Jukebox Driver 作:Penthouseはいいぞ
物語が好きだ。
昔、暗闇の中で母が語ってくれた物語があった。
夢のような物語だった。
それは当時の俺にとって、希望で、世界そのものだ。
それがどん詰まりの中にあって、なお星のように輝いて見えたから。
そうして俺は、創作というものが好きになった。
小説、絵、漫画、音楽、演劇、映画。
物語を描写しているすべてが好きだ。
この世界に、夢が溢れてほしいと思った。
だから俺は、いつかの希望を求め続けている。
「今日の納品は──まぁ、そんな大変でもねぇか」
というか、大変だった日がそんなにないが。
そんな売れてねぇからな。
単価もデカいんだから、ある程度の頻度で発注がくるだけでも充分黒字だ。
愛用の車へと段ボールを積み込む。
今日は二つだ。抱える程度の大きさのそれは、存外に重い。
この程度毎日弄っているのだから問題はないが。
よし、乗った。
運転席へと乗り込む。乗り込むときに、頭を少しぶつけそうになった。
背ぇ低いんだよな。
シリオンには向いてない車だ。
ついでに積載にも。
だが走っているときのフィーリングは良い。
それに耐侵食用にいろいろと弄ってるから、他の車に乗り換えるというのも面倒だ。
他人に任せるよりは俺がやったほうがいいからな。
エンジンを掛けて、シフトレバーを動かす。
流れ始めるのは、前回途中で止まったシティ・ソウルの続き。
カーオーディオは品質が良いとは言えないが、移動しながら音楽を聴くのはやはり心地が良い。
『目的地間近です』
「センキュー」
車に搭載してあるアシスタントAIが、到着間近なことを伝えてくる。
ホロウに入ったりする関係上、ある程度優秀なナビゲートは必須だからな。
内部で演算して出口を探してくれるようにある程度の性能は担保されている。
代わりに電力は食うが、そこは俺にとってはそこまで問題にならない。
むしろガソリンのほうが困る。
「っし、ここか」
到着したのは、ヤヌス区六分街のライブハウス。
今回の荷物は両方ともここへの納品なのだが、しかしながら。
こう言っちゃ悪いが、よくもまぁ俺の製品にたどり着いたもんだ。
口コミかなにかだろうか。
「よっと」
段ボール二つを、それぞれ一つずつ脇に抱えるようにして持ち上げる。
階段を降りていけば、販売所のスタッフがいた。
「お届けモノでーす」
「はーい! あっ、もしかしてアンプ?」
「そうっすね」
そういうと、慌ただしく女性のスタッフはこちらへとやってくる。
「あー、重いんでシステムんとこまで持っていきますよ。セッティングは任せますけど」
「あ、ありがとう! じゃあこっちだね」
そのまま、PA室のほうへと通される。
思っていたよりも箱の規模は大きいな。
つっても俺の機材ってPA向けじゃねぇんだけどな。
と思っていると、そのまま素通りして奥の防音室に通された。
マイクが使えるような状態になっているし、Rec室だろうか。
アンプの傍に段ボールを置いておく。
録音室なのにリスニング用の機材入れんのか。
音色変わりすぎて話変わるんじゃねぇの?
まぁいいや、そのへんの突っ込んだ話は俺がするもんでもないし。
仕事して金になった。
今日のところはそれで充分だ。
「あ、そうだ。もし良かったらこれどうぞ」
「ん、これは……」
俺が描いた簡単な説明書。
漫画仕立てになっているから、読むのも簡単だろう。
「……味のある絵だね」
彼女はそう言って、曖昧に笑った。
なんだよ。
かわいいだろ、ねこ。
プリとパワーアンプ、二つ合わせてざっと二百万。
今日稼いだ金額だ。
アンプってのは金になって助かる。
つっても一般的には作るのが難しいラインになるんだろうが。
それにアンプにそれぞれ百万突っ込める人間ってのはそういない。
アンプによる差がわかるような人間も少ない以上、そう数が捌けるジャンルではない。
一度売れれば利益にはなるが、今日のようなことはあんま期待しすぎないほうがいいな。
車の中で、少し背を伸ばしながらそろそろ帰るかと考える。
と、そこで。
電話が鳴った。
誰かからのメッセージか。
確認すると、お茶の誘いらしい。
世話になってる人だから、まぁいいか。
いつもどおり代金は向こう持ちだろうし。
愚痴を聞いてやらないと、あの人はいつか爆発しそうだし。
この後の予定が決まった。返信して、待ち合わせ場所へと向かうことにしよう。
「それで……シドくんは最近どうですか? 元気にやれてます?」
「いっつもそれ聞きますよね。今日は二百万入ってきたんで、二ヶ月くらいはなんもしなくてもいいですよ」
「二百万で二ヶ月……相変わらずですねぇ」
そう言って、目の前でコーヒーを口に含むのは、俺よりも背の低い女性。
というか、少女と言っていいくらいの年齢か。
はっきりと年齢を聞いたことはないからアレだが、俺よりも歳下にすら見えるくらいだ。
つっても俺は結構更けて見えるらしいから、実際のところはわからない。
頼んでいたパンケーキが机へと置かれる。
等分してお互いの皿に選り分けつつ、俺達の会話は恙無く続く。
つーか。
彼女の姿を見る。
白と黒で分かれ、結ばれている髪は彼女の印象をより幼く見せている。
そして着ている服は──仕事着らしいが、相変わらず、なんというか。
「……どうしました? そんなに見つめて。ひょっとしてあたしに惚れちゃいましたか?」
「いや、相変わらず凄い服だなって。あと自分で言って照れるのやめてくださいよ、反応しづらいんで」
「……仕方ないじゃないですか」
そう言って、彼女は恥ずかしそうに自分の肩へと手をやった。
「プライベートで着れる服があったらいいんですけど……仕事が終わったばかりですし、着替えるにも
「飾らないでいいと思いますけどね。何着ても似合うでしょ」
「……そういう話じゃ……いえ、なんでもないです。あーもー、なんであたしのほうがタジタジにされてるんですかっ……」
最後の方は小声だった。
ちゃんと聞こえてるが、まぁ触れないでおこう。
「ところで、アンプの調子はどうですか?」
「あ……そうですね」
そう言って、彼女は懐からアンプとイヤホンを取り出した。
……懐から!?
