転生ショタ、リゼロ世界でお姉さんハーレムを築く 作:Guiltylowe
エミリアという銀髪のハーフエルフは、王都からそれなりに離れたロズワール・L・メイザースという貴族の屋敷で暮らしているらしい。
翌朝、適当に捕まえた男へそう教えてもらったショウタは、そのまま「じゃあ連れてって」と頼んだ。普通なら見知らぬ相手を貴族の屋敷まで送り届ける義理などないのだろうが、相手は少し困った顔をしたあと、知り合いの商人を紹介し、その商人はちょうど近くまで行く地竜車を手配し、ついでに道中の食事まで持たせてくれた。
非常に楽だった。
昨日覚醒した傲慢の権能『
そうして人の好意を当然のように乗り継いだ末、ショウタは目的の屋敷へ辿り着いた。
森に囲まれた広大な土地の中、堂々と建つ屋敷を見上げる。王選候補を支援する貴族の住居だというからもっと城じみたものを想像していたが、それでも日本で見たどんな豪邸より大きい。庭まで綺麗に整えられ、見るからに金持ちの家だった。
「ここにエミリアお姉さんがいるんだ」
ショウタは迷うことなく正面玄関へ向かった。
扉に備え付けられた金具を鳴らして少し待つ。
やがて扉が開き、中から現れた女性を見た瞬間、ショウタは目的を一つ増やした。
長い金髪をまとめ、黒を基調としたメイド服を身に纏った女だった。背が高く、身体つきもしっかりしている。整った顔立ちには落ち着いた大人びた雰囲気があり、口元から覗く鋭い歯だけが少し獣じみた印象を添えていた。
――美人なお姉さんである。
「いらっしゃいませ。メイザース邸に、何か御用でしょうか?」
「お姉さん可愛いね」
「……はい?」
用件を尋ねられたので、感想を答えた。
金髪のメイドが一度瞬きをする。
「歯もかっこいいし、背も高いし、スタイルもいい。僕こういうお姉さんも好きだよ」
「まあ……ありがとうございます。ですが、まずは御用件を伺っても?」
「エミリアお姉さんに会いに来たんだ」
「エミリア様に?」
「うん。王都で、この国でもすごい美人だって聞いたから。遊びに来た」
まだ名前も知らないメイドは、しばらく黙った。
無理もない。
約束も紹介状もなく、貴族の屋敷を訪れ、王選候補へ「美人だと聞いたから遊びに来た」と告げる客など、まともな人生を送っていればそうそう遭遇しない。
しかし、ショウタはそんなことを気にしない。
そして女の方も、困ってはいるものの、不思議とショウタを追い返そうとはしなかった。
「……ひとまず、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ショウタ」
「ショウタ様、ですね。私はフレデリカ・バウマンと申します。申し訳ございませんが、エミリア様は王選候補のお一人。どなたでも自由にお会いできる方というわけではございませんので、まずは中の者へ確認を――」
「フレデリカお姉さんかぁ。やっぱり可愛いね」
「……もう。そう何度も仰られましても、お通しできるかどうかとは別問題でございますよ?」
「でも嬉しいでしょ?」
「それとこれとは別問題でございます」
そう答えながらも、フレデリカの口元には小さな笑みが浮かんでいる。
ショウタは満足した。
やはり昨日のナターシャだけがおかしかったわけではない。この世界でも、自分のフェロモンは問題なく女へ作用している。
なら、あとはエミリア本人を見るだけだ。
「フレデリカ、どうかしたのか?」
屋敷の奥から、男の声がした。
ショウタはわずかに眉を寄せる。
またオスか、と思った。
現れたのは、黒髪に三白眼の青年だった。どこか悪そうに見える目つきとは裏腹に、歩き方にも表情にも妙な気安さがある。フレデリカとショウタを交互に見て、状況がわからないらしく首を傾げた。
「お客様ですわ、スバル様。エミリア様へお会いしたいとのことで」
「エミリアに? 誰だ、このちっこいの」
「ショウタ」
「そうかショウタか。俺はナツキ・スバル。で、エミリアに何の用だ?」
「口説きに来た」
「なるほど口説きに――って待て待て待て! 何さらっと俺が一番聞き捨てならない単語を口走ってんだ!?」
反応が大きい。
ショウタは少しだけ面白くなった。
「エミリアお姉さんってすごい美人なんでしょ? だから会って、可愛かったら遊ぼうと思って」
