BLUE RESONANCE ーSWORD ART ONLINEー   作:銀コップマン

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もう世に出すぎてありきたりですが、書きたいので出します。


第1節 ようこそ剣の世界

 

 2022年11月4日

 

「いいか。ここはテストに出すからな~」

 

 黒板と自分のノートを交互に見ながら、少年はシャープペンを走らせる。何の変哲もない、午後の授業の一幕だ。みんなが真剣に……というわけではないかもしれないが、とりわけ誰かがうるさくしている訳でもなかった。それがこのクラスの普通で、少年にとっての日常だった。

 

「よしそれと……」

 

 教師の言葉は最後まで紡がれることはなく、チャイムにかき消されてしまった。

 

「次のページだが……いや今日はいい」

 

 チャイムの音を聞き、生徒たちのスイッチが切れたことを察したのだろう。ロスタイムに入りたかった教師も授業を終わらせることを選択した。

 

「号令頼む」

 

 一礼の後に教師が教室を去っていくのを確認すると、途端に生徒たちは騒がしくなった。授業の振り返りをする者、雑談に花を咲かせる者、何気なく席を立って騒ぎ出す者。教室はすぐに、いつもの喧騒を取り戻していく。

 今日の授業はこれで終わり。後はHRで当番が清掃。部活がある者はそれぞれの練習場所に。代わり映えのないルーティーンだ。

 

「そういえば明後日だっけ?」

「らしいね。俺は買えなかったけど」

「あれやったら一生出てこれないだろ」

「廃ゲーマー生成装置だな」

 

 周囲から聞こえてくるのは、とあるゲームの話だ。今や日本中で話題となっているといっても過言ではない。VRMMORPG《ソードアート・オンライン》。その正式サービスが明後日の13時からなのだ。

 

「初期ロット即完売だろ? 倍率高過ぎ」

「それ。しかもナーヴギアとセットで買うととんでもねえ価格するからな。モノ売るってレベルじゃねえよって言いたいけど、まあ妥当だわな」

「……」

 

 そんな生徒たちの興奮した声を聞き流しながら、少年は帰る準備を淡々と進めていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

「じゃあなー!」

「バイバーイ!」

「帰りあそこ寄ってこー」

「だね~」

 

 HRが終わり、部活や帰宅していく生徒達。それは少年も同じだった。鞄を肩にかけ、掃除当番の邪魔にならないよう早急に。廊下にもオレンジの光が差し込んでいる。でもそれには目をくれず、真っ直ぐに昇降口へ向かっていく。

 

「おい、湊!」

「……?」

 

 湊……それが彼の名前だった。どうやら呼び止められたようで、彼は首だけを向けた。

 

「今日陸上は?」

 

 陸上部の練習があるようで、生徒から誘されたようだ。けれど湊は首を横に振る。

 

「今日はいかないよ」

「そっか~、湊が居れば練習も捗るんだけどな」

「俺じゃなくても捗るだろ。それに俺は正式な部員じゃないし」

「けど湊速いじゃん。そのまま正式に入部しろよ~」

 

 どうやら彼は正式な部員ではないようだ。しかし頼りにはされているよう。その様子が少し鬱陶しく感じたのか、彼は小さく息を吐き再び首を横に振った。

 

「何度も言ってるけど、このままでいい」

「なんだよ……もったいない……」

「ありがと。じゃあな」

 

 生徒と別れ、彼は校舎を後にした。イレギュラーが発生してしまったが、今日も一日が終わった。

 

「冷えてきたな……」

 

 靴を履き替えて外に出ると、少し肌寒い空気が体を刺激する。そして誰にも聞かれることのない独り言を口にし、その足で書店へと歩を進めていく。すると道中、同じくらいの年の男子とぶつかってしまった。

 

「おっと……」

「あ、悪い……」

「いや……」

 

 ぶつかった男子は軽く謝罪をすると、そのまま走り去っていってしまった。その際に袋をチラッと見たが、中身はゲーム雑誌だった。恐らく、SAOの特集が組まれているものだろう。彼もゲーマーなのかもしれない。そう思った湊は、少年の走り去っていった方向をジッと見つめていた。

 

「明後日か……」

 

 かく言う湊も、SAOをプレイする予定の1人。もしかしたら先ほどの少年とも、知らず知らずのうちに出会うことがあるかもしれない。まあ、彼にとっては出会ったところでどうでもいいことなのだが。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

