ろくでなしのドナテロ・ヴェルサス・ブランドー   作:クォーターシェル

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第9話 チック・チック・チックとクークス

ヴェルサスが立ち上がろうとする。

 

「おい」

「何をしやがった?」

 

アンドリューは答える。

 

「何も」

「私は料理を提供しただけです」

「そして」

「あなた方はそれを食べた」

「ただ、それだけですよ」

 

その背後。

 

厨房から。

 

チック……

 

チック……

 

チック……

 

包丁の音が聞こえ始めた。

 

「……ただし」

 

アンドリューは微笑む。

 

「その料理を食べた者から」

「私は――」

「“味”をいただきましたがね」

 

「味だとぉ~ッ!?」

 

「はい、私には料理の才能の他に特別な才能がありましてね……」

 

アンドリューの背後にコック帽を被った肥満体型のスタンドが出現する。その口からは分厚く長めの舌が収まりきらずに飛び出している。

 

「私はこの才能に『チック・チック・チック』と名付けています」

 

「スタンド使いか……!」

 

一同がテーブルから立とうとするが、いつの間にか座っていた椅子がまるで死刑囚を処刑する電気椅子の様な形状に変わっておりヴェルサス達を拘束していた。

 

「何い!?」

 

店内の奥から料理衣を来た若い女性が登場する。

 

「……」

 

「おっと、紹介が遅れました」

「彼女の名前はアミス・カラーズ。私のアシスタントを務めています」

「彼女の才能の名前は『クークス』。あなた達が言った風に言えばこの店内の設備全てを操ることができるスタンドです」

 

「スタンド使いがもう一人!」

 

「う、動けねえ……!」

 

ヴェルサス達が四肢を拘束されたまま、アンドリューは話を続ける。

 

「人間にはそれぞれ精神・経験・人生によって異なる「味」があります。幸福な人生を送った人間は甘い。苦労した人間は苦い。悪人は刺激的。恐怖を味わった人間は最高のスパイス」

「私のチック・チック・チックは私の料理を食べた人間からその“味”を抽出し、液状や粉状のスパイスに変える能力」

 

その言葉を聞いたヴェルサスは思い至る。

 

「そうか……、この店の料理に入っていた正体不明の味!」

「あれはお前のスタンドが奪った人間の味だったんだな……!」

 

「えっ!?」

 

ウンガロやリキエルが驚く。

 

「人肉の味じゃあねえ、アンドリュー、あんたに言わせりゃあ人生の味……」

「そしてあんたが今持っている小瓶に入っているものは俺達から抽出した味って訳だな!」

 

「その通りです。ご理解が早い」

「私は少年時代に料理人を志した頃から常に味の探求をしてきました」

「そしてある日私はチック・チック・チックに目覚めた」

「私が初めてご馳走した人間から抽出されたスパイスを味わった時は世界が変わりました」

「この世界にこんな味があるのかと!」

「以来私は食の求道者として道を歩んでいるわけです」

 

「イカれてやがる……」

 

ウンガロは理解できないという表情でアンドリューを見ながら呟く。

 

そんなアンドリューは手に持った小瓶の蓋を外し、匂いを嗅ぐ。

 

「正直、私はあなた方に感謝しているのですよ。この匂いを嗅ぐに、どうやら相当質の良いスパイスが抽出できた模様……」

「アミス」

 

その言葉と共にアミスはアンドリューに耳かきくらいのサイズの小さじを渡す。

 

「ヴェルサスさんと仰られましたか……、先ずはあなたからです」

 

アンドリューはヴェルサスから抽出されたスパイスを口にする。

 

「これは……実に複雑だ」

「苦味がある」

「しかし、その奥には確かな甘味がある」

「苦味だけではない。渋味、酸味……それらが幾重にも絡み合っている」

「まるで……苦い人生を経験しながら、それでも甘いものを求め続けている人間の味だ」

 

「……勝手なこと言ってんじゃねえ!」

 