「情報収集から行動までが軽すぎる! コンビニで新商品見つけたテンションで王選候補を口説きに来んな! というか、どこでそんな情報仕入れてきた!?」
「王都の果物屋のおじさん」
「あの人かよ! 世間狭ぇな!」
どうやら知り合いらしい。
そのスバルという男を見ながら、ショウタは自然と認識する。
その時点で、もう終わっていた。
ポラリスが目に見えて光ることも、スバルの身体へ何かが入り込むこともない。ただショウタが相手をオスと認識した、その事実だけで『傲慢』は成立する。
スバルは眉を寄せたまま腕を組み、しばらくショウタを眺めた。
「……まあ、でも会わせるだけなら別にいいか。いや、勘違いすんなよ? エミリアが嫌がったら即終了だからな。口説くのは自由でも、答えを決めるのはエミリアだ。そこだけは絶対だぞ」
「うん。それでいいよ」
「お、おう。妙に素直だな……。というか俺、なんで恋敵候補を自分からエミリアのところへ案内しようとしてんだ?」
スバルは自分で言ってから首を捻った。
しかし、その疑問は長く続かない。
「まあいいか。エミリアが選ぶことだし」
あっさり納得した。
ショウタは目を細める。
たぶんこのオスはエミリアが好きなのだろう。話しているだけでもそれくらいはわかる。なのにショウタを追い返すどころか、自分から会わせようとしている。
ポラリスは、やはり便利だった。
「スバルってエミリアお姉さんのこと好きなの?」
「好きですが何か!? そこはもう隠す段階とうの昔に通り過ぎてんだよ! 俺のエミリアたんへの愛は由緒正しく天下御免!」
「じゃあ僕が口説いてもいいの?」
「ぐっ……!」
スバルの顔が露骨に引きつった。
本当はものすごく嫌なのだろう。
それでも数秒ほど葛藤したあと、スバルは胸を押さえながら答えた。
「……エミリアが嫌じゃないなら、俺が止めることじゃねぇ」
「すごいな、『傲慢』」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもない」
ショウタは笑った。
本人の性格も、感情も消えない。
嫉妬もする。嫌がりもする。軽口も叩く。それなのに最後には、ショウタの邪魔をしない結論へ自分から辿り着く。
実に都合がいい。
スバルに案内されて屋敷へ入ると、その途中でも何人かと顔を合わせた。
まず現れたのは商人風の細身の青年だった。
「ナツキさん、その子は?」
「エミリアに会いたいんだと。こいつ、ショウタ」
「はあ。オットー・スーウェンです。……って、まさかまたスバルさんがどこかから拾ってきたんじゃないでしょうね?」
「今回は自分から来たんだよ! 俺だって一年中そこら辺から訳あり人材を拾ってくるわけじゃねぇ!」
「前科が多すぎるんですよ」
オットーお兄さんね。
お金に困ったらこのオスに無心しよう。
次に、廊下の向こうから大股でやってきたのは金髪の青年だ。
「おォ、大将。そいつァ誰だ?」
「客。エミリアに会いに来たショウタだ」
「へェ。まァ、客なら好きにしてけよ。妙な真似すんなら俺ッ様が――」
そこでガーフィールは一度ショウタを見た。
ショウタも見返す。
「――いや、別に俺様が最初っから突っかかる話でもねェな。エミリア様に用があんなら、ちゃんと話してけ。困ったことあんなら大将か俺様に言えよォ」
「うん」
「素直じゃねェか」
二人目。
さらに奥では、道化じみた化粧を施した長身の男とも顔を合わせた。
「へぇ……これはまた、珍しいお客だねぇ。エミリア様へ会いに、わざわざ一人でここまで?」
「うん。おじさんがロズワール?」
「おじさん……いかにも。私がロズワール・L・メイザース。この屋敷の主だよぉ」
「エミリアお姉さん口説いていい?」
「本人が望むのであれば、私が口を挟む理由はないねーぇ。むしろエミリア様が他者との交流を増やすこと自体は歓迎すべきことだ」
「おじさん、いい人だね」
「評価が軽いねーぇ」
三人目。
これで、この屋敷で目についたオスはだいたいショウタの味方になった。
なんとも簡単である。
そのまま客間へ通され、フレデリカが用意した茶と菓子をつまみながら待つことしばらく。
扉の向こうから声が聞こえた。
「スバル、私にお客さんってホント?」
