二〇一七年九月十八日 修正
少女からの唐突な質問に眼を
「いきなりなにを」
「大好きです! いいですよね、ツインテール! あの風に
「落ち着け、このツインテール馬鹿娘!」
「ふにゅ!?」
愛香の言葉を遮って少女に詰め寄りつつ、問いに嬉々として答えたうえにツインテールまで
少女の方に顔をむける。警戒を解いたわけではないが、謝っておくべきだろう、と思う。
「ごめんなさい。この子、ツインテールのことになると人が変わっちゃって」
「いえいえ、むしろ頼もしい限りです」
「――――?」
頼もしいとはどういうことか、と愛香は思った。意図の読めない返事に、わずかに眉をひそめた。
ソーラが頭を押さえて立ち上がったところで、少女が再び微笑んだ。
「私は、トゥアールと申します」
「あっ、観束
「愛香よ。津辺愛香」
ソーラが素直に答えたあと、愛香も答えた。ソーラは特に警戒した様子はないが、愛香はさっきよりわずかに警戒を強めていた。なにか、得体の知れないものがある気がした。
トゥアールが、白衣のポケットから赤いブレスレットらしき物を取り出し、ソーラに差し出した。
「では、このブレスレットをつけてください」
「へ?」
「待て待て待て待てえっ!?」
トゥアールの脈絡のない行動に、ソーラは眼をパチクリとさせ、愛香は思わずツッコミを入れていた。
「突然なにを言い出すの、あんた!?」
「お気になさらず」
「わけがわからないって言ってるのよ!」
ソーラをトゥアールから引き剥がしつつ、訊いてみるが、トゥアールは平然としていた。トゥアールがまたもソーラに近づく。
「さ、つけてください」
トゥアールがソーラの手を取って、ブレスレットを渡しつつ言う。なにやら変な色気がある声音だった。
「え、え?」
「返しなさい!」
戸惑うソーラからブレスレットを引ったくり、トゥアールに突き返した。
「なんなのよ、あんた。わけのわからないことを訊いてきたかと思ったら怪しいもの突きつけて、新手の変態!?」
「いえ、決して怪しい者では」
「あんた以上に怪しいやつ、そうそういないわよ!」
まったく説得力のないトゥアールの言葉に、愛香は大声を上げた。
トゥアールが口もとに手をやり、時計を確認した。焦った様子で再びブレスレットを差し出す。
「とにかくですね、時間が無いんです。これをソーラさんにつけていただけなければ、この世界が危険なんです!」
「はあ?」
「え?」
「っていうか、これをつけなければ、世界からツインテールが消えてなくなってしまうんです!!」
「あのねえ」
トゥアールの言葉に頭痛を感じ、愛香は頭を押さえた。
「そんなわけのわからない言葉信じて、そんな怪しいブレスレットつけるやつがどこに」
「つけたよ! これで世界のツインテールが消えずに済むの!?」
「ってこんなわけのわからない言葉信じて、こんな怪しいブレスレットつけてんじゃないわよ、このツインテール大馬鹿娘えええええーーーーーーっ!!」
「ふにゅうーーーーー!?」
いつの間にかブレスレットを受け取って右手首につけていたソーラの脳天に、愛香はさっきより強めのチョップを叩きこんだ。ソーラは再び悲鳴らしきものを上げ、頭を押さえて蹲る。
さっき以上の頭痛を感じ、愛香は頭を押さえながら、大きくため息をついた。
「イイ」
「ん?」
横を見る。トゥアールが、なにやら涎を垂れ流していた。
「イイ、この娘、すっごくイイっ。小動物みたいに愛らしく、元気で純粋っ。もう少しロリっぽかったらもっと良かったけど、これはこれでっ!」
「オイ」
なにか聞き捨てならない言葉を吐くトゥアールを、愛香は鋭く睨みつけた。
トゥアールがゴホンと咳払いし、顔を引き締めた。涎は垂れたままだった。
「よかった。これなら間に合いそうです」
