俺、ツインテールになります。IFソーラ   作:シュイダー

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二〇一七年九月十八日 修正
 


3rd 二人の約束

 走り出すと、予想を超えるスピードが出た。

 ソーラは一瞬戸惑ったが、すぐにトゥアールの言葉を思い出し、自らの動きをイメージした。

 これは、自分の躰なのだ。そんなふうに考えると、そのスピードも、普通に感じられるようになった。

 行く手には瓦礫や車の残骸などがあるが、いま下手に跳躍するとどれだけ跳んでしまうのかわからない。思い切ってそのまま突き進む。ぶつかっても痛みなどなく、簡単に蹴り砕いていた。

 怪物の姿がどんどん大きくなるにつれて、アスファルトに横たわる、ツインテールをほどかれた少女たちの姿が増えてくる。

 必ず取り戻してみせます。待っていてください。怒りを覚えるとともに、心の中でそう誓う。

「ううむ。素晴らしいツインテール属性、ではあるが、隊長殿が究極と讃えるほどだろうか?」

 聴力も強化されているのか、怪物の呟きが聞こえた。視線は、ほかの少女たちと同じように横たわる、ツインテールをほどかれた慧理那にむけられていた。

 その呟きの意味はよくわからなかったが、慧理那の姿を見たことで、さらに頭がカッとなった。

「そのツインテール、みんなに返しなさい!!」

「む!?」

 若干の距離を置いたところで立ち止まり、ソーラは声を上げた。闘うとは決めた。それでも、やはりできることなら暴力は振るわずに済ませたい、という思いがあった。

 ふりむいた怪物が、眼を輝かせた。

「なんと見事なツインテールだ。幼女でないのが実に惜しいっ。そうか。貴様が究極のツインテールか!」

「えーと、わたしはまだ、究極なんて言われるほどのものじゃないよ?」

 そんな領域に自分のツインテールがあるのなら、誰もソーラの胸に注目なんてしないだろう。そんなふうに思いながら答えると、怪物が目を見張ったように見えた。

「おおっ。それだけのツインテールでありながら、まだ満足することなく高みを目指しているとは。実に大した娘よ!」

「え、そ、そう?」

「うむっ!」

 なんとなく照れくさくなり、頭を掻きながら言うと、怪物が腕組みして満足そうに頷いた。

 ハッと気づく。

「じゃなくってっ。とにかく、みんなから奪ったツインテールを返して!」

「む、それはできぬ相談だ。悪いが、貴様のツインテールもいただくぞ。戦闘員(アルティロイド)たちよ、かかれい!!」

「っ。やるしか、ないか」

 ため息をつくと、黒ずくめ、戦闘員(アルティロイド)たちを見据え、構えをとった。愛香には遠く及ばないが、ソーラも武術を習っていたのだ。こんなふうに、闘いに使う時が来て欲しくはなかったが。

 先手を取るように、一体の戦闘員(アルティロイド)が飛びかかってきた。

「はあっ!」

「モケーッ!?

 慌てずにむき直ると、気合の声とともにソーラは、正拳突きをその胴体に叩きこんだ。戦闘員(アルティロイド)は悲鳴を上げてふっ飛んでいき、そのままマクシーム宙果(そらはて)の屋上階に激突した。戦闘員(アルティロイド)の躰が放電し、軽い爆発を起こして光の粒子になったのが見えた。視力も強化されているらしい。

「おお、戦闘員(アルティロイド)を一撃で。ツインテールが素晴らしいだけではないっ。その凄まじい力といい、貴様、何者だ!?」

「え?」

 誰何(すいか)の声に、ソーラは思わず目をパチパチとさせた。

『チャンスですよ、ソーラさん。ここはビシッとかっこよく名乗っちゃってください!』

 なにも着けていないはずの耳もとから、トゥアールの声が聞こえた。テイルギアの機能として、通信機能があるらしかった。

 それはともかく、そう言われても、と思う。アドリブはそこまで得意ではないのだ。いきなりそんなことを言われても、パッと出てくるものではない。

「えーと。うーんと」

 腕を組み、頭を右に左に揺らしながら考えこむ。ソーラの、考える時の癖だった。

 さすがに本名を名乗るのはまずいよね。でも、なんて名乗ればいいんだろ。えーと、ツインテールガール。いや、長くって言いづらいし、っていうかまんまだし。

 そんなことを考えていると、怪物が恍惚とした声を洩らした。

「おおおおお――。首を傾げるたびにふわりふわりと靡くツインテールッ。幼女でないのがつくづく惜しい。いやしかし、これは。誰ぞ、彼女に抱かせる人形を持ていっ!」

『モケェー!』

「えっ?」

 ほんとうに、どれだけ幼女が好きなんですか。そう訊きたくなる怪物の言葉に、戦闘員(アルティロイド)たちがぬいぐるみを持ってソーラを取り囲んだ。じわじわと間合いを詰めてくる。

