そう言う物語だから。
でも、いつかの世界で必ず登場する、順序が前後しているだけなのだ。
by観測者。
夢遊都市群《ソムナンブール》
クリスタ=リヴァの体内世界には、時折、地図に載らない都市が現れる。
それは海の上に現れることもあれば、砂漠の中心に現れることもある。空の彼方に浮かぶこともあれば、深い霧の奥に佇むこともある。
共通しているのは一つだけ。
その都市を見つけた者は皆、こう証言するのだ。
「確かにそこで暮らした覚えがある」と。
夢遊都市群。《ソムナンブール》。
それは一つの独立した世界ではない。
無数の都市によって構成された世界である。
しかし奇妙なことに、その都市同士は地理的に繋がっていない。
ある都市は永久の夕暮れの中に存在し、ある都市は常に雨が降り続き、ある都市は夜空そのものが街路となっている。
それぞれ異なる法則を持ちながら、それら全てが一つの世界として成立している。
学者達は長らくその理由を解明できなかった。
だがある時、一人の旅人が答えに辿り着いた。
この世界には大陸が存在しない。
存在するのは夢だけだった。
夢遊都市群の都市は土地の上に築かれたのではない。
誰かの夢の上に築かれている。
ある都市は亡き母を想う子供の夢。
ある都市は果たせなかった約束の夢。
ある都市は誰にも語られなかった恋の夢。
ある都市はまだ生まれていない未来の夢。
人が夢を見るたびに都市は生まれ、人が忘れるたびに都市は沈む。
だが完全に消えることはない。
誰かがもう一度その夢を見れば、都市は再び姿を現すからだ。
夢遊都市群の住民達は、自分達が何者なのかを知らない。
彼らは普通に働き、笑い、食事をし、人生を送る。
だが夜になると、一人残らず眠りにつく。
そして夢を見る。
その夢の中で、彼らは別の都市の住民になる。
ある者は雨の街で傘を売り、ある者は星の街で灯台守を務め、ある者は永遠の黄昏の街で詩を書き続ける。
朝になれば全て忘れる。
だが僅かな懐かしさだけが残る。
だから夢遊都市群の住民達は、生涯で一度も訪れたことのない街を見ても不思議と安心する。
どこかで知っている気がするからだ。
どこかで帰ったことがある気がするからだ。
この世界から現れた到達者は、「夢を見ない者」だった。
生まれた時から一度も夢を見たことがない。
誰かの夢の上に築かれた世界で、彼だけは夢の外にいた。
だから彼は都市の真実を見つけた。
夢遊都市群の正体。
それは人々の夢ではない。
夢を見るという行為そのものだった。
人々が眠るたびに世界は組み替わる。
都市は移動する。
住民は入れ替わる。
歴史は書き換わる。
それでも誰も気付かない。
夢だから。
だが彼だけは気付いてしまった。
夢を見ないから。
彼だけは世界の変化を記憶し続けていた。
そして長い旅の果てに、世界の中心へ辿り着く。
そこには巨大な時計塔があった。
針の無い時計塔。
時を刻まない時計塔。
夢遊都市群の全ての都市は、その塔を中心に夢を見ていた。
塔の最上階には古い碑文が残されている。
そこにはたった一文だけ刻まれていた。
「誰かが夢を見る限り、帰る場所は失われない」
彼はその言葉を読んだ後、初めて眠ったという。
そして初めて夢を見た。
何を見たのかを知る者はいない。
ただ、その日以降、夢遊都市群には新しい都市が一つ増えた。
そこは静かな海辺の街だった。
夕暮れの光に照らされる小さな港町。
街の入口には古い看板が立っている。
そこにはこう書かれている。
――ようこそ、旅の終わりへ。
そして不思議なことに、その街を訪れた者は皆、なぜか涙を流すのだという。
………………………………
余談ではあるが。
夢遊都市群を語る時、一つだけ避けて通れない存在がいる。
後に到達者へと数えられることになる存在。
深淵蛾《ナイト=エクリプス》
もっとも。
正確に言えば彼の存在が此処で生まれた訳では無い。
ナイト=エクリプスが誕生した世界は別の世界だ。
彼が実体を持ち。
翼を広げ。
意思を獲得し。
世界に対して「私は在る」と告げたのは、
遥か後の話だ。
だが。
その核。
その始まり。
その原点。
その最初の一欠片だけは。
間違いなく夢遊都市群に存在していた。