「なにによ!?」
いったいなにに間に合うというのか。何事もなかったかのように喋り出すトゥアールに、愛香は全力で叫んだ。殴り倒したくなったが、ソーラが暴力を好まないため、いまは叫ぶだけになんとか留めておく。これ以上こられたら我慢できそうにないが。
立ち上がったソーラの手を取ると、ブレスレットに手をかけた。
「っ、なによこれっ。びくともしないじゃない!」
力をこめてはずそうとするが、ピクリとも動かない。ブレスレットは、まるでソーラの一部のように、完璧に固定されていた。
「い、痛いよ、愛香っ」
「あ、ご、ごめん」
痛みを訴えられ、慌てて手を放す。
トゥアールにはずさせようとふり向いた瞬間、視界を光が包んだ。
光が収まり、視界がもとに戻ると、焦げ臭さを感じた。視界が拓けていることに気づく。
「ここって」
ソーラとトゥアールの姿を確認し、周囲を見渡したところで、見覚えのある場所であることに気づいた。
「まさか、マクシーム
なんでこんなところに、と愛香は呟いた。地元最大のコンベンションセンターで、愛香も何度か来たことがある場所だ。ただ、ここは、ソーラの家から車で二十分はかかる距離だったはずだ。
時計を確認してみると、時間はほとんど変わっていなかった。
「予想より早い。迎え撃つつもりが、後手に回りましたね」
そう言ったトゥアールに、愛香はソーラとともにむき直った。トゥアールが、頭を下げた。
「申し訳ありません。ですが、説明するよりこの方が早いと思いましたので」
「あんた、あたしたちになにし、っ!?」
「な、なにっ?」
トゥアールに詰問しようとしたところで、轟音が響いた。思わず言葉を止め、ソーラとともに音のした方にふり向く。
車が舞い上がり、落下し、燃え上がる。フィクションにありがちな、だからこそ現実のものとは思えない光景が、視界に入った。
焦げ臭さの原因はあれかと、茫然としながら愛香は思った。
「ソーラさん、あまり私から離れないでください。認識攪乱の効果は、それほど広くありません」
「にんしき、かくらん?」
トゥアールの言葉にソーラの姿を探すと、彼女はいま見ていた方にフラフラと行きかけていた。呼びかけられ、ハッとしたソーラが、愛香のそばに戻ってきた。
「とにかく、私のそばにいるかぎり、見つかることはありません。それより、あれを見てください」
トゥアールが指差した方向に、ソーラとともに顔をむける。
「え、な、なに、あれ?」
「う、嘘、怪物?」
茫然と、声を洩らした。
作り物だと思いたかったが、歩くだけでアスファルトの地面に
怪物が、近くにあった車を片手で吹き飛ばし、口を開いた。
「者ども、集まれい!」
日本語。次から次に起こる出来事に思考が追い付かなくなっていた愛香は、怪物の言葉に、それだけを思った。
ふはははははは、と怪物が高笑いを上げた。
「この世界の生きとし生けるすべてのツインテールを、我らの手中に収めるのだーっ!!」
「――――は?」
「え、ええもごっ」
予想外にもほどがあるヒドイ言葉に、愛香はさっきとは違う意味で茫然とし、ソーラは叫ぼうとしたところで、トゥアールに口を押さえられた。
「大声は駄目です。やつらに気づかれてしまいます」
トゥアールの言葉に、ソーラが二、三度
「ソーラ」
「な、なに、愛香?」
「ツインテールについて熱く語れそうな相手だけど、どう?」
「やだよ!? わたしが
そこが問題なのか。いや、そうじゃない。こんな時になにを訊いているんだ、と愛香は自分の頭を押さえた。だいぶ混乱しているようだ、と頭を振って意識を切り替える。
その後も、怪物のわけのわからない言葉が続く。
戦闘員とでもいうのか、薄気味悪い黒ずくめの連中にむかって、ぬいぐるみを持ったツインテールの幼女を探せだの、持ってなければ持たせるのが男の甲斐性だのと、思わず蹴り抜きたくなる
