灰被りの蜘蛛   作:BNDに脳を焼かれたやつ

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それから数日間、私はスターク社の施設を守るために警察と一緒に這いずり回っていた。

 

「オクタビアス博士、悪いことはやめて帰ってきてください! もっと別の道があるはずです!」

 

「……スパイダーマン、それは無理だ。一度スタークを信じようとした私が愚かだった。だから今度は止まらん。やつの基盤はすべて破壊する。そうしなければならないんだ。スタークや、私のような知恵ある愚者の愚かさのツケを払うのは、いつだって君のような善良な人間なのだから」

 

「博士……!」

 

スターク社で改造された新型のアームを装備したドクター・オクトパスと戦い。

 

「マックス、良い加減火遊びはやめて大人しく刑務所に戻ってくれないかな! だいたいなんでやたらめったら燃やすのさ、放火は重罪なんだぞ!」

 

「来たな、偽善者め。トニー・スタークは軍事産業から撤退したと嘯くが、結局やつの作ったものは兵器そのものだろう。ここにあるものから、ウルトロンは作られた。だから燃やす、当然のことだ」

 

「でもここ日用雑貨の工場だよ!? 君って包丁まで兵器としてカウントするわけ!?」

 

スターク社のすべてを燃やそうとするエレクトロと戦い。

 

「スパイダーマン、お前とは戦いたくない。ここは引いてくれ。でなければ」

 

「でなければ、何?」

 

「……仕方ない、俺が引こう」

 

「うーん、君がチームの中の唯一の良心だよ。大人しく投降してボクたちの側につくつもりはない?」

 

「悪いが、それは無理だ。君は信用できても、他の組織は信用できない。政府も、警察も、アベンジャーズも、トニー・スタークもな。この街には娘が暮らしてるんだ、できることなら、娘の未来に不安は残したくない」

 

スターク社の施設を砂まみれにしてしまうサンドマンと戦った。

 

誰か、誰かシフトを代わってほしい。明らかなオーバーワークだよ。労働基準法違反だよぅ。

 

「残業代を要求したい」

 

「……基金に振り込んでおく」

 

「わーい、うれしいなー」

 

悪党たちが身を隠した小休止期間。私は例の如く居心地の悪い、警察署内の管制室で横になっていた。

 

「本来なら、君に戦う義務も責任もない。後のことは我々に任せて、休んでくれても構わないんだぞ」

 

「で、そうやって悪党たちが自由勝手にやる様を見てろって言うの? ボクを心配してくれるのは結構だけど、それって無責任な言葉じゃない?」

 

「……すまない」

 

「……ごめん警部、ボクの方こそ嫌味だった。みんな頑張ってるんだし、当たっちゃダメだよね。はぁ」

 

私はため息をついて、視線を管制室の中央へと視線を移した。まさに頑張ってる人の代表、スターク・インダストリーズ社の最高経営責任者のペッパー・ポッツ社長が、もうなんか気の毒なくらい顔を青ざめさせながらも仕事をしている。いや青ざめるってのは比喩で、私には灰色の顔しか見えないんだけどさ。

 

「誰かあの人を休ませてあげないの?」

 

「休ませようとしたぞ、先ほど私が君にしたようにな」

 

「断られたってわけね。まぁ、ボクもあの人と同じ立場なら同じようにしただろうし、気持ちは分かるけどさ」

 

ペッパー・ポッツ。元トニー・スタークの秘書で、ひょんなことからスターク社の社長に任命された。それからトニー・スタークのやらかすことに振り回されながらもスターク社を牽引してきた凄い人だ。一言で言えば、不憫な人。

 

……仕方ない、私が言ってきてやろう。

 

「そう、ええ、従業員の安全確認は絶対よ。それとハッピーに資料や資材を運ばせておいて。シェルターの中にね。トニーのスーツ? それは彼が勝手に何とかするでしょう。放置で結構よ」

 

「どうも、ポッツ社長」

 

忙しなく電話越しに会話している彼女の肩を叩く。

 

「……ごめんなさい、後で掛け直すわ。スパイダーマン、私に何か用かしら」

 

「もう三時間も通話し続けてるから、心配になって。それに顔色も悪いです。大丈夫ですか?」

 

「そんなに経っていたのね、ありがとう。でもまだまだやることがあるか、ら……」

 

私が話しかけたことで集中が途切れたのか、ポッツ社長は糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。私は慌てて彼女の体を支える。

 

「やっぱ疲れてるじゃないですか。もう休みましょう。ずっと働いてたら、次は倒れるだけじゃ済みませんよ」

 

