BLUE RESONANCE ーSWORD ART ONLINEー 作:銀コップマン
午後12時半、迷宮区最上階突破。
とりあえずここまで安全に突破できたことに、誰もが安堵しているだろう。道中、大規模パーティー特有のアクシデントが起きてしまったが、そこはディアベルの咄嗟の判断で即座に抑えられた。日ごろからリーダーを務めている彼だからこそ出来る采配なのだろう。
そんな気持ちを少しでも抱きながら、ソラトは遂に現れた巨大な二枚扉を見上げていた。石材でできた扉には、獣頭人身の怪物のレリーフが施されている。
「……ソウジ?」
「いよいよだな……」
「……そうだね」
ここからが本番。このボス部屋を突破できなければSAOから解放される日は一生来ないだろう。
「お、あんたの剣、アニールブレードだろ? 結構面倒なクエストやらなきゃ手に入らないって、ガイドブックで読んだぜ」
「え、ああ。そうなんだよ」
相変わらずカナタは他のプレイヤーに話しかけている。ちらりと見たソラトは少年を見て思い出す。カナタが話しかけている片手剣使い、昨日ソラトが数秒言葉を交わした少年だった。
「ソラトもよ、やっぱりあのクエ受けといた方が良かったんじゃないか?」
アニールブレードは入手難度は高いが、その分ダメージ値も高く上の層でも使えるらしい。しかしソラトはそのクエストを受ける気はなかった。
「俺しか片手剣使わない。みんなにクエスト付き合わせるのも……」
彼しか片手剣を使わない状況下で、クエストに突き合わせるのも悪いと感じていたようだ。さらに、アニールブレードを入手できる《森の秘薬》クエはかなり時間もかかるとのことだから余計に。
それに今ソラトが装備している片手剣は《ブレイバーエッジ》と呼ばれるものだ。初期装備の《スモールソード》より強いので文句はない。
「正直、これで十分」
「……でもよ、俺らの武器入手には付き合ってくれたし……そう思うとよ……」
カナタにもそんな感情があるのか、などと非常に失礼な感想が口から出てしまう事を何とか防ぎきる。そのせいで無言となっているソラトの傍ら、ディアベルの声が後ろまで響いてくる。
ゲームとは思えない緊張感を肌で感じつつ、ディアベルは後ろのプレイヤーへ一言。
「オレから言えるのは1つ。……勝とうぜ!」
迷宮区に響くプレイヤーたちの声と共に、重く巨大な扉が開かれた。ここからはもう、後戻りはできない。覚悟を決め、プレイヤーたちは一歩を踏み出した。
「……」
「これがボス部屋……」
「みんな、体制を崩すなよ」
前衛組から恐る恐る足を踏み入れていく。恐ろしくも響く足音から、この部屋は相当な広さであることが伺える。
「……!」
誰かが息を呑む。巨大な二枚の扉が徐々に閉じていくことに気付いたからだ。
「怯むな! ボスが来るぞ!!」
ディアベルの声と同時に部屋がライトアップする。ステンドグラスのような色鮮やかな天井や壁、床に目を奪われる。けれど「あれを見ろ!」という誰かが声に従い、奥の方に目を向ける。向けた方向には大きな玉座が鎮座していた。そこに座るのは巨大な獣人。そのこちらが目を向けるのを待っていたかのように、相手の瞳が鈍く輝いた。途端、武器を持つ皆の手に力が入る。それはソラトも同様だった。
「あ、あれが……」
「ミナ、気をしっかり持て」
「……」
「ソラト君……大丈夫?」
「あ、ああ……」
ユイナの声で目の前の状況に引き戻される。それくらいソラトも目の前の敵に圧巻されていた。
「■■■■■■ッッッ!!!」
途端、それまで微動だにしなかった巨大なシルエットが身軽な動きでプレイヤーの前まで跳躍。空中で一回転し、地響きと共に着地。狼を思わせる咆哮が、ボス部屋全体の空気がぐらりと震わせた。
赤色の肌に青灰色の毛皮を纏った2メートルほどの恐ろしい体躯。爛々と輝く赤い瞳はプレイヤーを逃がさんとばかりに射抜く。左手にはバックラー、右手には斧。そして背には腰の後ろにはタルワール。それが第1層のボスモンスター。獣人の王《イルファング・ザ・コボルドロード》。そしてヤツの周りには《ルインコボルド・センチネル》が召喚された。ここからはもうこちらが死ぬか、あちらが死ぬか……そのどちらかしかない。
「攻撃……開始ぃぃぃ!!」
ディアベルの勇ましい声がプレイヤーの背中を押す。彼がいるから大丈夫だ。そんな安心感にも似た信頼を背に受けながら、プレイヤーたちはコボルド王の咆哮に負けじと叫んだ。
