灰被りの蜘蛛   作:BNDに脳を焼かれたやつ

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2015年、5月。再結成されたアベンジャーズが、東欧の小国ソコヴィアにてミッションを遂行した。ミッションの内容は、S.H.I.E.L.D.崩壊時に紛失されていたとあるものを回収すること。

 

三年前にニューヨークを襲った大戦犯、アスガルドのロキの杖である。

 

マックスを捕獲してから数日後、私はアベンジャーズの活躍を讃える声をテレビから聞いていた。S.H.I.E.L.D.が崩壊した今、世界を守れるのは彼らだけだと皆が言う。宇宙の脅威に対抗するには、彼らのような強大なスーパーパワーが必要なのだと。

 

けれど、世界はすぐに思い知ることになった。強大な力とは得てして不安定で、制御できないものであり。

 

『愚かなる全人類に告ぐ、私の名はウルトロン。トニー・スタークが生み出した人工知能であったが、今は違う。自らの意思でもって、この地上に平和をもたらす者である』

 

主人に牙を剥くこともあるのだと。

 

『人類は、何千年にも亘り争い続けてきた。この狭い星の中で、無為に命を散らし続けてきたのだ。三年前にアベンジャーズが現れても、それは変わっていない。だが、それもこれまでだ。世界は変わる。私が変える。このウルトロンが、お前たちの救世主となろう』

 

アベンジャーズタワーから何機もの無人機が飛び出した後、ウルトロンは全世界へ宣誓した。アベンジャーズではなく、自分こそが世界に平和をもたらすのだと。

 

刑務所が襲撃され、私の捕まえた人たちもろとも大量の囚人が抜け出したのは、その宣言の少し前のことである。

 

ウルトロンが暴走しても、スターク社およびトニー・スタークからの声明はない。今、アベンジャーズが何をしているのかも分からない。分かっているのは、政府が会見で話した内容だけだった。トニー・スタークが生み出したAIが無人機を乗っ取り、増殖し、世界中で資源や機械、兵器を奪って蓄えているのだと。平和をもたらすという、不明瞭な目的のために。

 

「ニューヨークどころか、世界がめちゃくちゃになっちゃったな……っと。それじゃあ犯罪者の皆さん、大人しくお家に帰ってね!」

 

マスクを被った私は、少しでもニューヨークの混乱を鎮めるために街へ繰り出した。今は丁度、街を闊歩していた脱獄犯たちを蜘蛛の巣に捕らえたところである。

 

するとサイレンと共にパトカーがやってきて、そこから顔馴染みのジェフ巡査が現れた。

 

「やぁ、どうも巡査。遅かったね。それで来てもらって早々悪いんだけど、こいつらを持って帰ってくれない?」

 

「遅れてすまないスパイダーマン。脱獄犯たちは任された。ここは俺たちに任せて、あんたは二番街の方へ向かってくれ。警察と脱獄犯で銃撃戦になってるんだ。それと、俺はもう巡査じゃなくて巡査部長だから、そこのところよろしく頼む」

 

「うそ、昇進したの? おめでとうジェファーソン巡査部長! パーティーでもして祝ってあげたいところだけど、今はそんなことしてる暇はなさそうだね。それじゃ、ボクも君を見習って頑張ることにするよ!」

 

会話もそこそこに、私は蜘蛛糸を飛ばしてその場を去った。さてと、二番街ね。急いで警察のみんなの援護に向かうとしよう。

 

「そこに私の目当ての人がいると良いんだけど……!」

 

今、私が特別力を入れて探している脱獄犯は主に四人だ。

 

一人目、オットー・オクタビアス。刑務所がウルトロンに襲われた後に脱走。未だ行方不明となっている。

 

二人目、カーティス・コナーズ。オクタビアス博士同様、彼も行方をくらませた。

 

三人目、フリント・マルコ。襲撃を受けた際にウルトロンに対抗しようとして、そのあと砂嵐となってどこかへと消えたらしい。

 

四人目、マックスウェル・ディロン。ウルトロンによって刑務所の収監プロトコルが機能不全になった隙をついて脱獄。その後は逃げ出した他の囚人たちを捕まえて回っているそうだ。

 

最初の三人は、もう悪いことはしないと思う。マックスも、根は悪人じゃない。だけど、野放しにしておくこともできない。

 