 なんと言うべきか、欲望の闘気とでもいうのか、そんな妙な熱気を感じた。

「うわあああ――」

 気持ち悪い。怪物たちのさまに、そう思わざるを得ない。ツインテールになれないのにツインテールが好きな男というのはみんな、こんな気持ち悪いものなのだろうか。愛香には、ツインテールが好きな男も入部を認めると言ったが、考え直すべきだろうか。

『ソーラさん、頭のリボン型パーツに触れて、武器を考えてくださいっ。あなただけの武器が形成されます!』

「リ、リボンだねっ。わかったよ!」

 怪物たちの熱気に怯えていた心に喝を入れるように元気よく答え、武器を思い描きながらリボンに触れた。

 リボンが光り、噴き出した炎がソーラの右手に集まる。炎が、剣の形をとった。

 『ブレイザーブレイド』。剣の名前なのか、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 剣を構えると、それを待っていたかのように複数の戦闘員(アルティロイド)が飛びかかってきた。

『モケェーー!!』

「とりゃー!」

 剣を振り回し、戦闘員(アルティロイド)を迎撃する。斬るどころか、剣が当たるだけで戦闘員(アルティロイド)はどんどん消滅していくが、恐れを知らないかのように次々と飛びかかってくる。

 一度に広範囲を攻撃できる手段はないのか。そう考えると、剣が炎に包まれた。

 使い方を直感的に理解し、回転しながら剣を振るう。

「セイ、ヤアアアアアーーーーー!!」

『モッケーッ!?』

 刀身に纏っていた炎が剣圧とともに放たれ、それに呑まれた戦闘員(アルティロイド)たちは一体残らず消滅していった。

 戦闘員(アルティロイド)はもう残っていない。残っているのは、蜥蜴(とかげ)の怪人ただひとり。

 息を整えると、怪物にむき直る。怪物は、躰を震わせていた。こわがっているのだろうか。

「釘付けになって動けなかった。剣閃とともに空を美しく舞うツインテール。俺はいま、神話に謳われる楽園に迷いこんだ錯覚を覚えたぞ!」

「さすがにそれは錯覚だよおー!!」

 こわがるどころか、涙まで流して恍惚とした声を上げる怪物に、逆にソーラの方がこわくなった。

 怪物は、ハアハアと息を荒らげ、両手をホラー映画のゾンビのように突き出し、ソーラに迫って来た。

「キャーー!?」

 そのツインテールで俺の頬をペチペチ叩いてくれぬか、とゆっくり迫ってくる怪物の姿に、ソーラは悲鳴を上げて剣を取り落とした。血走った目、荒く濃い息、さらには涎を垂れ流すその姿に足が震え、思わず尻餅をついてしまった。

 怪物はなおも息を荒らげ、さらにソーラに迫って来る。

「ひっ、っ!?」

 尻餅をついたままあとずさると、背中がなにかにぶつかった。硬質的な質感。車。(つか)()を置き、そう認識はするが、頭は冷静に働いてくれない。

 爛々(らんらん)と異様な輝きを見せる怪物の目と、ソーラの目が合った。ソーラの胸をジロジロと見てくる男たちのように下卑たものではないが、異様なまでの欲望に満ちた目に、頭と躰が硬直した。

