痛む頭で目が覚める。
差し込む日の光にすら気づかないほど寝転けていたというのに、痛みで目が覚めるというのもなんだか変だ。
「……ん?」
腕に感じる重みがある。
ちらりとそちらを見れば、ダイアリンさんが俺の腕に寄りかかって眠っていた。
「ニコラス、昨日の行動記録を出せ」
『昨夜はお楽しみでしたね』
「ファック」
転げ落ちた空き瓶を見るに、間違いなく酒を飲んだには違いない。
俺が今更酔うなどは考えられないことを置いておけば、それは確かに起こったことなのだろう。
つまり、酒に酔ってやらかしたのだ。
クソ。
先日は『案内人』にあんなこと言ったってのに説得力ねぇじゃないか。
どうしたらいいか。
いやむしろここは悪びれないのが請負人らしいか?
ちらり、と時計を見る。
既にお昼時を過ぎ、なんなら夕方に差し掛かっている。
つまりは南宮さんが来る時間になりつつある。
この現場を彼女に押さえられれば何を言われるかもわからない。
こうなりゃさっさと証拠隠滅しちまったほうがいい。
まずは横にへばりついているダイアリンさんを起こさねぇと。
「あの、すみません」
「すぅ……」
「……………………」
ここまで安らかな顔してる人を起こすのも良心が咎めるな。
つーかこの人、こんな時間まで寝てていいのか?
普通に仕事ありそうなもんだが。
仕方ねぇ。
起こさないようになんとか腕を引き抜いてしまおう。
「ん……」
拘束が強くなった。
ぎゅう、と抱きつくように、俺の腕が彼女の胸へと抱え込まれる。
仕方がないので、抱え込まれた肩の関節を外し、可動域を確保。
もう片方の腕で彼女の足を掬い上げ、移動のために抱き上げた。
このまま俺の部屋へと連れていき、ベッドに寝かせてしまおう。
「んぁ…………ぁの」
と。
そこで、目を覚ました彼女と視線が合った。
「……すみません」
状況を理解したのか、彼女は小さく呟いた。
まぁ腕の関節抜けてるもんな。
とりあえず、持ち上げていた彼女を床に降ろす。
「もう少しでバイトが来ますんで、急いで隠蔽しましょう」
「……そうですね。服に匂いついちゃってるし、あたしも着替えなきゃ」
「あと冷蔵庫のお茶は好きに飲んで構わないんで。グラスは横の引き出しに入ってます」
「ありがとうございます」
さて。
俺のほうはさっさとシャワーでも浴びなきゃな。
「おはようございまーす」
「……ファック……んん、おはようございます」
そこで、南宮さんが入ってきた。
「うわっ、酒臭……店長、昨日晩酌でもしたんですか?」
「ああ、まぁ。久しぶりにですね」
「……一人でこの量を?」
「こんくらい飲まないと酔えないんですよ」
疑っている──?
彼女の目は、まるで謎を解き明かす探偵のようなものになっていた。
わずかに横へ視線を向ける。
するとしゃがみこんだダイアリンさんと、目が合い、お互いに認識を共有した。
バレたらめんどくさいことになりそう、と。
でもこのままじゃ普通にバレるな。
「翼が随分と乱れているようですけど」
「寝相が悪かったんです」
「ふぅん。仰向けで?」
「ええ」
「あのソファ、翼が収まり切るスペースじゃないですけど」
別にそこまでおかしな受け答えはしていないはずだ。
だが、話す度に彼女の疑念が深まっていくのを感じる。
「時に店長、昨日酔っ払って写真を送ってきましたね」
悪戯っぽく、彼女の目がまるで猫のように、ゆらりと光る。
その言葉で俺は、ようやく気づいた。
つまりこの尋問は、結論ありきの──
「……そうでしたか?」
「はい。覚えてないほど酔っちゃってたんですね〜。さくっと何か飲み物でも淹れますよ」
「あー……」
不味いな。
キッチンのほうには今、ダイアリンさんが隠れていて。
今、彼女の視線を誤魔化せるような遮蔽物はない。
このままだと、バレて終わってしまうだろう。
「……まぁ、いいでしょう」
と。
そこで、ダイアリンさんがのそりと立ち上がった。
「大丈夫ですよ。そのへんはあたしが準備しますので」
一切動揺していないかのように、彼女はしれっとそう言った。
手に持っていたグラスを軽く見せながら。
「……ありゃ、ほんとにいた……」
その姿を見て。
何故か、南宮さんは驚いているようだった。
ふむ。
「……当てずっぽうでしたか?」
「はい。でも店長、一人でお酒なんか飲まないでしょ? 一番可能性があるかなって」
なるほど。
つまり俺達は、まんまと彼女に乗せられてしまったわけだ。
「じゃあ酔って写真送ったってのも……」
「あ、それはホントです。夜中に真っ暗な試聴室の写真送ってこられたのは何かの暗号かと思ったよん」
それは本当なのかよ。
何やってんだ俺。
南宮さんが業務のために試聴室へと向かった頃。
「……あの、ダイアリンさん」
「はい、なんですか?」
「昨日の記憶あんまないんですけど……そもそもどうして俺等は一緒に飲んでたんですか?」
「…………」
その言葉に、ダイアリンさんは少し黙り込み。
「……ナイショです」
そう言って、目を俺から逸らした。
僅かに頬が、赤くなっている。
「え」
「ああ、それと。『さん』はなくていいですよ」
顔は逸らしたまま、僅かにこちらに目線だけをやって。
「ただの、ダイアリンって呼んでください」
そう言って、彼女は視線を前に。
グラスを呷って、俺の追求を断ち切った。
「あー……それじゃ、ダイアリン……で」
言いながら、思う。
昨日の俺は一体、何をしでかしたんだろう。
なにをやらかしたのかは次回書くかも