灰被りの蜘蛛 作:BNDに脳を焼かれたやつ
私が家出してから数日後、慈善団体のシェルターで一時的に保護してもらっていた私のもとに、スタークさんから電話がかかってきた。出るかどうか少し迷ったけれど、少し気持ちの整理がついてきたから、そろそろちゃんと話をしよう。
「ペトラ・パーカーです。ご用件をどうぞ」
おっと、緊張し過ぎで留守電の応答メッセージみたいな声が出ちゃったぞ。
『……ペトラ、君が僕のことをどう思ってるかは分かる。恨んでいるだろうな。すまなかった。だがこのメッセージを聞いてるならどうか──』
「いや、恨んでなんてませんけど。何言ってるんですか?」
『……おい、これ留守電じゃなかったのか?』
「緊張して留守電っぽくなっただけで本人です。なんかごめんなさい」
『そうか。まぁ、ひとまず元気そうで何よりだ』
それから私たちの間には気まずい沈黙が数秒間流れた。
『病院には行ったか?』
「うん、行ったよ。経過観察しながら、薬で治療するって。抗うつ薬と睡眠薬を貰ったけど、お医者さんは時間の経過と幸福な気持ちが一番の治療法だって言ってた」
『そうか』
「ねぇ、スタークさん。スタークさんはどうやってスーツ依存症を克服したの?」
『あぁ、その話か。まぁスーツ依存症は治せても宇宙人恐怖症は治ってないんだが……スーツがなくても、なんとかなった経験をしたおかげかな。それから、辛いときにペッパーが側にいてくれた。君も辛いときは一人でいるんじゃなくて、誰かに頼れ。ペッパーとか、ハッピーとか、カレンとか……なんならF.R.I.D.A.Y.を貸しても良いぞ。寝取っちゃダメって条件付きでなら』
電話の向こう側でF.R.I.D.A.Y.が抗議の声を上げている。14歳の少女に負けるようなポンコツではないと言いたいそうだ。カレン、君お姉さんからポンコツだと思われてるみたいだよ。
「それは、スタークさんでも良いの?」
私は名前が挙がらなかった一人について聞いた。
『……そうだな。僕は基本的に忙しいんだが、君がそう望むなら、頼られてやらないこともない。生身は無理だが、スーツとか、ホログラムでなら様子を見に行ってやれるし』
「ありがとう、スタークさん」
『……なぁ、僕のことを恨んでないってのは本当か? いや、疑うわけじゃないんだ。ただその、知っての通り僕は色んな人から恨まれてる。昔は武器を売ってたし、自分でも分かるが僕って性格が悪いし、今でもよく世界を滅茶苦茶にしてるし』
スタークさんは、自分が恨まれてるんじゃないかと疑っているらしい。気持ちは分かる。私だって逆の立場だったら恨まれて当然だって自己嫌悪するかも。
「恨んでません。そうですね、昔の私の話を聞いてくれますか?」
『あぁ、聞かせてほしい』
「私は生まれたときから蜘蛛の力を持ってました。そして、その力をどう使うべきかで悩んでたんです。心の中ではその力で善い行いをするべきだって思ってても、実際には体が無理だって怖気づいてしまう。そうやって体と心がバラバラな日が続いて、ずっと苦しかった。だけど、そんな日常はある日突然終わりました。どうしてだと思います?」
『……さぁ?』
「テレビの向こう側に、ある人を見つけたからです。世間からは悪人と呼ばれる、プレイボーイの億万長者。その人がある日世界に向けてこう言いました。私がアイアンマンだぞって。その言葉のおかげで、私はとても安心したんです。私がヒーローにならなくても、他にヒーローがいてくれるんだって。私はスパイダーマンにならなくても、普通に生きてて良いんだって」
『だけど、実際君は……』
「分かってます。私は結局スパイダーマンになった。でもそれは無理やりじゃない。自分の意思で選んだ選択だった。けど、もしアイアンマンのことを知らずに生きてたら、私は選択肢もなくスパイダーマンを嫌々やるハメになってたと思います。だから……」
だから私には、スタークさんを恨むなんてできるはずもないのだ。
