ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー 作:クォーターシェル
妖精との遭遇から数日後。
プッチはブランドー邸を訪れていた。
「なるほど……」
ディオはソファに座りながら、プッチから報告を聞いている。
「妖精は実在した。お前達が遭遇した森以外にも存在するかは分からないが、保護すればこのディオの利になるかもしれないと?」
「ああ」
「ディオに害を及ぼす存在ではなかった。それは実際に遭遇した私が誓おう」
「そうか」
ディオは僅かに頷いた。
「よく調べたな、プッチ」
「…………」
「ご苦労だった」
その瞬間。
プッチの表情がほんの少しだけ変化した。
「……ディオの為なら苦労のうちに入らないさ」
ヴェルサスはそれを見逃さなかった。
(分かりやすいな、こいつ)
(パパに褒められただけで滅茶苦茶機嫌が良くなってやがる)
そして、その翌日。ブランドー邸に泊まっていたプッチはヴェルサス達に声を掛ける。
「ヴェルサス」
「何だよ、神父様」
「リキエルとウンガロも呼びなさい」
「?」
「君達を食事に連れて行く」
「……は?」
「オックスフォードに、今静かに話題になっているレストランがあるらしい」
「店の名前は『!!!(チック・チック・チック)』」
「せっかくだ。君達兄弟にも食べさせてやろうと思ってね」
ヴェルサスは怪訝そうな顔をした。
「神父様が?」
「奢ってくれるのか?」
「ああ」
「いいんですか神父様?」
リキエルが尋ねる。
「構わないよ」
「それに、件のレストランはコース料理でも価格がかなり安いみたいだからね」
「へえ~」
ウンガロが興味深そうに呟いた。
「美味い店なのに安いのか?」
「だったら行くしかないだろ!」
「お前は単純だな」
ヴェルサスはウンガロを横目で見る。
「でもまあ……」
「料理が美味いなら俺も文句はねえ」
プッチは静かに微笑んだ。
「では決まりだ」
「私が案内しよう」
ヴェルサスは何となく嫌な予感がした。
しかし。
この時の彼には知る由もなかった。
そのレストランで提供される料理に。
普通の食材では説明できない、“人間の味”が混ざっていることを。
◇
オックスフォードの件の料理店に向かう途中、ヴェルサスは考える。
(このドナテロ・ヴェルサス・ブランドーは自慢じゃあないが、味利きだ)
(料理に入っている材料の種類は大体言い当てることができる)
(それにしても、イギリスの伝統料理ってのは何となく雑な気がするぜ~……)
(フィッシュ・アンド・チップスも嫌いじゃあねえ。だが、料理としての奥深さって意味じゃあ、前にジョルノ兄貴に連れて行ってもらったイタリア料理の方が上だな)
(まあ、あれは兄貴の行きつけの店だったし、素材も相当厳選されていたみたいだがよお)
(……しかし、天は二物を与えずと言うが、この味覚はアンダー・ワールドに次ぐ俺の才能かもなぁ~)
(定職に就かずに適当に暮らすつもりだったが……)
(俺って、もしかして料理人の才能があるんじゃあねえか?)