「うおおおお!!」
コボルド王の骨斧が振り抜かれる。タンクの盾が受け止めながらも火花に似たライトエフェクトが散っていく。ヤツを囲むようにA、C隊がのプレイヤーが立ち、その後ろに控えるようにB隊が立つ。容赦なく、そして荒々しい攻撃が幾度とな繰り出される。
「A隊C隊、スイッチ! 来るぞ、B隊ブロック!!」
B隊に所属するプレイヤーは、コボルドロードから放たれる強力な斧攻撃をソードスキルでブロックする。一歩間違えば大事故に繋がりかねないが、ディアベルの正確な指揮が彼らを導く。
「C隊ガードしつつスイッチの準備……今だ! 後退しつつ側面を突く用意」
C隊の盾持ちがコボルド王の斧を受け止めると同時に側面に走りこんでくる者たちが。攻略会議でキバオウに嚙みついたツバサと彼の友人であるカズマだった。ツバサは踏み込みつつ槍を突き出した。ソードスキル《スイフト・ランジ》だ。さらにカズマも攻撃の合間を縫って片手剣ソードスキル《スラント》を命中させている。
「次!」
2人と入れ替わるように、プレイヤーが前へと出る。今のところ、こちらのHP管理は順調だ。誰かのHPがイエローに入った瞬間に、誰かがカバー。その間にポーションで回復。安定した動きでボスのHPを削っていく。その動きに誰もがこう思っていたに違いな。
────頼む、こののまま行かせてくれ、と。
「D、E、F隊……センチネルを近付けるな!」
ディアベルは目の前のボスだけでなく、後方でセンチネルのタゲを取り続けるこちら側にも指示を飛ばしてくる。広い視野を持ち合わせた、的確な指示だった。
「「了解!」」
ソウジの声が誰かとシンクロする。しかし気にしている余裕はない。重要なのは目の前のセンチネルだ。
「スイッチ用意!」
両手斧の長い柄で迫る片手斧の攻撃をブロック。筋力に振ったステータスのお陰で、軽々とセンチネルを後退させた。
「……!」
踏み込んだ瞬間、斧が光を帯びる。切っ先が地面スレスレを走り、肉厚の刃がセンチネルの鎧へ食い込んだ。両手斧の単発技ソードスキル《ボルケーノ》。武器の特性を活かし、相手を打ち上げる技だ。
「カナタ!」
「おっしゃー!」
打ち上げたセンチネルとソウジの間に入り込んだカナタの曲刀が輝く。刃を突き出すと同時に急加速。オレンジの軌跡が一直線に描かれ、センチネルを両断した。曲刀カテゴリのソードスキル《リーバー》。HPを全て削り切り、センチネルはポリゴンの欠片となって飛び散った。
「よし!」
「油断するな。次来るぞ!」
ソウジの言葉通り、すぐさまリポップするセンチネル。そこへ2人と入れ替わるように、ユイナ、ミナ、ソラトが走り込んでいく。
「ミナちゃん!!」
ユイナが左腕の盾で攻撃を防ぎつつ、側面からセンチネルへ片手棍を叩きこんだ。吹き飛んでいくセンチネルに反撃の隙を与えぬよう、ミナの細剣が鋭い光を放つ。
「はぁぁぁぁ!」
細剣ソードスキル《リニアー》が身体を貫く。しかしブーストが足りなかったのか、倒しきるには至れない。
「やば……」
「任せろ」
走り込んでいくのはソラト。だが普通に走るだけでは間に合わない。そう判断した彼は、剣を担ぐ様な姿勢をとった。刀身が輝き、センチネルとの距離を一瞬にして詰めていく。
「これで……!」
単発下段突進技《レイジスパイク》がセンチネルを捉え、完全なポリゴンの欠片へと変えた。
「ソラト、ありがとう!」
「ま、まあ……」
ミナからの感謝に、ソラトは少しぎこちなく答えた。
「おいおい! そういうのは後にしろって!」
「"そういうの"ってなに……よ!!」
次に放たれた《リニアー》はHPを綺麗に全損させた。カナタに対する当たりの強さが、そのまま威力をブーストされたのだろう。
「ええ!? 怖っ!」
「ナイスだよミナちゃん!」
ユイナの《パワー・ストライク》がコボルドを打ち飛ばし、爆散させて粉々に砕く。
「……!」
ソラトも負けてられないと、センチネルに狙いを定めて駆け抜ける。その時───
「あっ!?」
センチネルが片手斧を投擲してきた。時々現れるイレギュラーな行動パターンだ。予想外の一撃で、こちらの体制を崩しにかかる。
ソラトは間一髪でブロックしたものの、その衝撃で後ろに倒れ込んでしまった。嬉々として迫ってくるセンチネル。
(まずい……!)