夢遊都市群の住民達は夢を見る。
そして夢の中で別の都市へ渡る。
だが。
極めて稀に。
誰の夢にも属さない夢が生まれる。
誰かの願いではない。
誰かの記憶でもない。
誰かの後悔でもない。
ただ夜だけが見る夢。
ただ暗闇だけが抱く幻想。
そんな夢が。
数万年に一度だけ現れる。
それは都市ですらなかった。
住民も居ない。
建物も無い。
ただ。
どこまでも続く夜だけがあった。
月も無い。
星も無い。
光も無い。
夢すら眠る闇。
夢遊都市群の記録では、その場所はこう呼ばれている。
《最果夜》
あるいは。
《夢の終着点》
その場所へ辿り着いた者は二度と戻らない。
いや。
戻っているのかもしれない。
だが戻った者は誰一人として、
その夜を説明出来なかった。
ただ一つだけ共通している証言がある。
「何かが居た」
何だったのかは分からない。
姿も分からない。
大きさも分からない。
ただ。
夜そのもののような何か。
深淵そのもののような何か。
静寂そのもののような何か。
それが居た。
そして。
その存在はまだ産まれていなかった。
意思も無い。
名前も無い。
形も無い。
ただ。
夜という概念の中で微睡んでいた。
やがて。
無数の夢。
無数の夜。
無数の恐怖。
無数の憧憬。
それらが長い時間を掛けて積み重なる。
夢遊都市群が見続けた夜の総量。
その沈殿物。
その結晶。
その核。
それが後のナイト=エクリプスとなる。
ナイト=エクリプスは夜を愛しているのではない。
夜へ帰ろうとしている。
彼にとって夜とは環境ではない。
故郷である。
そして夢遊都市群の最古の記録には、誰にも解読できない落書きが残されている。
それは文字ですらない。
ただ黒い染みのような何か。
しかし神理終界の神々は、それを見てこう評した。
これは文章ではない。
誕生前の署名だ。
夢遊都市群が終焉を迎えた後も、その染みだけは消えなかったという。
まるで。
いつか訪れる未来の到達者が、
まだ生まれる前からそこに居たかのように。
………………………………
深淵蛾《ナイト=エクリプス》
終焉の後にも夜は残る。
それは多くの世界が見落としてきた事実だった。
文明が滅びても夜は残る。
神々が消えても夜は残る。
海が枯れても夜は残る。
星が砕けても夜は残る。
世界そのものが終わった後ですら、夜だけは静かに在り続ける。
深淵蛾ナイト=エクリプスとは、その夜が辿り着いた到達点である。
彼は生物ではない。
神でもない。
怪物でもない。
ましてや概念そのものでもない。
強いて言うならば。
夜が長い時間を掛けて自らを理解しようとした結果、生まれた存在だった。
夢遊都市群《ソムナンブール》。
数え切れぬ夢が漂い、数え切れぬ夜が積み重なった世界。
その最奥。
誰の夢にも属さぬ《最果夜》の深淵で。
まだ名前も形も持たぬ核が眠っていた。
それがナイト=エクリプスの始まりだった。
彼の者が初めてその存在を観測され、起源の概念を得た時だった。
しかし彼はそこで生まれなかった。
核は生まれた。
だが存在は生まれなかった。
夜はまだ夜のままであり続けた。
そして長い時間の果て。
別の世界。
別の終焉。
別の神話。
その全てが重なった瞬間。
最果夜に眠っていた核は初めて目を開く。
夜が夜を認識した瞬間。
深淵が深淵を知った瞬間。
その時。
深淵蛾ナイト=エクリプスは誕生した。
その姿を見た者は少ない。
見ても理解出来る者はさらに少ない。
巨大な蛾だと言う者もいる。
漆黒の龍だと言う者もいる。
夜空そのものだったと言う者もいる。
人型だったと語る者すら存在する。
その全てが正しく。
その全てが間違っている。
何故なら。
彼の本体は姿ではない。
夜だからだ。
夜に本当の形が無いように。
彼にも固定された形は存在しない。
そしてそれこそが彼の異質性だった。
到達者は世界から生まれる。
世界を超える。
世界を喰らう。
世界を背負う。
だが。
ナイト=エクリプスは違う。
彼は夜から生まれた。
世界からではない。
夜という現象。
夜という神秘。
夜という普遍。
そこから生まれている。
だから彼は世界を越えている。
正確には。
最初から世界という枠組みに属していない。
そのため到達者でありながら。