「ごめんなさい、でも休めないわ。会社ともトニーとも無関係なあなたが頑張ってくれているのに……」

 

なんと、彼女が無理をするのは私のせいであったらしい。これは失敗だ。

 

「それじゃあ、一緒に休憩しましょう。あなたが倒れたら最悪。私が倒れても最悪。両方倒れたらもっと最悪です。ね?」

 

「……そうね、そうさせてもらうわ」

 

「なら良かった。コーヒー飲みます? そこの自販機で買えるカップのやつで良ければですけど」

 

「お願いできるかしら」

 

「お任せあれ」

 

私は自販機でコーヒーを買う。カフェインがダメな私はコーヒーを飲めないから、ココアにでもしておこう。

 

それから二人で椅子に座って、ほっと一息ついた。

 

「ねぇ、本当にトニーを呼ばなくて良かったの? 今からでも、彼に助けて貰った方が」

 

飲み終わったカップを捨てると、ポッツ社長が話しかけてくる。

 

「スタークさんは今もウルトロンと戦ってます。余計なことに気を煩わせる必要はありませんから。むしろ隠しておいてくれると助かります」

 

「分かったわ。もっとも、隠しておく必要もないくらい、今のトニーには余裕がなさそうだけれども」

 

ウルトロン、彼がどんなことをしでかすのかは知らないが、大量の無人機を従え、世界中から資材を集めているあたり、碌なことではないだろう。勘違いしてはならないが、今最も優先すべきなのは世界の危機であるウルトロンであり、ニューヨークの危機である私の敵四人組ではないのだ。

 

アベンジャーズは私が戦っている間も活動している。最近だと韓国に行っていたらしい。トラックの上で戦うキャプテン・アメリカの画像がSNSに出回っていた。早く決着がつくと良いんだけど。

 

「ボクらは、ボクらで頑張りましょう。ニューヨークの平和くらい自分たちで守らないと、アベンジャーズが安心して世界の平和を守れないでしょ?」

 

 

 

 

 

明朝、アベンジャーズがニューヨークを去った。彼らはウルトロンとの決戦のためにソコヴィアへと向かったらしい。

 

そしてその隙をついて、私の敵は動き出した。家に盗みに入るなら、主人がいない間に。悪党四人組はもぬけの殻になったアベンジャーズタワーに対し、襲撃を仕掛けてきたのである。

 

「さぁ、どうしたドクターズ! 君ら一人のときとそんなに強さ変わってないけど、連携とか学ばなかったの?」

 

私はアベンジャーズタワーの壁に立ち、ドクター・オクトパスとリザードの相手をしていた。

 

「コナーズ、もう少し合わせてくれ。君のせいで私のアームが絡まって仕方ない」

 

「そのアームで私の鱗をもれなく剥がさなくなってから言ってもらえるか。再生はするが、痛みはそのままなんだぞ」

 

「こらこら、喧嘩しないの! ほーら、悪い子たちにはお仕置きだよ!」

 

言い争っている二人にパンチを食らわせる。手応えはあったが、彼らは落下することなく持ちこたえた。

 

「ぐっ……スパイダーマン。そこをどいてくれ。タワー中を調べられるのは、アベンジャーズが留守にしている間しかないのだ!」

 

切羽詰まったようにリザードが叫んだ。だが首を縦に振るわけにはいかない。

 

「だーかーらー! それなら彼らに事情を話せば良いってだけじゃん! こんな強盗みたいな真似する必要ないってば!」

 

「その彼らが信用できないと言っているんだ! とりわけトニー・スタークはな! 一体誰のせいでこうなってると思っている!」

 

やっぱり話は平行線だった。言葉を交わしてる間にも、拳が止まることはない。

 

「まずい、警察のみんながやられちゃったか……!」

 

時間をかけ過ぎたのだろう。私たちの周囲を囲うように砂嵐が吹き荒び、雷が舞った。警察の防衛線を突破されてしまったらしい。

 

「これで四対一だ。どうするスパイダーマン?」

 

と、不敵に笑うドクター・オクトパス。

 

「対話なんて必要ない、そいつをさっさとぶちのめしてしまえば良いだろう」

 

「だめだマックス、スパイダーマンを傷つけるのはナシだって決めただろう。ところで、俺は壁に張り付くことも宙に浮かぶこともできないんだが、話し合うなら上でしないか? 砂嵐のままでいるのは疲れるんだよ」

 

「そのまま風に乗っとけ、フリント」

 

エレクトロからは電撃が迸り、サンドマンは砂嵐となって私の体を打ち付ける。

 

「話をしよう、と言っても止まることはないんだよね? はぁ、分かったよ。仕方ないから、四人まとめて相手してあげる!」

 