黒ずくめのひとりが、ツインテールの幼い少女を怪物の前に連れて来た。
「っ!」
「ソーラッ、駄目!」
飛び出そうとしたソーラの腕を、掴んで止める。ソーラがふり返った。
「でも、あの子が!」
「あんたが出ていって、なにができるっていうのよ!?」
「っ」
たとえ薄情と思われようと、親友が自殺行為に及ぼうとするのを見過ごすわけにはいかない。
ソーラは息を呑みながらも、愛香と少女を交互に見た。
「で、でもっ」
「とにかく、いまは様子を見ましょ。どうも取って食おうってわけじゃないみたいだから」
「――――うん」
納得はしていないようだったが、ソーラが頷いた。
怪物は、泣きじゃくる少女を困ったふうにあやしており、危害を加える様子はなかった。しかし、なにかあったら、ソーラは今度こそ飛び出して行くだろう。
ツインテール馬鹿ではあるが、ソーラはほんとうに優しい娘だ。
信じやすくて、騙されやすくて、危なっかしいけど、強くて優しくて温かい。そんな娘だからソーラは愛香にとって最高の親友で、守りたいと思う。
ソーラがなにかに気づいたように、トゥアールに顔をむけた。
「あの、トゥアール、さん」
「トゥアールで結構ですよ、ソーラさん」
「じゃあ、トゥアール。あなたは、これを知っててわたしたちをここに連れて来たんだよね?」
「はい」
「あの怪物って」
喋りながら怪物に視線をむけたところで、ソーラが硬直した。
「会、長っ?」
「っ!?」
愕然として洩らした呟きに、愛香も眼をむける。
視界に入ったのは、黒ずくめたちがひとりの少女を怪物の前に連れていく光景だった。
「ほ、ほんとだっ、あれ、会長じゃない!」
連れられた少女、陽月学園生徒会長、みんなの憧れである神堂慧理那の姿に、愛香も思わず声を上げた。
いるのは本人だけで、慧理那のお付きであるはずのメイドたちの姿は見えない。
なにかを大事そうに抱えているようだが、遠めのため、はっきりとはわからない。子供向け特撮番組の玩具のように見えるが、あの生徒会長が買うものとは思えないし、見間違いだろう。
場違いなことを考えている間に、慧理那が怪物の前に立たされた。
「放しなさい!」
毅然とした態度で、慧理那が凛とした声を上げた。値踏みするように彼女を見ていた怪物が口を開く。
「ほほう、なかなかのツインテール。しかもお嬢様のようだな。幼女ではないのは惜しいが、お嬢様ツインテールに加え、この
もはや平常運転としか言えない怪物の意味不明な言葉に、慧理那は困惑しながらも質問した。何者なのか、言葉がわかるのか、そんなことを問いかけ、さらには捕らえられた人たちの開放を要求する。
怪物が、言葉はわかるが要求は聞けぬ、と返し、なら目的はなにか、と慧理那が問いを重ねた。
いずれわかる、と答えた怪物が、大きなぬいぐるみを慧理那に差し出した。それを半ば強引に慧理那に押し付け、どこからともなく黒ずくめたちが持ってきた、横幅三メートルほどのソファーに座らせた。
幼女でないのは惜しいが、とぬかした怪物は、いまの慧理那の姿、すなわちツインテール、ぬいぐるみ、ソファーにもたれかかる姿、これこそが長年の修行の末に導き出した黄金比だと、撃ち貫きたくなる世迷言をほざいていた。さらには黒ずくめたちが、それに賛同するような、モッケケケーという甲高い鳴き声を上げ、愛香は
ソーラが、トゥアールに顔をむけた。
「とりあえず、あの怪物がツインテールの子を狙ってるのはわかったよ、トゥアール。それで、私はなにをすればいいの。なにかができるから、わたしたちを連れて来たんだよね?」
「詳しい話はあとです。いまは行動しましょう」