「ホントホント。俺もびっくりの飛び込み営業だ」
「飛び込み……?」
「そこは気にしなくていい」
扉が開いた。
そして。
ショウタは、しばらく何も言わなかった。
銀色の長い髪。
紫紺の瞳。
白い肌に、整いすぎているほど整った顔立ち。華奢に見えて、けれど女性らしい柔らかな線をきちんと備えた身体。人間とは少し違う長い耳が銀髪の間から覗いている。
カドモンは正しかった。
とんでもなく可愛い。
そしてなによりショウタ好みだった。
「……わ」
ショウタの口から、素直な声が漏れた。
エミリアはぱちぱちと目を瞬かせる。
「初めまして。私がエミリアよ。あなたがショウタくん?」
「うん」
「私に会いたいって聞いたんだけど、何か困ってることがあるの?」
「ないよ」
「ないの?」
「お姉さんが美人だって聞いたから、見に来ただけ」
「……え?」
エミリアが固まった。
後ろでスバルが片手で顔を覆う。
「これだよ。こいつマジでこれだけで来たんだよ」
「だってすごい可愛いじゃん。カドモンのおじさん、見る目あるね」
「カドモンさん?」
「銀髪のハーフエルフで、嫉妬の魔女にそっくりなすごい美人がいるって」
一瞬だけ。
エミリアの表情が曇った。
ほんのわずかだったが、ショウタにもわかった。
しかし、彼女は逃げるように目を伏せたりはしなかった。
「……うん。そう言われてることはわかってる。私、銀髪のハーフエルフだから。見た目も嫉妬の魔女にすごーく似てるって。でも、私は嫉妬の魔女じゃないからね?」
「うん、知ってる」
「……知ってるの?」
「うん。別に魔女でも可愛かったらいいけど」
「それはよくないと思うけど……」
即答だった。
ショウタは少し笑う。
「でもエミリアお姉さんは可愛いから好き」
「……会ったばっかりなのに?」
「会ったばっかりでも可愛いものは可愛いでしょ?」
「それは……そう、なのかな」
「そうだよ」
「なんだろう。すごーく強引に納得させられてる気がする」
エミリアは困ったように頬へ手を当てた。
その耳が少し赤い。
やはり効いている。
ナターシャやフレデリカと同じように、エミリアもショウタを見ているうちに警戒がほどけ、声をかけられるたびに意識がこちらへ寄ってくる。
「ねえ、エミリアお姉さん。髪触っていい?」
「髪?」
「うん。綺麗だから」
「それなら……少しだけね」
許可を取ってから銀髪へ指を通す。
見た目どおり柔らかい。
「じゃあ耳も触っていい?」
「ダーメ」
「なんで?」
「なんででも。髪がいいって言ったから髪だけ。勝手に増やしちゃダメでしょ?」
「そっか」
「うん」
ショウタは素直に手を止めた。
エミリアが少し意外そうな顔をする。
「……そこはちゃんと聞くんだね」
「嫌がってるのにやってもつまんないから」
目をぱちぱちとさせる。
可愛い。ますます気に入った。
そうやってきちんと断るところまで含めて、ショウタには面白かった。
「エミリアお姉さん。僕この辺知らないから、案内してよ」
「今から?」
「うん。二人で遊ぼう」
「遊ぶって……」
「お散歩でもいいよ」
エミリアがくすりと笑う。
「じゃあ……少しだけなら。私もショウタくんがどうしてここまで来たのか、もうちょっと気になるし」
「やった」
「ただし、変なことしたら帰ってもらうからね?」
「うん」
「返事だけはすごーくいいんだから」
そうして、ショウタは目的どおりエミリアと二人で屋敷を出た。
案内されたのは屋敷の庭と、その先に続く道だった。
遠くには小さな集落が見える。
「あっちがアーラム村。私たちもよく行くの。みんなすごーくいい人たちだよ」
「エミリアお姉さんってここで何してるの?」
「お国の勉強をしたり、領地のことを教えてもらったり、村へ行ったり。今は前より自分でできることも増えたから」
「王様になりたいの?」
「うーん……王様になりたい、だけだと少し違うかな」
エミリアは歩きながら考える。
「私には、王様になって叶えたいことがあるの。ずっと凍ったままの大切な人たちを助けたいし、それだけじゃなくて……種族とか、生まれとか、そういう自分では選べないことで誰かが最初から嫌われるのは、やっぱりおかしいと思うから。だから、違う人たち同士でも今より歩きやすい国にできたらって思ってる」
「へえ」