限りなく頂上種に近い。
十三体の中でも極めて特殊な立場にある。
彼の能力を一言で表すなら。
《夜を成立させる》力。
彼が現れれば夜になる。
それは光量の問題ではない。
太陽が存在していても夜になる。
恒星が燃えていても夜になる。
神々が光を放っていても夜になる。
彼の前では昼という概念そのものが意味を失う。
夜とは暗い事ではない。
夜とは未知である事。
夜とは観測が終わっていない事。
夜とは答えが定まっていない事。
ナイト=エクリプスはその全てを支配する。
だから神理終界の神々ですら。
彼の前では完全な観測を行えない。
未来視は曇る。
因果演算は崩れる。
予測は失敗する。
彼が居る場所だけ。
世界は再び未知へ還る。
そして彼の戦闘能力はさらに異常だった。
到達者同士の戦いとは。
概念と概念の衝突である。
世界と世界の衝突である。
だがナイト=エクリプスは違う。
彼は戦場そのものを夜に変える。
世界が昼である限り。
法則が存在する。
観測が存在する。
理解が存在する。
しかし夜になれば。
何も分からなくなる。
だから彼との戦いは。
戦う前に敗北が始まっている。
敵は自分が何を相手にしているのか理解出来なくなる。
自分が何故傷付いているのか理解出来なくなる。
自分がどこに居るのか理解出来なくなる。
やがて。
自分自身すら分からなくなる。
故に。
到達者達は彼をこう呼ぶ。
《最果夜》
あるいは。
《終わらない夜》
もっとも。
ナイト=エクリプス自身は争いを好まない。
むしろ静かな存在である。
夜が昼へ敵意を抱かないように。
彼もまた多くを望まない。
ただ在る。
ただ見ている。
ただ待っている。
それだけだった。
十三体。
あるいは十一体。
その中でも頂上種へ届く者達が存在する。
晶海龍クリスタ=リヴァ。
深淵蛾ナイト=エクリプス。
そして他の到達者達。
彼らは確かに到達者である。
だが普通の到達者ではない。
世界を超えた世界。
終焉を超えた終焉。
神話を超えた神話。
その領域へ片足を踏み込んでいる。
しかし。
彼らはまだ頂上種ではない。
何故なら頂上種とは始まりだから。
………………………………
アビス=モルガンは原始。
何も無いから存在して、何にも成れない全ての母、一番最初の世界から、今の今まで、そしてセカイの終わりまで、何にも成れずに在り続ける者。
ヨルム=ラグナは終焉。
全ての母から産まれ、何かに成り、完成した世界を終わらせて次の発展を促す終焉、一番最初の終わりから、今の今まで、そしてセカイの完全な完成を待ち続ける者。
………………………………
彼の者達は根源だから。
彼の者達は原初だから。
対して彼らは違う。
終わりから生まれた。
積み重なった。
辿り着いた。
故に到達者。
だが。
もしも到達という行為だけで頂上種へ届けるのだと証明した存在が居るなら。
その筆頭こそ。
夜の果てから現れた深淵蛾。
ナイト=エクリプスなのである。
そしてヨルム=ラグナは一度だけ彼を見てこう評したという。
「お前は夜ではない。」
長い沈黙の後。
終焉の蛇は続けた。
「夜の向こう側だ。」
それに対してナイト=エクリプスは何も答えなかった。
ただ静かに羽ばたいた。
まるで。
その答えすら夜の中へ沈めるように。
プロフィール
深淵蛾《ナイト=エクリプス》
基本情報
名称
深淵蛾《ナイト=エクリプス》
別称
最果夜
終わらない夜
未観測領域
深淵の羽音
夜の向こう側
夢の終着点
夜界の到達者
分類
到達者
頂上種到達者
系統
夜
深淵
未知
神秘
夢
静寂
観測外
起源世界
夢遊都市群《ソムナンブール》
※正確には核の起源世界。 実体化および完全な誕生は別世界にて達成された。
---
概要
数ある到達者の中でも最も異質な存在の一体。
多くの到達者が生命として生まれ、文明を超え、世界を超え、神話へ到達するのに対し、ナイト=エクリプスは生命を起源としない。
その核となったのは夢遊都市群の最奥、《最果夜》。
誰の夢にも属さない夜。
誰の記憶にも属さない闇。
誰にも観測されなかった神秘。
それらが無数の世界を渡り、積み重なり、自己認識へ至った果てに誕生した存在。
故に彼は世界から生まれた到達者ではなく、