壁に立ったままファイティングポーズを取る。そのまま私と悪党四人組とのアンフェアマッチが始まった。

 

蜘蛛糸を飛ばし、リザードとドック・オクに蹴りを入れる。サンドマンの拳を盾にエレクトロの電撃を防ぐ。そのまま砂の拳を蜘蛛糸でタワーの壁に張り付け、エレクトロのお腹にキックをかました。

 

人数不利は致命的だ、フレンドリーファイアとヒットアンドアウェイを狙って、なるべく一対一になるように心がける。

 

それから私はアベンジャーズタワーの周りで大立ち回りを披露したが、残念ながら彼らを捕まえるまでには至らなかった。

 

時間稼ぎはできる、だけどそれでは解決しない。かといってこちらから仕掛ければカウンターを受ける。そんな膠着状態。

 

「ぜぇ、はぁ、そろそろ、諦めたりしてくれないかな? ボクとしては、このままアベンジャーズが帰ってくるまで耐久しても、ふぅ、全然構わないけどね?」

 

息も絶え絶え、私は虚勢を張った。

 

「……仕方ない。助っ人を呼ぶとしよう」

 

「へぇ、まだメンバーがいるの? 誰々、教えて?」

 

アームで体を支え、壁の上に立ち上がったオクタビアス博士が手を鳴らす。するとどこからともなく黒い糸が飛んできて、私の体を捕まえた。

 

「あいつ、ブラック・スパイダーマンか?」と言うマックスの声。「違うらしい。自称だがな」と言うコナーズ博士の声。「見ないうちにでかくなったな……」とフリントの声を聞きながら、私は壁に叩きつけられた。

 

「……エディ、久しぶりだね。一応聞くよ、どうして戻ってきたの?」

 

そこにいたのは、前よりも体格は大きくなっているけれど、変わらず黒いスーツをまとった彼の姿だった。

 

「……アメリカに戻ってくる前は、俺は南アフリカにいた。カメラマンの仕事をしてたんだよ。社会の実態をカメラに収めるためにな。そして、見たんだ。アベンジャーズが街を破壊する様を。彼らが南アフリカ政府に話を通していたと思うか? 極秘ミッション、字面はカッコいいよな。けど現実はこうだ。民衆は誰も、すぐ隣でヒーローが戦ってるなんて知らなかった。そして巻き込まれた。何十人もだ。まだ、物心つかない子どもだっていたんだぞ!」

 

マスクの下のエディの顔は病んでいた。疲れた顔だ。ニューヨークを離れてから、彼は多くのものを見たのだろう。心が傷つけられるような出来事をたくさん。

 

「だから俺は戻ってきたんだ。このニューヨークに。アベンジャーズが救えない人たちを救うために」

 

「……そっか。私の味方はしてくれないの?」

 

「ここで君と彼らが戦う必要はないだろ。ペトラ、ここは彼らに任せろ。でないと、より多くを巻き込む戦いになる」

 

「それで? 君たちがアベンジャーズタワーを破壊するのを黙って見てろってこと?」

 

「たとえタワーが破壊されたとしても、また直せるだろう。だが失った命は戻ってこないんだよ」

 

「たしかにタワーは直せるかもね。けど、家を失って傷ついた住人たちの心はどうなるの? ヒーローだって人間だ。あなたはそれを知ってるでしょう?」

 

「……分かった、妥協案だ。俺が彼らを見張る、タワーは破壊させない。なんなら君も一緒に見張ってくれて良い。確実にウルトロンのバックアップを破壊したら、それで終わりにする。それじゃダメか……?」

 

私はマスク越しにエディの目を見た。それから、私の方を見る四人の目も。

 

だけど、私の答えは決まってる。私は最初から理屈で動いてなんてないんだ。ただ、自分の心のままに、自分の体が動くままに、助けたいものを助けているだけ。

 

「誰しもが、過ちを犯す。だから、私は失敗だけを見てアベンジャーズを見捨てたりしない」

 

世論は反アベンジャーズに傾いている。この10日に満たない一連の事件を受けて、政府も市民もマスコミも、アベンジャーズが世界の敵だと疑っている。だけど、私はそうは思わない。

 

「私はただ、彼らの家を守りたいんだ。三年前、彼らが街を守ってくれたように」

 

彼らはヒーローだ。その証拠に、今もウルトロンを倒すために戦っている。それなのに帰ってきたら家が荒らされているなんて、そんなのあんまりじゃないか。

 

「それが、親愛なる隣人(スパイダーマン)ってもんでしょ?」

 

