東方交縁稿 ~星を抱いた大鴉と、絆を織る人間~   作:自由突破

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本日のpixivからの転載3つ目。連投を避けるために、一旦転載はここまで。
次回投稿は反応・評価を見て判断。


第9章:地獄の極楽生活

 

 

翌日。俺がゆっくりと目を覚ますと、

見慣れない天井が寝起きのぼやけた視界に広がっていた。

 

いつものボロ家なら、ここで顔を掠めていく

心地よい隙間風があったり、

庭のトウモロコシの葉が擦れる音や

鳥のさえずりが聞こえてきたりするはずだった。

 

だが、ここにはそれが一切ない。

朝の光も、鳥の声も、隙間風も届かない。

今が朝なのか夜なのかさえ判別がつかないほど、

外の世界はどこまでも暗く、そして静寂に満ちていた。

 

完全に覚醒した頭で周囲の環境を見渡すと、

そこはあのボロ家とは文字通り

天と地ほどの差がある空間だった。

 

見るからに高価そうな、渋い色合いを放つ

アンティークの木製家具が整然と並び、

壁紙やカーテンの装飾に至るまで、

現世の最高級ホテルのスイートルームと同等、

いやそれ以上の気品と高級感が漂っている。

 

そして俺が今しがた起き上がったのは、

あと10人は大人が横に並んで

寝られるのではないかと思えるほど、

巨大でふかふかなキングサイズの立派なベッドの上だった。

 

ここは、地霊殿の客室の一つ。

一つとは言っても、

昨日通された通常の客室のゆうに3倍は広い、

特一等客室とでも呼ぶべき贅沢な一室だった。

 

実はあの後、空が勢いよく提案した内容によって、

俺はしばらくの間、この地霊殿の部屋を

一つ間借りさせてもらうことになったのだ。

 

昨日の会議の終盤、

さとりはまだ消えない罪悪感からか、

「こうなったら、地霊殿の敷地の

左半分を自由突破さんに差し上げます!

権利書を今すぐ作ります!」と、

普段の冷静さからは

想像もつかない方向へ暴走しかけていた。

それを俺やお燐、お空で総出になって

なんとか宥めすかし、落ち着かせたところで、

ようやくあの怒涛の会議はお開きになったのだった。

 

この部屋には、なんと専用のユニットバス

(地熱を利用した、

いつでも適温の贅沢仕様)までついている。

これなら、地霊殿内にあるメインのトイレや脱衣所で、

さとりたちと「うっかり鉢合わせ」してしまうような、

ラノベのようなお約束トラブルも未然に回避できる。

プライバシーの面でも完璧な配慮がなされていた。

 

以前の、屋根がパカパカしていた

貧乏生活からは全く考えられないほどの、

豪華な「賓客」としての待遇。

正直、身の丈に合わなすぎて

少し背中がむず痒くなるような感覚はある。

 

ちなみに、男のプライドとして

「最低限の家賃は払わせてくれ」と

何度も申し出たのだが、

「そんなことをされたら、

私たちの胃に穴が空いてしまいます!」

「絶対に受け取れません!」と、

さとりたち全員に頑なに拒否されてしまった。

 

地上に残してきた、無事だった俺の畑からは

だいぶ離れてしまったものの、

にとりたち河童の面々が

「盟友の畑なら、私たちの最新の

自動給水システムと耕運機で

完璧に管理しておくよ!」と

快く引き受けてくれたので、

農業の面でも一安心だった。

 

実質、ほんの少しの交流の始まりから、

家を失った代わりに「家賃・光熱費無料の、

極楽のような最高級の生活環境」を

手に入れることになってしまった。

 

(わらしべ長者、ここに極まれり、だな……)

 

自分の数奇な運命に苦笑していると、

部屋の壁に設置された、

朝食の準備完了を伝える上品な

呼び鈴(チャイム)が静かに鳴り響いた。

 

「よし、行くか」

俺は高級な寝具から抜け出し、

身なりを整えて部屋を出た。

 

目の前に広がるのは、

初めて訪れる人間なら一瞬で

迷子になってしまいそうなほどに広く、

そして妖しく神々しい輝きを放つ

ステンドグラスが贅沢に使われた長い廊下だ。

 

地底の闇を五彩に彩る

ステンドグラスから差し込む、

わずかな光のベールを浴びながら、

俺は朝食の待つ大広間を目指して、

新しい生活の第一歩を踏み出すように

ゆっくりと歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

少し迷いながらも、どこからか聞こえてくる

賑やかな声を頼りに足を進めると、

俺はどうにか地霊殿の大広間へとたどり着くことができた。

 

重厚な扉を押し開けて中に入ると、

そこに広がっていたのは、

つい昨日までの「自然豊かな音が

静かにあふれる人里のボロ家」での生活とは、

完全に正反対の、慌ただしくも騒がしい光景だった。

 

「こらお空! 先に食べるんじゃないよ!

