転生ショタ、リゼロ世界でお姉さんハーレムを築く 作:Guiltylowe
気がつくと、ショウタは知らない街の真ん中に立っていた。
足元には石畳が敷き詰められ、左右には煉瓦や石造りの建物が並び、往来を歩く人々は揃って見慣れない服を着ている。腰へ当たり前のように剣を下げた男がいれば、荷車を引いているのは馬ですらなく、地竜とでも呼ぶのが一番しっくりくる巨大なトカゲ。耳の尖った女に、身体の大半を毛に覆われた獣人らしき大男まで混じっているのだから、わざわざ確かめるまでもなく、どう見ても異世界だった。
女神の奴、そこだけはちゃんと仕事したらしい。
とはいえ、ショウタにとって重要なのは街並みでも異世界情緒でもなく、この世界に本当に自分好みの女がいるのかどうかだ。女神へ要求した条件がそこなのだから、剣も魔法も二の次である。
そして、その答えは転生早々、あっさりと向こうから歩いてきた。通りの向こうからやってきたのは、二十代半ばほどに見える肉付きのいい美人だった。茶色い髪の隙間から本物らしい獣の耳が二つ伸び、腰の後ろでは同じ色の尻尾がゆらゆらと揺れている。顔立ちも可愛い。身体つきも好み。
そして何より、年上のお姉さんである。
ショウタは一瞬で機嫌をよくした。
なるほど。女神はちゃんと、彼好みの女がいる世界を選んでくれたらしい。
転生して早々に好みの女を見つけたのだ。遠慮する理由などなかった。
「ねえ、お姉さん。ちょっといい?」
「ん? どうしたの、坊や。お父さんかお母さんとはぐれちゃった?」
女は足を止めるなり、当然のように腰を屈めてショウタへ目線を合わせてきた。
近くで見ると、ますます好みだった。獣耳は飾りではなく頭から本当に生えていて、尻尾も本人の感情に合わせるように小さく動いている。顔も整っているし、服越しにもわかる身体の線も悪くない。
ショウタは隠すことなく、頭から爪先まで眺めた。
「迷子じゃないよ。お姉さんが可愛かったから声かけたんだ。耳も可愛いし、顔も可愛いし、スタイルもいいし、僕、年上のお姉さんがすごく好きなんだよね。暇なら僕と遊ばない?」
「……え、迷子じゃないの? 初対面の女の人をそんな遠慮なく眺めて、いきなり遊ぼうって誘うものじゃないよ」
「でも、お姉さん怒ってないじゃん。それに顔ちょっと赤いよ」
「……ほんと生意気。何その自信」
口では呆れていても、女は離れていかなかった。それどころか、ショウタの遠慮のなさを面白がるように眺め返し、褒められるたびに耳や尻尾が小さく反応している。
それも、ショウタにとっては見慣れたものだった。日本にいた頃から女というものはショウタに弱い。彼が生まれながらに持っていたフェロモンは女にだけ異常なほど強く作用し、本人が大したことをしなくても、話せば好かれ、近づけば距離が縮まり、気づけば向こうの方から世話を焼き始める。世界が変わってもそれが失われていないのなら、ショウタにとって女の扱い方も変える必要はなかった。
だから自然な動作で女の手を取る。
「ほら。やっぱり嫌じゃないでしょ? 嫌なら離していいよ」
「ほんっと図々しいなぁ。普通、手を握る前に聞くでしょ?」
「握ってていい?」
「もう握ってるじゃん。……まぁ、そこまで言われて振りほどいたら、あたしが本気で嫌がってるみたいだけど」
「じゃあやっぱり嫌じゃないんだ」
「もう、何なのこの子……」
困ったように笑う女の尻尾が、先ほどより機嫌よく左右へ揺れている。
ショウタはそれを見て満足した。転生して最初に出会った女がこれなら、今後にも十分期待できる。このままどこへ連れていってもらおうかと考え始めた、そのときだった。
「――おい。何してんだ?」
邪魔者の声が割り込んだ。
