ズドォン!!
巨大な網がネッシーへ向かって飛んでいく。
「よし!」
しかし――
ザシュッ!!
ネッシーの体表から、複数の刃物が飛び出す。ナイフ、鋸刃、大型の刃。
投網はズタズタとなった。
「なっ……!?」
「兄貴!網が!」
「切られた!?」
ネッシーの身体から突き出た刃物が、ゆっくりと収納される。
ヴェルサスは目を細める。
「……普通の動物じゃねえな」
「今さらかよ!」
ヴェルサスは次の手を取る。
「投網だけじゃねえ!」
次にヴェルサスが取り出したのは麻酔銃だった。
「あんな巨体に効くのか!?」
「やってみなけりゃ分からねえだろうが!」
パンッ!パンッ!パンッ!
ヴェルサスは麻酔銃を次々と撃つ。しかし、
「まるで効いてねえ……!?」
ネッシーの巨体故か体表が硬かったのか、麻酔銃を撃ち込まれたネッシーはケロリとしていた。
「仕方ねえ!こうなったら最後の手段だ!」
次にヴェルサスが取り出したのは。
「銛!?」
「捕獲するんじゃなかったのかよ!?」
鋭い切っ先の銛だった。
「本当は無傷で捕らえたかったが、この状況じゃ仕方がねえ!」
「相手も普通の生物じゃないみてえだしこれで弱らせる!」
ヴェルサスはアンダー・ワールドに銛を渡す。
「アンダー・ワールド!奴に投擲しろッ!」
アンダー・ワールドは言われた通りネッシーに向かって銛を投擲する。だが、
ガキッ!!
横から飛んできた何かによって銛は弾かれた。
「何ッ!?」
飛んできたもの……、ワイヤーに繋がれたフックを伸ばしていたのは一艘の大型のボートだった。
大型ボートの甲板に立っていた人物。
それを見たヴェルサスの顔が引きつる。
「……お前かよ」
「ボート小屋のオヤジ!?」
リキエルも目を見開く。
そこにいたのは、ボートを貸した男。
フレッド・ソーヤだった。
「フレッド!」
ヴェルサスが叫ぶ。
「何のつもりだ!?」
フレッドはワイヤーに繋がれたフックを操作しながら答える。
「……それはこちらの台詞だ」
「ネッシーを捕獲すると言った時は冗談かと思った」
「まさか本当に武器まで持ち込んでくるとはな……」
「武器じゃねえ!」
ヴェルサスは反論する。
「最初は投網だ!麻酔銃だ!」
「捕獲用だ!」
「最後に銛を出しただろう」
「それは仕方なくだ!」
「しかもスタンドに投げさせた」
『俺のせいじゃないよ』
「今は黙ってろ!」
リキエルはヴェルサスを見る。
「兄貴……」
「何だよ」
「どう考えても兄貴が悪くないか?」
「うるせえ!」
「ていうか、スタンドが見えてるってことはあんたスタンド使いかよ!」
「そうだ。ミュートマス。このボートそのものがスタンド……」
フレッドの乗っている大型ボート……、ミュートマスがウインチに繋がったフックをヴェルサス達の乗っているボートに引っ掛ける。
「うおっ!」
「ちょっと待て、あんたはネッシーの何なんだよ!」
「あれはお前達が思っているようなUMAじゃない」
「数十年前にこの地に共に越してきた友だ。以来彼はこの湖を気に入り住み着いている」
「友だとおー!?」
「数十年前……、一体あんた何歳だ?あの生き物にしろあんたにしろ何者なんだ!?」
「そうだな教えておこう……」
フレッドの表皮が岩の様に変化する。
「!?」
「私は岩人間だ……。そちらの私の友は岩動物……、我々はお前達のような炭素を基盤とした生命ではない」
「岩人間だとお~!?」
「そんな生き物がいたのか……」
「生態は岩になれるし休眠期間はあるが、お前達人間よりもよほど長生きが出来る」
「なんにせよ、私の友を傷つけようとする存在は放っておけない……!」
ミュートマスがウインチを巻き始め、それと共にフックが引っかかったままのヴェルサス達のボートはミュートマスへと接近していく。
ギギギギギギ……
「おいおいおい!引っ張られてるぞ!」
「見れば分かる!」
「どうするんだ兄貴!?」
ヴェルサスがフックを見る。
「アンダー・ワールド!あれを外せ!」
『了解』
アンダー・ワールドがフックを掴もうとする。
しかし――。
バシュッ!!