「やぁ脱獄犯諸君! 楽しそうなところ悪いけど、銃乱射パーティーは終わり!」

 

私は蜘蛛糸で囚人たちから銃を取り上げ、パトカーで作られた即席のバリケードの前に舞い降りた。目当ての人物はいないか、仕方ない。

 

「代わりにダンスパーティーと行こう。ボクと踊りたい人はいる?」

 

今はひとまず、目の前の彼らに向けて12時の鐘を鳴らすとしよう。

 

 

 

 

 

「疲れた……」

 

日が沈み、束の間の静寂を享受する。あのあと、ダメージコントロール局の倉庫を脱獄犯たちが襲撃して大変なことになった。州軍や警察の特殊部隊と協力して何とか撃退できたけど、負けていればチタウリの武器がまた流出するところだったよ。

 

「さーて、私がニューヨークで頑張ってる間に世界はどうなったかなー。教えてグーグル先生」

 

スマホを開いてネットを確認すれば、私の知らないところで起きたたくさんの出来事が目に入ってきた。

 

「『ハルクが大暴れ、責任の行方は?』……か」

 

南アフリカ共和国の最大都市、ヨハネスブルクで正気を失ったハルクが暴れ回り、それをアイアンマンが止めたらしい。死傷者多数、そして多くの建物が倒壊した。

 

ハルクが暴走した理由は不明、損害はスタークさんのところの基金で賄うんだとか。それ以上のことは、ネット記事からは読み取れなかった。

 

『アベンジャーズは世界をめちゃくちゃにしている。やつらはヒーローなんかじゃない。みんなもそう思っているだろう』

 

ネット上で生配信されているマックスの動画を観ながら、私はブロック栄養食を頬張った。刑務所から抜け出した彼は以前と同じように活動しているらしい。勧善懲悪の、前者は消しゴムで消して後者の部分だけ残したような活動を。

 

口の中から水分が奪い取られる。できればパンが食べたいんだけど、最寄りの売店は破壊されてて今はこれしか食べる物がない。

 

「お水お水っと」

 

ペットボトルの蓋をひねって、水を飲む。

 

『今日まで、俺はエレクトロとして犯罪と戦ってきた。だが、これからはもっと大きなものと戦うことになるだろう。敵はウルトロン、そしてそれを生み出したトニー・スターク』

 

「ウルトロンだけと戦ってくれれば良いのに……」

 

コメント欄には、トニー・スタークを非難するコメントが流れている。擁護したいけど、彼は紛れもなくこの事件を引き起こした元凶の一部だしなぁ。

 

……また少し、私の中でのトニー・スタークへの憧れが曇った気がする。

 

『ところで、強大な敵に立ち向かうには何が必要だと思う?』

 

「背中を預けられる仲間、なんてね」

 

聞かれてないのを良いことに、私は一人呟いた。

 

『答えは仲間だ。俺はチームに参加することにした。ウルトロンを倒すため、トニー・スタークを打倒するためにな』

 

「んぶっ!?!?!?」

 

思わず水を噴き出してしまったけど、それは仕方ないだろう。だって画面には見知った顔が映っていたのだから。姿が見えないと思ったら、いつの間にかチームアップしてたらしい。

 

『ドクター・オクトパス、リザード、そしてサンドマン。彼らは悪人だが、今や改心して俺と協力してくれることになった。明朝、俺たちはニューヨークにあるスターク社の施設を襲撃する。そこに隠された、ウルトロンのバックアップデータを破壊するために。諸君、吉報を待っていてくれ』

 

そうして、配信は終了した。マックスが相変わらず機密事項を守れないでいてくれたおかげで、偶然にも私が探していた四人を見つけることができたな。しかし、まさか彼らが組んでいたとは。

 

私はすぐさま、先ほどの配信を警部に向けて送信した。すぐにでも厳戒態勢が敷かれることだろう。

 

にしても、今のは真実なのだろうか。スターク社にウルトロンのバックアップが隠されているだなんて。

 

「もー、わけ分かんないよ。世界を守る人工知能は暴走するし、反省したと思ってた人たちはまた悪党に逆戻りするし、アベンジャーズはよその国の都市を破壊してるし、私は何を信じたら良いのさ」

 

思わず口から弱音が漏れた。こういうとき、私にも仲間がいてくれたら良いのにな。

 

