Versions of V 作:匿名
「っかァ〜!強い日差し!高ェ雲!アチィ風!気分は夏休みってかぁ!?Vちゃんよォ!」
耳元でけたたましく喋る鳥ーー『グリフォン』の言葉を、しだの長い木の下に腰掛け、本を読む青年が1人。
「…読書中だ。邪魔をするな…」
緩やかな風に、場違いなほど黒く重い髪を揺らしながら、Vはつぶやく。
昨日一日歩き回り、分かったことは少ない。
人の暮らし。魔物の気配。見知らぬ植物。
だが、急ぐ必要もない。
そう物語るように、頁を捲る。
「かァ〜〜!!呑気なもんだなァオイ!!そんなに慣れねェ夏の日差しに参っちゃったんでちゅかァ〜!?Vチャンにゃ刺激が強すぎるかなアアン!?ムゴッ!」
無言で、膝の内側に立てかけていた杖の持ち手部分をグリフォンの口に突っ込む。
「ソ〜かよ!なら俺は散歩にいくゼ!!Vチャンは猫チャンとお利口さんで待ってなさいヨ〜!!」
やがて、その声も風に紛れた。
足元の影が揺れ、唸る声が一瞬響く。
Vは何も言わず、本に視点を戻す。
風。葉の擦れる音。
遠くから聞こえる声。
「……?」
しずかに、頁から目を離す。
「ま〜て〜!」
「なんだってンだァ〜〜!?」
バサバサと騒ぎながら、グリフォンがVの背中に隠れる。
眉間に皺寄せながら、ため息をつく。
「…一体何をしている。」
「しらねェよ!嬢ちゃんが唐突に追いかけてきたんだよ!」
ヒ〜!!と悲鳴を上げながら慄いている。
束の間の静寂を切り裂かれ、Vはゆっくりと顔を上げた。
「やっぱり!今、鳥喋ったよね!?」
木陰へ駆け込んだ少女の目に、グリフォンの姿が映る。
しかし、その奥にーー
「……」
1人の青年がいた。
ゆっくりと、本から顔を上げる。
その動作を見た瞬間、熱に浮かされていた頭が冷えた。
「あっ……とっ……」
青年は本を閉じ、こちらの顔を見る。
視線のみで体に穴が開くんじゃないか、と思えるような張り詰めた空間だったがーーーふと、青年の張り詰めた雰囲気が崩れる。
グゥゥ…
と、気の抜けたような腹の虫がその場に響いた。
「……お腹空いてるの?」
「…どうやらそうらしい。」
「だったら、何か食べる?」
カバンをゴソゴソと漁り始める少女。
その傍ら、背後からグリフォンが話しかけてくる。
(おいっ!V!流石にやめとけって!)
(油断したらお前がチキンにでもされるのか?)
(キーっ!!!!)
背中に羽毛が数枚舞う。
Vは気にせず少女に問う。
「…お前は見知らぬ男に食事を勧めるのか?」
目を丸くした少女は、鞄から包みを差し出す。
「だってお腹空いてるんでしょ?」
「…そうだな。」
(おいVチャン!礼くらい言おうぜ!それとも赤ん坊のVちゃんにゃまだコミュニケーションは早かったか!?)
(…必要か?)
無言で包みを受け取る青年は、そのままパクりと食べる。
(…食べるんだ)
警戒心が高いのか低いのかわからない。
そんな面持ちに困惑しながら、話しかける。
「あたしはライザ。ライザリン・シュタウト。あなたは?」
二口目に行こうとしていた青年は、口を開いた状態で固まる。
「…名前などない。生まれてまだ2日目だもの。」
…冗談だ。Vと呼んでくれ。
謎にドヤ顔を見せながら、二口目をパクり、と食べる。
「V……ね」
少女ーーライザは、黙々と包みを口に運ぶVをまじまじと見る。
「でも、見ない顔よね?」
「……そうか?」
「うん。島に住んでる人なら大体知ってるもん。」
Vはライザに一瞥もくれず、食べ終わった包みを手のひらに納める。
口元を左手で拭いながら、視線を向ける。
「昨日来たばかりだからな」
その言葉に、やっぱり!とライザは手を合わせた。
「どこから来たの?」
「……」
Vは、手の中の包みに視線を落とす。
「……」
「?」
「……説明するには少々時間がかかる」
ふーん、そうなんだ。
そう言いながらVに、手を伸ばせば届くか、届かないだろうかといった場所に、ライザは腰かける。
「じゃあ、また今度聞かせてよ!」
「…なぜ、座る?」
木陰に腰掛けカバンをまたもや漁り始めたライザは、さもありなんといった様子で「え?休憩。母さんから逃げるの最近大変なんだよねー」と続ける。
隣でカバンから出した包みを頬張りはじめたライザを尻目に、Vは再び読書に耽り始める。
(おいおいおいVチャン、ずいぶん懐かれちまったなァ〜!新しいお友達よかったじゃねェか!)
(読書の邪魔だ……)
イーヒッヒッヒ!とVの内に響く笑い声に、頁を捲る指が止まる。
その様子を見ていたライザがはおずおずとVに話しかけた。
「そいやーさ、さっきなんか喋る鳥がこっちきたりしなかった?」
膝に乗せた包みを落とさないように気をつけながら、『こーんな大きさなんだよ!?』と両手いっぱいでスケールを物語る。
「……喋る鳥か?おそらく鶏かなにかだろうな。……きっとやかましいことこの上ないだろう。」
「あはは!鶏だやかましいだなんて、意外と冗談とかいうんだね!」
頁をめくりながら話すVに、冗談を返してるんだろう、と思わずライザは快活に笑う。
「でも鶏じゃないよ!ほんとにこーんなにおっきかったんだから!たしかにこの木陰に隠れた気がしたんだけどなー。」
ほんとに見てない?と再度確認してくる。
Vは、ライザに目線を向けるまでもなく頁を捲る。
「……」
「うーん、おっかしいなあ。て、あれ?Vさん、なんか肩についてない?」
そう言いながら、Vの肩に乗っていた暗い夜のような色をした羽毛を手に取る。
「やっぱり…。この近くにいるんだわ!」
まるで、あたしの冒険!とでも言いたげな様子であたりを見渡すライザ。
「……」
やかましいのが一匹増えたか。
軽く目を閉じながら、本を閉じる。
「……探すのか?」
「もちろん!」
即答だった。
Vは小さく息を吐く。
「そうか……。」
風が吹いた。
本を閉じたVに、ライザが向き直る。
「ねえ、Vさん。」
「……なんだ」
「明日、暇?」
目をゆっくりと開き、はじめてライザの相貌を見る。
「……特に予定はない。」
「じゃあさ!」
ライザが身を乗り出す。
「明日、一緒にーー」