ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
ブランドー邸の客間、そこに来客があった。屋敷の主人であるディオの向かいに座っているのは浅黒い肌の十字架をあしらった服を着た、妙な剃り込みが入った髪型が特徴的な男だった。
ディオと談笑するその男を嫌そうな顔で見ているヴェルサス。
(こいつはロベルト……いや、エンリコ・プッチ)
(パパの友人である神父だ)
(ハッキリ言って、こいつとは馬が合わねー)
(昔パパに恩を受けたとかで、パパを崇拝する輩の一人なんだが……)
(何かにつけて、こっちに対しては偉そうに振る舞いやがる)
プッチは部屋の隅のヴェルサスに視線を移す。
「今、私の名前を間違えなかったか?」
「気のせいだ」
「私はエンリコ・プッチだ」
「分かってるよ、ロベルト神父様」
「エンリコだ」
「ヴェルサス」
「何だよパパ」
「いい加減に覚えろ」
「覚えてるって!」
妙な空気になる中、プッチは気を取り直して自分のカバンから何かを取り出す。
「ディオ。今回は土産を持ってきた」
テーブルの上に置かれる数枚のDISC。
「……何だ、それ?」
「人間から抜き取ったものだ」
プッチのスタンド、ホワイトスネイクは人間の記憶及びスタンドをDISCとして抜き取る能力を持つ。
「いや、見れば分かるけど」
「何を抜いた?」
「スタンド能力だ」
「へえ……、確か神父様のスタンドで抜き取ったスタンドDISCは他人に挿入すればそのスタンドを使うことが出来るんだっけか?便利な能力だぜ」
ヴェルサスはテーブルに置かれた数枚のDISCを見る。それぞれのDISCにはスタンドの姿が朧気に映っている。ヴェルサスは考える。
(このスタンドを元々持ってた本体たちはどうなったのか……。まあ、類は友を呼ぶ。プッチ神父がパパの同類って事を考えるとろくな事になってないんだろうな)
「ほう、今回はどんなスタンドを抜き取って来たのだ?」
「そうだな、例えばこのDISCのスタンドは危機感を消失させる能力だ。このスタンドの影響下に入ってしまえば自分が火事のど真ん中に居ようと安全だと思い込む」
「地味に嫌な能力だな……」
「こっちのDISCは自分の指を弾丸として射出する能力のDISCだ。失った指は再生されるが結構痛いらしい」
「強いのか弱いのか分からん……」
「ヴェルサスよ、スタンドに強い弱いの概念は無い。どんなものにも適材適所というものがある……。それが生きるという事なのだ」
「ディオ……」
(そういうパパは前に自分の世界(ザ・ワールド)は最強のスタンドだとか言ってなかったか?)
「…………」
「どうした?」
「いや……何でもない」
「?」
「どうかしたのか、ディオ?」
「……昔のことを少し思い出しただけだ」
「……ところでディオ。今回、私がここへ来た本当の目的なのだが――」
「私は先日、あるスタンド使いから興味深い記憶を抜き取った」
「興味深い記憶?」
「コティングリー妖精事件に関するものだ」
「……妖精?」
「ああ」
「写真に写っていた、あの妖精か?」
「そうだ」
「だが、あれは偽物だったはずだぜ」
「世間ではな」
プッチは一枚のDISCを指先で弄ぶ。
「しかし、この記憶DISCには……『本物を見た』という記憶が残っている」
「何?」
「ほう……、詳しく話してみろプッチ」
「今から三年前……、この記憶DISCの持ち主がイギリスのブラッドフォードの郊外に旅行で来ていた時だ」
「季節は4月。持ち主は森が近くに見える野原でシートを敷いてサンドイッチを食べようとした」
「しかし、食べようとしていたサンドイッチが手の中から消失した。持ち主が慌てて辺りを見回すと、森の方角へ小さな翅の生えた人型の生き物がサンドイッチを持って飛び去るのを目撃した」
「持ち主は最初スタンド攻撃かと思ったらしい。その後持ち主は自分のスタンドでもってその生物を捕らえようと森へ向かったが、何も見つからなかった」
「その記憶DISCの持ち主の妄想って線は無いのか?」
「私が覚える限りではこの記憶の持ち主は薬物中毒などでは無かったよ……」
プッチの話を聞いていたディオが尋ねる。
「プッチよ、お前は妖精が実在すると言いたいのか?」
「スタンドが存在する」
「吸血鬼も存在する」
「吸血鬼を生み出す石仮面を作った柱の男や、岩人間のような存在すらこの世界にはいる」
「岩人間まで知ってるのかよ」
「ディオから聞いた」
「……パパ、俺の旅行の話をもう知ってんのか」
「このディオの情報網を舐めるなよヴェルサス。お前がノリッジで……」
「神父様、話を続けてくれ」
「それで」
「“妖精”と呼ばれる存在が実在しても、私は驚かん」
「まあ……」
「ネス湖であんなもん見た後だしな」
「要点をまとめればだ、妖精が実在するのか。それがディオ、君にとって有益なのか、有害なのかを確認したい」
「成程……」
「そこでだ、ヴェルサス」
「嫌な予感がする」
「まだ何も言っていないぞ」
