灰被りの蜘蛛 作:BNDに脳を焼かれたやつ
夏休みも半ば、私は窓から見える景色に目を輝かせていた。
「スタークさん見てあれ、ユニコーンガンダムですよユニコーンガンダム。デカいなぁ、凄いなぁ」
お台場にある全長約20メートルの実物大巨大ロボットに目を輝かせていると、隣の座席に座るスタークさんが不満げに口を尖らせた。
「おいおい、あれはただの置物だろ。僕ならちゃんと動くものを作れる」
「え!? 20メートルサイズのロボを作れるんですか!」
「ああ、もちろん。ヴィブラニウムさえあればな」
「えー、あんな巨大ロボを作るだけのヴィブラニウムなんてあるわけないじゃないですか。アイアンマンと同じでゴールドチタン合金じゃダメなんですか?」
「ゴールドチタン合金で作っても良いが、その場合自重で崩れるな。デカいってことはそれだけ重いってことだ。宇宙空間で動かすならまだしも、地上でまともに二足歩行の巨大ロボが動くわけないだろ?」
「アントマンは20メートル級になっても動けたのに?」
「あれは……ほら、原子の密度がスカスカで軽すぎるから動けるんだ。たぶん。……おいなんだその顔は。言っとくが、量子力学は僕の分野じゃない。それにドクター・ピムは論文も残してないから学びようがないんだよ。悪かったね」
「ちぇっ、二足歩行巨大ロボは所詮SFの世界だけに許されたものなんだね。残念」
「まぁ、もう20年もすれば現実にできるかもしれないが」
私とスタークさんは日本での任務を終えて、まさしくこれから帰るところだった。観光してみたいが、そうすると目立ってしまうので生憎断念。こうして車の中から窓の外の景色を見て楽しむくらいしかできないのである。
「ねぇ、帰ったら一緒に巨大ロボ作りません?」
「断る。実用的じゃないし、何より君のわがままに付き合わされるのはうんざりだ。今回の任務だって、君は広報だけで戦闘には参加しないって約束だっただろうに。勝手に付いてくるなんて」
「仕方ないじゃないですか。親愛なる隣人として、スタークさんを一人だけ戦わせるなんてできませんよ」
「……まったく」
スタークさんは呆れたように言葉を零すと、ニヤケ顔で私の頭を乱暴に撫で回した。
「あうっ……や、やめてください。髪の毛乱れちゃいます」
「それより、広報の方はどうだった。上手くいったか?」
「えぇ、まぁ。なんか偉い人と握手して回って、ちょっと東京の街をスイングして、それからゴジラとかウルトラマンと並んで写真撮ったくらいですね」
日本ってうちの国と比べたら超絶治安が良いはずなのに、何でこんなに架空のヒーローがいっぱいいるんだろうか。不思議だぁ。
「スタークさんも来れば良かったのに。ハローキティとかピカチュウとか可愛かったですよ。なんでその並びでスパイダーマンの撮影が行われたのかは知りませんが」
私って日本だとヒーローじゃなくて可愛いもの枠なのだろうか。
「悪いが、僕はアイドルじゃないんでね」
「私のこと遠回しにアイドルって言ってます?」
「……さぁ、コミコンで聞いてみたらどうだ? それよりどうしたハッピー。車が止まってるぞ」
露骨に話題をそらしたな、この人。
「すいません、ですがこの先で少しトラブルがあったみたいで」
「トラブルって一体何が──」
後部座席から身を乗出して前方を注視していると、すぐ目の前を暴走した車両とパトカーが通り過ぎて行った。
「わお、東京って最高の街だね。うん」
「まぁ、ニューヨークよりはマシなんじゃないか。少なくとも改造武器は出回って……」
口は災いのもと。私たちの前を通り過ぎた一台のパトカーが光線銃で真っ二つにされた。
「……まだソコヴィアから東回りで流れ込んだって可能性も」
『ニュース速報です。現在、武装したトラックが都内を暴走しています。武器の出所は不明ですが、有識者によると近年アメリカのニューヨークにて出回っている改造された武器に酷似した形状であることが明らかになりました』
車内ラジオで日本語のニュースが流れている。
「翻訳しろF.R.I.D.A.Y.」
「カレン、翻訳して」
『我が国原産の改造武器のようです』
『ニューヨークマフィアがヤクザを通して密輸したものと思われます』
車内に気まずい空気が流れた。スタークさんからは怒ってるような気配を感じる。過去の経験から、彼は武器の類が横流しされることをとても不愉快に思っているのだ。
「つまり、僕らの国で出回ってる改造武器は既に組織的に流通してるってことか? それも国外に密輸されるほど?」
『はい、ボス。加えて先ほどのトラックは旧S.H.I.E.L.D.で採用されていた標準的な車両です。したがってヒドラの関与も疑われます』
「あらら。F.R.I.D.A.Y.に先越されちゃったね、カレン」
『構いません。この国では一歩引いた態度が美徳とされるそうですから』
お姉さんに処理速度で負けて悔しがるカレンちゃん、可愛いね。
「冗談言ってる場合じゃないぞ。今までコソコソしてると思ったらこれだ。アメリカに帰ったら徹底的に潰してやる」
「行くの?」
「当然だろ、これは外交問題だ。F.R.I.D.A.Y.、ロス長官に連絡して出撃許可を取っておいてくれ。事後報告にならないように早めにな」
そう言うと、スタークさんはアーマーを装着し、開いた車両の天井から飛び立って行った。ボタン押すだけでアーマー着れるなんて、この車すごいな。
「じゃあ私も行ってこようかな。空港で会おうね、ハッピーさん!」
マスクを被り、私も車の外に出た。ニューヨークの親愛なる隣人、出張モードで行ってみよう!