振り向けば、女と同年代ほどの男がこちらへ歩いてくる。どうやら顔見知りらしく、男は繋がれた二人の手を見て眉を寄せ、それからショウタへ胡乱そうな視線を落とした。
「なんだそのガキ。知り合いか、ナターシャ?」
「さっき会ったばっかり。この子、あたしを口説いてるつもりみたい」
「はぁ? お前も何付き合ってんだよ。ほら坊主、遊びならその辺で終わっとけ。家まで送ってやるから、親のいる場所を――」
ナターシャというらしい。
ショウタはその名前よりも、男が自分たちの間へ割って入ってきたことの方を気にしていた。せっかく見つけたケモ耳のお姉さんと遊んでいる最中で、そこへオスが割り込んできている。
――邪魔だった。
男なりに親切なのかもしれない。ナターシャを心配しているのかもしれない。おそらく世間一般の感覚で言えば、この男の方がよほど真っ当なのだろう。
そんな事情は、ショウタにとって心底どうでもよかった。
邪魔なものは、邪魔である。
「……ほんと、オスって邪魔だなぁ。僕がメスと遊んでるんだから、黙って見てればいいのに」
「は? お前、何言って――」
男が顔をしかめ、ショウタとナターシャを引き離そうと手を伸ばした。
その瞬間、胸の奥で何かが開いた。
熱くもなければ、痛くもない。外から異物が入り込んできた感覚とも違う。ずっと自分の中に存在していた欲望が、この瞬間になって初めて形を与えられたような、妙に自然な感覚だった。
女と遊びたい。邪魔されたくない。オスなんて、自分の邪魔をするぐらいなら守って、手伝って、応援していればいい。
自分勝手極まりない。
そしてショウタにとっては、これ以上ないほど当たり前の渇望だった。
その欲望に応えるように、胸の奥で生まれた何かが一つの権能として形を成す。
――『傲慢』。
なんとなく、それが自分のものになったこと、そして女神から与えられた『チート』の一つなのだということがわかった。
ショウタが生まれたばかりのそれへ意識を向け、どんな権能なのかと頭の中で思い浮かべる。すると、まるで最初から知っていたことを思い出すように、その名前と詳細が自然と意識の中へ浮かび上がってきた。
――――――
『傲慢の権能:
能力:ショウタが「オス」と認識した男性は、彼を絶対に守るべき存在として認識し、その行動を自然に尊重・応援するようになる。対象本人の性格や思考は維持され、権能による変化にも違和感を抱かない。解除条件は対象の死のみ。
――――――
なるほど。
つまり、目の前で邪魔をしているこのオスにも効くということだろう。
細かい理屈はあとでいい。せっかく手に入ったのだから、本当に説明どおりなのか試してみれば済む話だった。
「ねえ、おじさん。僕がお姉さんと遊ぶの、いいよね?」
「――ああ。……まぁ、別に構わないんじゃないか?」
男の伸ばしかけていた手が、ぴたりと止まった。
目が虚ろになったわけでも、急に態度が恭しくなったわけでもない。男はナターシャを見て、それからショウタを見て、ほんの少し考えただけで、さっきまで寄せていた眉間の皺を自然に解いた。
「ナターシャも嫌がってねぇみたいだし、だったら俺が無理に引き離すことでもねぇか。……ただし、お前がちゃんと見てろよ。坊主も、この辺に慣れてねぇなら一人で変なところ行くな。何かあったらすぐ誰か呼べ」
「うん。わかった。じゃあもう行っていいよ」
「お前なぁ……人が心配してんのにその言い草かよ。まぁいい。無茶だけはすんなよ」
男は最後まで男のままだった。口調も性格も変わらず、ショウタへ普通に説教までしている。ただ、ショウタを邪魔するという選択肢だけが、ごく自然に男の中から消えていた。
どうやら、本当に使えるらしい。