怒るヴェルサス。しかし、アンドリューはどこ吹く風で、次の味見に移る。

 

「次にリキエルさん」

 

「……これは不思議だ」

「甘いと思えば消え、酸味を感じればすぐに変わる」

「一つの味として定着しない」

 

「俺ってそんな不安定なのか?」

 

と少しショックを受けるリキエル。

 

味見は更に続く。アンドリューは三つ目の小瓶の中身を口にする。

 

「ウンガロさんでしたか?」

 

「……普通だ」

「だが……」

「この味、奥へ行けば行くほど別の味が出てくる」

「いったいどこまで深いのだ?」

 

「……何か怖いこと言われてない?」

 

ウンガロは冷や汗をかく。

 

「最後は神父様、あなたの味です」

 

「……」

 

プッチは黙っている。

 

アンドリューはプッチの方を見た。

 

その表情には、料理人が未知の食材を発見した時のような興奮が浮かんでいる。

 

「これはこれは……」

「珍しい味だ」

 

プッチが僅かに眉を動かす。

 

「……私の味が分かるというのか?」

 

「ああ」

 

アンドリューは楽しそうに笑った。

 

「甘くもない」

「苦くもない」

「酸味も……辛味もある」

「だが、それらとは違う」

 

アンドリューは舌なめずりをした。

 

「例えるなら」

「自分を悪人だと思っていない狂人の味だ」

 

「…………」

 

「いや」

「もっと正確に言うべきかな」

 

アンドリューは続ける。

 

「自分の人生を一切疑わない男の味だ」

「自分が正しいと信じている」

「自分が行うことには意味があると信じている」

「その信念のためなら、他人が何人壊れても構わない」

「そんな人間の味だ」

 

ヴェルサスが横から口を挟む。

 

「おいおい」

「神父様を何だと思ってんだよ」

 

「褒めているんだよ」

「料理人としてね」

 

「褒めてねえだろ」

 

アンドリューは楽しそうに笑った。

 

「狂人の味というものは、まだまだ開拓していない」

「特にあなたのようなタイプは珍しい」

「自分が狂っていると理解している人間よりも」

「自分は正常だと信じている人間の方が」

「――ずっと深い味をしている」

 

プッチは黙っている。

 

そして静かに答えた。

 

「君は料理人だ」

「人間を料理の材料として見るのか?」

 

「ええ」

 

アンドリューは即答した。

 

「それが私の料理ですから」

 

その瞬間。

 

プッチの視線が変わった。

 

ヴェルサスはその横顔を見て、内心呟く。

 

(あーあ)

(神父様、完全に怒ったな)

 

     ◇

 

「今回は特別にお代は結構です」

 

アンドリューは満面の笑みを浮かべた。

 

「……は?」

 

ヴェルサスが眉をひそめる。

 

「何を言ってやがる?」

 

「お客様方から頂いたものは、金銭などでは到底換算できません」

 

アンドリューは自分の手元に並べられた小瓶を見る。

 

その中には。

 

様々な色をした粉末が入っていた。

 

「素晴らしい……」

「甘味」

「苦味」

「刺激」

「そして狂気」

「こんな素晴らしいスパイスを、一度に手に入れられるとは……!」

「今回は私も運がいい!」

 

アンドリューは興奮を隠せない様子だった。

 

「アミス」

「客人をお帰ししろ」

 

アミスは無言で頷く。

 

次の瞬間。

 

ガシャンッ!

 

「なっ!?」

 

ガガガガガッ!

 

床板が動く。

 

そのままブランドー兄弟とプッチの座っていたテーブルごと、店の出口へ向かっていく。

 

「おい!」

 

ヴェルサスが叫ぶ。

 

「客をゴミみてえに捨てる気かよ!」

 

「失礼な」

 

アンドリューは首を横に振った。

 

「貴方達はもう、私にとって大切な客人ですよ」

「だからこそ」

「これ以上傷つけるつもりはありません」

 

「……?」

 

「ただ」

 

「私の料理の材料を、取り返されると困るだけです」

「この店から出て」

「どうぞ、好きな人生をお送りください」

「味覚のない人生をね」

 

「チッ!」

 

ヴェルサスの背後にアンダー・ワールドが現れる。

 

『了解』

 

「アンダー・ワールド!」

 

しかし。

 

ガシャンッ!