「……ッ!」
その時、彼の後方から鋭いひと突きが繰り出された。
「……え?」
それは鎧姿の槍使い。クレナの一撃だった。彼女の持つ両手槍は長いリーチを活かし、中距離から相手に比較的安全に攻撃できる。しかしその長さ故に、至近距離では取り回しづらいという欠点があった。片手槍ならその限りではないが、威力が劣ってしまう。
だが目の前の槍使いは、その長さを一切感じさせないほど巧みに扱い、センチネルへ正確な攻撃を叩きこんでいた。
「すげ……」
「槍をあんなに器用に使うなんて……」
カナタとミナは目の前の槍使いに言葉を失う。
「ぼーっとすんな。来るぞ」
ソウジの一声に、2人は向き直る。ユイナの《パワー・ストライク》からソウジの《スマッシュ》がセンチネルを爆散させていた。
「あ、ありがと……」
ソラトは助けてくれたクレナへ感謝を伝える。けれど槍使いは無言で手を差し伸べてきた。それが答え、という事なのだろう。
「次はあんなヘマはしない。……!」
ソラトが立ち上がると同時にセンチネルが湧く。それを確認し、すぐさま走っていく。先ほどのようなイレギュラーを警戒しつつ、その懐へ入り込む。
「スイッチ行くぞ!」
ソードスキル《ホリゾンタル》で、センチネルの長斧を横から弾き飛ばす。センチネルはノックバックし、ソラトととの間にクレハが入り込む。
「……!」
迷いのない動きで滑り込み、槍の穂先を低く構える。ノックバックしたセンチネルが体勢を立て直すより早く、クレハの足が床を蹴った。
「ッ!!」
ソードスキル《ツイン・スラスト》が一直線に突き出され、センチネルの胸部装甲を貫く。衝撃でセンチネルは後方へ吹き飛んでいく。そして金属が砕ける音。光の粒子が弾け、センチネルは崩れ落ちた。クレハは槍を軽く回して構えを解いた。
「……グッジョブ」
ソラトは小さくもその働きに小さく囁いた。彼がそんなことを言うとは少々意外だったのか、しばし固まっている様子だった。それに気付いたソラトも少し照れながら顔を背ける。柄ではなかったのだろう。それが少し可笑しかったのか、クレナはアーメットの下で微笑んだ。
◆◇◆◇◆
「これで……!」
鈍い衝撃音が幾つか響き、大げさな衝撃エフェクトがコボルドロードを中心に走る。4段あったHPバーは、既にレッドゾーンに達している。警戒すべきは、タルワールに持ち変えて攻撃パターンが変わることだ。だが、ディアベルの的確な指示により、このまま犠牲者を出さずに戦闘を終えられるだろう。
「■■■■ッッ……」
低い唸りの後、骨斧を投げ捨てる。その行動が合図だった。
「情報通りやな」
キバオウの一言に皆が頷く。そしてコボルド王は腰から新たな武具を引き抜かんとしている。
「あとはオレがやる!」
途端、ディアベルがプレイヤーを押しのけて前衛に出た。急にどうしたのかと誰もが困惑したが、ディアベルへの信頼から前を譲る。
「C隊ボスを取り囲め!」
指示を出しつつ、ディアベルはコボルドロードへ立ち向かっていく。
────しかし、そのディアベルの突貫をあざ笑うかのように、コボルドロードは武具を引き抜いた。
「あれ……タルワールか?」
その時、ソウジが呟いた。それに釣られ、ソラトもボスの方へ視線を向ける。
タルワール。インドなどの南アジアで見られる大きく曲がった細身の片刃刀のことだ。近しい武器をNPCの武器屋で見かけたことがあるが、コボルド王が今持っているのような武器の形ではなかった。その瞬間、ソラトの背を何か冷たいものが撫でているような感覚が支配した。さらに同時に、胸を侵食する謎の騒めきも。
「だ……ダメだ、下がれ!! 範囲攻撃が来るぞ!!」
誰かが叫んだ。でも時は既に遅かった。ディアベルはソードスキルを発動し、システムアシストに従ってコボルドロードに斬りかかっていたのだから。
「うおおおーっ! ふっ!」