夜そのものが到達者となった例外である。
その在り方は頂上種に極めて近く、
クリスタ=リヴァと同じく「到達によって頂上種へ迫った存在」と評される。
---
外見
観測者によって姿が変化する。
共通して語られる特徴は少ない。
漆黒の翼
夜空のような体表
星屑にも似た燐光
音の無い羽ばたき
深淵を思わせる瞳
巨大な蛾として観測される事が最も多いが、
黒龍。
夜空。
神格。
人影。
影そのもの。
など様々な報告が存在する。
固定された真の姿は存在しない。
あるいは全てが真の姿である。
---
性格
静寂を好む。
争いを好まない。
支配欲も極めて薄い。
他者を導こうとも支配しようともしない。
ただし、
未知。
神秘。
夢。
夜。
そうした失われつつあるものには強い執着を持つ。
観測され尽くした世界を好まず、
説明され切った神秘を惜しむ。
そのため神理終界のような「神秘を既知へ変える世界」とは思想的な相違が存在する。
しかし敵意は無い。
あくまで価値観の差異である。
---
存在特性
《夜の向こう側》
ナイト=エクリプスを象徴する権能。
彼は夜を生み出すのではない。
夜という現象を成立させる。
太陽が存在していても。
神々が光を放っていても。
恒星が世界を照らしていても。
彼が存在する場所は夜になる。
それは暗闇ではなく、
未知へ還るという意味での夜である。
---
《未観測領域》
彼の周囲ではあらゆる観測精度が著しく低下する。
未来視。
運命観測。
因果演算。
並行世界観測。
神格級の認識能力ですら誤差を生む。
夜とは未知であり、
未知とは未観測である。
この権能はその理屈を現実へ押し付ける。
---
《神秘保存》
失われた神話。
忘れられた夢。
滅びた伝承。
消えた幻想。
そうした神秘を自身の内部へ保存する。
世界を保存するクリスタ=リヴァに対し、
ナイト=エクリプスは神秘を保存する。
そのため両者は似て非なる保存者として扱われる。
---
《最果夜》
全ての夜の原点。
夢遊都市群に存在した最果夜そのもの。
彼が本気で権能を解放した際、
周囲の世界は「まだ理解されていない状態」へ回帰する。
法則。
概念。
定義。
存在理由。
それら全てが曖昧となる。
---
戦闘能力
純粋な破壊能力だけを見るなら、
到達者上位層には同等以上も存在する。
しかし総合戦闘能力は十三体でも最高峰。
認識戦。
神秘戦。
概念戦。
情報戦。
長期戦。
これらにおいて圧倒的な強さを誇る。
敵が強大であるほど、
理解不能という要素が牙を剥く。
………………
まぁ…頂上種到達者クラスの戦力表なんて当てにはならないのだが…彼らクラスになると明確な戦力差は無いと言える、彼の者達同士で戦うならば決着は実力差では無くその時の気分や運の様なナニカで決まるからだ。
しかも彼の者達にとっては運命などという外的要因は不確定要素では無く、自由自在に支配出来るモノなのでなおさら参考にならない。
なので、例え我々が序列を付けていても次の瞬間には全てがひっくり返っている、という事もあり得る。
………………
《終夜領域》
周囲一帯を夜へ変える。
単なる暗闇ではなく、
世界法則そのものが夜の論理へ移行する。
観測阻害。
神秘増幅。
未来視妨害。
因果干渉阻害。
など複数の効果を同時発生させる。
---
《深淵羽化》
存在しなかった可能性を一時的に現実へ羽化させる能力。
消えた未来。
選ばれなかった道。
忘れられた結末。
それらを戦力として扱う。
---
《星喰夜蝶》
翼を広げる事で周囲の神秘や法則を吸収し、
夜へ変換する。
神秘文明相手では特に強力。
場合によっては世界規模の神秘体系を一時的に停止させる。
---
《最果夜顕現》
ナイト=エクリプス最大出力。
夢遊都市群最奥の夜を現実へ重ねる。
神格ですら自己定義が不安定となり、
観測によって成立する存在は著しく弱体化する。
---
他存在との関係
クリスタ=リヴァ
良
ヨルム=ラグナ
特
アビス=モルガン
特
………………
関係性表記の基準
極良
良
普
微悪
悪
特(特殊)
不明
………………
格
通常到達者 < 超越到達者 < 世界到達者 < 頂上種到達者