「お帰りなさい二人とも……って、ローディまで一緒なの? にしても、あなたたち三人揃ってボロボロじゃない!?」
アベンジャーズ基地本部に帰ってきた私とスタークさんとローディさんの三人をポッツさんが出迎えてくれた。
あの後、すごく大変だったよ。暴走車両を止めたあと、武器を持ったヤクザと戦って、その後私たちと一緒に日本に来ていたロス長官の暗殺を企む日本政府の役人に紛れていたヒドラの幹部を捕まえて、芋蔓式にヒドラの密輸船の情報を掴んで、それで香港から飛んできたローディさんと合流。
それから多国籍艦隊と一緒に密輸船を包囲、改造武器を接収しようとしたところ、密輸船はハラキリ自爆。私たち三人は命からがら崩れていく船から脱出したって感じだ。
「まったく、なんなんだこの任務は。危うく僕らはタイタニック号の住人になるところだったんだぞ!」
と、スタークさんが言う。
「まさかあれ、全部俺たちをまとめて潰すための罠だったりしないよな」
と、ローディさんが言う。
「もしボクたち三人まとめて死んでたらどうなってたの?」
と、私が言う。
「ソコヴィア協定は瓦解、70年ぶり二度目の太平洋戦争でヒドラが喜んでアンハッピーエンドだろ? まったく、ヒドラを倒すのはキャプテンの使命じゃなかったのか!? なんで僕らがアメリカのケツのケツを拭かなきゃならないんだ!」
「トニー、彼女の前で下品な物言いはやめて」
「……ごめん」
とにかくもう、なんか、すごくヤバかった。どれくらいヤバかったかと言えば。
「ご苦労だったな三人とも。後のことはCIAに任せて、今は休め」
「ロス長官、それだけですか? もっとボクたちのこと褒めてくれても良いと思うんですけど」
「……三人とも見事な働きだった。だが、まだ問題を根本から解決したわけではない。これから忙しくなるぞ」
ロス長官が気の毒そうな顔で私たちのことを労ってくれるくらいには、とにかくヤバかったのである。
「明日はキャンディが降るなこれは。一体どんな魔法でロス長官を優しいおじいさんにしてしまったのか是非僕に教えてくれシンデレラ。素直さの魔法か? それとも愛嬌?」
「トニー、お前ウザいぞ。よくそんなんでスパイダーマンに嫌われないで済んでるな」
「あはは、安心してください。もう諦めてるので……」
スタークさんがウザいのは平常運転だ。
「何かあれば言ってくれ。こう見えて、俺はトニーに喧嘩で勝ったことがあるからな」
「ローディ、もう八年も前の話を蒸し返すんじゃない」
和気あいあい、二人のおじさんの仲を表現するのはそれがぴったりだった。
「よし、打ち上げに行こう。君らも来るだろ。なぁ、ペトラ、ペッパー」
「ごめんなさいトニー。そうしたいのは山々だけど、私はまだ仕事があるの」
「すいませんスタークさん。ボクも疲れたので帰って休みます。明日に備えないと。友達の巡査部長が警部補に昇進したんですよ。そのお祝いがあって」
「残念だったなトニー。久しぶりにサシで飲もう。良い店知ってる」
「おい、なんだよもう。また酔っぱらってローディと喧嘩したら、僕を放置した君らのせいだからな?」
私はポッツさんと一緒に、二人の鉄の男が仲良く肩を組んで去っていくのを見守った。
さて、家に帰って休もう。それから明日は警察の仲間とジェフ警部補の昇進を祝う。あぁ、あとそろそろ合宿のことも考えないとな。ステイシー家に寄ってパンも食べないと……。
『スパイダーマン、こちらジェファーソン警部補だ。今ちょっと良いか?』
そのとき、警部補から通信が入った。
「はい、もしもしジェフ。それで何の用? 明日やる二次会の件なら、悪いけど秘密だよ。だってサプライズの方が楽しいし」
『ヴァルチャーとショッカー、それからプラウラーに刑務所が襲撃された』
思わず頭痛がして、私は頭を抱えた。
「……被害は?」
『凶悪犯が大勢逃げた。だが単なる脱走じゃなく組織的にだ。ヒドラの幹部、戦闘員と、マフィアの連中、ライノことアレクセイ・シチェビッチ。それから……』
「それから?」
『キングピン』
「キングピン? ごめん、分からない。誰それ?」
『ウィルソン・フィスク。ニューヨークマフィアを仕切ってた
「なるほどね……」
全貌が見えてきた。
ヴァルチャーが武器を作り、そしてキングピンが武器を売り、それを買ったヒドラがその力を行使する。そういう協力関係にあったわけだ。日本で騒ぎを起こしたのは、私たちの目をニューヨークから逸らすためか。
「スパイダーマン、すまないが緊急事態だ! 至急オペレーションルームに来てくれ!」
「ごめん警部補。今丁度長官から呼び出しがかかった。多分あなたと同じ用事だと思う。それじゃあ、また現場で会おう」
私は通信を切って、声のする方へと駆け出した。やるべきことをするために。
あーほんと、私の夏休みって最高!