 

厨房の壁が動き、アンダー・ワールドの進路を塞ぐ。

 

「くそっ!」

 

「この店全体がスタンドかよ!」

 

アンドリューはヴェルサス達のスパイスが入った小瓶を見つめ、陶酔しているかのように呟く。

 

「ああ、早くこれらのスパイスに合った料理を考案しなければ……!」

 

一方。

 

プッチの背後にホワイトスネイクが現れた。

 

『これは七つの大罪に例えれば何の罪だろうな?傲慢か?それとも強欲か?』

 

「抵抗するつもりですか?」

 

アンドリューが尋ねる。

 

「当然だ」

 

プッチは静かに答えた。

 

「君の料理を食べたことは認めよう」

 

「だが」

 

「その対価まで君が勝手に決めることは許可していない」

 

ホワイトスネイクが拳を振るう。

 

クークスによって動かされたテーブルが砕け散った。

 

「おや?」

 

アンドリューが僅かに驚く。

 

「まだ動けるとは」

 

「……ヴェルサス!」

 

「分かってる!」

 

ヴェルサスが床を見る。

 

「この辺りは……!」

 

「オックスフォードだ!」

 

アンダー・ワールドが床を掘った。

 

「掘り起こせ!」

 

「この街で生まれたものをよぉーッ!」

 

床に穴が開く。

 

その奥から。

 

古い石畳の道路が現れた。

 

そして。

 

ブォォォォォン!

 

エンジン音。

 

「……何?」

 

アミスが初めて僅かに表情を変えた。

 

店の床を突き破り。

 

一台の自動車が現れる。

 

黒い車体。

 

古めかしい形状。

 

だが。

 

今まさに工場から出荷されたばかりのような姿だった。

 

「1913年!」

 

ヴェルサスが叫ぶ。

 

「このオックスフォードで組み立てられた!」

 

「出来立てほやほやの――!」

 

ヴェルサスが指を突き出す。

 

「モーリスだぜっ!」

 

ブオオオオオオオオオオオオッ!

 

モーリスは店内を突っ切り。

 

クークスの設備へ向かって突撃した。

 

「アミス!」

 

アンドリューが叫ぶ。

 

「止めろ!」

 

しかし。

 

アミスがクークスを操作するより早く。

 

ガシャアアアアン!!

 

モーリスが厨房設備へ突っ込んだ。

 

するとヴェルサス達の拘束が解けた。

 

「おっ!」

 

「やったぞ!」

 

「いや、まだだ……!」

 

プッチは冷静にモーリスが突っ込んでいった方を見る。

 

「ダメージは与えたが、まだ拘束を崩した程度だ」

 

その言葉の通りか、アンドリューとアミスが立ち上がる。お互いモーリスが突っ込んできた際に負った怪我が出来ている。

 

「貴様ら……!」

 

アンドリューの顔には憤怒の表情が浮かんでいた。

 

「私が今まで集めてきたスパイス達が台無しになったらどうするつもりだ!?」

 

「知るかよ。だが、俺らから奪った分のスパイスは取り戻させてもらうぞ!」

「リキエル、ウンガロ、下がってろ。今回はお前達は戦えないだろ?」

 

ヴェルサスの言うとおり、リキエルのスカイ・ハイはこの閉鎖空間となった店内にロッズを呼び寄せることが出来ない為実質使用できず、ウンガロのスタンドに至ってはある理由で使用制限がかかっている。

 

「チクショウ……!悔しいが兄貴の言うとおりだぜ」

 

ヴェルサスとプッチはアンドリュー達から目を離さない

 

「フフッ、いいのですかそんなに私達に視線を向けて」

 