 怖い。気持ち悪い。誰か、誰か助けて。助けて、愛香っ。

『ソーラ、しっかりしなさい!』

 さっきのトゥアールの声と同じように、愛香の声が聞こえた。ソーラの心の叫びに応えるかのようなタイミングで聞こえたその声に、混乱が収まった。

『なにやってるのよっ。ツインテールを守るんでしょ!?』

「あい」

『――――ごめん。あんただけに闘わせてこんなこと言って。でも、約束守ってよ、ソーラッ』

「っ!」

 辛そうに絞り出された愛香の言葉に、ハッとする。

 そうだ。約束したではないか。絶対に、無事で帰ってくると。

 愛香の制止を振り切り、闘うと決めたのはソーラ自身だというのに、こんな情けないところを見せて、愛香に心配をかけてしまっている。

 自分の頬を叩き、立ち上がった。怪物を見据える。

「む?」

 怪物が、立ち止まった。

 怪物目掛けて駆け出す。駆けたまま、先ほど取り落とした剣を拾い上げた。

「ペチッてしてあげるっ。頬を出しなさい!」

「うおう!?」

 言葉とともに斬りつけると、怪物が身を反らした。ソーラの剣を躱しきれなかった怪物の頬に、火傷(やけど)のような刀傷が刻まれた。

「おのれっ。はあ!」

 怪物の掌から、光線が放たれた。真っ直ぐに放たれた光線は、ソーラの躰に当たる前に消滅した。

 『フォトンアブソーバー』。頭に言葉が浮かび、説明がなされる。簡単に言えば、バリアーらしい。

 フッ、と怪物が笑った。欲望のみが見えたさっきまでとは違う雰囲気に見えた気がした。

「恐るべきやつ。久方ぶりに戦士としての高揚が湧き上がるわ。我が名はアルティメギルの斬り込み隊長、リザドギルディ。少女が人形を抱く姿にこそ男子は心ときめくべき、という信念のもとに闘う者。改めて訊こう、貴様の名は!!」

「わたしは、テイルレッド!!」

 頭に、いや心に浮かんだその名を、ソーラは力強く告げた。テイルギアが、そう伝えてきた気がした。

 力が(みなぎ)ってくる。もう、恐れは無かった。

 怪物、リザドギルディが笑みを深くした。

「しかと聞いた!!」

「いいよ、憶えなくってっ。あなたみたいな変態に憶えられても嬉しくないし!」

「不可思議なことを言う。信念ならば、貴様にも等しく宿っていよう!」

「一緒にしないでよ!」

「そのツインテールを見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)よ。誰よりもツインテールを愛する者でなければ、そこまでの輝きは放てまい!」

「っ、それがわかるんなら、ツインテールを奪ったりしないで、()でなさい!」

相容(あいい)れぬな。我らにとってツインテールとは、手に入れることこそ愛なのだ!」

「――――そっか、わかった。もう迷わない。あなたを(たお)して、ツインテールを守ってみせる!!」

 覚悟を決める。ただ叩き伏せるだけでは、きっと目の前の怪人は止まらない。それが、わかってしまった。

 剣を、改めて構えた。

「ぬううん!」

「っ!」

 リザドギルディが声を上げると、背中についていた無数のヒレが離れ、こちらに飛来してくる。不規則な軌道をとりはするが、反応できないスピードではない。

「てりゃー!」

 剣で弾き飛ばしたりして凌ぐ。ヒレは爆弾のようなものでもあるらしく、地面に落ちたものなどは爆発して、地面に穴を空けていた。爆発範囲自体はそこまで大きなものではなく、倒れている少女たちから距離をとったこともあり、巻きこむことはない。しかし、数が多い。

 ホーミングミサイルのようにレッドにむかって飛んでくるヒレを迎撃しつつ、リザドギルディを見る。リザドギルディの躰とヒレが薄い光の帯で結ばれているが、あれで操っているのだろうか。

 攻撃の間隙をついて、ヒレと躰を繋ぐその光の帯に斬りつけてみる。抵抗はなにもなく、ヒレによる攻撃も、なにも変わった様子がなかった。どうやら本体を叩くしかないようだった。

「トゥアールッ、このリザドギルディって斃しちゃっていいの!? ()られちゃったツインテールはどうなるの!?」

『ふぅ~む、可愛くも凛々しい女の子、これは、のぶっし!?』

 トゥアールの声が、鈍い打撃音とともに中断された。なにがあったの、と思ったところで、愛香の声が聞こえた。

『ソーラッ。奪われたツインテール属性とかいうやつは、一時的にあの輪っかに保管されてるだけだから、そいつは関係ないって。とにかく輪っかを壊せばもとに戻る、だって!」

「わかった!」

 打撃音と、愛香が説明してきたことになんだか嫌な予感を覚えながらも、レッドは素直に頷いた。いま気にしている場合ではない。そう自分に言い聞かせる。

「素晴らしい。今日という日を俺は、未来永劫忘れることはないであろうっ。すまぬが、記念写真を頼む。こう、俺の肩にコテン、と頭を預けてだな、ぬいぐ」

「いい加減にしろーっ!!」

「るみをゴホォッ!?」

 リザドギルディにむかって弾丸のように跳び、こっちは真面目に闘ってるんだ、と怒りに燃える炎の拳をリザドギルディの顔面に叩きこんだ。リザドギルディの鼻から、鼻血がボタボタと垂れる。