真剣な表情のトゥアールの言葉に、ソーラが頷いた。声も足も震えていたが、眼の光は、ハッとするほど強かった。
「それではソーラさん。――――まずは上着を脱いでください。そしてブラウスをはだけて、その白い肌を私の目に」
「なにをほざいてんのよあんたはああああああ!!」
「え、え、え?」
真面目な顔で話し出したと思った次の瞬間、なにやら息を荒らげてとんでもないことを言い出したトゥアールに、愛香は怒鳴り、ソーラは戸惑いの声を洩らした。
「むっ、新たなツインテールの気配っ。どこだ、どこに隠れているーっ!」
なんだ、ツインテールの気配って、と愛香の思考が止まった。
愛香が怒鳴ったことで察知されてしまったのだろうが、それでも思う。なんだ、ツインテールの気配って。
不思議なことに怪物は、物陰に隠れているわけでもない愛香たちに気づく様子もなく、あたりを見回すだけだった。視線がこちらにむけられた時はドキッとしたのだが、そのまま普通にスルーされていた。
さっきトゥアールが言っていた、認識攪乱という言葉を思い出す。店でトゥアールの気配に気づかなかったのも、その認識攪乱とやらのせいだったのかもしれない。
「くっ、いろいろと決意して、さらには慣れないシリアス路線で溜めに溜めたのにっ。出鼻を挫かれるなんて」
「あの人たちを助ける手段があるんでしょっ。もったいぶらないで、早く教えて!」
もったいぶるというかなんというか。先ほどと、店でのトゥアールの言動を思い出し、どんどん彼女に対する嫌な予感が膨れ上がってくる。
「あ、軌道修正できるっ。それではソーラさん、さっきの続きを」
愛香がトゥアールの眼前で拳を寸止めすると、彼女の口がピタッと止まった。
トゥアールが、笑顔を引き攣らせた。
「――――」
「次は、撃ち貫くわよ?」
「なにをですか!?」
愛香が笑顔をむけて告げると、トゥアールが冷や汗を垂らした。
「わ、わかりましたようっ。確かにいまは時間がありません、
「初戦?」
愛香が呟いたが、トゥアールは気にせずソーラに顔をむけた。
「ソーラさん、そのブレスレットで変身してください!」
「変身!?」
「さっきの行動のなにをどう
愛香のツッコミはやはり無視され、トゥアールはブレスレットを、あの怪物たちと闘うための戦闘スーツを形成するデバイスだと説明した。それで変身すれば、怪物たちと互角以上に闘えるだろうとも。
「ちょっと待ってよっ。変身はともかく、なんでソーラが闘わなきゃいけないのよ!? この子は、闘いなんてできる子じゃないわよ!」
「愛香、ありがとう。でもわたし、闘うよ」
「ソーラ!」
「あいつらはツインテールを狙ってるんだから、見過ごせるわけないよ!」
力強く返されたソーラの言葉に、愛香の躰から力が抜けた。
「いや、あのね。ツインテール
「いいえ、それでいいんです。そんなふうにツインテールを愛するソーラさんだからこそ、そのブレスレットを使うことができるんです。取り繕った正義感など、無用というものです」
「ええっと、一応あの人たちを助けたいって思ってるんだけど」
頭痛を覚え、軽くため息をついた。
ツインテールを狙う怪物に、ツインテールを愛するソーラだからこそ闘えるとは、どういうことなのか。
怪物たちの方に眼をやると、動きがあった。
「ソーラ、捕まった人たちが!」
駐車場に並べられていたはずの車はことごとく蹴散らされ、なにかの儀式場を思わせるものとなっていた。その中心には、捕まった少女たちが一列に並べられており、気を失っているのか、それとも催眠術でもかけられているのか、彼女たちは直立したまま動かない。
先頭の少女が、宙に浮いた。浮き上がった少女が、直径三メートルはありそうな、金属製らしき輪っかの中心を
あの輪っかを潜らされると、どうなってしまうのか。
