Versions of V 作:匿名
「ハァ……ハァ……!」
息が上がる。
足がもつれる。
後ろからは、魔物のうなり声が聞こえてくる。
少女ーーークラウディア・バレンツは必死にそのうなり声から逃げるように駆けていた。
草木の隙間を抜ける。枝が掠り、うっすらと血がにじむ。
しかし、そんなことを気にする余裕などないほど、実態は切迫していた。
「誰か……!」
悲痛な声が、木々のざわつきにかき消される。
ただ、背後から迫る魔物の足音だけが、近づく。
「……!」
後ろを、振り向けない。
振り向けば、
その時、どこからか声が響く。
「……オー……イ……!」
「……え?」
それは希望か、恐怖が生み出した幻聴か。
思わずクラウディアの足が止まる。
「オーーーーイ!」
確かに、幻聴ではなく、声が聞こえた。
後ろからは魔物の迫る足音が聞こえる。
クラウディアは目をぎゅっと瞑り、
「誰かいるの!?」
返事を待つ。
「ーーーいるよ!」
声が、確かに返ってきた。
一瞬安堵から膝が崩れそうになるがーーー
「ーーーー!」
背後から魔物のうなり声が響いた。
「森の奥から……!」
「ああ、タオ!行くぞ!」
「あ、ちょっと待ってよ!」
先導するVの後を歩いていた三人が、木々のざわめきの合間から、
かすかに聞こえた声に向かって走り出す。
『アーアー!生き急いでんナァ!』
『追いかけなくていいのォ?』と、グリフォンが笑いながら三人の背を見送る。
Vは軽くため息をつき、三人の背中を追いかける。
『イーヒヒッ!子守りも大変だねェ!Vチャン!』
「……己が翼で飛ぶ君よ。望むままに、飛ぶといい。」
……だが、放っておくわけにもいくまい。
零すように、三人の背中に詩を紡ぎ、杖を突いた。
「あっ……魔物が!」
「なんか強そうだよ……!」
「襲われてる子を見て放っておけないじゃない!」
ライザ、タオ、レントの目に、ヒト型の魔物に襲われている少女の姿が飛び込んできた。
深い青色の箱を大事そうに腕に抱え、少女は走っていた。
「へっ……!初の冒険に戦闘だけじゃなく、助けを求める女の子を守る……か。」
初の冒険にしちゃ、上出来だぜ!
レントは剣を手に、踊り出る。
それに続くように、ライザ、タオも武器を構えた。
「っオラァ!」
レントが大きく剣を振りかぶり、斬りかかると魔物が大きく仰け反った。
魔物が体勢を立て直すより早く、ライザが杖を振る。
「今だよ!」
タオが《闇夜の帳》で追い打ちをかける。
「ーーー!」
魔物がなお、立ち上がろうとする。
だが、それすらさせまいと、レントが踏み込んだ。
「オラァ!」
勢いのまま、大きく剣を横薙ぎに振りぬく。
魔物が地面に激突しながら、大きく吹き飛ばされた。
「ーーオオっ!」
レントは突進し、最後の一太刀を浴びせる。
魔物が声にならないうめき声をあげ、力なく地面に倒れこんだ。
「ハァ……ハァ……!」
「か、勝てたの……?」
肩で息をしながら、レント、タオが魔物を見下ろす。
その横で、ライザが襲われていた少女に近づく。
「あなた大丈夫?怪我とかしてない?」
「う、うん」
その場にへたり込んでいた少女に、ライザが手を差し伸べる。
少女はその手を掴み、立ち上がる。
「助けてくれてありがとう。森で迷っていたらさっきの魔物に……」
「災難だったね」
ライザは自分の胸に手を置き、少女に笑いかける。
「あたしはライザリン・シュタウト。ライザでいいよ。あっちはレントとタオね。」
「テキトーな紹介だなぁ……」
別にいいけどさ……。とボヤくタオとレントを無視しながら、周りをキョロキョロと見渡す。
「ほんとはもう一人いるんだけど……急いだからおいてきちゃったかな!?」
「私はクラウディア・バランツ。……その人は大丈夫なの?」
「う、うーん。まあただならぬ雰囲気の人だし多分……?」
というか、バレンツ?
と、どこかで聞いた名前にライザが首をかしげる。
「うん。旅の商人をしているお父さんについてここに来たの。」
「あっ、もしかしてそのお父さんって村にやってくるっていう噂の商人さんだったり?」
「かもな。」
息を整えたレント、タオがライザのもとに合流し、「ところでさっきから……」と、続けようとする。
すると、タオが焦ったようにレント、ライザに声をかけた。
「ってうわっ!前っ!前見て!」
青ざめた様子のタオに、ライザが「え?」とふりかえる。
そこには二匹の、それもさっきのヒト型より強そうな魔物が目に入る。
「ま、魔物……!?」
「ーーーくっ!」
「俺が!」とレントが剣を構え、魔物に踏み込む。
「ーーー!?」
ガキィン!!と重く、鈍い音が響く。
そして、瞬きをする間もなく、レントの身体が吹き飛んだ。
「レント!」
「コーリングスター!」
ライザが咄嗟に魔法を放つが、ものともせず魔物は突っ切る。
「そ、そんな……!」
もう一体が、タオに迫る。
……が、そこで魔物たちが、倒れこむライザ、レントに目を向ける。
ーーーいや、正確には、その背後に佇む、杖を突いた男を。