ミュートマスから新たなワイヤーが射出される。
『うわっ!?』
「アンダー・ワールドまで狙ってきやがった!」
「お前達のスタンドが何をするか分からん以上、黙って見ている理由はない」
「ならば直接そのボートを壊してやるぜ!アンダー・ワールド!」
アンダー・ワールドはミュートマスに接近し船体を殴る。だが、
『か、硬い……』
アンダー・ワールドの拳、及び本体であるヴェルサスの拳から血が出る。
「……無駄だ。私のミュートマスは物質同化タイプのスタンド。スタンド使い以外にも見えるが、実体のボートとスタンドパワーが合わさりとても頑丈になっている……」
「兄貴!ここは俺がなんとかする!」
リキエルがスカイ・ハイを発動する。リキエルの右腕に虫の様なスタンドヴィジョンが出現し辺りをロッズが飛び回る。
「なんだ……?虫の様なものが空中を高速で飛び交っている……!」
「虫じゃねえ!ロッズだ!」
すると、フレッドの指の関節が曲がり動かせなくなる。
「!?」
ロッズがフレッドの指部分の体温を吸収し病気にしたのだ。
「どうやら岩人間でもロッズは通用するみたいだな!」
フレッドは飛び交うロッズが自身の異変の原因であることを悟ると、
「友よ!」
水上のネッシーに向かって呼びかける。すると、
「今度はなんだ!?」
ネッシーが身体から複数の銃身を伸ばす。
バシュバシュバシュバシュッ!
そして空中に向かって射撃を始める。
それは空中を高速飛行するロッズを狙って撃ち落とそうとするよりも、
「これじゃあロッズが近づけない!?」
「俺が攻撃させるための“ルート”を塞いでるのか!」
見えないなら、近づける空間そのものを潰せばいいという感じで乱射。弾幕を形成する。
それを見ていたヴェルサスはというと、
(水面は掘れねえ)
(なら……地面を掘れないなら“地面のある場所”まで行けばいい)
視線をフレッドのミュートマスへ向けていた。
フレッドとネッシーの意識は空中のロッズの方を向いている。仕掛けるなら今だ。
(行け!アンダー・ワールド!)
アンダー・ワールドはミュートマスの甲板に飛び乗り、その船内に向かっていく。
「!」
フレッドの方が気づくが少し遅かった。アンダー・ワールドは船内にてあるものを見つけていた。
『あったよヴェルサス』
『食料だ』
アンダー・ワールドが手に持ったのは船内に積んであった缶詰だ。そのまま缶詰の蓋が開けられる。
「ようし!“掘るもの”があった!アンダー・ワールドや俺自身が穴を掘る事で記憶は掘り起こされる!」
「何をする気だ……?」
フレッドはミュートマスを操作してアンダー・ワールドを捕らえようとする。だがアンダー・ワールドが缶詰内の固形物を掘る方が早かった。
ピチピチピチピチピチピチ!
缶詰の中から大量の生きた魚が飛び出してくる。
「……!?」
そのままあふれ出た魚達はネス湖水中で群れを成して泳ぎ始める。
「おお!」
すると、餌だと思ったのか新しい玩具と思ったのかネッシーがその魚群を追い始めた。
それは空中のロッズが完全にフリーになった事を意味していた。
「今だ!スカイ・ハイ!」
リキエルはすかさずロッズに指令を送る。
「ぐうっ……!?」
ロッズによってフレッドのまぶたは強制的に下がった。
「アンダー・ワールドォォォッ!」
そしてその隙を逃さないヴェルサス。アンダー・ワールドは視界を塞がれたフレッドに接近する。
「WRYYYYYYYYYYYY――ッ!!」
そしてそのまま連続パンチによるラッシュを叩き込んだのだった。
「がっ……!」
フレッドは吹っ飛び後方のミュートマスの壁に激突した。ミュートマスのパワーも弱まりヴェルサスはボートに引っかかっていたフックを外す。
「ふう……!何とか危機は脱したけどよ、これからどうする?」
フレッドは壁に叩きつけられ、しばらく動かなかった。
湖上では、ネッシーが先ほどアンダー・ワールドによって掘り起こされた魚を追い回している。
ヴェルサスはその様子を見る。
「……あいつ」
「完全に魚に夢中じゃねえか」
リキエルもネッシーを見る。
「兄貴」
「何だ?」
「さっきから思ってたんだけどよ……」
「何だか、あいつ……」
「俺達を食おうとしてたわけじゃないよな?」
ヴェルサスも少し考える。
確かにネッシーはボートを押し流した。
しかし、最初から二人を直接攻撃してきたわけではない。
銃や刃物を使ったのも、ヴェルサス達が捕獲しようとした後だった。
「……そういやそうだな」
「最初に襲い掛かってきたのは、俺達が投網をぶっ放した後だった」
『麻酔銃も撃ったよね』
「うるせえ」
『銛も投げた』
「だからうるせえ!」
その時。
「……気づくのが遅い」
ヴェルサス達が振り返る。
フレッドがゆっくりと立ち上がっていた。
「私は最初からお前達を殺すつもりはなかった」
「ただ……」
フレッドは湖上のネッシーを見る。
「友を守ろうとしただけだ」
ヴェルサスは眉をひそめる。
「友?」
「ペットじゃねえのか?」
「違う」
フレッドは即答する。
「ネッシーは私のペットではない」
「私の友だ」
ヴェルサスは少し意外そうな顔をする。
(まっ、ペットを友達と思う奴もいない訳じゃねえが、この口ぶりだと本当にそうなのか?)