最悪の状況、死を想像してしまい、愛香はとっさにソーラの眼を手で覆い、自分も眼を瞑った。
「――――へ?」
「――――?」
眼を開き、どうなってしまったのか確認し、目の前の光景に声を洩らした。ソーラが訝し気に、眼を覆っていた愛香の手をはずす。
ツインテールがほどかれていた。それだけだった。
少女たちのツインテールが次々とほどかれていき、慧理那の番となり、ツインテールがほどかれた。
なんなんだ、と今日最大の困惑に茫然としていると、ソーラが躰を震わせた。見ると、眼を吊り上げ、わたし怒っています、と言わんばかりの様子だった。
「許せないっ!!」
ソーラが、怒りに満ちた声を上げた。怒りに満ちているはずなのに、微妙に迫力とかを感じないのはなぜなんだろう、と愛香がぼんやり考えていると、トゥアールがソーラの肩に手を置いた。
「落ち着いてください、ソーラさん。まだ大丈夫です」
「ほんとっ。なら教えてっ。どうすればツインテールを助けられるの!?」
「いや、そんな大袈裟な。ツインテールじゃなくなる以外、なんてことないみたいよ」
「大袈裟!?」
ソーラが、怒りに満ちた顔を愛香にむけた。やはり迫力は感じられないがそれはともかく、ソーラが詰め寄ってきた。
「ツインテールが
「ほどけたんなら結び直せばいいだけの話でしょ!? そんなことのためにソーラが闘う必要どこにあるのよ!?」
「いいえ、できません」
声量こそお互いに抑えているが、互いに言い合ったところで、トゥアールの声が割りこんだ。
どういうことか、とトゥアールに二人で顔をむける。
「あれは、ただツインテールがほどけただけではありません。ツインテールを愛する心、さらにはツインテールにしてきた事実も奪われたのです。そして彼女たちのようにツインテール属性を奪われた人たちは、取り戻さない限り、一生ツインテールにすることはできません」
「なにを」
「なにを馬鹿な、と思うかもしれませんが、事実です。それに、いまはツインテールを重点的に集めていますが、侵略が進めばツインテールだけでなく、ほかのさまざまな
「そん、な」
静かに語るトゥアールの顔は、酷く悲しそうに見えた。それだけで、ほんとうのことなのだと、なんとなくわかってしまうほどに。
「だけど、ソーラが」
「愛香、心配してくれて、ありがと。だけど、いまの話を聞いたら、やっぱり闘わなきゃいけないと思うんだ」
ソーラが、微笑みながら言った。決意に満ちたその眼に、愛香はなにかを言おうとして、できなかった。
「ソーラさん。心で強く念じてください。変身したい、と。それでブレスレット、テイルブレスが作動するはずです」
「それだけでいいの?」
「はい」
「うん、わかった!」
ブレスレットをつけた右腕を胸の前に持っていき、ソーラが眼を閉じた。
「ソーラ、っ!」
愛香が呼びかけると同時、ソーラのブレスレットから光が
光が収まり、ソーラは眼を開けた。
「ええっと、ほんとに変身できたの?」
言いながら、ソーラは躰を見下ろした。レオタードのような印象を受けるスーツと、それなりに大きな自分の胸が見えた。
ソーラは、自分の胸があまり好きではない。理由は二つあって、まずひとつは、他人からいやらしい眼で見られるためだ。
ただこれは、自分が我慢すればいいだけなので、そこまで大きな理由ではない。嫌と言えば嫌ではあるが、問題はもうひとつの方だ。
この大きな胸に注目して、ソーラのツインテールを見てくれない人がいるのだ。
一度はツインテールを見るが、そのあとは胸の方を注視する人が多いのが、ソーラは不満だった。
愛香が羨ましい、と思う。愛香は、そのスタイルの良さとツインテールに加え、武術を修めているゆえの洗練された動きが調和され、見事な美しさを魅せる。ソーラも愛香と同じく武術を習っていたが、彼女のように力強く、恰好よくは動けない。
