原作八巻特装版イラスト集にあるIF世界線から考えた再構成物です。
総二が生まれた時からソーラだったら、つまり生まれつき女の子だったら。そんな話です。
ほかにIF世界線の設定があります。
ソーラのキャラは実質オリキャラとなりますので不安もありますが、よろしくお願いします。
二〇一七年九月十八日 修正
内容はほとんど変わってませんが、文章の修正を行いました。あとソーラの名前を当てる漢字を変更。
まずい、などということはない。彼女の母が経営する、『喫茶アドレシェンツァ』自慢にして、愛香の好物でもある名物カレーは、今日もいい味を出している。これまた店自慢のコーヒーを飲みながら、愛香は舌
よし、決めたっ、と幼馴染みが呟き、愛香の方に顔をむけた。
「愛香。ツインテール部に入って」
「ん?」
唐突な勧誘に、さっきまでの彼女のようにスプーンを口に咥えたまま、二、三度
「ツインテール部って、学校で言ってたこと本気だったわけ、ソーラ?」
「うん。っていうより、どうせ言っちゃたんなら、いっそのことほんとに作っちゃおうと思って」
呆れながらの愛香の言葉に幼馴染み、ソーラが満面の笑顔で答えた。
「入部条件は、ツインテールの人か、ツインテールの好きな人!」
「ツインテールの男や、ツインテールの好きな男子は?」
「認める!」
「認めるの?」
「愛香。心にツインテールがあるのなら、誰だって
「いや、そんな得意
なにやらドヤ顔で言うソーラに、愛香は軽くため息をついた。
自分で言っておいてなんだが、ツインテールの男ってなんなんだ。さすがにそれは攻めすぎだろう。そもそも『ツインテールの女の子』じゃなくて、『ツインテール』が好きな男ってなんだ。変態か。
そう考えた瞬間、誰かが愛香の名前を呼んだ気がした。聞き覚えのない、しかしなんとなく悲しそうな男の声だった気がした。まあ気のせいだろうが。
それにしても、このツインテール馬鹿にも困ったものだ、と愛香は再びため息をついた。
「入るのは別にかまわないけど、なにする部活なのよ、ツインテール部って?」
「決まってるじゃない。ツインテールを見守り、研究することだよ!」
「いや、わけわかんないんだけど」
「わかるはずだよ。同志である愛香なら!!」
「なんの同志よ!?」
絶対の信頼を滲ませた親友の声に、愛香は叫びを返した。
綺麗というよりは可愛いといった部類だが、充分に美少女と言える容貌で、体格はやや小柄ではあるがなかなかに大きな胸を持っており、活発で元気な女の子である。
ただ、変わった女の子でもあった。
彼女は、愛香がもの心ついたころから今日に至るまで、ある髪型に対して、異様なまでの情熱を示し続けている。
それが、頭の横で髪を左右に結わえたツーテール、あるいはツインテールと呼ばれる髪型だった。
なんでそんなにツインテールが好きなのかと訊けば、ツインテールを好きなことに理由なんているのかな、と不思議そうに返してくるぐらい、ツインテールが好きな娘だ。
当然ながら彼女の髪型はツインテールで、基本的には最もベーシックと言える、中結びにしていた。ほかの結び方にする時もあり、それらも堂に
髪の手入れやバランスのとり方など、理屈はいろいろとつけられるがソーラのツインテールは、綺麗だとしか言いようがないと感じるのだ。ほんとうにツインテールが好きなんだなあ、と納得するしかないものだった。
愛香もまた、ソーラに付き合ってツインテールにしている。ソーラと同じく中結びだ。両親同士が昔からの友だちで、愛香とソーラの付き合いは、それこそ生まれたころからのものになる。それを考えれば、特におかしなことではないだろう。
とはいっても愛香は、結び方を変えるだけでなく、何度かほかの髪型にしたこともあった。そしてそのたびにソーラが、まるでこの世の終わりのような、悲しみを通り越して絶望した表情になるため、いまはもうほかの髪型にするのはあきらめていた。また、適当な手入れをすると、絶望とまでは行かなくても悲しそうな顔をするため、かなり力の入った手入れもしている。おかげで、髪に関しては一家言あると自慢できるぐらいにはなっていた。いろいろと複雑な気持ちではあるが、役には立っているので、まあいいかと思う。
ツインテール馬鹿ではあるが、ソーラは心根の優しい良い子であり、愛香にとって唯一無二の大切な親友である。できることなら、いつも笑顔でいて欲しいと思っている。が、高校生にもなってツインテールか、とは思わなくもない。
もうちょっとしたら、ツインテールのスタイルを変えてみようか。やめるのではなく、そんな考えに至る時点で、自分は自分で手遅れかもしれない、と複雑な気持ちになることもあった。