あと、そもそもすべての責任を彼に転嫁するのは逆恨みも良いところだからね。そんなので恨んだりしないよ。もうちょっとどうにかならなかったのかとは思うけど。特に無人機の件は。
「ありがとうございます。ヒーローでいてくれて。私の心を一度救ってくれて」
『……』
「そういうわけだから、私はあなたを恨んだりなんてしませんよ」
『……』
「あの、スタークさん? 聞こえてます?」
『……』
返事がない。向こう側でマイクがミュートになっているようだ。操作ミスだろうか。
『ああ、すまない。F.R.I.D.A.Y.が勝手にマイクをミュートにしてたみたいだ。まったく、この悪戯好きの人工知能め』
「はぁ、そうですか」
余談だが、スタークさんの声は鼻声だった。
「ところで、私に何か用があって電話したんじゃないんですか?」
『あぁ、そうだった。ニュースは見てるか? 協定の調印式で起きた一連の事件についてのニュースだ』
それからスタークさんは本題について語り始めた。
ウィーンで行われたソコヴィア協定の調印式、そこでヒドラの暗殺者、ウィンター・ソルジャーと思しき人物が爆破テロを起こしたらしい。
『死傷者多数、当たり前だがウィンター・ソルジャーは指名手配された。だが、なんと驚くべきことにキャプテンがそのテロリストの味方についたんだよ。僕らも、協定も捨ててね』
「なんでそんなことに?」
『ウィンター・ソルジャーの中身はキャプテンの70年前の親友だったらしい。それで情け深いキャプテン様は手を貸したくなったんだろうさ。だがなぁ、親友だからって普通テロリストに手を貸したりするか? もっと友人を選ぶべきだと思うね、僕は』
うわぁ、大変なことになってるぞこれは。キャプテン・アメリカは70年前の恋人を失ったばかりだ。だから暴走してるのかもしれない。
『で、そのテロリストくんは一度捕まったんだが、謎の停電により対テロ本部から脱走。たくさんの人を殺したあとに、キャプテンもろとも姿を消した。分かるか? 逃げ出して、しかも人を殺したんだぞ。言い逃れしようのない犯罪行為だ。そしてキャプテンは犯罪幇助をした。僕はヒーローに相応しくないと思ってたが、彼も大概だったらしいね。慰めにもならないよ、ったく』
「あの、キャプテン・アメリカから詳しい話は聞けないんでしょうか。彼がとてもそんな犯罪を許容するとは思えないんですけど」
『僕もその点は聞いてみたいね。だけどロス長官から貰えた猶予は36時間だけだ。暴れるスーパーソルジャーと話し合うにはその時間はあまりに短すぎる。話をするのは、彼を捕まえた後だ』
36時間かぁ。一日と半日、たったそれだけの間であのキャプテン・アメリカを見つけ、説得し、捕まえられるかと言われたら。
まぁ無理じゃない? だってあの人単騎でヒドラの基地をぶっ潰せる人でしょ? 歴史の教科書で読んだときは嘘だって思ったもん。政府が誇張したプロパガンダだってMJも言ってたし。
『それで、君に電話した理由はだな……その……』
「スタークさん?」
スタークさんが何か言い淀む。
『いや、僕はただ君と仲直りしたくて電話したんだ。愚痴を聞いてくれてありがとう。ささくれてた気持ちが楽になったよ』
「は、はぁ。それなら良かったです」
『それじゃあ、もっと話していたいが僕はまだ仕事があるからな。健康には気をつけるんだぞ。それとスパイダーマン活動はほどほどにな』
そうして、通話は切れた。
「ねぇカレン。もしかしなくても、スタークさんって今困ってるよね?」
『その可能性は十分に考えられます』
「助けに行ったほうが良いよね?」
スタークさんが口にしなかった本題というのは、どう考えても先ほどのキャプテン・アメリカのことだろう。36時間以内にスーパーソルジャーを捕まえるには、それに匹敵する戦力が必要だ。だけどアベンジャーズは協定へのスタンスで半分に割れていて機能不全。ハルクもソーもウルトロンの事件以来消えてるし、スタークさんには頼れる相手がいない。私以外は。
『ですが、トニー様はあなたを巻き込みたくないから本題を口にしなかったのでは?』