自由さんがまだ来てないんだから!」

「え〜……だってお腹

空いちゃったんだもん、もう待てないよ〜」

 

テーブルの上のおかずに

フライングで手を伸ばそうとした空を、

お燐が姉御肌な口調で鋭く叱りつけている。

空はクチバシを尖らせるようにして駄々をこねていた。

 

一方、さとりが座っている椅子の後ろには

いつの間にかこいしが回り込んでおり、

さとりのやや癖のある綺麗なピンク色の髪を

指先で弄んでおさげ髪のように編み込もうと遊んでいる。

 

「やめなさいこいし、痛いわ。

……あら、自由突破さん」

困った顔で妹を注意していたさとりが、

扉の前に立つ俺の姿に気づいて表情を和らげた。

 

(……これはこれで、悪くないかもな)

 

俺は目の前で繰り広げられる地底の家族の喧騒を、

どこか微笑ましく感じながら

しばらく壁際で眺めていた。

すると、俺の視線に気づいた空がパッと顔を輝かせた。

 

「あ、お兄さん! おはよう!

こっちこっち! 早く私の隣に座って!」

 

空はぶんぶんとちぎれんばかりに黒い羽を羽ばたかせ、

自分の隣に用意された空いている椅子を

バンバンと加減なしに叩いて手招きする。

その衝撃でテーブルの上のスプーンが小さく跳ねていた。

 

その隙に、さっきまでさとりの後ろにいたはずの

こいしは、いつの間にか自分のお皿を持って

ちゃっかりお燐の隣に移動しており、

「これとお肉換えてー」と

料理のトレードを申し出ていた。

「もう、こいし様、好き嫌いはダメですよ」と

お燐に優しく諭されている。

 

(やれやれ……見てられないな)

 

実家のような、どこか懐かしい

お馴染みの空気感を肌で感じた俺は、

心の中で苦笑しながら、

幻想入りしてから再び板につき始めた

「お兄ちゃん」の役割を、

ごく自然に実行に移すことにした。

 

「お空、お行儀が悪いぞ。

椅子を叩くのをやめて、ちゃんと前を向いて座りなさい」

「うにゅ……はーい」

 

「それからこいし、ほら、おいで。

嫌いなものがあるなら俺が半分食べてやるから。

その代わり、残りの半分は少しくらい我慢して、

ちゃんと自分で食べなさい」

「わぁい! お兄ちゃんありがとー!」

 

俺の流れるようなお節介と小言に、

お燐が目を丸くした後、

ゲラゲラと上機嫌に笑い声を上げた。

 

「あっはっは! こりゃ良いや!

あたい、お空とこいし様の世話で

毎日本当に手が足りなかったんだ。

もう1人、こうやってビシッと言ってくれる

面倒見役が欲しいと思ってたんだよ!」

 

さとりは少し乱れたピンク色の髪を

恥ずかしそうに手櫛で整えながら、

片手で軽く頭を抱えて見せた。

 

「本当に助かります、自由突破さん。

……でも、これ以上あなたに

子供たちの面倒を見てもらっては、

私たちの『借り』がさらに膨れ上がってしまいますね」

そう言って、地底の主は困ったような、

しかし心底から安心したような

優しい微笑みを俺に返すのだった。

 

「いただきます」の声と共に、

俺は新しい仲間たちとの、

賑やかな朝食を口に運び始めた。

 

思えば、幻想郷にやってきてからの

この短期間で、本当に目まぐるしいほど

色々なことが起こった。

 

最初は、この世界にない

現世の知識と修復技術を持った、

ただの「便利屋の農家」として

人里の隅でひっそり暮らしていたはずだった。

 

月一の新聞購読契約から始まった、

あの天狗の射命丸文との奇妙なビジネス関係。

下駄の歯が折れて動けなくなった彼女を

背負って人里の診療所まで運んだあの日から、

彼女は俺を本当の「兄」のように慕い、

先日、我が家で涙を流して

俺の無事を喜んでくれた。

 

地底への配達で、さとりから交通手形をもらい、

ミスティアの屋台で鬼の勇儀と

酒を酌み交わしてその胆力を認められ、

無銘茶屋では空にスイートポテトを

譲って劇的に懐かれた。

 

その空が、俺に会いたいがゆえに放った

無自覚な核熱エネルギーによって、

俺の愛すべきボロ家が跡形もなく消滅するという、

とんでもない大爆破オチまでついてしまったけれど……。

 

気がつけば、家を失ったはずの俺は、

こうして地底の最高級スイートルームに

無料で居候し、大妖怪たちに囲まれて

家族のように朝食を囲んでいる。

 

さらに、身体の奥底では、

出会った者達と「交わした」縁によって、

俺自身がこの環境に

馴染み始めていく気がする。

 

家がなくなった日、幻想郷の賢者である八雲紫は言った。

「今回は本当にイレギュラーの連続ね」と。

 

確かにその通りだ。

 

だが、この新生活への少しの不安以上に、

俺の胸にはこれからの展開への期待が、

静かに、しかし心地よく膨らんでいた。

 

この短期間で色々なことが起こりすぎたけれど――

俺の奇想天外な幻想郷ライフは、まだ始まったばかりだ。

 

「さあ……ご飯を食べ終わったら、

今日は何をしようかな?」

 

俺は賑やかに笑う空やこいし、

お燐、そしてさとりたちの顔を見渡しながら、

地底の美味しい料理を、

改めてゆっくりと噛み締めるのだった。

 

(第一部・完)

 





一部終了。
ここまで見てくれた方がいたら、本当にありがとうございました。
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