(レストランを開いてよォ~、料理本なんか出して、テレビの料理番組にも出演して……)
(「この肉は○○産ですね」なんて偉そうに言ってよお~)
(悪くねえ人生だぜ)
脳内でヴェルサスが調子に乗っていると、オックスフォードの街を先頭で歩いていたプッチの歩みが止まる。
「あそこが『!!!(チック・チック・チック)だ』」
四人は!!!の店内に入る。
「いらっしゃいませ」
玄関の呼び鈴が鳴り、奥から髪を短く切りそろえたいかにもシェフという男がやってくる。
「この店は予約無しでも来店できると聞いたのだが、四名で大丈夫か?」
応対する男にプッチが尋ねた。
「はい、大丈夫でございます。我が店『!!!』にお越しいただきありがとうございます」
「私は当店のオーナー兼料理長のアンドリュー・オニオンズと申します」
「どうぞこちらへ」
一同は店内のテーブルに案内される。
「へぇ~。中々雰囲気の良いお店だぜ」
ウンガロが店内を見まわす。
「料理長、前もって言っておくが私は貝アレルギーだ。なので今回は貝の入っていない料理を注文したい」
プッチは自分のアレルギーをアンドリューに申告する。
「了解いたしました。メニューにある『シェフの気まぐれコース』ならそれぞれのアレルギー食品を除外した料理を提供できますが……」
「ならそれを四人分頼もう。ヴェルサス、リキエル、ウンガロ、それでいいな?」
「ああ、ファミレスじゃないんだ。それでいいぜ」
「折角神父様が誘ってくれたんです。勿論それでいいです」
「俺も兄ちゃん達と同意見だよ」
一同の話は決まる。
「では『シェフの気まぐれコース』四人前ですね。暫くお待ちください」
それを聞いたアンドリューは奥へ引っ込んでいった。
出された水を飲みながら一同は談笑する。
「そういえばディエゴがまた優勝したんだってよ!」
「ディエゴ?」
聞きなれない名にプッチは疑問を覚える。
「ディエゴ・ブランドー。家の親戚の天才ジョッキーさ」
「ディオにそんな親戚が居たのか」
「顔は写真でしか見たことがないんだけど、パパに似ていたな……」
「まあ、パパの親戚ってだけで変な奴が多いんだけどな」
「お前の親戚はどうなっているんだ……」
そうこうしている内に料理が運ばれてくる。
「前菜、当店自慢の季節の野菜を使ったスープでございます」
「おお……」
スープ料理が一同の前に配膳される。
「皆、スープを飲む際のマナーは知っているね?」
「音を立てない」
「スプーンの動かし方は手前から奥へ」
「すくう量はスプーンの7〜8分目程度にしてこぼさないように」
「姿勢を正す」
「残り少なくなったらお皿の向こう側(または手前)を少しだけ持ち上げてすくいやすくする」
プッチはマナーを確認するかのように解説する。
「……」
「イギリスの貴族、ジョースター家の養子だった事のあるディオ。その息子達だ、そういう初歩のテーブルマナーは知っているな?」
「はいよ……」
そして一同はスープを口にするのだった。
ヴェルサスはスプーンを置いた。
(へえ……、俺も富豪の息子として普段からいいものを食べてるが、中々いいじゃないか)
(成程、季節の野菜が使われてるってのは確かだ)
(それも食料品店に並ぶようなもんじゃねえ……。農家から直接仕入れた、新鮮な野菜だ)
ヴェルサスはもう一度、スープを口に運ぶ。
舌の上で、野菜の甘味が広がる。
人参。
玉ねぎ。
セロリ。
それから、季節の葉物野菜。
(……いや)
ヴェルサスの眉が僅かに動いた。
(なんだ?)
(なんか違和感を感じる……)
これだけじゃない。
野菜の味。
塩。
バター。
出汁。
それらとは別に――
何かがある。
(他にも何かあるが、その正体が掴めねえ……!)
「どうでしょうか?当店のスープの味は?」
店の奥からアンドリューが尋ねた。
「……美味いぜ」
「それは何よりでございます」
(だが……何だ?)
(普通の野菜の味じゃあねえ)
(肉でもない。魚でもない)
(香辛料でもない)
(なのに、確かにこのスープの中に存在している……)
(甘味、苦味、刺激、塩辛さ……、少量ずつだが正体不明の味が混ざってやがる!)