いや、大事に使ってくれてるのはわかるし、忙しい人なのはわかってるけど、真空管って扱いデリケートなんだから……いや、いいか。
今度彼女に、持ち運びが気軽な保管用のものを見繕ってあげよう。
いや、作ってもいいか。
もっと気楽なシステムを渡せればいいんだが、これを越えるポータブルシステムを作るのは難しいし。
だったら保管用のポーチなりを作ったほうが良い。
暖気を開始。少しだけ時間があるし、今のうちにプレイヤーを準備しよう。
携帯端末とアンプを接続する。
DACを組み込んでいるから別にこれだけでも音は出る。
イヤホン程度だとDACの差は出ない。だが一応倍音がタイトに出るDACを組み合わせている。
今回のアンプだとそのほうが向いている。
持っている除菌シートで自分の耳とイヤホンを軽く拭い、そのまま耳に入れる。
「あっ……」
……どこか恥ずかしそうにしている彼女のことは、見なかったことにしておこうか。
こっちまでなんか変な気分になる。
イヤホンの貸し借りなんてそんな特別なことじゃないだろ。そんな顔しないでくれ。
ともかく、プレイヤーから音を流す──ふむ。
特に問題はないな。
こちらのテストソースのチェック事項は特に問題ないように感じられる。
音というのはその日の気分によって変わったりするものだ。はっきりと断言したくはない。
それでも、特にメンテナンスをする必要性はないだろう。
そう判断して、俺はイヤホンをまた除菌シートで拭って、システムを彼女に返した。
「問題はなさそうです」
「そうですか……ありがとうございます」
受け取った彼女は、安心したようにはにかんだ。
彼女は耳が良い。
何か瑕疵があれば向こう側から話してくれるだろうし、何も言わなかったということは大丈夫だと思っていたのだろうが。
それでもまだ経験が浅いことを考えたら、自分にそこまで自信を持てはしなかったのだろう。
構わない。
そのために俺のような人間はいるのだから。
「……そうだ」
あー、言うべきだろうか。
言うべきじゃねぇよな。
でも、彼女は俺にとっても尊重したい人だし。
まぁ良いか?
向こうもそんな悪く思ってはねぇだろうし。
「プライベートに着る服がないって言ってましたよね」
「……ええまぁ、はい。お恥ずかしながら」
「このあと時間あるなら、一緒に見に行きませんか?」
ああ、クソ。
いざ言葉に出したら、アレだな。
変なナンパ野郎みたいじゃねぇか。
やや気不味い沈黙が続く。
「……えと、俺、車出しますから」
「……んぇー……じゃあ……その、お願いします……」
照れたような、難しそうな表情。
対面する俺は今、どんな顔をしてるんだろうか。
あぁクソ。
なんでこんなに入れ込んでんだ、俺。
「……選ぶの、手伝ってくださいね?」
そう言って、彼女は弱々しくも、上目遣いでこちらを見てきた。
もうダメだ。俺は心の中で白旗を上げる。
「お任せあれ、お姫様」
「それはちょっと気取りすぎですよ」
「あれっ?」
急に梯子を外されて当惑する俺を見て、彼女はかわいく笑っていた。
「マーヴェラス」
カフェのオーナーが、そう呟いた。
何見てんだよテメー。
オリ主ビジュ個人的には髪伸ばして肩あたりでまとめてるセンター分けの女殴ってそうな白髪男ですが、みなさん各自の想像に代替してもらっていいです
シリオンなんですが、なんぐーゆーと同じタイプで光輪と翼があります。
車乗ったときは天井に光輪が当たりそうになったぽいです。こいつの場合普通に感覚あるらしい。