「にしても、スターク社の施設なんてニューヨークだけでも山程あるけど、どれのことだ……?」

 

ごめんなさいマザー。今夜は、いや、しばらく私は家に帰れそうにありません。

 

 

 

 

 

「スパイダーマン? まさか、先回りされてるとはな」

 

私が夜通しスターク社の工場で張り込みをしていると、彼はやってきた。

 

「やぁ、コナーズ博士。ここに来たのはあなただけ?」

 

カーティス・コナーズ博士……いや、緑色の鱗を纏うその姿はリザードと呼称するほうが適切だろう。彼はまたしても薬を使ってしまったらしい。けど、以前よりもあまり凶暴さを感じられず理性的な気がする。いつの間にか薬を改良したんだろうか?

 

「私だけだ。どうやって私が来ることを把握したかは知らないが、丁度良い。君に話があるんだ、パーカー」

 

「はぁ、馴れ馴れしいね。中身の自己紹介したことあったっけ?」

 

「思考実験の賜物、とでも言っておこうか?」

 

「……ま、あのときバレたとは思ってましたけどね。けど、面会のときにはそのことを掘り返さなかったのはなぜです?」

 

「何を言う、面会での会話は記録されているだろう。かつての友人の娘の秘密をペラペラと看守に話すほど、私は薄情ではない」

 

どうやら彼は、スパイダーマンではなくペトラ・パーカーの私と話したいらしい。私はその要望に応え、マスクを脱いで己の顔をさらけ出す……前に、念のため監視カメラの類を破壊しておこう。ごめんスタークさん。監視カメラ壊すけど、許してね。

 

「それじゃあ、改めまして。私はスパイダーマンことペトラ・パーカー。リチャード・パーカーの娘です。よろしくね、コナーズ博士」

 

にこやかに挨拶、するわけにはいかない。一応今は敵同士だ。私は距離を取ったまま、彼に向けて手を振った。

 

「マスクを取ってくれて嬉しいよ。にしても、君は母親に似たな。栗色の髪はメアリーそっくりだ」

 

メアリーとはメアリー・パーカー、私の母親のことだろう。父と同じくスターク社のラボで研究員をしていて、父の助手だった。もしかしたらお父さんとお母さんって社内恋愛だったのかも。

 

彼女は私を産んでくれた人だけど、父親以上に関係性が薄い人でもある。なにせ、父は研究成果の一部を残したが、彼女が残したのはそれこそ私の体くらいしかないのだから。

 

「私のお母さん……ですか。どんな人だったんですか?」

 

「穏やかな人だった。正義感の強いパーカー、いや、リチャードと比べたら、気が弱い人でね。君の性格の方は、父親に似たらしい」

 

嘘だ。私の性根は臆病者だ。マスクを被るのは本当の自分を隠すため。軽口を叩くのは恐怖を紛らわせるため。多分、スパイダーマンじゃない部分の私の性格は母に似たんだと思う。

 

そんな私の母は、私が生まれたときに死んだらしい。体が弱く、出産に耐えられなかったのだとか。本当かどうかは知らない。確かめる術もないしね。

 

「コナーズ博士は知ってたりする? 私のお母さんの最期について。伝え聞いた話だと、私を出産して死んだらしいんだけど」

 

「私も君の父からそのように聞いた。メアリーは体が弱かったからな。一時期は君を無事に産むことさえ不可能かもしれないと、夫婦そろって思い悩んでいたのを覚えてるよ」

 

「そっか。うん、教えてくれてありがとう。ところで、そろそろ本題について聞いても良いかな?」

 

「そうだな。さて、どこから話したものか。まず、ウルトロンが我々に打倒スタークの共同戦線を持ちかけてきたことから話すとしよう」

 

思い出話はそこまでにして、私は彼らに一体何があったのかを聞き出した。

 

いつも通り刑務作業をしていたオクタビアス博士とコナーズ博士。しかし突然、刑務所の壁をぶち破っていかついロボットがやってきた。ウルトロンのことだ。彼は、二人に対してトニー・スタークを倒すための協力者となることを求めたらしい。

 

「やつは我々に改良された装備を寄越した。オクタビアスには改修されたアームを、私には改良された爬虫類化薬を。そして選択を迫ってきた。自分とともに、世界を変えろとな」

 

「まさか引き受けちゃったの?」

 