フレッドは語り始める。
「私は人間社会に長く関わるつもりはなかった」
「数十年前、この地に友と共にやって来た。あの通り友は巨体だ、街に身を隠すのは無理がある」
「街……、そういえばインヴァネスで奇妙な岩の噂を耳にしたが……」
「それは多分私だ。休眠期間が近くなるとあの街の公園で岩に紛れる事にしている」
「なるほど……」
「話を戻すぞ。友はここを気に入った」
「そして住み着く事にした」
だが、とフレッドは言葉を続ける。
「人間はあいつを怪物と呼んだ」
「UMAと呼んだ」
「捕獲しようとした者もいた」
「殺そうとした者もいた」
「………」
「……じゃあ捕まえるのはやめる」
「えっ?」
隣に居たリキエルが驚く。
「兄貴、あんなにネッシーを捕まえるって言ってたじゃないか」
「まあな」
ヴェルサスはネッシーを見る。
「でもよ」
「こいつ、既に住む場所があるんだろ?」
「それに友達までいる」
「そんな奴を無理やり連れて帰るのは……」
少し考えて、
「なんか違うだろ」
「兄貴……」
フレッドは呆れた表情で、
「……最初からそうしていれば良かった」
と、至極当然のツッコミを入れる。
「うるせえな」
「いや、本当にそうだぜ」
『投網』
「黙れ」
『麻酔銃』
「黙れっ!」
『銛』
「アンダー・ワールドォォォッ!」
『ごめんごめん』
◇
ヴェルサスとリキエルの乗ったボートとフレッドの乗るミュートマスはボート小屋のある岸に戻ってきていた。
(ネッシーを捕まえられなくなった……)
(じゃあソフィアへのプレゼントはどうする?)
ヴェルサスは落ち込んでいた。当初の予定・目的が完全にパーになったからだ。
そんなヴェルサスを見ていたフレッドは、
「……写真くらいなら撮らせてやる」
と、呟いた。
「え?」
「お前達が約束するならな」
「ネッシーの存在を世間に公表しない」
「居場所を教えない」
「捕獲しようとしない」
「それが守れるなら……」
「友人に見せる程度の写真なら構わん」
「マジか!?」
「さっきまで殺し合いみたいなことしてたのに、急に話が進んだな……」
するとフレッドは呆れた顔で、
「……最初からお前達が銛など投げなければ、もっと穏便に済んだ」
「だからそれはもういいだろ!」
そしてネッシー、いやフレッドの友に岸に来てもらい、ヴェルサスは撮影を行うのだった。
「おい、そっちに向くな!かっこいい写真が撮れないだろうが!」
「注文の多い奴だ……」
◇
後日、ノリッジにて。
「ほらよ」
「これは……!」
ヴェルサスに呼び出されたソフィアは、何枚かの写真を渡された。
それにはネス湖の水面から姿を現した巨大な生き物の姿が写っていた。
「神に誓って言うが、加工とか合成とかAI生成だのじゃあねえぜ」
ソフィアは写真をまじまじと見る。
「……凄い」
「本当に……いるのね」
「ああ。いたぜ」
「どうやって撮ったの?」
ヴェルサスは少しだけ考えて、
「まあ……色々あったんだよ」
そう誤魔化した。
(言わねえ約束だからな)
ヴェルサスとソフィアがそんなやり取りをしている頃、ネス湖の湖底。
ネッシーが沈没船を玩具のように転がしている。
その後方を――巨大な影が横切る。
ネッシーは気づかない。
影もまた、すぐに闇の中へ消えていった。
ネス湖の怪物伝説、それは西暦565年にまでさかのぼる!
フレッドとその友がこの地にやって来たのは、およそ70~80年前……!
だが、人類は未だにこの湖の全容すら知らない……!
To Be Continued...
……人物紹介……
・フレッド・ソーヤ
ネス湖近くの町を縄張りにしている岩人間。およそ70~80年前に友である岩動物と共に移り住んで来た。普段はレンタルボート小屋の主人をしているが、睡眠時に水底に沈まないため睡眠期間が近い時期は湖から離れている。岩人間の大多数のようにスタンド使い。友の事は可愛がっているが、人間の事は見下している。スタンド名はミュートマス。
ミュートマス
パワー:B
スピード:B(水上では)
射程距離:D
持続力:A
精密動作性:B
成長性:B
姿:ボートと一体化している。
能力: ボートと一体化したスタンドで非スタンド使いにも見える。ボートの範疇で自在に変形が可能。ウインチを出現させて対象を吊り上げたり、ソナーで水中の相手を探知したりできる。物質同化タイプのスタンドの為頑丈。
・ネッシー(岩動物)
およそ70~80年前にネス湖に住み着いた岩動物。全長は20mくらい。湖に沈んだ人間の記憶を取り込みその情報を身体から再現できる生態を持っている。陸上では動きは鈍い。湖底に沈んでいたひしゃげた船や車はこのネッシーが沈めたものではなく、事故等で沈んだものを後からネッシーが遊んだ結果こうなっただけである。
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等をいただけたら幸いです。