Versions of V 作:匿名
透き通る青空。
かつては人々が行き交っていたであろう街並み。
すでに往来を行く人影はなく、鳥の囀りが響き渡る程度だった。
そんな区画の一角の、水面へと降りるために作られた階段。
そこに、変わった出立の男ーーいや、人影が一つ。
階段に腰掛け、静かに水面を眺めていた。
ウェーブのかかった、長めの黒髪。
かぎ爪で引っ掻かれたような黒いタトゥー。
黒いノースリーブのトレンチコート。
開いた膝の間に杖を置き、その先を肩に預けている。
そんな見るからに怪しい人影が、揺れる水面を注視していた。
正確には、水面に波紋を作る、かろうじて浮かぶ少年少女の3人。
「……妙な場所だな。」
どういう感情で眺めているのか定かではないその様子に、思わず一つの声が、彼の内に響く。
『おいVチャン!なに黄昏てんだ!?思春期かァ!?』
イーヒッヒッヒ!と軽快に笑い飛ばす、その声にVと呼ばれた人影はため息をこぼす。
『アン!?ガキが三匹溺れてる!?景気がいいジャン!!』
愉快そうに笑う声を無視しながら、肩に立て掛けていた杖を持つ。
『アン!?わざわざ助けてやんのか!?ほっときゃいいジャンいやお前が助けるなら手伝うけどよォ!』
ほっとけという割に助けるなら手伝う、と忙しなく話し続ける声を肩口に立ち上がった。
すると、彼の足元からは黒い霧が沸々とあふれる。
それと共に一本の太い針のようなものが伸び、3人の服のみをうまいこと引っ掛けて水路から引き上げた。
『あれェ!?助けたのにそのまま言っちゃうの!?なんのために助けたんだよォVチャン!』
その言葉と共に、彼の体から霧が溢れ出し、大きな鳥が現れた。
夜のような深い青の体毛と翼を携えた怪鳥は、バサバサと風を仰ぐ大きな音を立てながら、話しかける。
「わすれちまったのかァ!?俺たちは絶賛迷子中!!あのガキどもについでに聞いたらいいじゃねェか!」
彼は、目線を先程の子供達の方へ向ける。
ゴホゴホとむせ、泣きそうになっている子供達を見て、眉間に皺寄せながら「めんどうだ…」とその場を後にする。
「ちょ、おい待てよォ!」と怪鳥は黒い背中を追いかけた。
歩き去る最中。
人影はふと、足を止めて足元の水路ーーー水面に目を向ける。
「…ん?ちょ、おいVチャン!?」
水面を見下す人影に追いついた怪鳥がなにやら姦しく騒ぐ。
「せ、せせ成長期ですかァ!?あわわわお客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか〜〜!?!?」
背中で騒ぎ立てる鳥を無視しながら、人影ーーーいや、青年は空に目を向ける。
澄み渡る空は嘘のように夕暮れ。
往来のない街並みはただ鳥の鳴き声と杖をつく足音のみが響いていた。