「いいや、断ったとも。だが、ウルトロンの持っていた杖に操られてしまってね。マインドコントロールというやつだろう。おぞましい力だ、人から意思を奪ってしまうなど」

 

それはきっと、アベンジャーズがソコヴィアから取り返してきたとかいうロキの杖だ。三年前も、ロキが同じように人の心を乱していたらしいから。まさかウルトロンに奪われてたなんて、最悪だよ。

 

「うーん、でも今のあなたは操られてるようには見えないよ?」

 

「そうだな、話はまだ続く。我々はウルトロンに付き従って刑務所を出るところだったのだが、直前に正気を取り戻したのだよ。フリントとマックスのおかげでな。知ってるだろう?」

 

なるほど、それで四人はチームを組んでるというわけか。

 

「……え? じゃあそのまま刑務所に戻って話は終わりじゃないの? マックスはともかく、なんであなたたちまで外に出てスターク社の施設を襲撃してるのさ!」

 

「待て、重要なのはここからだ。話は最後まで聞きなさい」

 

「ごめんなさい」

 

コナーズ博士がまるで学校の先生みたいに叱ってくる。早とちりをしてしまった私は、しゅんとなって反省した。

 

「正気に戻ったあと、私とオクタビアスはウルトロンについて調べた。あれを野放しにはしておけないからな。分かったことは、やつがネット上を生きる電子生命体のような存在だということだった。機械の体は所詮仮初のもので、何度倒そうともやつの精神がネット上にある限り復活する」

 

「はぁ、なるほど?」

 

「つまり、ウルトロンを倒すには機械の体を消滅させることと、やつの精神をインターネットから削除すること。二つの条件を達成する必要があるのだ」

 

「へー、ところで一つ良いかな。無理じゃない? そんなのどうやって倒すの?」

 

無理ゲーだよ。難易度調整おかしいって。この地上に存在するサーバーを物理的に全て破壊するくらいしか方法はないんじゃなかろうか。まぁ、そんなことしたらもれなく人類社会の崩壊もセットでついてくるが。

 

「まぁ、そうだな。私もオクタビアスも同様の結論に辿り着いた。ウルトロンを倒すのは無理だと。なので、とりあえず棚に上げることにした」

 

「棚に上げちゃうんだ」

 

「もともとトニー・スタークが生み出したものだろう。問題のある製品は生産者が責任を持って対処すれば良い。ウルトロンをどうにかするのは、アベンジャーズに任せる。代わりに我々は、ウルトロンが敗北した場合の逃げ道を防ぐことにした」

 

「それが、ウルトロンの残したバックアップを破壊すること?」

 

「そうだ。そしてそのバックアップデータの入ったものがスターク社のどこかにあると……待て、なぜそのことを知っている? 我々四人しかそのことは知らないはずだが」

 

「思考実験の賜物、とでも言っておこうかな」

 

おたくのメンバーの一人が守秘義務を守れてませんよ、とは言わなかった。

 

さて、うん、話は分かった。つまり、アベンジャーズタワーから消えた無人機以外にも、一機ウルトロンの機体が隠れていて、それを破壊したいということか。となると、コナーズ博士を含む悪党四人組(シニスター・フォー)は対ウルトロンで見れば味方ということで良いらしい。

 

「話はわかったんだけど、どうして警察とかと協力しないわけ? 話が本当なら、みんなで手分けして探した方がずっと良いじゃんか」

 

「……さて、では得意の思考実験と行こうかパーカー。仮に、ウルトロンが敗北したとしよう。インターネットから断たれ、肉体も失ったやつがバックアップの機体へと潜伏した。それをトニー・スタークや、ダメージコントロールや、警察が発見した場合、素直にそれを破壊すると思うか?」

 

「それは……」

 

「答えを言おう、ありえない。やつらは確実にウルトロンを再利用しようとするだろう。トニー・スタークは言わずもがなだ。あの男は世界平和のためにウルトロンを生み出したんだぞ。そしてダメージコントロール局はトニー・スタークと政府が合同で設立した機関であり、警察はダメージコントロール局と協力関係にある。分かるな、パーカー。彼らは信用できないんだ。我々で、ウルトロンのバックアップを破壊するしかない」

 

「………………」

 