「ああ?戦闘中に相手から目を離す間抜けじゃあねえんだよ俺らは」

 

「これから私達がやる事が分かっても同じ事が言えますかね?」

 

「なに?」

 

アンドリューのチック・チック・チックが、厨房にあった瓶を掴み、そこから大量の粉末をまき散らす。

 

「なんだ?」

 

「あの色……、唐辛子か?」

 

「今撒いたのは唐辛子だけじゃないぞ。黒胡椒、白胡椒、山椒……刺激の種類は一つじゃない!」

 

「だからどうした?」

 

「こうするのさ!アミス!」

 

「クークス!」

 

ガコンッ!

 

天井の空調機が動く。

 

ブオオオオオオオオッ!!

 

舞い上がった粉末が風に乗り、ヴェルサスたちへ一直線に飛んでくる。

 

「なにいいっ!?」

 

「いかん!目や喉を保護しろ!」

 

「ゴホゴホ!?」

 

「目と喉が痛いぃ!」

 

刺激物の粉末を吸い込んだり目に入れてしまって悶絶するヴェルサス達。

 

「いかがです?味覚は無くしても辛味という痛覚は頂いてないですからね」

「やれアミス!」

 

「クークス!」

 

すると、ヴェルサス達の立っていた床の辺りが傾き、ヴェルサス達の体勢を崩す。

 

「うおおおおッ!?」

 

更に店の包丁が宙に浮き、ヴェルサス達へ飛んでいく。

 

「パパのナイフ投げに比べれば屁でもねえんだよ!アンダー・ワールド!」

 

「ホワイトスネイク!」

 

ヴェルサスとプッチのスタンドが飛んできた包丁を叩き落す。

 

「ではこれは防げますか?」

 

すると、厨房からオーブンがせり出してきたかと思うと扉が開きそこから炎が飛び出す。

 

「ちっ!アンダー・ワールドォ!」

 

アンダー・ワールドが床を掘り返すとそこから大量の水があふれ炎を消火する。テムズ川の記録を呼び出したのだ。

 

それを見たアミスは少し驚く。

 

「水……!? そんなもの、どこから……!」

 

「アンダー・ワールド……でしたね。なるほど。実に厄介なスタンドだ」

 

「だったら次は何を出してくる? フライパンか? 皿か? フォークか?」

 

と挑発するヴェルサス。

 

ところがアンドリューは、

 

「いいえ」

 

と答える。

 

「料理人ならば――料理そのものですよ」

 

「あ?」

 

「チック・チック・チック!」

 

チック・チック・チックが何かを取り出した。それは吹付機の様に見えた。

 

「正直言って“貴重なもの”なのでみだりに使いたくなかったのですが、やむを得ません」

 

チック・チック・チックは吹付機から何かを発射した。

 

「また刺激物か!?」

 

「いえ、少し違いますよ。それはチック・チック・チックによって抽出された、“過去に拷問を受けた者の味”」

 

「!?」

 

チック・チック・チックからスパイスを吹き付けられたヴェルサス達はその場に蹲る。

 

「うう……」

 

「ああ……」

 

「このスパイスはかなり刺激的なので料理に入れる場合はほんの少量、薄めに薄めるのですが、今回は特別に多量に摂取させました」

「ですがこれでは聞こえているかも怪しいですね」

 

「料理長……」

 

「ええ、アミスとどめを刺しなさい」

 

その言葉と共に換気扇、オーブン、ナイフ、フライパン、テーブル、椅子、床、冷蔵庫、食器、食器棚。

 

店内のあらゆる物が凶器と化してヴェルサス達に殺到した。

 

凄まじい音が店内に響き渡る。

 

「さて、店じまいの準備をしなくては」

 

惨劇を見届けたアンドリューは涼しい顔でそう言う。

 

「流石に人が行方不明になったとあっては店を何処かに移転する必要がありますからね」

「今回はよくやりましたよアミス」

 

するとアミスはにっこり笑って、

 