それらも含めてソーラは、愛香に対して一種の憧れのようなものを持っていた。
胸のことも含めて、ソーラはそんなことを愛香に話したことがあったが彼女は、ままならないものねー、と苦笑混じりに返してきたものだった。
だが、自分の胸を嫌っているわけではない。他人が胸に注目するのは、自分のツインテールの磨きが足りないからだとも思っている。
いつか、人がまったく胸に眼をむけないほどのツインテールに至ってみせる。ソーラは、そんなふうに思っている。そのツインテールの房に眼をむけると、髪は炎のような赤色になっていた。自分で言うのもなんだが、綺麗なツインテールだ。
赤と白を基調とした、腕や足を覆い、腰についた機械的な装甲を見て取り、頭に手を持っていく。ツインテールを結んでいたリボンは、やはり硬質感を持ったパーツで結ばれていた。
顔に触ってみると、普通に自分の顔に触れた。近くに残っていた車のミラーに顔を映してみる。普段と変わらないソーラの顔が映っていた。
「トゥアール、これ、大丈夫なの。それに正体バレバレなんじゃ」
「いえ、スーツそのものは、攻防にそこまで重要ではありません。正体に関しては、
「イマジ、えーと、とにかく、大丈夫なんだね」
「はい。そしてそのスーツの名は、テイルギア。装着者の精神で構成された武装です。さらには装着者の身体能力をすさまじく強化します。最初は戸惑うかもしれませんが、意思を強く持ってください」
「意思?」
「はい。自分の動きをイメージしてください。自分の心で作ったのだから、
「その例えはともかく、わかったよ」
「ソーラ」
ふり向くと、愛香が近づいて来た。
「愛香、そのっ」
わたしはみんなのツインテールを守りたいから、と言おうとしたところで、愛香がソーラを抱き締め、お互いのツインテールを優しく絡めさせた。いつもは、ソーラが頼んだ時にしかしてくれないことだった。
「絶対に、無事で帰ってくるのよ?」
「――――うん。約束する」
耳もとで優しくそう言われ、ソーラは笑顔で返した。愛香が、絡ませたツインテールをほどいた。
ほどく時はいつも、少し名残惜しさを感じる。だけど、いまは闘わなければならない時だ。
ソーラは、怪物たちがいる方を見据えた。怖くないと言えば嘘になる。暴力を振るうのも、できることならしたくない。
それでも、闘わなければならないのなら、闘う。トゥアールの話を聞いて、はっきりとそう思った。
ツインテールを奪うあいつらを許すわけにはいかない。
ツインテールを愛しているから、だけではない。ツインテールはソーラにとって、絆だ。
ツインテールで仲良くなった友だちは、人が聞けば驚くほど多い。
なにより、ソーラのために、いまもツインテールにして、磨き続けてくれている最高の親友、愛香。
ツインテールを奪われ、なかったことにされてしまうという、あの怪物たちの残虐極まりない行為は、ソーラの、ソーラたちの絆を否定することだと、そう思ったからだ。
慧理那をはじめとする人たちもそうだろう。
ツインテールを褒めて貰って嬉しかったという人だっていただろう。慧理那に憧れてツインテールをはじめた人もいるかもしれない。
だから、闘う。取り戻す。ソーラの、いや人類の宝、ツインテールを。
「行ってきます!」
絶対に負けない。その決意を胸に抱き、ソーラは怪物たちにむかって走り出した。
百合ってどういうものなんでしょう。こんな感じでいいんでしょうか。
とりあえず、本作のIF世界要素も含め、設定関連は設定集の方で説明しようと考えています。本編が進んで、設定が増えたら、と言うか明らかになったら更新。そんなふうに考えています。