「どうせ俺に何かやらせるんだろ」
「その通りだ」
「やっぱりかよ」
「お前のアンダー・ワールドなら、その森に残された過去を調べることができる」
「……」
「妖精が本当に存在したのか。それを確認したい」
「なるほどな」
「どうだ?」
「嫌だ」
「なぜだ?」
「面倒だから」
「……」
「行ってこい、ヴェルサス」
「パパァ!?」
ディオは言う。
「プッチ……、お前の言う妖精は実在するか否か……、私も興味が湧いてきた」
「現地でヴェルサスを使い倒して構わん」
「……神父様よ、妖精が実在していたとして、居たら捕獲してパパに献上するのか?」
「必要ならそうする」
(やっぱりこいつパパのことになると目の色変わるんだよな……)
「プッチ、ヴェルサス、吉報を期待しているぞ」
◇
イングランド北部・ウェスト・ヨークシャー州、ブラッドフォード。かつてこの近郊にあるコティングリー村では、妖精を見たという少女たちの証言と写真が世間を騒がせた。
ヴェルサスとプッチは電車からブラッドフォードの駅、ブラッドフォード・フォスター・スクエア駅に降り立った。
(さて、来たわけだが)
(今のところ妖精が居ようが居まいがどっちでもいいぜ。まあもし実在してパパにとって有益だったら俺もその甘い汁をすすれるくらいかぁ?)
(なんにせよプッチ神父が同行しているとなるとストレスが溜まりそうなお使いになりそうだぜ)
「神父様、聞き込みとかはどうしますか?」
「そうだな、主に私が行おう。ヴェルサス、君の様な男と聖職者である私とでは第一印象の信用度が違うからな」
(ちっ!いちいち嫌味な野郎だぜ!パパの狂信者のくせしてよぉ~!)
ブラッドフォード駅を出た二人は、駅前のベンチに腰を下ろしていた。
プッチは持っていた鞄から一冊の資料を取り出す。
「まずは、コティングリー妖精事件について説明しておこう」
「頼むぜ神父様。俺は名前くらいしか知らねーんだ」
「事件が起こったのは1917年。第一次世界大戦の最中だった」
「1917年……」
「イングランド北部、ヨークシャー州のコティングリーという村で、当時十六歳だったエルシー・ライトと、その従妹で十歳だったフランシス・グリフィスが、妖精を見たと主張した」
「子供二人が?」
「ああ。エルシーは父親のカメラを借り、フランシスと共に写真を撮影した」
プッチは資料の写真をヴェルサスに見せる。
そこには、草むらの上を飛ぶ小さな人型の存在が写っていた。
「……これが例の写真か」
「そうだ。妖精の姿がはっきりと写っている」
「ずいぶん堂々と写ってんな」
「写真は全部で五枚撮影された。妖精だけではない。小さな翼を持つゴブリンのような生物が写った写真もある」
「なるほどな」
「しかし、当然ながら世間はこの写真を本物だとは認めなかった。少女たちが紙や人形などを使って作った偽物ではないか、という疑いが持たれた」
「まあ、そりゃそうだろうな」
「ところが、この写真に強い関心を示した人物がいた」
「誰だ?」
「アーサー・コナン・ドイル」
「……シャーロック・ホームズの作者?」
「ああ」
ヴェルサスは写真から顔を上げる。
「その通りだ。ドイルは写真を本物だと信じ、妖精の実在を擁護した。彼は神智学にも関心を持っていたからな」
「へえ……」
「そして1920年、彼はコティングリー事件について書いた本を出版した」
「写真だけでそこまで入れ込むってのもすげえな、当時は相当イギリスを騒がせてたんだろうな」
「だが、事件はその後も議論を呼び続けた」
プッチは写真を見ながら続ける。
「写真のうち何枚かは偽物だと考えられている。一方で、『五枚すべてが偽物とは限らない。本物の妖精を撮影した写真が混じっているのではないか』という主張もあった」
「写真の中に本物が混じっているってことか?」
「そうだ」
「俺は決めつけする人間は嫌いだが……」
ヴェルサスは写真を眺めながら言う。
「嘘を混ぜた時点で信用されなくなるってのが、分からなかったのか?」
「……」
プッチがヴェルサスを見る。
「確かに。そこはこの事件における大きな問題だろうな」
「だろ?」
「ただし――」
プッチは写真を鞄へ戻した。
「写真が偽物だったことと、妖精が存在しないことは同義ではない」
「まあ、それはそうだな」
「だからこそ私は今回の件を調べている」
「百年以上前の写真が偽物だったとしても、妖精そのものまで偽物だったとは限らない……ってわけか」
「ああ」
プッチは立ち上がった。
「そして三年前、この近辺で『妖精を見た』という新たな記憶が残されている」
「サンドイッチを盗まれた奴か」
「そうだ」
「……」
ヴェルサスも立ち上がる。
「じゃあ、まずはそいつが妖精を見た場所に行ってみるか」
「そのつもりだ」
「そこでアンダー・ワールドに過去を掘らせる」
「頼んだぞ、ヴェルサス」
「はいはい」
ヴェルサスは肩をすくめる。
(まったく……)
(ネッシーの次は妖精かよ)
(俺の人生、最近おかしな方向に進みすぎじゃねーか?)