ソーラに対する周りからの認識は、良い娘だけどちょっと変わった娘、である。ただ、ツインテール馬鹿を隠さずに実践し続けてこともあってか、興味を持ってツインテールにする女子も少なからずいたり、またツインテールはともかくとして、髪の手入れについて訊いてくる女子もいて、そこから仲良くなることもあったりするため、意外と友だちは多い。
愛香自身は、女子の平均程度ではあるがソーラよりやや背が高く、スタイル自体はかなりいいと言えた。だが胸は非常に慎ましいものであり、マッサージやらなにやらで大きくしようと努力はしているが、一向に成果は見えなかった。
まあ、巨乳は巨乳で苦労が多いらしいので、そこまで気にしてはいない。胸を分けて欲しい、とソーラに冗談っぽく言ってみた時があったのだが、大きい娘には大きいなりの苦労があるんだよ、とため息交じりに返された時があったのだ。ままならないものを感じたこともあり、大きくなったら儲けもの程度に愛香は思っている。
愛香も、変り者と言われていても見目麗しい女の子であるソーラも、男子には人気があり、告白を受けたことは何度かあった。愛香は、ソーラを守ってくれる男が現れるまで恋人を作る気が起きないため、すべて断っているが。
ソーラの方は、何度か告白を受け取っている。そして、男の方が三日持たずに別れる。最短記録は、付き合いはじめた初日である。
ソーラの理想は、ツインテールについて熱く語り合える人、あるいは愛香のように許容し、受け入れてくれる人らしく、いろいろな意味でハードルが高いため、それもしょうがないと言えた。
お互いになにかあると最初に相談し、助け合ってきた最高の親友。時に喧嘩することもあったが、そのたびに絆を深めてきた。
そして今日、小、中、高、大学部まで一貫進学可能な超エスカレーター校、陽月学園高等部の入学式に出席した愛香とソーラは、ちょっとしたハプニングこそあったものの入学式、ホームルームとつつがなく終了し、馴染みの店である喫茶『アドレシェンツァ』で遅めの昼食を摂る運びとなった。
そして、なにかを考えながらカレーを食べていたソーラが突然、ツインテール部への勧誘をしてきたのだった。
「あと、もうひとりぐらい部員が欲しいなあ」
ソーラはそう言うと、ちょっと考えこむようにして唸り、やがて顔を上げると、手を胸の前で組んだ。
「神堂会長、入ってくれないかなあ」
「いや、なんでそこで会長?」
熱に浮かされたような声で呟いたソーラに、愛香は戸惑いながら疑問を投げかけた。
ソーラが、なにを言ってるのと言わんばかりに、愛香をはっと見返した。
「だって、あんな高貴で
「あー、はいはい」
適当に返事をして、陽月学園生徒会長こと、
愛香よりやや高めらしき身長と、出るところは出て、引っこむべきところは引っこんでいる見事なプロポーションに、ソーラが言うところの、高貴で麗しいツインテールとやらを思い出す。
「確かにきれいなツインテールだったけど、生徒会もあるんだから、さすがに無理でしょ」
「うっ」
「それに、前から言ってるでしょ。その思いこみ強いところ直しなさいって」
「ううっ」
愛香の言葉に、ソーラがしゅんとした。
いい娘ではあるのだが、ソーラは思いこみが激しいところがあり、特にツインテール絡みのこととなると、しばしば暴走する。あまり口うるさく言うのは避けたいが、だからといって、なにも言わないわけにもいかない。
「とりあえず、二人でも部活の申請はできるみたいだから、いまはあたしとあんただけで我慢しときなさい」
「――――うん」
ソーラがうつむいた。少し言い方がきつかったかしら、と反省しつつ、言葉を続ける。
「それともソーラ、あたしのツインテール、飽きちゃった?」
「っ!」
寂しそうな声音で愛香が言うと、ソーラが勢いよく顔を上げた。
「ない! それは絶対にないよ!? ないからね!? だからやめちゃやだよ!?」
「わ、わかってるわよ、やめたりしないってばっ。ちょっとからかっただけで、――――あっ」
「むっ」
涙目で詰め寄るソーラに思わず口を滑らせると、彼女は頬を膨らませた。
「むー」
「ご、ごめんね」
「うーーーーー」
「わ、悪かったってば」
とにかく謝るが、ソーラは頬を膨らませてジト目で睨んでくる。
もっとも、顔立ちが可愛らしいこともあってか、睨まれてもまったく怖くない。むしろ小動物のような愛らしさがあった。とはいえ、怒らせっぱなしはよくない。
「なんでもするから。ね?」
「じゃあ、あれやって?」
「――――まあ、いいけど」
内心で複雑なものを感じながら身を寄せると、お互いのツインテールの
「えへへー」
ソーラが、一気に機嫌を直した。
「ほんと、あんた、これ好きよね」
「うん。愛香と繋がってるって感じがして、好き」
「やれやれ」
