Versions of V 作:匿名
「はぁ〜…なんとか沈まずについたよ……」
「沈むってあんたねぇ……」
海を行く道中、ギシ、と船が鳴るたびに怖がっていたタオは、何事もなく対岸の島に着いた安堵からため息を吐く。
「……沈む心配をしていたのか?」
砂浜に杖を突き立て、足の裏にザクザクと砂を踏み締める感覚を味わいながら声をかける。
「ソレ以外のこともだよ!!護り手に鉢合わせするのも魔物に鉢合わせるのもだよ!!!」
小うるさいものだ。
「そうか。」とだけ返し、あたりを見渡しながら何やら話しあうライザ、レントの背中を追う。
「どうするんだ?来るまでここで待ってるか?」
「なにいってんの!せっかくだから冒険しようよ!」
バタバタと『待望の冒険!』というイベントにまるで落ち着きを隠せないライザと、それをみて呆れるレント。そして一歩引いて『護り手に怒られたくないから帰ろうよ』と怖がるタオという凹凸トリオを眺めながら、Vも後を追う。
『ハーン!Vチャンなんだか上機嫌ン〜?初めてのオトモダチと初めての海に初めての冒険でワクワクしてんのかァン!?』
「……」
『無視かよォ!シャイだねえVチャンは!』
イーヒッヒッヒ!と笑いながら、バサバサと風に翼を叩きつけるように飛ぶ怪鳥ーーーグリフォンが姿を現す。
「案外ただ生きるだけってのも楽しめてるようじゃねェの!」
「……そうだな。」
遠ざかっていく3人の背中を見つめる。
「……だが。」
その表情からは何を思っているのかわからない。
ただ、どこか困惑しているような顔で呟く。
「俺たちは……なぜまだ存在している?」
「なんだよ、俺たちと一緒じゃ不服ってワケェ!?」
ケンカ売ってんのかヨ!とグリフォンがVの胸ぐらを掴む。
「……」
Vは言葉を続けない。
「なんだよVチャン!黙りこくっちゃってヨォ!」
「……なんでもない。」
「別にいいじゃねぇか!いらねェもん同士が仲良しこよしする時間が伸びただけ、今は楽しもうぜ!」
「猫チャンもそう言ってるゼ!」と続け、Vの足元からは黒い猫の尻尾のようなものがフリフリと揺れていた。
Vは目を細め、ただ一言「……そうだな。」とだけ答え、3人の背中を目指し、歩き始めた。
「ほらこっち!ここから森に入れそうだよ」
ライザが人の背丈を優に超える、草木が生い茂った森の入り口で、3人に向かって手を振る。
放っておけば、1人でどんどん先に進んでしまいそうな勢いのライザに、レントとタオが呆れながらその後ろを追いかける。
「小妖精の森か…。冒険の第一歩ってとこだな。」
「……?」
ふと、タオが自分の背後……Vのいる方向を向く。
Vは立ち止まり、あたりの風景を見渡すようにしていた。
(あれ、気のせいかな。V、今誰かと話してた…?)
「おーい!タオ、早く来なよ!Vも!」
「あ、うん!」と、自分たちを呼ぶライザの声に返事をする。
一瞬Vを気にするが、きっと気のせいだろうと思いライザの元へ向かった。
「なんか…ぱっと見普通の森だね…?」
「まあ島の人が勝手にそう呼んでるだけだしね…」
肩透かしを食らった様子のライザに、タオが答える。
森の中は案外見通しは悪くなく、日差しもゆっくりと木々の間を差していた。
森の入り口から入ってくる潮風に背中を押されながら、Vたちは奥へ奥へと歩いていく。
「そういえば、Vは何歳なの?」
パキパキと枝を踏みしめながら歩くVに、タオが話しかける。
どこか期待に満ちた様子のタオに視線だけ向け、しーっと、口に指を持ってくる。
「……男に歳は聞かないものだ。」
「あ、そ、そっか…」
恥ずかしそうにぽりぽりと頭をかく様子を見、視線を前に戻そうとすると「あ、あのさ!」と何かを差し出してきた。
「こ、この本!読めたりするかな…!?」
タオの手には古びた謎の本があり、これを読めるかと聞いてきた。
Vは、何も言わずに本を手に取り、頁を捲る。
ゆっくりと目を通していき、パタンと閉じた。
「ど、どうかな…?」
「……読めない。」
「え!?」
「……俺の知る文字ではない。」
だが,とつづけた。
「想いこそが、無限を満たす。ーーータオ。」
お前ならきっと、いつか読めるだろう。
そういいながら本を返した。
「そ、そっかぁ。ごめんね、ありがとう」
突然の詩的な言い回しに少し驚きながら、返された本を大事そうに抱える。
「…それなら、いつも読んでる本はどういう本なの?」
「……これは、詩だ。」
そういいながら、すっと本を取り出し、手渡す。
この世界には馴染みのない、英語で書かれた本に目を丸くするタオ。
「こんな文字…みたことないや。どこの国の文字なの…?」
その言葉と同時に、ひょいとVの後ろからライザが顔を覗かせる。
「なになに?なんの話してるの!」
「あ、いや、Vはいつもどんな本を読んでるのかなって」
2人はじっとVの顔を見る。
当のVは我関せずといった様子でタオから本受け取りーーー
「……遠いところ、だ」
と、満足げな顔で答える。
仏頂面で、不思議な雰囲気だが、不思議と憎めないVにライザは「それ、昨日も聞いたよ!」と笑いながら肩を叩く。
「盛り上がってるとこ悪いけど、お前らも周りを念のため警戒してくれねーか…」
「あ、ごめんごめん!でもあんまり何もないね。」
「何もなくていいんだよ…」
タオが本の話から現実の話に引き戻され、肩をガックリと落としながら歩く。
警戒を、とはいったものの元々その日暮らしで悪魔と死線を超える日々を送っていたVには、とくに警戒するほどの森ではない、と感じられる。
と、その時、物音がなった。
「こいつは…!」
「ま、魔物!?」
「青ぷに、だっけ…!?」
そこには、丸っとした青いぷにっとしたやつがいた。
『コレが魔物ォ!?』
魔界の連中がゴミの掃き溜めにしか見えなくなっちゃうジャン!
そう騒ぎ立てる3人と、己の中の一匹にため息を吐きつつ、Vは近くの木に腰掛けた。