 リザドギルディがくぐもった呻き声を洩らし、鼻を押さえた。

「くっ、できれば顔とツインテールは傷つけたくなかったが、やむを得ん。多少の怪我は覚悟せよ!」

「っ!」

 リザドギルディが構えをとった。筋肉が膨れ上がり、否が応でも大技が来ることを知らさせる。

 距離は多少あるものの、周りには捕まっていた人たちがいる。下手をすればその人たちを巻きこんでしまうだろう。先手を打って斃さなければ。

 そう考えると、炎の柱のイメージが頭に浮かんだ。

「オーラピラー!」

 イメージとともに浮かんだ言葉を叫ぶと、剣先で弾けた炎が球となった。剣を振るう。剣先に作られた火球が、リザドギルディに飛んだ。

 火球はリザドギルディの目の前で爆発すると、その躰の周りを螺旋を描くように取り囲み、炎の柱を作り出した。

「む、う、動けぬ!」

 相手の動きを封じ、閉じこめる結界。これが、オーラピラー。

 リザドギルディはもがこうとするが、まったく身動きが取れないようだった。

 なら、もう一度だけ、とレッドは剣を下ろした。

「リザドギルディ。ツインテールをみんなに返して。そうすれば、命までは取らないから」

『っ!?』

「リザドギルディ」

 リザドギルディが目を見開いた。同時に、通信越しに愛香たちが絶句したのを感じた。

 リザドギルディが、ふっと微笑んだ。

「優しき娘よ。だが、甘いぞ、テイルレッド。我らエレメリアンは、貴様ら人類のツインテール属性、属性力(エレメーラ)を喰らわねば生きていけない種族。良い悪いではない。生きていくために、我らはこうしているのだ」

「っ」

「それに俺には、アルティメギルのエレメリアンとしての、そして武人としての誇りがある。情けを掛けられてまで、おめおめと生き永らえようとは思わぬ。俺を斃してツインテールを守ると言ったであろう。さあ、やれ、テイルレッド!」

 アルティメギル。エレメリアン。さっきトゥアールから単語だけ聞いた、ツインテール『属性』や、属性力(エレメーラ)という言葉。わからないことだらけだったが、このリザドギルディが、命惜しさに逃げ帰るようなやつではないということは、嫌でもわかってしまった。

 眼を閉じ、深呼吸をする。二、三度と繰り返すと、レッドは顔を上げ、リザドギルディの眼を見た。

 リザドギルディが、ニヤリと満足そうに笑った。

 剣を振りかぶり、躰の前で改めて構える。

「はああああああ!!」

 レッドの雄叫びに応えるように、手に持った剣が形を変え、炎が噴き上がった。

 『完全開放(ブレイクレリーズ)』。

 その言葉が頭に浮かぶとともに、リザドギルディに突撃する。

「せいやあああああああ!!」

 レッドの斬撃が、炎の結界をすり抜け、リザドギルディの脳天から、縦一文字に通った。

 『グランドブレイザー』。技の名が、レッドの脳裏をよぎった。

「ふ、ふはははははっ、素晴らしい」

 リザドギルディの笑い声が響き渡る。顔を上げ、リザドギルディの顔を見た。満足そうな笑顔だった。

 リザドギルディの全身から、バチバチと放電が走る。まるで、命が漏れているように。いや、まさしくその通りなのだ。そして命を奪ったのは、テイルレッド、ソーラなのだ。

「リザドギルディ。あなたは」

「ツインテールに優しく頬を撫でられて果てる。なんの悔いがあろうか。これぞ男子本懐の極み!!」

「って、ちょっとー!?」

 リザドギルディを包んでいたオーラピラーが、瞬間的に三倍ぐらいの大きさに膨れ上がった。

「男の別れだ。さらば」

 そう言って、リザドギルディが大爆発を起こした。

「最期もまともなこと言ってよおおおーーーっ!」

 レッドが叫んだが、応えるのはどこか間抜けに聞こえる風の音だけだった。直前までなんだか恰好いいことを言っていたのに、断末魔の台詞があれというのは、いくらなんでもあんまりではないだろうか。本人がえらく満足そうだったのが、さらに輪をかけてヒドイ。

「――――」

 はあ、とため息をついた。

 レッドに気を遣ってくれたのだ、と思うことにした。思いっきり本気で言っていたとしか思えなくはあるのだが、そう思っておく。

「真面目に闘ってるのが馬鹿らしくなってくるよぉ」

『ツインテールを守るために闘ってるソーラが言えたことかしら』

 愛香の呆れたような声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。

 そういえば、と辺りを見渡す。リザドギルディの爆発は、戦闘員(アルティロイド)のものとは桁違いの大きさに思えたが、周囲への被害はほとんどなかった。説明によるとオーラピラーの効果らしいが、ひょっとしたら敵の拘束よりも、このためのものなのかもしれない。