「アンドリュー様♡これで搾りかす達はおしまいですね♡きゃー♡」

 

と言った。

 

「……?」

 

アンドリューは凍り付く。

 

「ちょっとまて!お前……、そんな事言うキャラだったか?な、何かがおかしいぞ!」

 

明らかに様子がおかしいアシスタントを前にアンドリューは狼狽える。そして、

 

『いい夢は見れたか?』

 

「はっ!」

 

アンドリューは、“目を覚ました”。

 

「こ、ここはっ!これはっ!?」

 

気づけば自分とアミスは床に倒れ伏しており、今さっき始末された筈のヴェルサス達はピンピンしていた。

 

「!?……?!?、!?」

 

「いい夢は見れたかよ?そっちの姉ちゃんはまだおねんねみたいだぜ」

 

「ホワイトスネイクの幻覚の能力だ」

「室内では、こちらが有効だと判断した」

「本来なら肉体そのものをドロドロに溶かすこともできるが……今回はやめておこう」

 

「いっ、いつから……!」

「いつから私達は眠っていた!?」

 

「布石そのものは戦闘が始まった時から打っていた。何せ大きな幻覚を見せるのには時間がかかるしちょっとの外部からの刺激で目覚めかねないのでな」

「それと、そこの彼女はもうスタンドを使う事はできない。今しがたホワイトスネイクでスタンドDISCを抜き取ったからな」

 

アンドリューは青ざめる。

 

「あ、ああ……!」

 

「後はお前だけだぜ」

 

「う、うおおおおおおッ!」

 

追い詰められたアンドリューの背後に、チック・チック・チックが現れる。

 

チック・チック・チックはヴェルサスに襲い掛かるが、

 

「WRYYYYYYYYY―――ッ!」

 

「ぐおおおおおッ!?」

 

アンダー・ワールドが一瞬でチック・チック・チックを取り押さえた。

 

「どうやらスタンドヴィジョン自体の戦闘力は低いみたいだな」

 

ヴェルサスは鼻で笑う。

 

「悪いな」

 

「俺のスタンドは戦闘専門じゃあねえが、だからって弱い訳でもないんだよ」

 

チック・チック・チックの動きが止まる。

 

「くっ……!」

 

「で、こいつらはどうする?」

 

「まあ、念のためスタンドDISCを押収しておこう」

「彼らはスタンド能力で行ったことを除けば、大きく法を犯しているとは言い難い」

 

「幻覚の中とは言え俺達殺されかけたけど?」

 

「被害者はいる。だが、スタンド能力による被害を通常の方法で立証するのは難しい」

 

「だからスタンドを抜く?」

 

「少なくとも、同じことは二度とできなくなる」

 

「やっ、やめろっ!」

 

すがりつくアンドリューにヴェルサスは言う。

 

「諦めな」

「スタンド抜きで一からやり直すこったな」

 

プッチがホワイトスネイクを出現させる。

 

「さらに念を押して……」

「記憶から我々のことも消去しておこう」

「そうすれば、DISCを取り返しに来ることもない」

 

「待て……!」

 

「安心しろ」

「君達の人生そのものを奪うつもりはない」

「ただ……少しだけ“味”を失ってもらうだけだ」

 

「で……、俺達の味覚はどうやったら元に戻るんだ?」

 

気絶中のアンドリューとアミスを尻目にウンガロは店内をキョロキョロ見まわす。

 

「奴から俺達のスパイスをぶんどった。これを摂取すれば元に戻るんじゃないか?」

 

「大丈夫か?」

 

「しかしそれくらいしか方法は思いつかないぞ」

 

そして四人はそれぞれの自分のスパイスを摂取し(むせた者も居た)、無事味覚を取り戻すのだった。

 

     ◇

 

「あーあ……、ひどい目に遭ったな」

 

「まったくだぜ。せっかくのサンデーローストだったのによ」

 

「……すまなかった」

 

ブランドー兄弟が思わずプッチを見る。

 