「……そうだけど、じゃあカレンはスタークさんを助けに行かない方が良いと思うの?」
『いいえ、ですが積極的な加勢を勧めるわけにもいきません』
「どうして?」
『私はあなたを守るために生まれました。あなたを戦場に送ってしまえば、また以前のように傷つく可能性があります。ペトラ、よく考えて行動するように』
それから私はカレンに言われた通り3時間くらいじっくり考えて、それから結論を出した。
「……決めた、私は行くよ。考えたんだけど、キャプテン・アメリカがもしマインドコントロールとかで悪いやつに洗脳されてたら、最悪スタークさんは殺されちゃうかもしれないでしょ。それなのに助けに行かなかったら、私はきっと後悔する」
親しい人を失うのは、もうたくさんだ。彼が助けを求めてるなら、私は手を貸してあげたい。だって私は親愛なる隣人なんだから。
心を固めた私は、この数日お世話になったシェルターを飛び出してアベンジャーズタワーに向かう。
「一番の目標は、スタークさんを守ること。二番目の目標が、私自身を守ること。キャプテンの逮捕は三番目だ。それでどうかな?」
『目標に優先順位をつけるのは良いことです。ですが一つ訂正を。あなた自身の安全の優先度をトニー様の安全と同等レベルに引き上げてください』
「分かったよ、カレン。自分も、スタークさんも、両方守る。スタークさんを守れても、私が傷ついたら彼を悲しませちゃうもんね」
タワーの一階でキーカードを提示し受付を抜け、そのままエレベーターに乗り上の階へと昇る。
「そういえば聞いてなかったけど、スタークさんって今どこにいるの?」
『トニー様は現在ドイツのベルリンにある、国連の対テロ共同対策本部の施設内にいるようです』
「ベルリン!? そっか、協定の調印式もウィーンだからスタークさんもキャプテン・アメリカも今ヨーロッパにいるのか。てことは戦いもヨーロッパでやるってこと? どうしよう、私パスポートなんて持ってないよ。今からパスポート取ってたら間に合うかな?」
『通常申請では、発行に数週間かかります。正規の方法では遅刻は免れません』
「オーマイガー、始まる前から詰んだぞこれ……」
膝から崩れ落ちてエレベーターの床を叩く、そんな私にカレンが呆れたように口を開いた。実際には開く口なんてないので勿論比喩表現だ。
『ペトラ、あなたは自分の後見人が誰なのか忘れたのですか?』
「アイアンマンことトニー・スタークさんです」
『世界一の大富豪がプライベートジェットの一つや二つ、持っていないとでも?』
「その手があったか! あれ、でもそれって結局ダイナミック密入国するだけなんじゃ……」
などと私が思い悩んでいると、チーンと間の抜けた音とともにエレベーターの扉が開いた。
「ペトラさん? ああ、良かった。ちゃんと帰ってきてくれて」
すると、そこには疲れた顔のポッツさんの姿があった。
「わっ、ポッツさん? 大丈夫ですか、その、疲れてそうですけど」
私は彼女の手を取り、ソファに座らせる。
「この前のことはごめんなさい。どうか誤解しないで、私もトニーも、あなたのことは大好きよ」
「あ、ありがとうございます」
「だから、どうかトニーを許してあげてくれないかしら。あの人は言葉は足りないし、愛情表現が下手で、気難しいところもあるけれど、それでもあなたに償おうと必死に……」
「あ、その件はもうスタークさんと仲直りしたので大丈夫です。それよりも、どうにかして私をドイツに行かせてくれませんか?」
目を丸くするポッツさんに、私はカクカクシカジカで経緯を説明する。
「私は何も聞かされてないのだけど……トニーがキャプテン・アメリカと戦う? 聞き間違いかしら」
残念だけど、聞き間違いじゃない。
「というわけでスタークさんを助けに行きたいんですけど、ジェット機借りても良いですか?」
「……そういうことなら、もちろん構わないわ。もろもろの問題はトニーに処理して貰いましょう。ハッピー!」
「はいボス、なんでしょう?」
