Versions of V 作:匿名
透き通る青空と高く積み上がる雲の下。
Vは船に揺られていた。
波が船腹を叩き、どこからか調達されたボロ船は、ギシ、と軋む。
『イーヒヒ!人見知りな赤ん坊のVチャンが冒険かァ!可愛いところあんじゃねーの!!』
頭の中で響く声にVは眉間に深く皺を寄せる。
(黙っていろ…)
「明日、暇?」
ーーー昨日のことだった。
栗色の髪の少女、ライザは身を乗り出しながらVに聞く。
天高く輝く陽はVの足先を照らす。
「……特に予定はない」
その言葉にライザは目を輝かせ、じゃあ!と続ける。
「明日、一緒に冒険してみない?」
陽に当てられ、ライザの栗色の髪がうっすら光を反射する。
Vは、本の背表紙を撫でる。
「……悪いが『いいねェ!!Vチャン、俄然ノリノリになってきたぜ!!!もちろん朝昼晩3食付き住み込み可能お電話今すぐ契約するなら今ァ!!なんだろうな!?』
「…………」
……思わず凄まじい表情で己の背中を睨むV。
グリフォンの似ていない声真似に、今まで思案する際に眉間を皺寄せることはあったが、まるで般若にでもなろうかと言う表情だった。
(いいじゃねェか!V!お前ここ2日はあるきっぱだろォ!?ここらでいっちょ顔見知りくらい作ってても悪くねェよ!)
気の抜けたようにため息をつき、ふと目の前の少女のことを思い出す。
目線だけをライザに配る。
先ほどまでとは違うVの口調に目を丸くーーーそして、吹き出した。
「ぷっ、あははは!Vさんって面白いんだねぇ!」
はー、と笑った笑ったとでもいうように目尻を拭うライザ。
「じゃあ、明日またこの場所でね!」
そう言うと、訂正する暇もなくライザは走り去り、Vはみるみる小さくなる背中をただ見つめるほかなかった。
と、その様子を眺めるVの背後からニュッとグリフォンが顔を出す。
「イーヒヒ!まあもうそろ味変で動き回る以外のことしたって罰当たらねェだろ!?ァン!?怒ってんのかVチャン!」
「……怒ってなどいない。」
過ぎたことだ。いまさら悔やんでも仕方ないだろう。この
どさっと、木の根に体重を預けるように仰向けになる。
事実、歩き回るだけというのにも限界を感じていた。
まあ、いいだろう…。
そう考えながら、Vはゆっくり目を閉じた。
「アァン!?おねんねかいVチャン!!赤ん坊には昼寝が必要でちゅからねムゴッ!」
そして時間は、現在へと戻る。
眉間に皺を寄せているVのことなどいざ知らずとったように、赤髪の少年ーーーレントがライザに話しかける。
「船があるとは聞いたが、まさかこんなボロい船のことを言ってるとは思わなかったぜ…」
その言葉に、メガネの少年ーーータオが呆れたように同調する。
「まったくだよ…しかも見ず知らずの人を捕まえて、わざわざ危ないところに冒険に行くだなんてさぁ…」
「つべこべ言わないの!ここで引き返したらママに怒られるだけの大損じゃない!」
「今からでも引き返すのって、ダメ…?」と項垂れた様子のタオと、なにやら大損だのなんだのと言っているライザを尻目に、頭の中に声が響く。
『オイオイオイこいつら今冒険っつったか!?カ〜!南国の島で冒険できるなんざ贅沢じゃねェか!!』
(経験こそが、世界を覆す。……こいつらも知りたいんだろう。己が世界を)
『はーん!Vチャンはあいかわらず詩人だねェ!』
まあ今はお硬くなるより初めての海を楽しめよ‼️イーヒッヒッヒ!と、頭の中でこだまする。
Vは何も答えず、揺れる船の上から海を見つめる。
こうして何かをただ眺めるというのも、随分と久しい。
船に乗るという経験が、バージルにはなかった。
(……存外揺れるものなのか)
そんな、何を想って水面を見ているのかわからないVに、レントが話しかける。
「なぁVさん。そいや、ここらではあまり見ない格好してるよな。ライザからは昨日来たばかりって聞いたけどよ…どこの人なんだ?」
レントの問いかけに、項垂れながら座っていたタオも反応する。
「!よくクーケン港にくる行商さんたちとも服の感じが違うよね!」
「……」
賑やかな冒険だな。
Vは本を取り出し、頁を捲りながら答える。
「……遠いところだ。」
「遠いところ…?」
「……ある人曰く。俺たちは生まれたのではない。……この世界にひとときの間、おかれているだけだ、と。」
なあ、俺たちはいつになったら帰れるのだろうな。
そう言いながら目を閉じ、……冗談だ。と綴った。
『ナニ言ってんだよVチャン!この世界に生まれたわけじゃねェって事実じゃねーかヨ!』
Vは、どこか満足げな顔をしている。
その様子を目を丸くしたレントとタオが眺めていた。
「……えーっと」
「……つまり…?」
「……故郷だったな。遠いところだ。」
結局どこなんだ…?という顔をしながらレントとタオは顔を見つめあっている。
「へぇ…?」
ライザが少しだけ首を傾げる。
「なんだか、Vさんって変なこと言うよね。」
「……それと、さんはいらない。Vでいい。」
ぱたん。と本を閉じる音が風の隙間に流れていった。