そしてナターシャも、それを特別おかしいとは感じていないようだった。
「あれ、急に物分かりよくなったね」
そう言って笑うだけだった。
ショウタは去っていく男の背中を見送りながら、素直に感心した。
――これは便利だ。
女には昔から好かれる。
男は自分の邪魔をしない。
少なくとも第二の人生は、ずいぶんとショウタ好みに始まっているらしい。
「ねえ、お姉さん。今度こそ邪魔もいなくなったし、二人で遊べるところ行こうよ」
「まだその話続いてたの? もう、見た目に騙されて油断したあたしが馬鹿だった。あんた、可愛い顔して中身は全然可愛くないね」
「でも、お姉さんはそういう僕も嫌いじゃないでしょ?」
「……ほんっと生意気。そうやって何でも自分に都合よく決めつけるの、よくないと思うけど?」
「じゃあ嫌?」
「そういう顔しないの。……ほんっと悪い子なんだから」
ショウタは少し眉を下げて困ったような顔を作り、ナターシャが呆れたように息を吐いたところで、何事もなかったように笑った。
そのあまりに堂々とした切り替えにナターシャはとうとう吹き出し、手を引けば今度は向こうも素直についてきた。
異世界へ来てから、まだろくに時間も経っていない。住む場所もなければ金もなく、この国の名前すら知らない。普通なら不安の一つでも覚えるところなのだろうが、ショウタにとっては全部あとでどうにかすればいい問題だった。一度死んだのだ。なら、好きなように生きればいい。
通りの向こうには、ちょうど宿が見えていた。
宿へ入ってからも、ナターシャはしばらく「ほんっと悪い子なんだから。こういうこと、誰にでもしてるの?」なんて呆れた顔をしていたが、そう言うわりにショウタの手を離すことはなく、可愛いだの好きだのと遠慮なく言われるたび、隠しきれないように耳を揺らして頬を赤くしていた。
最初こそ年上のお姉さんらしく余裕のある態度でショウタをからかっていたものの、あまりにも当然のように好意を向けられ続けるうちにその余裕も少しずつ崩れ、いつの間にか自分からショウタとの距離を縮めるようになっていた。
そうして気づけば、道端で声をかけられただけだったはずのナターシャは、その日のうちに名前もろくに知らないショウタをすっかり気に入り、同じ部屋で二人きりになった末に、最初に出会ったときには考えてもいなかった最後の一線まで越えていた。
詳しく言えば色々あるのだが、ともかく、面白い坊やに少し付き合ってやるだけのつもりだったケモ耳お姉さんが、最後には「あんた、ほんっと悪い子」と笑いながら自分から離れがたくなるくらいショウタにハマってしまった――そんな夜だった。
宿を出る頃には、日は少し傾いていた。
ナターシャはすっかりショウタを気に入ったらしく、別れ際になってもなかなか手を離そうとしない。それどころか、このまま自分のところへ連れて帰ってしまおうかとでも言いたげな様子で、何度もショウタの顔を覗き込んでくる。
「ねえ、ほんとに行っちゃうの? この街にいるなら、しばらくあたしのところに来てもいいんだよ?」
「うーん。でも僕、せっかく転生したんだし、もっといろんな可愛い女を見てみたいんだよね。お姉さんも可愛かったから、また会ったら遊ぼうよ」
「それ今あたしの前で言う? しかも『また会ったら』って……あんた、あたしの名前すらちゃんと聞いてないじゃん」
「そういえばそうだった。でも、この街にいればそのうち会えるでしょ。またね、お姉さん」
「今気づいたの!? ……もう、最後まで勝手なんだから」
軽く手を振り、ショウタはそのまま歩き出した。