ポッツさんが声を上げると、奥の方からベーグルを手に持ったふくよかな体型の男性が現れた。ハッピー・ホーガン。スターク社の警備部門の責任者で、ポッツさんの護衛だ。それからたまに私とネットゲームをしてくれる友達でもある。
「ペトラさんをドイツまで送ってあげて。はい、これ鍵。ジェットはアベンジャーズ基地本部にあるわ。よろしくお願いするわね」
「……え?」
何も分かってなさそうなハッピーさんの手に鍵を渡すと、ポッツさんはスタスタとエレベーターに乗って行ってしまったのだった。
「ボスも段々トニーに似てきたな……」
「本人にそのこと言ったらショックで倒れそう。それよりハッピーさん。それ私のベーグルなんだけど。駅前の店の新作で、数量限定のやつ。楽しみに取ってたのに、勝手に食べないでよ」
「ごめん、つい美味しそうで……」
「トニー、僕らが行かなければ、ヒドラの暗殺部隊が解き放たれることになる。時間がないんだ、ここを通してくれ!」
「ほー? ヒドラの暗殺部隊ね。それってもしかして君の親友のことか?」
「違う、バッキーのことじゃない。彼はヒドラから洗脳を受けていたんだ。暴れたのもそのせいだ。今はもうヒドラとは関係がない」
「はいそうですかと指名手配犯を逃がすと思うか? ヒドラの洗脳で暴れたのに、ヒドラとはもう関係ない? 自分がおかしなことを言ってるとは思わないのか? ああ、もしかすると君もヒドラの洗脳を受けたのかも。だったらさっさと精神鑑定を受けた方が良い」
「違う、それには理由が……」
「違わない。洗脳されてるなら、やつはヒドラの関係者だ。だろ?」
「ああ、もう。トニー、真面目に話を聞いてくれ」
「君の方こそ真面目に考えろ! 一体何をするつもりなのか知らないが、君が動くことで被害が余計に広がるとは思わないのか? 何のために僕がソコヴィア協定にサインしたと思ってる!」
「君が協定にサインしたのは、自分の失敗を恐れたからだろう!」
「なら逆に聞きたいが、君は失敗を恐れないのか? ラゴスでやらかしたように、また民間人を犠牲にしてしまうとは考えないのか! どうなんだ!?」
「ここで何もしなければもっと多くの人が犠牲になるかもしれないんだぞ」
「それを判断するのは僕らじゃない、国連だ。当然だな。だって犠牲を払うのはいつだって僕らじゃなく他の市民の誰かなんだから」
「だが組織の判断を待っていては間に合わないんだ!」
「そうやってまた好き勝手にやって、ウルトロンのときと同じような過ちを繰り返すつもりか?」
「ウルトロンを生み出したのは君だろうトニー!」
「そして今の君はかつての僕になろうとしているな!」
私がドイツのライプツィヒ・ハレ空港に到着したとき、そこでは既に戦いが起きていた。
言い争いながら戦うアイアンマンとキャプテン・アメリカ以外にも、そこにはテレビの向こう側で見たヒーローたちが互いに争っている。
ウォーマシン、ブラック・ウィドウ、ヴィジョン。
ウィンター・ソルジャー、ファルコン、ホークアイ、スカーレット・ウィッチ。
あと、知らない人が二人。全身真っ黒なスーツの人と、銀と赤のヘルメットが目立つスーツの人。誰なんだろう。あの人たちもアベンジャーズなのかな。
戦況は、スタークさんの側が少し劣勢に見えた。数えた感じだと五対六だ、人数不利で押されている。
「あぁもう。ヒーロー同士で争うなんてどうかしてると思うけど、今から参戦する私が言えたことじゃないかな?」
キャプテン・アメリカの拳がスーツの顔にクリーンヒットし、スタークさんが吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
よろめきながら立ち上がるスタークさんに、盾の追撃が飛ぶ。今にもスタークさんの背中にぶつかりそうだったその盾を。
「どうも、スタークさん。ドイツで会うなんて奇遇だね。もしかして今って蜘蛛の手も借りたい気分だったりする?」
間に入った私が受け止めた。
「……ペトラ? なんで君がここにいる?」
「忘れ物を届けに来たんだ。ほら、これ」