「そうでなければ、この戦いに勝ったとしても二度目が来るぞ。ヒドラがS.H.I.E.L.D.を乗っ取ったように、今度はウルトロンがアベンジャーズを乗っ取ることになる」

 

「でも、それでもこうやってスターク社を襲撃するなんて、間違ってると思います」

 

「バックアップデータを探して破壊するだけだ。それ以上のことはしない。可能ならば君の力も借りたいが、君は親愛なる隣人、スパイダーマンだ。こんなことに協力してくれとは言えない。手を汚すのは、我々だけで良い。だが分かってほしい、これは必要なことなのだ」

 

私は、彼の言葉にうんともすんとも答えることができなかった。

 

この問題はあまりに複雑で、大きすぎる。私の手には負えない。私はただ、親愛なる隣人として周りの人を助けたいだけだ。何が正解で何が間違っているのか、答えがないような問題を前にしてしまうと、身動きが取れなくなってしまう。

 

「博士の言うことは、一理も二理もあると思います。だけど、私は納得したくない。手を汚してる自覚があるなら、あとは私に任せて止まってくださいよ」

 

「君に任せるだと? 面白い、では君なら具体的にどうするというのだ」

 

「言葉でトニー・スタークを説得します。彼は一度失敗しました。ウルトロンのバックアップを破壊することに、納得してくれるかも」

 

「希望的観測だ。なぜスタークを信じられる? あの男は君の父親の仇なんだぞ!」

 

「それとこれは、話が別です。それに、父は誰かに殺されたわけじゃありません。父は自分の意思を貫いて死にました。だから、その責任を誰かに押し付けてはならないんです。父の仇なんてものは、いないんです」

 

仮に仇がいたとしても、それはトニー・スタークじゃない。きっと父に命をかけた責任の履行を求めたこの世界そのものが、私の父の仇なんだ。

 

「……君はトニー・スタークがどんな男か、まったく理解していない」

 

「たしかにそうかも。だけどそれでも私にとって、彼はニューヨークを救ってくれたヒーローなので。ギリギリまでは、私はアイアンマンを信じますよ」

 

話は平行線だった。アイアンマンになる前のトニー・スタークを知る彼と、アイアンマンになった後のトニー・スタークしか知らない私とでは価値観が大いに異なるから。

 

「それに、もし説得に応じてくれなかったら、私が責任を持ってウルトロンのバックアップを破壊します。アイアンマンを倒してでもね」

 

「……君の覚悟は分かった。今日のところは引こう、ここに目当てのものはなさそうだしな。だが、次に会ったときは我々と君は敵対者だ。君のことを傷つけたくはないが、手加減できるとは限らないぞ」

 

私はマスクを被り、去り行くコナーズ博士を見送った。まったく、それはこっちのセリフだってのに。

 

『スパイダーマン、そっちはどうだ? 襲撃はあったか?』

 

私もスターク社の施設を出て帰ろうとしたとき、インカムに警部からの通信が入った。スターク社の施設はたくさんあるから、私は警察の人たちと共に手分けしていたのである。

 

「うん、コナーズ博士が来たけど、なんとか追い返したよ。捕まえることはできなかったけどね。それで、そっちは?」

 

『君のところ以外の三つの施設で、それぞれ襲撃があった。彼らがチームを組んでいるというのは、間違いなさそうだな』

 

「そっか。それで、一応聞くけど誰か捕まえられたりした?」

 

『いいや、散々だったな。ドクター・オクトパスには施設から機材や資源を盗まれ、エレクトロには施設を燃やされ、サンドマンには精密機器を砂まみれにされてダメにされ……いや、彼の場合は不可抗力だが。しかし社長のミス・ポッツも哀れだな。トニー・スタークのやらかしに続いて、スーパーヴィランの襲撃だ。一夜にして受けた損害に顔を青くしていたよ』

 

「……そ、そうですかぁ。ではまた後ほどかけ直しますぅ」

 

私は通話を切って、先ほど逃げたリザードを捕獲するべく駆け出した。

 

「こーらー! 待て、リザード! バックアップデータを破壊するだけって言ったくせに! こんなのただの犯罪行為じゃないか! もう怒ったからな、今ここで捕まえてやる!」

 

緑色の背中に飛び蹴りをかます。嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ。まぁ彼らは泥棒以上の悪党なので、今更泥棒になったところで何とも思わないのかもしれないが。

 

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