限界がきたら連続投稿が途切れる──
「近々ライブやるのでもしよかったら来てくださいねー」
と、南宮さんにチケットを
つっても誰かといく宛などない。
もう一枚を誰に渡そうか、そう考え。
「つーことなんだけど行かねぇ? 良い気分転換になる」
『ばーか』
そう言って弟は電話を切った。
二の句を告げる時間すらなかった。
なんならメッセージで追って『馬鹿』と送られてきた。
兄に対してなんだその態度は。
……さて。
現実逃避終わり。
流石に俺も理解している。
このもう片方のチケットの行先は、彼女なのだろう。
どいつもこいつも変な気回しやがって。
別に俺とダイアリン──は、そういう関係ではない。
恋愛関係にもない男女二人をそうやってからかうのは良くねぇ。
お互い意識して気まずさから疎遠になったらどうすんだ。
手の中のチケットを、指先でくるくると回す。
薄紙でも意外とコツを掴めば回せるもんだ。
そうやって手を動かすのに伴い、頭を回していく。
「……ま、誘ってみるか」
ということで、電話してみた。
僅かなコール音の後、電話先から明るく作ったような声がする。
『もしもーし。あたしです。何か御用ですか?』
「バイトの子からライブのチケットをもらいまして。枚数余ってるので、もしよかったらご一緒にどうかと」
『──────』
少し声が遠ざかった。
複数人の声が聞こえるような気もする。
『……失礼しました。あたしは大丈夫ですよ。日程はいつ頃になりそうですか?』
「今週の日曜、夜からですね」
『わかりました。それじゃ、ちょっとお休みの申請してきますね。失礼します〜』
「はい」
そう言って、電話が切られた。
つーか今の時間、業務中か。
あんま私用の電話掛けるべきじゃなかったな。
さて。
「──服でも探すか」
「こっちのお仕事中にも私用の電話を取るなんて、ダイアちゃんにしては珍しいねぇ」
「……ええ、まぁ。別に問題ない時間でしょう? どうせ今はインターバルですし」
「うんうん。別に構わないよぉ。差し迫った期限もないしね。ところで今の人は、例のイヤホンをくれた人?」
「……ええ、そうですよ」
そう言いつつ、ダイアリンは無意識のうちに胸にあるポーチを押さえていた。
その事実に気づいて、ポーカーフェイスを保ちながら手を下ろしていく。なるべく服を払ったふうに見えるように。
「まぁ、良いことなのかもしれないね? ダイアちゃん、最近機嫌良さそうだもん」
幸いにして、それ以上踏み込まれはしなかった。
少しほっとしながら、ダイアリンは「はぁ」だなんて気だるげな声で返事をする。
機嫌が良い──そんな自覚はないのだが。
頬に手を当ててみて、表情が緩んでいないかを確認する。
当然そんなことはなく、普段通りのダイアリンの顔のままだ。
……そのはずだ。
「今週の、日曜……ですか」
時間にゆとりがあるように見えて、実際のところはそうでもない。
主に準備の時間がない。
ダイアリンは小さく息をついた。
いきなり仕事を振られる可能性はあるが、定時に帰るのは当然の権利だ。行使したって文句を言われる筋合いはない。
少しだけ面倒でも、
しかし、まぁ。
ダイアリンの一番の懸念はそこではなく。
一応、いくつか私服の数自体は増えたが、それらはもう彼だって見慣れてしまっているだろう。
それじゃあ真新しさもなく、彼だっていつもの延長であるかのように流してしまうはずだ。
それはちょっと、いただけない。
別に特段他意はないが。
そうだ。
ただ。
ただ、彼がこの間すやすやと眠ってしまったのが、ちょっと不愉快なだけ。
「──服でも探しましょうか」
そして、その夜のこと。
二人はルミナスクエアのショッピングモールでばったりと遭遇した。
「あれ、奇遇ですね」
「──っ、ええ、そうですねぇ」
特に動じた様子の見えない青年に対し、ダイアリンのほうは珍しく動揺を隠せない。
それはそうだ。
当日ちょっとは動じさせてやろう、と意気込んでいた矢先にばったりと遭遇してしまったのだから。
とはいえダイアリンも熟練のオペレーターであり、気持ちを隠すことならばとっくのとうに慣れている。
彼女は即座にその気持ちを押し殺し、平静の仮面をさっとつけた。
「……ダイアリン、も、服を買いに?」
「ええ。……その。呼び捨て、そんなにしづらいですか?」
「あ、いや。まだなんか、慣れてなくてですね。呼んでるうちに慣れてくるとは思うんですけど。というか」
青年はくすりと笑った。
「なんつーか、おんなじ事考えてたみたいですね」
「……そう、なんですかね」
どうなのだろう。
ダイアリンの意気込みと、彼の思いにはきっと差がある。
勿論、そんなことはっきりとは言えないいけれど。
「折角ですから、一緒に見ませんか?」
そんな青年の誘いに対して、ダイアリンは。
どこか平静になってくれない頭のまま、小さく、こくりと頷いた。
「おお、軽い。どうですか、これ」
「似合ってますよ。……なんでそんななんでも似合うんですか」
「そうですか? あんまりそんな自覚ないんですけど」
そう言いながら、口端を持ち上げる青年。
どことなく緩んだその表情が、どうにもよく似合っていた。
ストライプのシャツの、首元だけボタンを留めずにラフな様子で。
シリオンの翼を通す用のスリットが空いているその服は、後ろから見ても肌が見えないような構造になっている。
妙にこなれた感じが。
余裕綽々といったその様相が。
やっぱり、ダイアリンだけ入れ込んでしまっているように思えてしまう。
「つーか、それを言うならダイアリンだってそうじゃないですか。人の事言えませんよ」
「……そうですか?」
「ええ」
そう言われても、とんと実感は湧かないものだ。
それは青年の言った言葉通りで、なんだか面白い。
「なんか雑な褒めですね」
「はは、手厳しい」
ちょっと突っついてみれば、青年は肩と翼を竦め。
「──それでも、どんな服を着ていても、あなたは俺にとっての天使ですよ」
恥ずかしげもなく、そう言った。
「もしそこに俺の趣向を混ぜることを許してくれるのなら、それは嬉しいですが」
「……ちょっと如何わしい言い方ですね。それに気障すぎます」
「あいにく育ちが上等すぎまして。こういうとき素朴に話す言葉を持ち合わせてないんです」
全く。
不審者だと思われるだなんて言いながら、こんな往来で堂々と好意を表明するだなんて。
とんだダブルスタンダードだ。
他人はダメで、自分はアリだなんて。
それでも、その好意はダイアリンをまっすぐに貫いているのがわかるから。
「……気取りすぎてナンセンスですけど──混ぜるだなんて、随分自信のないことを言いますね」
彼女の方も、悪い気分はしなかった。
だから僅かな不服だって、穴が空いて萎れていくように消えたとしても──何もおかしな話ではない。
「あなたの好きに、染めてもいいんですよ?」
──ところで、『天使』とは請負人にとって特別な価値を持つ言葉である。
彼にとって、それは身に縋り付く重力よりもずっと重たいものであるのだが。
「……それじゃ──赤色以外で、遠慮なく」
そのことをダイアリンは、知る由もない。
そういやお気に入り500ありがとうございます
ある程度検証できたんで匿名解除しました