2022年11月6日。遂にその日がやってきた。

 

『今日のMMOストリームは~……』

 

 つけっ放しのモニターから、活発なアナウンサーの声が聞こえてくる。けれど少年は目もくれず、雑誌に目を通す。

 量子物理学者で天才的ゲームデザイナーである茅場昌彦の記事。そして茅場と同じくアーガスに務め、東都工業大学電気電子工学科《重村ラボ》時代からの後輩だった苅部音郁の記事。偉大な天才がどのような人物なのか、少しだけでも知っておこうという考えだ。

 

「そろそろか」

 

 あと10分で13時になるといったところ。湊は雑誌を置きつつモニターの電源を落とした。

 静かな部屋の中で黒い金属質のヘルメット状の機械《ナーヴギア》を手に取り、ソフトの挿入とケーブル接続といった前準備を進めていく。そしてすべて終え、ナーヴギアを被って横たわる。後は13時になるまで待つだけだ。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 静かだからか、環境音がやけに耳に入り込んでくる。意識を向ければ、自分の鼓動さえ聞こえる気がした。

 

(俺は……興奮している……のか?)

 

 その気持ちに戸惑いを覚える。まさか自分がここまで興奮……いや、”楽しみ”にしているとは。

 もともと、そこまで興味があったわけではない。ただ、なんとなくで応募したナーヴギアとSAOの抽選販売に当選し、購入できたことがきっかけだった。それから周囲の声に耳を傾ければ、誰もが同じ話題で持ちきりだったと思い知らされる。だから湊も見てみたいと思った。その仮想世界の景色を。

 

 バイザーの内側に表示されていた時刻が13時ちょうどを表示したところで、少年はある言葉を言い放った。

 

「リンクスタート」

 

 途端、虹色の柱が目の前に降り注いでくる。同時に、五感が切り離されていく感覚に襲われる。

 なれない感覚に困惑していると、次に始まったのはキャラクター作成だった。仮想世界での分身となる訳だから、少々こだわっても問題ないだろう。多分、やろうと思えば所謂ネカマもできる筈だ。しかし五感のすべてが接続される世界ではいろいろ慣れない部分も出てくると推測される。異性のロールプレイはどこかの機会に回し、今は男で進めようと湊はアバターを作成していく。

 

(名前は……これでいいか)

 

 《Sorato》と入力。これがSAOでの自分の名前だ。その後も細かい設定を進めOKボタンをタップ。そして数秒後、光に包まれる。

 目を開ければ石畳の地面。手や足を見ると見たことのないブーツやグローブ。胸には簡素なチェストアーマーを身に着けている。

 

「これが……仮想世界……ここがSAO……」

 

 ソラトは一歩踏み出した。

 石畳を踏んだ時の固さ。頬を撫でた風。人の声。すべてが現実と変わらない。

 

「すごいな……」

 

 感嘆の声を漏らしながら、彼は辺りを見回す。周りには自分と同じように彼方此方を見回し、はしゃぐプレイヤーたちの姿があった。

 

「取り敢えず見て回るか」

 

 《浮遊城アインクラッド》の第1層《はじまりの街》にはサービス開始直後ということもあり、数多くのプレイヤーで賑わっていた。

 ソラトはNPCの武器屋や道具屋に行って品揃えを見たりもするが、今の所持金ではすぐに尽きることが分かっていたために購入を断念した。

 

「おーい、そこの兄ちゃーん!」

 

 すると、赤いバンダナを巻いた男が声を掛けて走り出していくのを目撃した。

 

「……恐れを知らずだな……ん、あっちはナンパ……?」

 

 さらに男性プレイヤーが女性プレイヤーへフレンド登録をしようと誘っている場面が目に入ってしまう。ゲームの中とはいえ、やることは現実世界と似てしまうのだなとソラトは苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

《はじまりの街》西フィールド

 

「……っ!」

 

 力を入れて剣を振るってみるが、悲しく空を切るだけ。

 SAOには魔法がない。しかしその代わり《ソードスキル》という必殺技のようなものが用意されているという。早速発動させようと試みるが、どうも上手く発動してくれない。剣の重みには感動を抱きつつ、闇雲に振ってみる。

 

「重要なのは初動なんだぜ!」

 

 すると背後から声を掛けられた。ソラトが振り返ると、そこには4人のプレイヤーの姿が。

 

