東方交縁稿 ~星を抱いた大鴉と、絆を織る人間~ 作:自由突破
今回の章は、誤字・脱字・カッコの閉じ忘れの確認のために、
最低限AIを使用しています。
ようやく不法侵入もとい、
手のかかる愛すべき妹分が、
真っ赤になった目を手の甲で何度も拭い、
これ以上ないほど神妙に何度も頭を下げて
「屋根から」家を出て帰っていった後──。
俺は筋肉痛の残る身体をリセットするように
軽くストレッチをしてから、
ボロ家から少し離れた場所にある、
別の広大な畑へと足を運んでいた。
「それでそれで!? その〝とらくたぁ〟というのは
こんな感じで合ってるかい、盟友!?」
小柄な身体に不釣り合いな
巨大なバックパックを背負った河城にとり。
彼女は興奮を隠しきれない様子で、
鼻と鼻が触れそうなほど顔を近づけて
畑に到着したばかりの俺のパーソナルスペースに
あっさりと侵入していた。
某新聞記者のデジャヴュを見るかのように、
至近距離から熱弁と共に
細かな唾が俺の顔へと吹きかかる。
(……妖怪の山の住民ってのは、
どいつもこいつも距離感がおかしい連中ばかりなのか?)
俺は本日何度目になるか分からない
呆れと諦めの入り混じったため息をつきながらも、
顔を袖で拭い、河童たちの飽くなき
技術への探求心を満たすための
「前世の知識」をにとりに提供し、伝授していた。
それにしても、河童たちの技術力と応用力は本
当に凄まじいと言うほかない。
俺が以前、口頭と簡単なスケッチで説明した
「現世の農業機械」の概念をベースに、
彼女たちは何と燃料式の「耕運機」を
その手で再現してしまったのだ。
細部を見れば、現世の正規メーカーのそれとは異なり、
地底の鉱石や河童独自のからくり技術が融合した
「耕運機みたいな形をした
謎の魔改造農機具」と呼ぶ方が正しい代物だったが、
その秘めたる性能は耕運機そのもの、いやそれ以上だった。
手作業で行っていた土起こしや
畝立ての効率が一気に跳ね上がり、
俺の農作業は今や革命的な進歩を遂げていた。
しかも、開発の代表であるにとりは、
「試作に付き合ってくれたお礼さ!
キュウリ3本で譲ってあげるよ!」と、
信じられないほどの破格(というかほぼ無料)で
この機械を俺に譲ってくれたのだ。
それだけにとどまらず、
俺や仲間のうろ覚えの記憶から吸い上げた
前世の工業・農業技術のヒントをもとに、
にとりたちは次々と新しい
便利道具を再現・開発していった。
河童たちは「盟友の知識のおかげで大儲けだよ!」と
義理堅く、その技術によって得た利益の数割を、
コンサルタント料として毎月俺の口座(というか財布)に
支払ってくれることになったのだ。
もちろん、現世のルールを尊重する男として、
伝えた知識はすべて前世で「特許権の存続期間が
とっくに切れているもの」や「公知の技術」に制限していたが、
幻想郷の技術水準からすれば
それだけでも十分すぎるほどのオーパーツだった。
さらに、我が家の畑を中心とした
「肥料開発プロジェクト」も極めて好評だった。
ここにはにとりだけでなく、
近所に住む人形師のアリス・マーガトロイド、
魔法使いの霧雨魔理沙、
そして紅魔館の知識の脳である
パチュリー・ノーレッジまでが、
それぞれの魔法や調合の知識を用いて
開発に協力してくれていた。
「これなら、土壌の魔力循環を阻害せずに、
収穫量を1.5倍には引き上げられるわね」
「私の魔法薬の廃液を薄めたやつも、
意外と良い栄養剤になったぜ!」
初夏の心地よい涼風に身を任せながら、
即席のベンチに腰掛け、
みんなで新しい肥料や液体肥料、
無農薬の防虫剤の開発について、
のんびりと歓談する時間。
地道に築いてきた人脈と平穏が、
形になっていくのを感じる
最高にほのぼのとした瞬間だった。
──その平穏が、突如として
空間を震わせる「轟音」によって
無残に打ち砕かれた。
ズウウウウウウウウウウウウウゥンッッ!!!
「きゃっ!?」
あまりの衝撃波と地響きに、
ベンチに座っていたアリスが
バランスを崩して後ろへひっくり返る。
さらに、読書をしながら
静かにジュースを飲んでいたパチュリーは、
驚きのあまり「ぶふっ!?」と
勢いよくそれを前方へと吹き出した。
不運にもその正面にいた魔理沙の黒い服と顔が、
紫色の果汁で盛大に濡れる。
「うわっ! 冷たっ!?」
「……ゲホッ、ゲホッ! ごめんなさい!
……でも、今の音は一体……?」
全員が驚きと警戒の色を隠せないまま、
反射的に音の発生源を探ろうとあたりを見回す。
そんな中、いち早くバックパックから
望遠鏡(河童製、高倍率デジタル仕様)を
取り出して人里の方向を
覗き込んでいたにとりが、
顔を青ざめさせてポツリと呟いた。
「あれ……嘘でしょ、盟友の……
自由の家の方だよ……!!」
「え……!?」
俺の脳裏を、一瞬で
最悪の思考が駆け巡る。
文を送り出した後、台所の火は間違いなく消した。
戸締まりも確認した。
そもそも、大気を震わせ、
上空の雲にぽっかりと穴を開けるほどの、
あそこまでの大爆発を引き起こす原因になりうる物など、
俺の家には一つもない。
必要最低限の農具と、家具、そして文が残していった
新聞くらいしか置いていないのだから、
物理的にあの規模の爆発などあり得ないはずだった。
「こりゃあ、なんかただ事じゃないヤバい予感がするぞ!