「……美味しいですね神父様」
リキエルが素直に言う。
ウンガロも、
「うん。野菜の味がちゃんとする」
と頷く。
プッチは、
「丁寧に作られているな」
と評価する。
そしてヴェルサスだけ、
「…………」
スープを見つめる。
ヴェルサスは厨房の方へ視線を向ける。ここからではよく見えないが、アンドリュー、それとスタッフなのか料理衣を来た若い女性が動いているのが時折見える。
(何なんだよぉ~、この店はよお……。料金以下の不味い飯を食わせる店なら文句言った後にとっとと代金を払って立ち去る事が出来るが、『美味い』から去るに去られねえ……)
アンドリューが厨房から顔を出して呼びかける。
「メインディッシュまで、後少々お待ちください」
その背後。
厨房の奥から。
チック、チック、チック……
何かが包丁を叩くような音が響いた。
◇
メインディッシュがテーブルへ運ばれてきた。
こんがりと焼き上げられたローストビーフ。
付け合わせのローストポテト。
ヨークシャープディング。
そして、肉汁を使ったグレイビーソース。
イギリスの伝統的な料理。
サンデーローストだった。
「おお……!」
ウンガロが思わず声を上げる。
「これがメインか!」
「見た目は中々じゃないか」
リキエルも皿を眺める。
プッチは静かに料理を見ていた。
「日曜日の礼拝の後、家族で食べる料理……」
「サンデーローストか」
「神父である私に合わせたつもりなのかな?」
「偶然ですよ」
アンドリューは笑顔で答えた。
「ただ、今日は日曜日ですから」
「……なるほど」
ヴェルサスはナイフを手に取った。
(見た目は完璧だな)
(香りもいい)
肉を切る。
そして口へ運んだ。
「……!」
ヴェルサスの目が少し見開かれた。
「美味い」
それは素直な感想だった。
肉は柔らかい。
脂の旨味がある。
グレイビーソースも絶妙だった。
「本当だ」
リキエルも肉を口にする。
「こりゃ美味いな」
「イギリス料理も捨てたもんじゃないじゃないか」
「美味しい……!」
ウンガロはヨークシャープディングを口に入れる。
「俺、今まで食べたイギリス料理の中で一番好きかも!」
プッチも黙って食事を続けていた。
「うめえ! このローストビーフ、柔らかくて最高だぜ!」
リキエルは肉を絶賛する。
「俺はこのローストポテトが好きだな。外側がカリカリしてて美味い」
ウンガロは付け合わせを評価。
「グレイビーソースが良い。肉の味を邪魔せず、よく引き立てている」
プッチはソースを評価する。
ヴェルサスはというと、
「……」
(肉も美味い。ポテトもいい。ソースも悪くねえ)
(だが……)
(やっぱり何かがおかしい)
「なあ、お前ら。この肉……何か変じゃねえか?」
「変?」
「いや、普通に美味いけど」
「ヴェルサス、神経質になりすぎじゃないか?」
三人の反応にヴェルサスは、
(……俺の舌がおかしいのか?)
自分の味覚を一瞬疑う。しかし、肉を食べると
(……まただ)
(この味……)
(スープの時にもあった)
(甘味でも苦味でもねえ。肉の旨味でもない)
(なのに、確かに俺の舌が感じ取っている)
(……気のせいか?)
(いや……)
(俺の味覚はこんなもんじゃねえ)
(後でアンダー・ワールドを使うなりしてでもこの味の正体を突き止めてやる!)
「メインディッシュはいかがでしょうか?」
アンドリューが聞いてくる。
「「サンデーローストサイコー!」」
リキエルとウンガロがまるでテレビCMのB級映画の宣伝の如くそんな感想を返す。
「お気に召されたようで何よりです。食後にはデザートをお持ちしますね」
チック、チック、チック……
◇
コースはいよいよデザートに突入した。デザートはオーソドックスなスコーンと紅茶だった。
「デザートのアフタヌーンティーとスコーンでございます」
アンドリューがティートローリーに以上のデザートを載せて来た。
「イギリスと言えばこれだよなあ」
とウンガロが喜ぶ。
そして、
「いい香りだぜ」
とリキエル。
「……」
ヴェルサスは無言で運ばれてきたスコーンを口にする。
「…………」
ジャムを付ける。
「…………」
紅茶を飲む。
「…………」
そして、
「ちょっとまて」
「なんか味がやけに薄くないか……?」
さっきまで感じていた味が。
もうほとんど分からない。
「……兄貴?」
リキエルも異変に気づいた。
「待て」
「俺もだ」
「何だこれ?」
「さっきまで美味かったのに……」
ウンガロも慌ててジャムをつけたスコーンを口に入れる。
「え?」
「味が……」
「分からない」
プッチも紅茶を飲んで、
「……確かに」
「香りはするがまるでそのまま6回使ったティーパックの紅茶を飲んでいるようだ」
そう呟く。
「スープの時からだ!」
「あの妙な味の正体を探っているうちに……俺達の味覚そのものが薄くなってやがる!」
ヴェルサスはアンドリューの方に振り向く。
「……おや」
「お気付きになりましたか」
その手には四つの小さなビンが握られている。どうやらスパイスを入れているビンのようだが……
「おい料理長!その手に持っている小瓶は何だ!?」
「俺達に起きている異変を説明しやがれッ!」
「フフフ……」
「アハハハハハハ!」
アンドリューが笑い出す。その顔には、先ほどまでの愛想の良い料理人の表情はなかった。
「お客様方……」
「あなた方には感謝致します」
「これで私も」
「更なる食の高みへ上ることができる……!」
To Be Continued...
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