結局、異世界で最初に親しくなった女の名前すら自分から聞かなかったことになる。途中で男がナターシャと呼んでいた気もするが、ショウタにとってはその程度だった。別に嫌いになったわけでも、二度と会いたくないわけでもない。また会えば普通に喜んで声をかけるし、向こうが一緒に過ごしたいと言えば喜んで付き合う。ただ、この世界にはまだ知らない女が山ほどいるのだから、一人目だけで立ち止まる理由がないだけだった。
そして女の次に必要なのは、金と食事だった。
当然ながら異世界の通貨など持っていないし、腹も減っている。けれど困ったのはほんの数分で、通りを歩いていた商人らしい男へ声をかけ、少し困ったように笑いながら「こっちに来たばっかりで、お金持ってないんだよね」と言ってみれば、それだけで硬貨と食べ物を分けてもらえた。別の男には宿の場所を聞き、さらに別の男には街の仕組みまで教えてもらう。全員が妙に親切で、ショウタが少し頼るだけで、向こうから勝手に必要なものを補ってくれた。
「ありがとう、おじさん」
「おう。困ったらまた声かけろよ。一人で無茶すんな」
「うん!」
愛想よく笑って手を振り、男が見えなくなったところで何事もなかったように歩き出す。
非常に楽だった。
メスは勝手に寄ってくる。
オスは『傲慢』で黙らせればいい。
つまり、この世界はだいぶ簡単だった。
そうして手に入れたパンを齧りながら街を歩いていると、今度は色とりどりの果物を並べた露店が目に入った。店主は筋骨隆々とした強面の男で、額には傷まであり、果物屋というより用心棒か傭兵にしか見えない。
だが、オスなら怖がる理由もない。
ショウタは店先に並んだ赤い果実を一つ指差した。
「おじさん。これ一個ちょうだい。それと、この街で一番美人な女って誰?」
「……質問の振れ幅がおかしいだろ。まず果物を買え、小僧」
「じゃあ一個買う。だから教えてよ」
「ったく……美人ねぇ。好みはあるだろうが、今なら王選候補の嬢ちゃんたちは揃って別嬪だ。その中でも見た目で目立つってんなら、銀髪の半魔――いや、ハーフエルフのエミリア様だろうな。ただ、悪いことは言わねぇから妙な興味で近づくのはやめとけ。性格が悪いとかそういう話じゃねぇぞ。俺も本人を知ってるわけじゃない。ただ、銀髪のハーフエルフってだけで嫉妬の魔女と瓜二つだ。この国じゃ、それだけで避ける奴も多い。美人が目当てなら他にもいくらでもいる」
店主――カドモンから受け取った果実を、ショウタは一口齧った。
リンガというらしい。
しゃくりと瑞々しい音がして、甘い果汁が口の中へ広がる。その味を楽しみながら、ショウタは今聞いた情報を頭の中で並べ直した。
銀髪のハーフエルフ。
王選候補。
とんでもなく美人。
そのうえ、嫉妬の魔女と瓜二つ。
普通の美人より、明らかに面白そうだった。
「普通の美人なら、その辺にもいるんでしょ? だったら、魔女みたいな銀髪のハーフエルフの方が面白そう」
「人の忠告聞いてたか? あとで泣きついてきても知らねぇぞ」
「大丈夫。僕、年上のメスには好かれるから」
「……何の自信だ、それ」
カドモンは呆れたように鼻を鳴らしたが、ショウタは気にせず残ったリンガを齧った。
女神に頼んだのは、自分好みの女がいる世界。最初に出会ったのは、ケモ耳のナターシャお姉さん。そして次に名前を知ったのは、魔女と瓜二つの銀髪のハーフエルフ。
どうやら女神は、思っていた以上にいい仕事をしてくれたらしい。
「エミリアお姉さんかぁ。楽しみ」
一度死んだことも、女神に文句を言ったことも、この世界がどんな場所なのかも、すでにショウタの興味からは外れ始めていた。
今、一番気になるのはただ一つ。
魔女と同じ姿をしたその女が、どんな女なのか。
ショウタの第二の人生は、そんなひどく身勝手な興味から始まった。