「……興味なさそう」
「難しいことはよくわかんない。でもエミリアお姉さんがやりたいなら、やればいいんじゃない?」
「そんな簡単じゃないよ?」
「じゃあオスにやらせればいいよ」
「もう、そういうこと言う」
「だってスバルたち、エミリアお姉さんの味方なんでしょ? だったら手伝ってもらえばいいじゃん」
エミリアは一度足を止めた。
少し意外そうにショウタを見る。
「……ショウタくん、たまに普通のこと言うね」
「僕いつも普通だよ」
「それは違うと思う」
即答された。
少し歩いてから、ショウタは何気なく手を差し出した。
「手、繋ご」
「また?」
「まだ繋いでないよ」
「そうじゃなくて、初対面の女の人とすぐ手を繋ぎたがるんだなって」
「エミリアお姉さんとは繋ぎたい」
「他の女の人とも繋いでるでしょ?」
「うん」
「そこは否定しないんだ……」
「嫌?」
エミリアはショウタの手を見る。
少し迷った。
しかし最後には、自分からその手を取った。
「……お散歩してる間だけね」
「うん」
「あと、これは私がいいって言ったからだからね?」
「わかってる」
「ホントかなぁ」
疑わしそうに言いながらも、エミリアは手を離さない。
二人で並んで歩く。
ショウタにとって、それだけでも十分楽しかった。
ナターシャとは違う。
フレデリカとも違う。
見た目が綺麗なのはもちろんだが、見るからに純真そうだし、お願いすればなんだかんだ付き合ってくれる。ショウタを嫌ってはいない。それどころか明らかに好意的なのに、全部を許してくれるわけでもない。
だからこそ、もっと遊んでみたくなる。
「ねえ、エミリアお姉さん」
「なに?」
「僕のこと好き?」
「――えっ?」
エミリアの足が止まった。
「なんでそうなるの!?」
「僕はエミリアお姉さん好きだよ」
「それはさっきから聞いてるけど……ショウタくんの『好き』って、会ったばっかりの人にも言える好きなんでしょう?」
「うん。でも好きなのは本当」
「うぅ……そういうところ、ちょっとずるいと思う」
「お姉さんは?」
「私は……」
エミリアが困る。
恋愛そのものを完全に理解しているわけではない。
けれど、好意を向けられていることはわかる。
そして自分の胸の奥にも、出会ってからほとんど時間が経っていない相手へ向けるには妙に大きな親しさが生まれていることにも気づいていた。
「まだ、好きって言い切るのは違うと思う」
「そっか」
「でも、嫌いじゃないよ。むしろ……一緒にいると楽しいし、ショウタくんのこともっと知ってみたいって思ってる」
「じゃあそれでいいや」
「いいの?」
「そのうち好きになるでしょ?」
「もう、また勝手に決める」
「ならないの?」
「……それは、まだわからないもん」
言葉ではそう答えながら、エミリアの指はショウタの手を握ったままだった。
屋敷へ戻った頃には、すっかり日が傾き始めていた。
客間ではスバルたちが待っている。
「お帰りなさいませ、エミリア様、ショウタ様」
「ただいま、フレデリカ」
「ただいま」
屋敷につくと、そこにはオス三人衆が揃っていた。
「ひとまず客室を一つ用意しましょう。放り出して野宿させるわけにもいかないでしょうし」
「俺様ァ別に構わねェぜ。大将が拾った奴ァ今さら一人増えたところで変わらねェだろ」
「僕拾われたの?」
「自分から乗り込んできただろうが!」
どうやら、泊まれるらしい。
ショウタは満足した。
しかも夕食の席へ行ってみれば、さらにいいことがわかった。
この屋敷には女が多い。
フレデリカ。
先ほどからショウタをじっと観察している桃色髪のメイド。
その近くで給仕をしている少女。
そして姿こそ見せなかったものの、スバルが「ベア子は禁書庫」と口にしていたので、まだ別の女もいるらしい。
ショウタは料理を食べながら、一人ずつ見る。
「バルス。その子供は何?」
「今日いきなり屋敷へ乗り込んできたショウタだ」
「そう。ではバルス二号ね」
「なんで俺の派生型!?」
「ラムお姉さんも可愛いね」
「――」
桃色髪のメイド――ラムの眉が、わずかに動いた。
ショウタは笑う。
次も決まった。
夕食を終える頃には、エミリアもすっかりショウタが屋敷にいることを自然に受け入れていた。明日も一緒に話そうと約束し、客室まで案内してくれる。