なんてことないように言ってみるが、気恥ずかしいものはあった。幼いころから何度もやっていることではあるのだが、どうにもこの気恥ずかしさは消えない。いや、ずっと小さいころは、ほんとうになんてことないものだったはずなのだが。
こうなると、ソーラが満足するまでこのままになる。恥ずかしさから目を逸らすように、学校であったハプニングを思い出す。
オリエンテーションが終わったあとソーラは、体育館から教室に戻るまで、いや教室に戻ってからも、心ここにあらずといった感じだった。おそらくは、会長のツインテールを見たためだったのだろう。両手を胸の前で組み、恍惚した表情を浮かべるという、感動するとはこういうことだ、とでも言わんばかりの姿だった。
そして自己紹介の時間になり、ソーラは上の空の様子で自己紹介をはじめた。思いっきりツインテール馬鹿を晒して。
どうにか愛香が途中で止めたあと、部活希望のアンケートを書く時間となった。また、やらかした。『ツインテール部』などと書いていた。
集められたアンケート用紙を確認していた担任の教師が、名前を書かずに提出したアンケート用紙を見つけ、誰の書いた物か尋ねると、ソーラが謝りながら手を挙げた。それに書いてあった部活名が、『ツインテール部』だったのだ。
ソーラは、あっ、と声を上げたものの、縮こまるわけでもなく照れ笑いを浮かべた程度で、ツインテールが好きなんですか、という担任からの問いにも堂々と肯定した。
その堂々とした態度のせいか、それともほかの理由かは知らないが、ホームルームが終わったあと女子生徒たちが、ソーラとなぜか愛香の周りに集まった。ツインテールや、髪の手入れについて訊きに、である。かなり綺麗な髪に見えるようだった。
とりあえずソーラの高校デビューは、成功に終わったようだった。多分。
「ふう」
「満足した?」
「うんっ」
「そう。ならいいわ」
満面の笑顔で返され、絡ませたツインテールを解いた。
ちょっと名残惜しい、などと思ってはいない。
愛香にとってソーラは、大切な幼馴染みであり、一番の親友であり、目の離せない危なっかしい娘だ。
周りから誤解されるような、変な関係ではない。
確かに四六時中一緒にいるが、家が隣で、いままでずっと一緒だったのだから、別におかしなことではないだろう。そんなふうに思う。
「あれっ?」
「ん?」
声を上げたソーラに視線をむけると、彼女は店の奥の席を見ていた。
なんだろうと思いながらソーラの視線を追うと、奥の席に人が居た。
「え、嘘っ、気配を感じなかったわよっ?」
見たものが信じられず、愛香は思わずそう言っていた。
ソーラの母が趣味で経営しているこの店は、彼女の気分次第で店を閉めることがなにかとある。いま現在も閉店状態であり、店内には愛香とソーラ以外はいない、はずだった。
それに愛香は、いまは亡き祖父から水影流柔術という武術を伝授されており、人の気配を察知することもできる。少なくとも、この店の中に人が居れば、気づけたはずだ。
奥の席に座っている人は、姿を隠すかのように新聞紙を広げているが、時々こちらを窺うようにチラチラと見ており、かなり怪しい。自然と警戒心が湧いてくる。
さらには、指で新聞紙に穴を空け、その穴からこちらを覗き見てきた。
「ソーラ。放っておきましょ」
「う、うん」
小さく愛香が言うと、ソーラがチラチラと少女の方を見ながら頷いた。
不審者には違いないが、なにもしてこないのならば、どうこうするつもりはない。自分たちに、ソーラになにかするようなら、遠慮なく叩きのめすが。
「あっ」
「っ」
不審者が新聞紙を
店を出るのか、という愛香の考えを否定するかのように、こちらにむかって歩いてくる。愛香は立ち上がると、ソーラを背中に庇うようにして前に出た。ソーラも椅子から降りて、愛香からちょっと下がった位置で少女を見る。
素人ではない、という気がした。格闘技や武術を修めているふうではないが、どこか動きに力がある。素人では、こうはいかないだろうとなんとなく思う。
愛香の二歩ほど前で、少女が止まった。愛香とソーラを交互に見ている。
絶世の美少女と呼んでいい容姿だった。碧眼と、長く綺麗な銀髪からして、まず日本人ではないだろう。
愛香よりやや背が高く、ソーラよりも胸が大きい。服も挑発的と言うべきか、上半身も下半身も露出が多い。胸は谷間を強調し、穿いたスカートは下着が見えかねない短さで、自分の躰への自信を窺わせた。なぜか白衣ともコートともつかぬ物を
少女が、笑顔を浮かべた。
「ツインテール、お好きですか?」
唐突かつ、わけのわからない少女の質問に、愛香は眼を
IF世界線なので、設定集も作りました。後書きで済ませたいところではありますが長いので。話が進んだら更新することもあると思います。