「今回の店を選んだのは私だ。結果的に君達を危険な目に遭わせた……。今回の件は私の落ち度だ」

 

「へえ」

 

「何だ?」

 

「いや……、神父様にしては珍しく、しおらしいじゃないか」

 

「ヴェルサス!」

 

「そういう言い方はないだろ兄ちゃん!」

 

「……」

 

ヴェルサスは肩をすくめる。

 

「まあいいさ。死んだわけでもねえし」

 

「それにしても……、あのアンドリューとかいうコック」

 

「残念だったなって言ってたけど、どういう意味だよ?」

 

「ああ」

 

ヴェルサスは少しだけ先ほどまでいたレストランの方を見る。

 

「スタンド抜きでも、あいつの料理の腕は一流クラスだった」

「少なくとも、最初に出されたスープとサンデーローストは本当に美味かったぜ」

 

「でも、結局スタンドを使ってただろ?」

 

「そこが残念なんだよ」

 

ヴェルサスは鼻を鳴らす。

 

「料理人ってのは、素材を選んで、調理して、味付けして……そうやって自分の腕で客を満足させるもんだろ?」

「なのにあいつは、もっと上の味を求めるために、人間から“人生の味”を奪い始めた」

「便利な能力に頼りすぎて、自分の料理人としての技まで腐らせかけてたって訳だ」

 

「……兄ちゃん、意外と真面目なこと言うな」

 

「うるせえ」

 

リキエルが少し笑う。

 

「じゃあ、スタンドを取られたことで、逆によかったのかもな」

 

「さあな」

 

ヴェルサスはそう答えた。

 

「正直、いけ好かない連中だった」

 

「だが……」

 

少しだけ間を置く。

 

「これを機に、スタンドなんかに頼らず一から料理をやり直せればいいな」

 

「おお……」

 

「兄貴がそんなことを言うなんてな」

 

「なんだよ」

 

「俺だって、たまには人の将来くらい考えるぜ」

 

「……君は時々、よく分からない男だな。ヴェルサス」

 

「俺も自分でそう思うよ」

 

四人はその場を後にする。

 

そしてヴェルサスは、去り際に一度だけレストラン「!!!」を振り返った。

 

「……まあ」

 

「次に来る時には、普通に美味い料理を食わせてくれればいい」

 

「それだけだ」

To Be Continued...

 

……人物紹介……

・アンドリュー・オニオンズ

新進気鋭の料理人。26歳男性。オックスフォードにて料理店「!!!(チック・チック・チック)」を経営している。料理の追求には手段を選ばない男で、自らのスタンドで客から“味”を抽出、スパイスを作り出す事を繰り返している。本人的には美味しいものを食べれた対価を頂いているだけ(「!!!」の料理の価格はその味に対してかなり安いと評判)。スタンド名はチック・チック・チック。

チック・チック・チック

パワー:E

スピード:D

射程距離:D

持続力:A

精密動作性:C

成長性:A

姿: 口から分厚く長めの舌が飛びててコック帽を被った肥満体型の人型。

能力: 料理を食べた人間の身体から、その人物の“味”を抽出し、スパイスを作り出す能力を持つ。人間にはそれぞれ精神・経験・人生によって異なる「味」がある。幸福な人生を送った人間は甘い。苦労した人間は苦い。悪人は刺激的。恐怖を味わった人間は最高のスパイス。店主はその「人生の味」を料理に利用している。味を抽出された人間は長い期間味覚が鈍くなってしまう。近距離パワー型に分類される能力だが直接戦闘力は低い。

 

・アミス・カラーズ

アンドリューのアシスタント。22歳女性。彼女もスタンド使いでありアンドリューの共犯者である。必要な事以外は口にしない寡黙な性格。スタンド名はクークス。

クークス

パワー:A

スピード:C

射程距離:C

持続力:B

精密動作性:C

成長性:D

姿:スタンドヴィジョンは無い。レストランの店内と一体化している。

能力:厨房、オーブン、ナイフ、テーブルなどを操る。

 




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