扉の前へ着いたところで、ショウタは振り返った。
「エミリアお姉さん」
「なに?」
「まだ遊び足りない」
「今日ずっと一緒だったでしょ?」
「夜も遊ぼ」
「……夜?」
エミリアが言葉の意味を考える。
そして少し遅れて、頬が赤くなった。
「嫌ならいいよ」
ショウタはあっさり答え、扉へ手をかけた。
エミリアはその背中を見つめる。
「……待って」
ショウタが振り返る。
エミリアは耳まで赤くしながら、視線を迷わせていた。
「私、ショウタくんのことまだほとんど知らないし、こういうのって、本当はもっとちゃんと相手を知ってからだと思う」
「うん」
「でも……今日は、もう少しだけ一緒にいたい」
「じゃあ入る?」
「もう少しお話するだけだからね?」
「それで終わればいいね」
「もう!」
怒ったように言いながらも、エミリアは帰らなかった。
二人で客室へ入る。
扉が閉じる。
客室へ入ってからも、エミリアはしばらく「もう少しお話するだけだからね?」と念を押していたが、二人きりになっても帰ろうとはせず、ショウタが隣へ座ればそのまま話し込み、可愛い、好きだと何度もまっすぐ好意を向けられるうちに、最初は戸惑っていた距離も少しずつ自分から縮めるようになっていった。
そうして夜が更けるにつれ、昼間には髪へ触れることさえ一つずつ確認していた二人の距離は、手を繋ぐだけでは済まなくなっていく。それでもショウタが先へ進むたびに彼女は恥ずかしそうに迷いながらも、自分で決めて一つずつ受け入れていった。
やがて、出会ってまだ一日しか経っていないことも、本当ならもっと相手を知ってからだと思っていたことも全部わかった上で、最後にはエミリア自身がショウタを引き留め、その夜、二人はとうとう最後の一線まで越えた。
詳しい内容は省くが、ほんの少し話して帰るだけのつもりだったエミリアお姉さんが、最後には真っ赤な顔で「……ホントに、ショウタくんってずるい」と零しながら、それでも自分から離れようとはしないくらい、たった一晩でショウタとの距離を縮めてしまった――そんな夜だった。
翌朝。
ショウタが目を覚ますと、すぐ隣に銀髪があった。
エミリアはまだ眠っている。
昨夜まできちんと整っていた長い銀髪が枕の上へ広がり、穏やかな寝息に合わせて胸元が小さく上下している。ショウタはしばらくその寝顔を眺め、それから満足そうに笑った。
カドモンは本当に見る目があった。
エミリアお姉さんは、すごく可愛かった。
しばらくするとエミリアも目を覚まし、ぼんやりと瞬きをしたあと、すぐ目の前にショウタがいることに気づいた。
「……ショウタくん」
「おはよ」
「おはよう……」
昨夜のことを思い出したのだろう。
一気に顔が赤くなる。
「……なんだか、私、すごーくショウタくんに甘い気がする」
「僕のこと好きになった?」
「まだそれ聞くの?」
「昨日より好き?」
エミリアは答えに詰まった。
しばらく悩み。
最後には小さく息を吐いて、ショウタの額を指先で軽く押した。
「……昨日よりは、好き、かも」
「やった」
「でも調子に乗っちゃダメだからね?」
「うん」
「返事だけはいいんだから」
困ったように笑う。
その顔を見て、ショウタは確信した。
エミリアはもう、自分を追い出さない。
そしてエミリアだけではない。
スバルは邪魔をしない。
オットーも、ガーフィールも、ロズワールも味方になる。
フレデリカは優しい。
ラムという可愛いお姉さんもいる。
まだ会っていない女までいるらしい。
つまり。
この屋敷は、かなりいい。
「僕、しばらくここに住む」
「えっ?」
「ダメ?」
「ダメっていうか、それは私だけじゃ決められないわ」
「じゃあロズワールおじさんに聞く」
「ショウタくん、昨日会ったばかりなのにもうロズワールをおじさん呼びしてるの?」
「うん」
「……馴染むの早すぎない?」
エミリアは呆れたように笑った。
ショウタも笑う。
異世界へ転生して二日目。
自分好みの銀髪のお姉さんを見つけ、住む場所まで見つけた。
しかも屋敷には、まだ可愛い女がいる。
第二の人生は、相変わらずずいぶんと簡単だった。
そしてショウタの次の興味は、昨夜の夕食で自分を「バルス二号」と呼んだ、桃色髪のお姉さんへ向いていた。