ヴェルサス達は三年前に妖精らしきものが目撃された場所を特定する為に聞き込みを行う。
「妖精?」
「ああ。この街の郊外、森近くの野原で妖精が目撃されたという噂があってね、個人的な興味から調べている所なのだ」
最初に聞き込みをしたのは老人だった。
「ああ、わしが赤ん坊の頃にこの街の近くで妖精の写真が取られたって聞きましたねえ~」
「神父様、妖精を探してらっしゃる?」
「まあそんなものだ。それで森の見える野原に心当たりは無いかな?」
「そういう場所は割と沢山ありますからねぇ~……。方角すら分からないと何とも……」
「そうだぜ、どっち方面とか分からないのか?」
「ちょっと待て……」
プッチは記憶DISCを取り出すと頭に挿入する。スタンド使いではないであろう老人は不思議そうな顔でプッチを見ている。
「南方面らしい……」
「南方面ですか……、ここから一時間くらい歩けば森の見える野原はいくつかありますよぉ」
「どうもありがとう」
その後も聞き込みは続き……、
「コティングリーの妖精?普通にインチキでしょあれは」
「いや~、もう21世紀ですよ?妖精の話なんて聞きませんよ」
「南の方の森?ああ、偶に変なものを見ることがありますけど、虫の残像でしょう多分」
ブラッドフォードでの聞き込みの成果は良いとは言えなかった。
「ふう……、結局曖昧な南の野原ってことしか分かりませんでしたね」
「まあ、そんなものだろう。ヴェルサス、お前のスタンドなら位置が大体でも問題なく掘り出せる筈だが?」
「まあそうですがね……」
そうしてブラッドフォードの南へ向かっている時、ふとヴェルサスは前から気になっていた事をプッチに聞いてみようと思った。
「時に神父様」
「何だ」
「神父様の所属するのはカトリックだと思いますが」
「……それが?」
「同性愛とかそういうのは、どうなんです?」
……数秒程辺りを沈黙が支配した。
「……何かを勘違いしているようだな」
「勘違い?」
「私がディオに抱いているものは」
「偉大なる神への愛に近い」
「はあ」
「それを俗な男女の恋愛などと同列に扱うな」
「いや、俺はそこまで言ってねーけど」
「つまり――」
「何が言いたいかと言うと」
「お前ごとき、うすっぺらな藁の家が」
「深淵なるわたしとディオの砦に踏み込んで来るんじゃあない……!」
「…………」
「はあ……そうですか」
(こいつパパに惚れてると思ってたけど)
(単純に惚れてた方が良かったくらいヤベー奴だな)
◇
そしてヴェルサス達は三年前の現場と思われる場所まで来た。
「ここから見える森の位置……、大体この辺りだな。ヴェルサス、出番だ」
「はいよ、アンダー・ワールド!」
アンダー・ワールドは野原の地面を掘る。するとそこから一人の男が掘り出された。
男はシートを広げてそこに座っている。プッチ神父が男に話しかける。
「久しぶりだな。お前の記憶は我々が利用させてもらう」
「なんの話だ?俺はこれからサンドイッチを妙な奴に奪われる所なんだが」
アンダー・ワールドで掘り起こされた人物の記憶は自分がこれからどうするか・どうなるかをあらかじめ知っている。
男はバッグからサンドイッチを取り出すとそれを食べようとするが、その動作は空振りした。
「おお……!」
「こいつが……!」
翅の生えた小人というべき生き物がサンドイッチをかすめ取ったからだ。
「あっ!おい!待ちやがれこの泥棒スタンドがっ!」
男と小人はそのまま近くの森へ向かっていく所で記憶の再生は終わった。
「どうやら何かがいるのは本当みたいだな……、で、神父様。このままあの森に向かいますかい?」
「当然だ。今のは三年前の記録とは言え森の方は大きな開発が入った記録も無い」
「あの森に足を踏み入れ妖精の正体を明らかにする!」
「……」
「どうした、ヴェルサス?」
「いや」
「何となく……」
「俺達、あいつらの縄張りに入ろうとしてないか?」
「それがどうした?」
「……いや、何でもねえ」
(なんか嫌な予感がするんだよな……)
To Be Continued...
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