「初動……?」

「そう。少し溜めを作って、スキルが立ち上がるのを感じたら発動させる」

「そうすれば自動で攻撃が当たるんだよ」

 

 曲刀を持った少年、細剣を持った少女、片手棍を持った少女が順番に教えてくれた。ありがたいにはありがたいのだが、スキルが立ち上がる感覚や初動が大事だとかの説明は、今一つ掴みずらい。

 すると一番背の高い、両手斧を持った少年が前に出てきた。

 

「片手剣か?」

「は、はい」

「じゃあ、右腕を水平に広げて腰を落としてみろ。それで感覚がわかるはずだ」

 

 具体的な体制まで指示してくれたので、その通りにやってみる。

 刀身に光が宿りSEが聞こえると同時に、操り人形かの如く自動的に体が動いてスキルが発動。現実世界ではありえない速度で剣が振り抜かれた。

 

「お、おお……」

 

 スキルが終了しても、剣を握った右腕はピリピリと震えていた。ソードスキルという現実ではまず味わえないであろう感覚に、ソラトは感嘆の声を漏らした。

 

「おうおう良い筋じゃん。因みに、今のは片手剣スキルの基本技《ホリゾンタル》だ。覚えとけよ」

「いやいや、なんでカナタが言うわけ? わかりやすくアドバイスしたのはソウジくんなんだけど?」

「いやいや、でも最初に声かけたのは俺だから!」

 

 細剣使いとカナタと呼ばれた曲刀使いは言い合いを始めるが、ソラトはソウジと呼ばれる両手斧使いに礼をする。

 

「ありがとうございます」

「まあ、困ったらお互い様だろ」

「あなたも今日が初めてなんだよね? なんだかもうものにしてるって感じだね」

 

 一番背の低い片手棍使いの少女は、興味深そうにソラトを見つめていた。

 

「いやでも……まぐれかも……」

「じゃあさ、じゃあさ、まぐれんなんないように俺たちと一緒に練習しようぜ!」

「え、いや……」

 

 カナタの誘いに、ソラトは困惑の表情を浮かべる。見ず知らずの人をこうも簡単に誘えるものなのか。自分との人種の違いに戸惑っているのだ。それに、ソラトはそこまで人付き合いをしたいわけでもなかった。

 

「カナタ、あんたグイグイ行き過ぎだって。彼困ってるよ?」

「え~、だって一緒にやった方が楽しいじゃんよ~」

「私も賛成かな。私たちもまだまだ初心者だし、一緒にやった方が楽しいかもって」

「そこらにしておけ、悪いないきなりズカズカと。決めるのはお前だ」

 

 待ったをかけるのはソウジ。今までの行動から見ても、彼らのリーダー格なのかもしれない。それにこちら側にも配慮してくれている。目元がやや鋭いが、根は優しい人物なのだろう。

 

「……」

 

 今までは、人と深く関わることを避けてきた。親しくなれば、そのぶん別れるときの悲しみも大きくなる。だからこそ、人と距離を置くことを選んだ。人と深く関わることを辞めた。けど、けど今だけは違った。仮想世界に来たからなのか、彼らの雰囲気にあてられたからのなのか。今だけは、断るための言葉が出てこなかった。

 

「そ、それじゃ……一緒にやろうかな」

「よっしゃー!! それじゃよろしくな、俺はカナタ」

「よろしくね。私はユイナっていうんだ」

「ごめんね、でもありがとう。私はミナ」

「俺はソウジだ。よろしくな」

 

 仮想世界に来て早々、ご一緒のお誘いを頂けるとは思わなかった。彼らの好意に甘え、練習を共にさせてもらうことにした。

 

「ソラト。よろしく」

 

 互いの名前を伝え合い、さらにフレンド登録までさせてもらった。

 

「よし、そうと決まったら……動きが馴染むまで狩るとしますか!」

「なんであんたが仕切んのよ~」

「まあまあミナちゃん……」

 

 多分カナタの声は、フィールド中に響いたのではないかというくらい大きかったのを覚えている。

 

 

 

 

 

 この時のソラト達は知らなかった。この先の苦難を。

 そしてこれから知ることになる。この世界の……本当の姿を。

 




各キャラ使用武器

ソラト→片手剣
ソウジ→両手斧
カナタ→曲刀
ミナ→細剣
ユイナ→片手棍
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