私は上着のポケットからデバイスを取り出すと、スタークさんに渡した。スパイダーシグナルを示すためのポケットライトを。
「アイアンマンにだってスパイダーマンの助けが欲しいときくらいあるって言ったよね? だったら、今度から戦うときはそれを持っててよ」
「……これを届けるために来たのか?」
「そゆこと。キャプテン・アメリカと戦うのはそのついでってことで」
「はは、まったく君ってやつは本当に──」
そう言うと、マスクの中の光が消え、スタークさんは地面に倒れ伏した。
「スタークさん、大丈夫!?」
「心配ない。小さいやつに配電盤やらコードやらまとめて弄られてシステムがダウンしただけだ。はぁ、今後の課題だなこれは。僕は大丈夫だから、君はスティーブおじいちゃんの相手をしてやってくれ」
命に別条はないらしい。私はほっと安堵の息をつくと、キャプテン・アメリカと向き合った。
「初めましてキャプテン。ボクはスパイダーマンって言います」
「スティーブだ。君のことは知っている。ずっと礼を言いたかったんだ」
「?」
どうやら、キャプテンは私に何か言いたいことがあるらしい。残念だが心当たりはない。
「僕らの家を守ってくれてありがとう。君の戦いのおかげで、僕らは帰る場所を失わずに済んだ。まぁ、その後すぐに北部に引っ越したんだが……それでも、君があのタワーを守ってくれたと知って嬉しかったよ」
「……良いんです、ボクは親愛なる隣人ですから。でも、今さら何で急に?」
「本当はもっと早く君に会いたかったんだが、トニーが君と会わせてくれなくてね」
「当たり前だ、会わせていれば君は彼女をアベンジャーズに勧誘してたろう! ワンダにそうしたようにな! まったく、子供だろうと見境がない」
光を失ったスーツの中から怒声が響いた。
「だ、そうです」
「否定はしない。だがワンダを勧誘したのは、彼女に居場所を持ってほしかったからだ。見境がないわけじゃないぞトニー。君の女癖と一緒にするな」
「おいおい、それなら僕にも言い分があるぞ。僕は美人しか相手にしない」
なんか、思ってたよりもそこまで険悪じゃなさそう。殺し合う心配はないみたいだ。
「それよりもスパイダーマン、僕の盾を返してくれないか」
「嫌です」
「……理由を聞いても?」
「これを返せば、あなたは行ってしまう。けどそれだとスタークさんは困るでしょ? スタークさんが困ると、ボクも困りますから。だから盾は返せません」
「どうだキャプテン。その子は素直で良い子だろう? 君と違ってな」
スタークさん、いちいち電源切れたスーツの中から口を挟まないで。それすごくシュールだから。アイアンマンとしての威厳がかけらもないから。
「とにかく、ボクはスタークさんの味方としてここにいます。だったらあとは分かるでしょ?」
「仕方ない、君と戦いたくないが……」
「え? いやいや、戦うなんてボクは一言も言ってませんけど?」
私は拳を構えるキャプテン・アメリカに背を向け、全速力で逃げ出した。
スパイダーマンに盾を盗まれたスティーブのもとに、ブラックパンサーから命からがら必死の逃走を終えたバッキーが駆け寄ってくる。
「ようやくあの黒いやつを撒いたか。よし、スティーブ、さっさとクインジェットに急ぐぞ。……おい、お前盾はどうした?」
「なぁ、バッキー。盾なしでヒドラの暗殺部隊に勝てると思うか?」
「……一対一ならともかく、敵は部隊だぞ?」
「無理か?」
「超人血清を打つ前のガリガリのお前が、ストリートで喧嘩に勝つくらいには可能性があるな」
「3%くらいか……サム、クリント、ワンダ、スコット。皆聞いてくれ、悪いがスパイダーマンに盾を盗まれた。クインジェットに乗る前に取り返したい」
そうしてスティーブは無線を通して仲間に呼びかけ、スパイダーマンを追うべく走り出したのだった。
そして残されたバッキーことジェームズ・ブキャナン・バーンズは、誰に聞かせるでもなくただぼそっと独り言を呟く。
「お前、喧嘩に勝ったことあったのかよ」