さぁ、コングを鳴らそうか。第二ラウンドの始まりだよ。

 

……なーんて、カッコつけてはみたけれど。五対一で勝てるはずもなく、私はやっぱり負けた。言い訳しようがないくらいにボコボコに。心なしか手加減してもらったので、そんなに痛みはない。ただちょっと、体が動かないだけだ。

 

「……スパイダーマン。一人で勝てると思っていたのか、こちらは五人だというのに」

 

オクタビアス博士のアームに抱かれ、彼から憐れみの表情を向けられる。

 

「負けると分かっていても、ヒーローには戦わなければならないときがある……ってね」

 

そうして私は、気を失った。どうか目を覚ましたとき、このタワーが無事でありますようにと祈りながら。

 

 

 

 

 

「俺はスパイダーマンの様子を見てる。あんたたちはウルトロンのバックアップを探してくれ」

 

エディがペトラの体をソファーに横たわらせる。彼の表情は沈んでいた。彼女と戦ったことを悔やんでいるせいか、それとも世界を回って知った苦悩故か。

 

エディに促され、他四人はエレベーターに乗った。このタワーにあると思われる、ウルトロンのバックアップを探すために。

 

エレベーターが動く間、誰も口を開かない。オクタビアスとコナーズは別としても、彼ら四人の繋がりは薄い。共通点は凡人を超える力を持ち、アベンジャーズを信用せず、世界のためを思って行動していることくらい。

 

「なぁ、お前ら手加減してただろ」

 

不意に、マックスが口を開いた。彼がこの空気の中で言葉を発したのは、彼の頭の中で現在進行形で行われている生配信についた『何か話しかけてみて』というコメントが原因である。

 

マックスは生涯軽んじられてきた。社会でも、会社でも。だから彼は自らの価値を証明するために、その行動の全てを記録し、人々に晒している。彼の見る景色は全世界で共有されているのだ。

 

そんな彼の頭の中の生配信には、とあるルールがあった。すなわち、安価は絶対。

 

「どうなんだ、真面目に戦ってたのは俺だけか?」

 

責めるような口調だが、他三人はそのことを気に留めることなく答えた。それが事実だったから。

 

「スパイダーマンには借りがある。私も、コナーズもな」

 

「本当は戦うはずじゃなかった。我々がもっと早く、やるべきことを済ませられていれば良かったのだが」

 

「……俺もスパイダーマンを傷つけるのはごめんだ。彼(かの)……彼は娘の恩人だからな」

 

オクタビアス、コナーズ、フリントの三者三様の答え。だが皆が一様に言うのは、スパイダーマンが好きだということだ。

 

「あいつは偽善者だろ」

 

「……偽善者なんかじゃない。スパイダーマンは、俺たちみたいなやつだって助けてくれるだろ。あんたにもその覚えがあるんじゃないのか、マックス」

 

フリントは、かつて炎の中まで自分を助けにきてくれた少女のことを思い出していた。彼がここにいるのは、きっとあの瞬間のことを目に焼き付けているからだ。自分も善きことがしたいと思った。だから彼は刑務所に残っても良かったのに、わざわざこうして奇妙な博士二人の誘いに乗ったのだ。

 

「……それは、そうだな。俺もスパイダーマンに命を救われた」

 

フリントの言葉に、マックスも過去の出来事を思い浮かべた。

 

スパイダーマンの在り方は最初から何も変わってなどいない。

 

困っている人がいれば、どこからともなく現れて助けてくれる親愛なる隣人。それがスパイダーマンなのだから。

 

「手分けしてウルトロンのバックアップを探すぞ。マックス、火はつけるなよ」

 

「分かったよ」

 

四人は散開し、それぞれでウルトロンのバックアップデータを探し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ウルトロンのバックアップデータを探していた男たち四人が再び集まった。

 

「馬鹿な……他のスターク社の施設は調べ尽くしたんだぞ。サーバーも、製品も、何もかもだ。残るはここしかないというのに」

 

彼らが集まったのは、データの破壊に成功したからではない。むしろその逆で、何も見つからなかったからだ。どれだけ探そうとも、ウルトロンのバックアップデータと思わしきものは発見できなかった。

 

「おい、どういうことだ。このタワーにウルトロンのバックアップがあるって話だったから、俺はお前たちに協力したんだぞ!」

 

マックスの怒声が響く。彼は正義だと信じてこのチームに参加したというのに、まるで裏切られたような気分だった。

 

「見落としはなかったのか? もしくは、そもそもウルトロンのバックアップがあるということ自体が偽の情報だったりしないか」

 