ディアベルの縦切りをジャンプで回避したコボルド王。いや違う。その跳躍こそがスキル発動のモーションだったのだ。真っ赤な鮮血のように光る刀身が頭上から振り下ろされる。迸ったライトエフェクトが全方位に展開される。その鈍い光はまるで血柱のようにも見えた。カタナ専用の重範囲ソードスキル《旋車》。
もろに攻撃をくらったC隊のHPゲージが一気にイエローゾーンまで減っていく。範囲攻撃で一撃で半分以上のHPを奪うその威力も驚くことながら、厄介なのはそれだけではなかった。
「う、動けない……」
倒れこんだプレイヤーの頭に、おぼろな黄色い光が取り巻いている。SAOのバッドステータスのひとつ、《スタン状態》 であった。カバーに動こうとするのが一般のゲームだが、SAOは一般のゲームではなくなっている。この状況下、ボスの予想外の動きに動けるものは1人としていなかった。綿密に動きを決めていたこと、そしてリーダーたるディアベルが一撃で打ち倒されてしまった衝撃が、彼らを支配していたからだ。
それが絶好の機会だと、無防備の羊を屠るかの如く、コボルドロードは地面を蹴り上げる。追撃を止めようとエギルたち数人が走り出したが、時は既に遅かった。再度赤く光る刃の餌食になったのは、正面に倒れているディアベルだった。
「■■■■ッ!」
王は吠え、両手で握ったカタナ……野太刀を切り上げる。金属鎧で身を包んでいるディアベルの体が、軽々と宙へ浮き上がる。しかし動きは止まらない。目にも止まらぬ左右の連撃。そして一拍溜めての突きが、ディアベルを後方の柱まで吹き飛ばした。ソードスキル《浮舟》からの《緋扇》のコンボであった。
「「「「……!?」」」」
ディアベルの断末魔にレイドパーティーは言葉を失う。彼が柱からずるずると崩れ落ちていくのを、誰もが無力感に苛まれながら見つめるしかなかった。
誰もが動けない中、鞘を背に掛けたプレイヤーが1人、ディアベルの元に向かっていた。回復ポーションを飲ませようとしたが、ディアベルは飲まなかった。代わりに彼へ何かを言い残し、その体を青いガラスの欠片へと変えて四散してしまった。
「「「「「「うわああああああああ」」」」」」
叫び……あるいは悲鳴にも似た声がボス部屋を満たした。
己の武器に縋る様に握り、目を見開いている。動けないのは何もスタンの影響だけではない。リーダーが真っ先に倒れる……否、死ぬという想定外の事態を目の当たりにしたのだから。誰しもがそうも簡単に対処ができる筈がなかった。
「そ、そんな……!」
「う、嘘だろ……」
「ディアベルさん……」
ミナ、カナタ、ユイナも先の状況に動揺している。ソウジだって冷静そうに見えるが、その腕が震えていることが見てわかる。
しかしソラトも同様だった。人が死ぬ。この世界では欠片となって四散することだ。先ほどから何度も見てきたセンチネルと同じ光景だ。でも、この世界でプレイヤーが死ぬことの意味を知っている。故にソラトも目を見開き、浅い呼吸を繰り返しているのだ。
「はあ……はあ……はあ……」
だがアクシデントはこれだけでは終わらなかった。リポップしたコボルドセンチネルの数が3体から6体になっていたのだ。
「馬鹿な。3匹までのはずだ!」
「話が違う!」
またしてもイレギュラーが起きていた。センチネルの一体が、スタン状態のプレイヤーを睨む。無抵抗のプレイヤーへ、そのまま飛び掛からんとセンチネルが足に力を入れた瞬間───
「うあああっ!」
「「「「「……っ!?」」」」」
叫びと共にソラトは駆け出していた。衝動的で、冷静さを欠いたその行動にパーティーメンバーは困惑していた。今まで見せていた彼とは全く違う姿だったからだ。
「……ッ!!」
《レイジスパイク》でセンチネルの攻撃をブロック。倒れこむセンチネルを睨みながら、その群れの中へと突貫する。それは無謀だった。今の彼の力では、群れの攻撃をさばき切ることはできないだろう。それは彼自身もわかっていた。けど、それでも向かっていくのは、死への恐怖故だ。自分ではなく、誰かの死ぬ姿をガラスの欠片になって散る姿を見たくないからだろ。