 気を取り直して、ツインテールを奪っていた輪っかにむき直り、剣を振り抜く。思った以上に脆かったらしく、輪っかは簡単に断ち切られた。ブレイザーブレイドは役目を終えたかのように炎となって消え、輪っかが粉々になっていく。輪の中にあった光が粒子となり、あたりに飛び散った。

 光が、ツインテールを奪われた少女たちに降り注ぐ。何事もなかったかのように、少女たちがツインテールに戻っていった。

「よかった。あれっ?」

 安堵の息をつき、リザドギルディが爆発した場所になんとなくふり向くと、綺麗な菱形の石があった。近づき、拾い上げる。

 『人形属性(ドール)』という言葉が、頭に浮かんだ。これもテイルギアの機能だろうか。この石はいったいなんなのだろう、と首を傾げた。

「あの」

「えっ?」

 背後からかけられた声に慌ててふり向く。慧理那が、そこにいた。

 (すす)だらけになっても、その高貴で麗しいツインテールは健在であり、彼女のツインテールがどれだけ素晴らしいかを物語っているように思えた。

 慧理那が微笑んだ。

「助けていただいて、ありがとうございます」

「え、ええーと、わ、わたしはたまたま通りがかっただけでして」

「いえ、その。実はわたくし、途中で目を()ましていましたの」

「え」

「とても素敵な闘いぶりでした。わたくしとそう変わらない年頃に見えるのに、勇敢で、強くて、かっこよくって。わたくし、感激しましたわ!」

「あ、ありがとうございます」

 慧理那に褒められるのは嬉しいが、頭はパニック一歩手前ぐらいの状態だった。

「それで、あの、あなたはいったい?」

「そ、その、せ、正義のツインテール戦士です!」

『なにそれ。いや、間違ってないと言えばそうだけど』

 またも愛香の呆れた声が聞こえた気がした。

 まあ、と慧理那が眼を輝かせ、真っ直ぐにレッドを見つめてくる。

「また、お逢いできますか?」

「――――あなたが、ツインテールを愛する限り」

「――――」

 慧理那が、複雑そうな表情を浮かべた。

 とっさに思いついた割にはいい台詞じゃないかな、と内心思った決め台詞だったのだが、その芳しくない反応に、レッドはわずかに首を傾げた。

「ん?」

 派手なエンジン音が聞こえ、そちらに顔をむける。リムジンが猛スピードでこちらにむかって来た。

「おっ、嬢、サ、マあああああ!」

「尊?」

 聞こえてきた声にか、慧理那が呟いた。

 近くで止まったリムジンから、メイドたちが飛び出し、慧理那に駆け寄って来た。注意がこちらから逸れている内に、レッドは素早く走り出すと、物陰に隠れて念のため慧理那たちの様子を窺う。レッドの姿を探したのか、慧理那は一瞬、辺りを見回したが、気を取り直した様子でメイドたちにむき直った。

「ご無事ですか!」

「ええ。テイルレッドという方に助けていただきました」

「テイルレッド、ですか?」

「その話はあとでしましょう。いまは、捕まっていた人たちの介抱を」

「は、はっ!」

『はい!』

 慧理那の凛とした指示に、メイドたちが散っていったのを見て取ると、レッドはその場から離れた。

 

 人目につかないように移動し、愛香とトゥアールの姿を見つけた。

「ソーラッ」

「愛香っ」

 安堵の吐息とともに親友の名前を呼び、駆け出す。

「あ、あれっ?」

 駆け出そうとしたところで変身が解けた。足から力が抜け、ソーラの躰がふらつく。

「ソーラ!」

 駆け寄って来た愛香が、ソーラを抱き留めた。緊張が解け、愛香に身を預ける。

「愛香。約束、守ったよ」

「ええ。ありがと、ソーラ」

「うん」

 ギュッと抱き締められる。なんとなく愛香に甘えたくなった。

「ねー、愛香。ご褒美ちょーだい?」

「――――まったく、もう」

 ソーラの言葉に、愛香は苦笑しながらソーラと自らのツインテールを絡ませた。

 不思議な安らぎが、ソーラの心に満ちていく。

「えへへ」

「ふふふ。これはイイ。下地は充分あると見ました。これなら」

 トゥアールの呟きが聞こえた気がした。なにやら邪悪そうな笑顔に見えた。

 なんだろうと思いながらも、意識がだんだん薄れていく。

「愛香。あと、お願いしていい?」

「ええ、任せなさい。お疲れ様、ソーラ」

「うん」

 返された親友の優しい微笑みに、ソーラは安心して眼を閉じた。

 




 
とりあえず、前書きで書いてある通り、もう一作の方を優先的に書こうと思っています。
 
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