……先に行くぜ!」
果汁を袖で拭った魔理沙が一番に行動を起こした。
愛用のミニ八卦炉を懐に押し込み、
箒に跨るやいなや、凄まじい加速で
真っ先に現場へと向かって飛び立つ。
「私たちも行こう! ほら自由、
私の耕運機(プロトタイプ)に乗った乗った!」
「ああ、頼む!」
にとりの言葉に、アリスもパチュリーも深刻な表情で頷いた。
俺はにとりが操縦する魔改造耕運機の荷台に飛び乗った。
各々の魔法や最高速度で爆心地──
すなわち、俺の愛すべき我が家へと急いだ。
頭上には、魔理沙が残した
白い飛行雲が、不吉な
一本の線となって伸びていた。
にとりの操縦する魔改造耕運機の荷台に揺られ、
息を切らせて我が家の敷地へと
滑り込んだ俺を待っていたのは、
「凄惨」というありふれた言葉では到底表現しきれない、
圧倒的な現実だった。
「なん……だと……」
俺の口から、乾いた声が漏れ出た。
かつてそこにあった、老夫婦から受け継いだ、
元名家の面影を残す無駄に広い武家屋敷。
冬の隙間風に頭を悩ませ、
それでもこれから来る夏を心地よく過ごそうと
あれこれ計画を立てていた、
俺の幻想郷における唯一の安らぎの場所──
愛すべきボロ家が、跡形もなく消滅していた。
ただ倒壊したのではない。
文字通り「消失」していたのだ。
かつて玄関や居間があった場所には、
直径およそ30〜40メートル、
深さ5メートル近くにも及ぶ巨大なクレーターが
ぽっかりと口を開けていた。
周囲の空気は、一瞬にして
超高熱のエネルギーに晒されたことを物語るように、
じっとりと熱を帯びて歪んでいる。
焼け焦げた匂いすらしない。
チリ一つ残さず、あらゆる物質が
光の中に昇華してしまったかのような、
不毛の大地がそこにあった。
「自由さん!無事ですか……!?」
頭上から鋭い羽音が響き、着地したのは文だった。
先ほど別れた後、上空で取材飛行をしていたらしい。
上空から爆発を見て急遽Uターンしてきたのだろう。
彼女は青ざめた顔で俺の肩を掴み、
怪我がないことを確認すると、
へなへなとその場に崩れ落ちるように
安堵の溜め息を漏らした。
「ああ、俺は大丈夫だ。
……幸い、離れの倉庫と
畑の作物はほぼ無事みたいだな」
俺は痛む筋肉痛を堪えながら、周囲を見回した。
奇跡的に、すぐ近くにあった
頑丈な古い石垣が盾となり、
衝撃波を上空へと受け流したらしい。
手塩にかけて育てた
トウモロコシやキュウリの畑は、
爆風に煽られて激しくなびいたものの、
致命的な被害は免れていた。
家を失った今、職だけは
失わずに済んだことが、せめてもの救いだった。
だが、状況はそれを
個人的な悲劇にとどめてはくれなかった。
「ちょっと、これは一体どういうことなのよ!」
先に到着していた魔理沙の隣に、
紅白の巫女服をはためかせた博麗霊夢が、
異変を察知して血相を変えて飛び込んできた。
さらに、空間が絹を引き裂くような音を立てて歪み、
一本の「境界」が口を開ける。
そこから姿を現したのは、幻想郷の賢者・八雲紫。
そしてその背後からは、巨大な瓢箪を抱えた山の四天王の一角、
伊吹萃香が重苦しい妖気を漂わせながら這い出てきた。
錚々たる顔ぶれ。
幻想郷の最高戦力とも言える面々が、
俺の家の「跡地」に一瞬にして集結していく。
(あれ?…待てよ。もしかして、このメンバーに
この凄まじい熱量と大爆発の状況って……
〝あの異変〟の再来なんじゃないか……!?)
生前、液晶画面の向こう側で、
あるいは設定資料集の中で何度も目にした
「地底の異変」の構図が、今まさに俺の目の前で、
俺の家を犠牲にして再現されようとしていた。
俺は現在ただの一般人、しがない農民だ。
これほどの面々が放つ圧倒的な威圧感の前に、
遠目から息を潜めて様子を見るしかできなかった。
「おい、あそこのクレーターの中心、なんかいるぞ!」
先行してクレーターの縁まで進んでいた魔理沙が、
帽子を押さえながら大声を上げた。
その言葉に、霊夢も紫も、
そして隣にいる文も一斉に視線を鋭くする。
全員が武器や魔力に手をかけ、
警戒度を最大に高めながら、
ゆっくりと、恐る恐る巨大な穴の底へと近づいていく。
すり鉢状のクレーターの最深部。
まだ微かに陽炎が立ち上るその中心点に、
ポツンと、小さくうずくまる一つの人影が見える。
「な、何者だ……? 妖怪か? それとも……」
魔理沙が声を潜める。周囲の誰もが、
あの圧倒的な破壊を引き起こした
「正体不明の脅威」に対し、固唾を飲んで見守っている。
だが、俺だけは違った。
クレーターの底、熱気の中で
うずくまっているその影の輪郭──
頭の上にちょこんと乗った
見覚えのある大きなリボンと、
背中で小さく震えている、漆黒のカラスの羽。
ひどく見覚えのある切なげな背中が、そこにはあった。