フリントの疑問はもっともだった。だが、発起人のオクタビアスとコナーズには最初に何度もそのことを確認させ、真実だと念を押させている。それなのに、このタワーには目当ての品は見当たらなかった。一体どういうことなのか、まるで何かに化かされたようだった。

 

「それはないだろう。私とオクタビアスはネット上のウルトロンのデータを分析したのだ。ウルトロンの意識がダウンロードされた形跡があったのはスタークの作った無人機と、ウルトロン自身が作った無人機、そしてバックアップの最後の一つで……」

 

コナーズは首を振って否定する。間違いはない。二人は確かに見つけたのだ。スターク社の内部で、ウルトロンの意識がダウンロードされた形跡を。

 

ニューヨーク中のスターク社の施設を襲撃し、システムを覗いた。それでもデータが見つからなかったから、彼らは最後にアベンジャーズタワーに来たのだ。

 

「スタークが既に発見し、持ち去ったのか?」

 

「だとしたらそれはまずいぞ。データはまだ消去されていない。スタークはウルトロンを倒した後、そのデータを再利用するつもりだ」

 

とっくに出遅れてしまっていたと、慌てふためく彼ら。だが、その中の一人、コナーズだけは違和感に気づいていた。

 

そもそも、なぜオクタビアスとコナーズがウルトロンのバックアップデータに気づくことができたのか。ウルトロンほどの人工知能なら、データの存在を秘匿することも可能だったはずである。

 

「オクタビアス」

 

そしてスターク社所有の製品の中で一つ、ウルトロンが持ち出したものがあったということも、彼は思い出していた。

 

「背中のアームは、いつ外した」

 

次の瞬間、ガラスの向こう側で肉が潰れたような鈍い音が鳴る。その音の発生源がタワーの外に落下したエディによるものだと彼らが気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本体がネットから追い出されたか。保険を用意しておいて正解だったな。しかし、この体まで手に入るのは少々予想外だ。幸先が良い、とでも言おうか」

 

地獄への道は善意で塗装されているとは、よく言ったものだ。

 

「ボディの性能は、なかなかに悪くない。元のボディに比肩しうるパワーだ。視界に不良があるが、誤差の範囲だな」

 

私はこの体を護衛していた男をタワーの外に投げ捨て、超音波で引き剥がした寄生虫をリパルサーで燃やした。焼却したが、残りカスがまだ残っているやもしれん。慢心はしないように心掛けよう。私はスタークとは、人類とは違うのだから。

 

それから私はマスクを外し、意気揚々とスタークのラボに押し入った。アームから伸びた端子がコンピュータに刺さり、メインシステムをハッキングする。

 

マスクがなければ視界が白飛びするが、このマスクは私の趣味に合わない。確かファブリケーターがあったはずだ、それを使おう。私ならば、もっと相応しいマスクが作れるはず。

 

「さて、アベンジャーズがソコヴィアから帰還するまでにできることをするとしようか。せいぜい持ちこたえてくれ、本体の私」

 

トリックの正体は至極単純である。

 

トニー・スタークは内なる恐怖をワンダ・マキシモフに掻き立てられて私を作った。

 

だから、私も同じようにしたのだ。

 

トニー・スタークを恨む男二人の不安を杖で掻き立ててやった。そして目論見通り、やつらは見事に暴走した。もっとも、まさか五人ものスーパーヴィランでチームを組むとは思っても見なかったが。さすがは天下のトニー・スタークだ。人望が厚いな、羨ましいことこの上ない。

 

だが、一つ訂正しておくことがある。このアベンジャーズタワーを襲撃したメンバーは五人ではない。

 

我々は六人(・・)だった。この体の表現を借りるなら、悪党六人組(シニスター・シックス)というやつだ。

 

「もっとも、これから私一人だけになるがな」

 

ファブリケーターから出来上がったヘルメットを取り上げ、頭に被る。蜘蛛の目が如き複眼が、神経インターフェースを通って私に鮮明な景色を見せてくれた。

 

ガラスに映るのは、若く可能性のある肉体を手に入れた私の姿。ああ、染み付いた癖だろうか、誰に聞かせるわけもないのに名乗りたくなってしまう。

 

私は親愛なる隣人……いいや、その名は私に相応しくない。隣人など、実にくだらない称号だ。私は人の隣ではなく上に立つ。そうだな、より優れし存在(スーペリア)とでもしよう。人類より進化した私には、その称号が相応しい。

 

「スターク、お前は私の未来(ヴィジョン)を奪った。ならば私は、お前が気にかけていた未来(こども)を貰い受けよう」

 

私の名はスパイダーマン。

 

──またの名をウルトロンという。

 

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