「ソラト、何やってんだ死ぬぞ!」
「……くっ!」
攻撃を剣で受け止めている最中、背中を鋭い痛みが走る。がら空きの背中を狙われたのだ。けど避けようにも、目の前のセンチネルをどうにかしなければ。
「くそ……まずい……」
無我夢中で飛び込んだことを後悔し始めた矢先、側面から鋭い2撃がセンチネルを粉砕した。
「ク、クレナ……」
鎧姿の槍使い。クレナのソードスキルだった。無言で佇むクレナを向かい合った瞬間、2人はほぼ同時に武器を突き出した。
「……」
「……」
ソラトの背後に迫っていたセンチネルをクレナが、クレナの背後に迫っていたセンチネルをソラトが、それぞれ突き技で倒したのだ。
だが2人の視界の先にはまだまだセンチネルが残っている。ここをどう突破するか、ソラトは思考を巡らせていると、力強い足音が聞こえてくきた。
「ワイらもやるで!」
「こっちにも来やがれ!」
ソラトとクレナの間へ入り込むようにして、キバオウたちがセンチネルと交戦。先ほどの恐怖をどうにか押し殺し、再び剣をとったのだ。
「ソラト!」
遅れてきたソウジたちと合流する。
「なにしてんだよ、らしくねえ」
「大丈夫? はい、これ」
「ごめん。でも、もう大丈夫」
動揺していた3人も、どうにか調子を取り戻したようだ。ソラトはユイナからポーションを受け取り飲み干した。イエローのHPがグリーンに戻っていく。
けれど状況は悪いままだ。増えたセンチネルを相手にし続ければ、いずれこちらが先に倒れる。しかも、ボスはまだ健在だ。
「雑魚を抑える組と、ボスを攻める組に分かれろ! センチネルを倒し続けてもきりがない。元を断つぞ!」
おろらくエギルの声だろう。その声に同意したのか、それとも元からそのつもりだったのか、片手剣を持った少年と細剣をもったフードローブの人物は走り抜けていく。それを防がんとセンチネルが回り込んでくる。
「この……!」
少年は剣を振り上げる。が、その一撃は放たれることはなかった。
「はっ!」
「……っ!」
ソラトとクレナが放ったソードスキルが道を切り開いたからだ。
「……助かる!」
「……ありがとう!」
コボルドロードへ向かっていく2人を守る様に、ソラトとクレハは並び立つ。ソラトは一瞬だけ、ディアベルが消えた場所を見た。胸の奥に残る恐怖は消えていない。それでも、これ以上誰かが欠片となって散るのを見たくなかった。剣を握った手の力に一層力を籠める。
「手順はさっきと一緒だ」
「……」
槍使いは頷く。そしてソラトとクレナは、迫るセンチネルを迎え撃った。2人は互いの死角を補いながら、一体、また一体と攻撃をいなしていく。クレナと一緒に戦うとき、ソラトが動きを合わせているのだが、隣の槍使いの動きはソラトにとって非常に戦いやすいものであった。知り合って1日。でも一緒に戦うのは今日が初めてだ。だというのに、これまでも一緒にやってきたのかと思わせるほどの一体感。思考もなにもかも共有しているような不思議な感覚がソラトを支配している。
「……!」
槍が勢いよくセンチネルを押し退ける。それがスイッチの合図だとソラトはわかっていた。滑り込むように槍使いとの間に入り込み、ソードスキル《スラント》を放つ。斜めに走った切り口から光がこぼれ、センチネルは一拍遅れて四散した。その瞬間、取り巻きのリズムが明らかに乱れた。
「ソラト、クレナ! こっちは抑える。ボスへ行け!」
センチネルを挟んだ向こう側から、ソウジの声が鋭く飛ぶ。フォーメーションが崩壊しているも同然だが、緊急時だ。前線でコボルドロードを相手していたプレイヤーたちの回復も追いつていない。
「すまない。頼む!」
エギルの声と共に他のプレイたーも頷いてくれた。
「行け、ソラト!」
「こっちは任せて!」
「……死なないでよ!」
カナタ、ユイナ、ミナもこちらに目を向けている。信頼故の送り出しに、ソラトも覚悟を決める。
「……行こう」
隣にいるクレナも同意し、ボスへと走っていく。未だ相手をしている2人に加勢するために。